明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人 作:べにべにベニヤ板
怪物と戦う者は、自らが怪物にならないように気をつけなければならない。
「君たちは何をもって人だと考えますか」
「以前、重度知的障害者を狙った施設襲撃事件がありました」
「犯人は殺害した施設の入居者を人間ではないといったそうです」
「私はその犯人と面会し、話を聞きました」
「犯人にとっての人間の定義とは意思疎通ができる事でした」
「しかし、面白いことに私の友人の科学者にこの話をしたら別の見解を示したのです」
――なら、受精卵は人間扱いしないのか?
――胎児はどうする?
――怪我の後遺症で言語能力がなくなったときは?
――植物状態の人間はどうなる?
――意思疎通を定義とするのは
――ましてや、人が命を定義するとは何たる傲慢か。
――また会う機会があればこう聞いてみてくれ。
――常人とはかけ離れた思考と言葉を吐く貴様は人間かと。
「例外の方が多い法則とは何の小説の言葉だったでしょうか」
「きっとその犯人は、一線を超える理由が欲しかっただけなのかもしれませんね」
「おや、この教育思想論の講義も時間ですね。来週は命の価値についての講義になります。君たちへの課題を出しておきますので考えておいてください」
「有名の話ですよ。トロッコ問題です」
「二人の大人と一人の子どもどちらを助けるか」
「これにひとつ条件を加えます」
「もし、君が上手く線路の切り替えができれば3人とも助かるかもしれない」
「ただし、成功しても失敗しても自分が大怪我を負う可能性が高いです。もしかしたら、死ぬかもしれない」
「君は見知らぬ誰かのためにリスクをとれますか。それこそ命をかけて」
――さぁ、どうしますか。
「学食を食べさせてくれるのはありがたいけど……体調悪そうね。大丈夫?」
「少しゲームをやりすぎてしまって寝不足なだけですよ……」
「そう?ならいいけど……」
「俺のことは気にせず食べてくださいよ」
そういうと先輩は困った顔をしながらも奢りの特盛カツカレーを食べはじめた。
カレーの強いスパイスの香りが、無理やり意識を大学の昼休みに引き戻そうとする。
先輩はアホの人だが善人だった。
俺が飲み会の最中の謎のノリのよくわからないジャンケンで負けて、理不尽な罰ゲームに晒されていたときがあった。
そのときに、自分のご飯を奢るという約束でその場を鎮めてくれた巫女的な存在でもある。
その奢りが一週間も続くとは思わなかったが……。
「あら、おいしい」
そう笑う先輩の瞳を見ることができず、自分の影が落ちたテーブルの端をじっと見つめた。
前回のミッションは先輩との約束があったことで、生き残ることができたといっても過言ではない。
俺の命の恩人だ。
恩人に気まずい気持ちで飯を食べてもらってはダメだろう。
よしっ――
そう気持ちを切り替えようとしても前日の夜の光景がフラッシュバックする。
姉を守ろうとする小学生の男の子が横に裂かれる場面を。
女の子の首が跳ね飛ぶ場面を。
助けようとして必死に伸ばした手を――切り刻まれた腕を。
――そうだな。俺はクソ野郎だ。
――サナさんと違ってリスクを取らず、安全策を取り続けている。
――自分が生き残ることを最も優先している。
――だが、そういうお前は一体何ができた。
「ねぇ……本当に――」
「すみません。でも、大丈夫……大丈夫ですから」
「……なら、いいけど。悩み事はちゃんと相談するのよ」
その言葉に曖昧に笑うことしかできなかった。
おっさんは間違っていない。
少なくともおっさんは誰かを助ける意志はあるのだ。
本当に戦いが嫌ならさっさと『解放』を選べばいいのだ。
だけど、おっさんは『武器』を選んでいた。
生き残ることを優先して可能であれば救う。
それに対して俺は何もできていない。
