明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

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……100点おめでとう。どうするの?

 

 ――くろ!うるしぃC

 ――特徴:むし、ふえる

 

 

 「今回の相手は俺が前にでます。サナさんは()()を頼みます」

 「わかりました。けど、引き時を見誤らないようにしてくだい」

 「わかっています。おい、坊主。お前も今回は新人の護衛ではなく自分の命を優先しろ。相手は100点星人だ」

 

 そのミッションは今までにない規模だった。

 人型のゴキブリというべきだろう。

 山奥に転送された俺らを待ち受けていたのはそんな化物だった。

 その星人は波ともいうべき莫大な量のゴキブリと、幼児ほどの大きさのバッタの星人を従えていた。

 

 配下のゴキブリ達による殻の重なり合いが擦れ合い、カチカチという湿った音が、山全体の空気を震わせていた。

 俺は転送直後に手当り次第にバッタを倒し続け、辺りを一掃した。

 その後に、廃屋に生き残った新人を入れ、近くの木に登り戦場を観察していた。

 

 

 ――100点星人はお前が相手できる存在ではない。

 ――手を出すな。

 

 

 そういったおっさんと100点星人との戦いはとんでもなかった。

 まず、ゴキブリの波はロボットを()()()()()

 『とくさつ星人』のとき、あれだけ巨大な怪獣の攻撃を耐えていたはずのロボットが、黒い濁流に飲み込まれた瞬間、ヤスリで削られるような耳障りな音と共に足元から形を失っていった。

 

 間一髪でロボットから飛行ユニットで脱出したおっさんを待ち受けていたのは、異常ともいえる速度で飛んできた人型ゴキブリと、その手にもつ中華包丁の一撃だった。

 包丁が当たった衝撃は鎧の左腕にヒビを入れるだけだったがそれよりも恐ろしかったのは、その断面から溢れ出した増殖の速度だ。

 亀裂を、意思を持つ泥のように這い上がり、隙間から内部へ侵入し、破壊しようとする黒い影が現れていた。

 

 咄嗟の判断で装甲の一部を切り落としていなければ食い殺されていたのだろう。

 おっさんは接近してきた人型ゴキブリを殴り飛ばし、ゴキブリの波を掌のレーザーで消滅させ、人型ゴキブリを捕獲銃で追い込み、重力銃で潰した。

 

 かと思えば離れた場所からまた別の人型ゴキブリが現れた。

 二体目の人型ゴキブリは配下のゴキブリを大きく広げ網のようにしておっさんを囲んだ。

 人型ゴキブリはおっさんの視界を埋めると、急速に接近し、近接戦に持ち込み、鎧を破壊していった。

 最後にはおっさんが鎧とそこから噴出された煙を囮にして人型ゴキブリを刀で真っ二つにした。

 

 そうして、倒したところで三体目が現れた。

 おっさんは明らかに劣勢になった。

 通常のスーツと重力銃だけでゴキブリの波と人型ゴキブリを相手にするのだ。

 遠目からでも、追い詰められているのがわかった。

 だが、人型ゴキブリもおっさんを殺そうと苛烈さが増していた。

 おっさんを助けないといけないと思うと同時に――

 

 

 ――今なら、不意打ちができるかもしれない。

 

 

 そう思ってしまった。

 おっさんは手を出すなといっていた。

 だから本当におっさんが危なくなったら打とう。

 そう考えて、長銃で人型ゴキブリを捉えたところで人型ゴキブリが()()()()()()()

 長銃のスコープ越しに目が合った。

 感情の欠落した無機質な複眼。

 そこに映ったのは、獲物への殺意ではなく、邪魔な小石を排除しようとする程度の、淡々とした作業の意思だった。

 