もっと強ければきっと救えた。
もっと強力な武器があればみんなを守れた。
救い、守るためには――
「まずは知ることですもんね」
「そうね、知らないとどうしようもないもん」
講義が終わったあと、俺は家であの部屋から持ち帰った武装を広げていた。
スーツ。
コントローラー。
スーツのホルダーにつけられる短銃。
短銃を大きくした威力高めの長銃。
ただ知る限りでもこれ以外にも武装はある。
黒い玉の中には短銃とも長銃とも違う形の銃があったはず。
恐らくそれも基本装備のひとつだろう。
他にも探せばあるのだろうか。
探すにはあの部屋に行かないといけないが、そのためにはまた招集されるのを待つしかない。
いま考えてもしかたないことだろう。
改めて目の前の武装に目を向ける。
この武装で前回、おっさんが戦っていた怪獣を倒せるだろうか。
不可能だ。
あれだけ巨大な相手をこれだけではどうすることもできないだろう。
だからこそ、より強力な武器が必要になる。
部屋の隅に目を向ける。
床に置かれたその銃身は、光を吸い込むように鈍く黒光りしている。
触れれば、指先から熱を奪われるような冷たさがある。
それはおっさんが持っていたのと同じ大型の銃――サナさん曰く、重力銃だった。
――私たちの分はあるから貴方が使いなさい
――だれかを助けたいという意志があるなら猶更ね
おっさんにあんなことをいった手前受け取るのもどうかと思ったが強化にはつながる。
この重力銃は100点武器なのだから。
100点武器。
自分が知っているだけでも4種類
重力銃、鎧、
可能性としてはサナさんが使っていた
二人が使っていた武器は、俺が手も足もでなかった『とくさつ星人』をあっさりと倒していた。
もし、手に入れば戦いは今よりもずっと生き残りやすくなるだろう。
ただ、『解放』と『武器』は同じ得点だ。
つまり、武器を目的としては意味がない。
今ある武装で戦う必要がある。
幸いにも重力銃があるんだ。
戦いの幅が広がるがこれだけは怪獣は倒せないだろう。
だから、考えて、想像しよう。
どんな方法ならこの武器達で戦えるか。
星人はファンタジーだ。
中学生のような妄想を現実にしよう。
エイリアン、魔族、妖、ゴブリン、ドラゴン、天使、サーヴァントをどうやって倒すか。
――3番を選ぶことはオススメしないわ
――死者が蘇ることはない。3番を選ぶことで行われるのは復活ではなく
今の自分は死の直前から再生されたものなのか、それとも死者を復元したものなのか。
生き残ることを考えると同時に、その問いを突き付けられてしまう。
足が震える。頭を振り、必死に最悪の仮説を否定する。
今の自分はこうして意識を保っている。
つまり死んではいないのだ。
恐ろしさに震えながらも、訓練をしながら3週間過ごしたところでまたあの部屋に戻された。
――しゃちほこ星人
――特徴:とぶ、れーざーがでる
今回の星人は前回の『とくさつ星人』より弱かったように思える。
――もぶた:15点
――合計:18点
転送された場所は名古屋城。
星人はゾンビのような落ち武者の群れと名古屋城についているしゃちほこ。
ブラックボールの星人名称で敵のイメージがしやすく、地元で慣れた土地でもあった。
サメ映画のおかげもあるだろう。
ヒレがあるやつは基本的に飛ぶし、口がデカイやつは大体レーザーを吐く。
名古屋城の屋上から羽ばたきながら、レーザーを撃ってきても驚かなかった。
加えてこの訓練期間で戦略を練れていた。
事前に考えていた策はシンプルだ。
転送直後に俺が行ったのは透明化だった。
そもそも、ミッションは一体多の状況に陥りやすい。
『とくさつ星人』のように分裂能力があるやつもいる。
回復がない前提で戦っている戦士と、再生能力のため相打ちで問題ない星人。
戦闘という行為はそもそもが初見殺しのリスクがある。
だからこそ、遠距離からの不意打ちこそがもっとも有効だと考えた。
今回のミッション、透明化した俺は戸惑う新人達の背後につきながらしゃちほこを視界から外さなかった。
検証した結果、この透明化は音、匂いは消せず、サーモグラフィーに引っかかる。
つまり、相手がプレデターなら意味をなさない。
だから、過信はしなかった。
城内から落ち武者がでてきても透明化の状態で重力銃を撃ちまくった。
しゃちほこが新人達へ目掛けて、レーザーを吐きながら飛んできても冷静に退がり対処ができた。
しゃちほこ自体はおっさんが重力銃でぺしゃんこにしていが……。
だが、戦略としては間違いないだろう。
結果として、新人7人のうちレーザーの着弾を免れた2人が生き残った。
二人の新人は部屋に戻ってきた俺を憎しみを込めた目でみた。
終わり際に透明化を解除した俺に気づいていたのだ。
後方で自分たちを助けていた存在であり、同時に助けることができたのに逃げた俺を。
死んでいった新人達がこちらへ手を伸ばすことはなかった。
姿を消していれば、助けを求める新人たちの視線に晒されることもない。
それが精一杯の言い訳でもあった。
――さなちゃん:36点
――合計:41点
――けんぞうさん:34点
――合計:90点
その次のミッションでは俺たち3人しか生き残らなかった。
――ほりでー星人
――特徴:ねむる、しやくしょ
――もぶた:0点
――合計:18点
――さなちゃん:58点
――合計:99点
――けんぞうさん:67点
――合計:157点
もっと強くなろうとサナさんに刀と捕獲銃の使い方を教えてもらった。
「捕獲銃は追尾性能がある。雑に使っても問題ないわ。決めてにはならないけど追い込み誘導するのに使えるわ」
練習をしたがあまり上達しなかった。
「あなたはよくやっているわ」
――めがぁぁぁああ星人
――特徴:きかい、ばるす
――もぶた:20点
――合計:38点
――さなちゃん:67点
――合計:166点
――けんぞうさん:41点
――合計:98点
次のミッションでは新人は全滅だった。
中世の人間のような容貌の星人が3メートルほどの空飛ぶ機械巨人を数体連れていた。
一体を重力銃で倒そうとしたが一撃では倒せず、それどころか即座に透明化状態の俺に攻撃を仕掛けてきた。
機械巨人の眼球から放出されるレーザーを避けるのに夢中になっている間に新人達は殺された。
その中には中学生ぐらいの女の子もいた。
たった一体の機械巨人に苦戦しているとサナさんが現れ、長銃を駆使して全て倒してしまった。
「星人には有効な攻撃とそうでないものがある。重力銃は外からの圧力で押しつぶすのに対して、長銃は内部にある弱点を直接破壊できるわ」
「分析には時間がかかる。その間にどんなにカバーしても星人の数や無差別さに救いきれない人がでてくる。ましてやいきなりこんなゲームに巻き込まれて適応できる人なんて稀だわ」
――だからこれは仕方のないことなのよ。
何日も訓練をした。
刀の扱い方を学ぶために木刀を買って素振りもはじめた。
――でこぼこ星人
――特徴:ブロック、ばらばら
――もぶた:6点
――合計:44点
――さなちゃん:50点
――合計:151点
――けんぞうさん:76点
――合計:174点
新人が4人生き残った。
――くろ!うるしぃC
――特徴:むし、ふえる、めちゃつよい
「こんな地獄がまだ続くんですか……!こんな想いをするぐらいなら――」
唯一生き残った新人の女性がそういった。
その女性は次のミッションには現れなかった。
部屋のことを話したのか。
それとも自ら命を絶ったのか。
おっさんもサナさんも一度として話題にすることはなかった。
自分もまた、装備のチェックに没頭するふりをした。
名前すら知らない。
いつしか顔も思い出せなくなった女性の存在は、次の転送を告げるラジオ体操の音にかき消され、誰の記憶にも残らない新人として記憶の中で処理された。