 山を覆っていた黒い波の一部が、意志を持ったひとつの巨大な筋肉のようにうねりを上げた。

 新人達に指示をだすもどう考えても遅かった。

 木の枝が折れる音さえかき消すほどの、数億の足音。

 引き金に指をかけた代償は、新人たちの未来を塗りつぶすには十分すぎるほど重かった。

 銃を持ち替えて、重力銃で抵抗したが焼け石に水だった。

 

 ただ、近づいてくるゴキブリの波の中で何か小さな、ただの昆虫とは違う()()()が見えた気がした。

 それについて考える暇もなく、新人達がひとりふたりと飲まれていったところでロボットが()()()()()

 

 「掴まって!」

 

 飛行ユニットで向かってきたサナさんにそういわれた。

 ゴキブリの波は目前に迫るなか、サナさんの手と何とか近くにいた女性の手を掴み、ギリギリで空へ逃れることができた。

 反対にゴキブリの波は、津波のように地上にいた新人を飲み込んでいった。

 

 食い破られる新人達は皆一様に手を伸ばしていた。

 空にいる自分達へ助けを求めていた。

 

 無情にもサナさんは飛行ユニットの高度を上げていく。

 静止した空中で重力銃の引き金を一度だけ引いた。

 

 引き金が引かれた瞬間、世界から音が消えた。

 

 鼓膜が圧し潰され、大気が数メートルほど強引に押し下げられる感覚。

 視界の下方で、青々とした木々も、廃屋も、そして蠢いていた黒い波も、巨大な見えない神の足で踏みつけられたように、人型ゴキブリへのロボットの墜落と同時に

 

 ()()()が沈んだ。

 

 

 ――もぶた:58点

 ――合計:102点

 

 ――さなちゃん:100点

 ――合計:151点

 

 ――けんぞうさん:81点

 ――合計:155点

 

 

 ブラックボールに浮かぶ数字は、あんなにも渇望していた100という壁を越えていた。

 だが、それを見た俺の指先は震えている。

 

 「今回のは『とくさつ星人』と同じ群体タイプよ。ただし、『くろ!うるしぃC』には強力な親とその眷属、そしてそれらが従える特殊なゴキブリの群れからなる上下関係があった。眷属が新たなゴキブリを産み、その中の一部が新たな眷属となり、親が死んだタイミングで最も成長した眷属が新たな親になっていた」

 

 ゴキブリの波の中にいたのはその最も成長した眷属なのだろう。

 

 「倒すには、眷属を全て倒してからほぼ同時に親を殺す必要があった」

 

 重力銃でロックオンをして倒すのが適切だったのだろう。

 

 「私の分析に時間がかかってしまったわ。申しわけ――」

 「やめてください」

 

 サナさんの行動には間違いはなかった。

 間違ったのは俺だった。

 

 「わかってます。今回、新人が死んだのは俺のせいだ。俺が不用意に銃を向けたからだ。あんだけ山全体に攻撃したってことは至る所に眷属がいたってことなんでしょう」

 

 おっさんが引き付けてサナさんがまとめて倒す。

 それは転送前に二人が話していたことだった。

 

 「サナさんは空にいた。つまり、俺が気づかないくらい近くの地面にいたんだ」

 

 おっさんにどれだけ敵を集めるかの勝負だったのだ。

 山全体に広がる眷属を集める時間稼ぎ。

 同時に新人に目が向かないように誘導をしていたのだ。

 周囲に潜む眷属に気づかないような雑魚を相手する余裕は星人にもなかった。

 取るに足らない雑魚だから見逃されていた。

 

 だが、それを俺の行動が台無しにした。

 

 「放置されていた雑魚が急に割り込もうとしたから……それだけでしょ」

 

 サナさんもおっさんも何も言わなかった。

 つまり、そういうことなのだ。

 

 「……100点おめでとう。どうするの?」

 

 俺は新人の中で唯一生き残った女性をみた。

 彼女が口にした言葉をきっと忘れないだろう。

 誰も地獄に居続けたいとは思わない。

 俺だってそうだった。

 

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