明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

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教育実習編
短い期間になりますがよろしくお願いします


 

 サナさんは俺にとって恩人というべき存在だった。

 はじめてのミッションで命を救われ、その後も幾度と助けられた。

 彼女の存在なくして今、ここにはいないだろう。

 だが、俺はサナさんのことを何も知らなかった。

 何歳なのか。

 兄弟はいるのか。

 趣味は何なのか。

 普段何をしているのか。

 

 いつからミッションに参加しているのか。

 

 俺は何も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「久しぶりだな。まさか多田が教育実習に来るとはな」

 「お久しぶりです。佐藤先生」

 

 春になった。

 俺は母校へ、教育実習の事前打ち合わせに来ていた。

 

 「担当クラスは2年生になる予定だ。だから、2年生の授業を中心に見学をしてほしいが今後のためにも他の学年の授業をみせてもらうといい。多田の部活は――バスケ部だったか?」

 「はい、そうです。ただ、卒業後にバスケ部は廃部になったと聞きましたが……」

 「そうだな。もともと部員数も少なかったからな……」

 

 一通りの書類を受け取り、事前打ち合わせを終えた先でかつての担任とともに校舎を回っていた。

 

 「……変わったな」

 

 卒業後に改修工事をしたと聞いていたこともあり、自分が通っていた頃とは大きく変わっていた。

 ただ、所々に自らが通った学校の痕跡がみられた。

 1階のさらに下へ向かおうとする謎のロープウェイ。

 異様に低い階段の一段目。

 ゴミ置き場になっている生徒会室。

 コンピューター室にある落書き。

 佐藤先生の机の上にあった自分達のクラスの集合写真。

 写真の中の自分は、今よりもずっと無防備な顔で笑っていた。

 

 「先生は相変わらず、吹奏楽ですか?」

 「相変わらずとはなんだ……俺は吹奏楽が専門なんだよ。存外面白いぞ。指揮者として腕の一振りですべて操る感覚は最高だ」

 「昔もいっていましたよね」

 「そうだったな――部活に関しては指導担当の先生に聞いてみろ。時間があったら見に行くといい。俺はクラスでしか関りがないからな」

 

 学生の頃、佐藤先生はどこか冷たい先生であった。

 

 「それに、教育実習は二週間しかない。授業の準備で部活に参加する余裕なんてないだろうからな」

 

 授業の中で雑談もなければ、放課後に何か話してくれるわけでもない。

 学校祭の準備も生徒に任せきりだった。

 ただ、家庭のことで悩んだとき、進路のことで不安を抱えたとき、友人関係がこじれたとき、誰も気づかないような変化を佐藤先生は気づいていた。

 

 ――先生は僕らに興味がないと思っていました。

 ――興味はねぇよ。卒業したら名前も忘れるだろうしな。ただ、毎日会っている子どもなんだから変化ぐらい気づくだろ。

 

 俺はそんな大人になりたいと思った。

 両親から当たり前をもらえなかったからこそ、当たり前のことをできる大人へ。

 

 「多田が教壇に立つ姿を楽しみにしている」

 

 直接伝えることはないだろうが――佐藤先生に出会えたからこそ教員になりたいと思った。

 大人が子どもを守り、助け、育てる。

 当たり前をできるそんな大人になりたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――もぶた:16点

 ――合計:111点 えびふりゃーでも くって えらんでよ

 

 ――さなちゃん:22点

 ――合計:81点

 

 ――けんぞうさん:21点

 ――合計:22点

 

 

 「これで2回目だな。どうするんだ?」

 「……2番です。次のやつをください」

 

 報酬はパソコンだった。

 しかし、ただのパソコンと侮るなかれ。

 このパソコンは星人の点数判断ができるらしい。

 実際に戦っていて、点数を知りたいと思うことなんて一度もなかったが……。

 というか5点でも50点でも点数にかかわらず即死攻撃をしてくるやつはいる。

 再生能力は言わずもがな。

 

 だが、追加の機能として銃によるロックオンで星人へのマーキングも可能らしい。

 ロックオンしている時点で倒していることが多いが……。

 まだまだ、別の機能としてもあの飛行ユニットやロボットを遠隔操作する機能もある。

 普通に搭乗した方がいいらしいが……。

 というか飛行ユニットを手に入れるだけでも4回はクリアする必要があるが……。

 現状、無駄装備だ。

 だが、持っていれば今後の戦略の幅が広がるだろう。

 

 それに、これはひとつの通過点でもある。

 

 2回目のクリア。

 

 俺は着実に、この部屋の戦力として認められてきた。

 今ではサナさんとおっさんが積極的に狩り、俺が新人や若手の護衛をするという形ができている。

 新人達の生存率も上がっていた。

 クリアとはいかないまでも数度のミッションをこなす人もでてきていた。

 ただ、それでも強い星人と当たればあっさりと死んでしまう。

 新たな戦力が定着することはなかった。 

 

 なりより、俺は命を軽く扱うようになってきた。

 新人が死んでも仕方がないとそう思いはじめていた。

 こんな日常が続けば仕方ないだろう。

 そうやって妥協している自分がいる。

 

 「無理して残留を選ぶ必要はないわ。どのみち私は残り続けるつもりだから」

 

 1回目のクリアで重力銃を手に入れたとき、借りていたものはサナさんへ返した。

 そのとき、なぜ解放を選ばないのか聞いた。

 サナさんはこの戦いから抜け出すことは考えてないようだった。

 どうやら、続けた先について思うところがあるらしく、このミッションの結末を見届けるつもりとのことだ。

 そして、おっさんもそれに従っているらしい。

 

 確かに、考えてみれば疑問点は多い。

 転送や武器、死亡直前の人間の復活。

 この超技術はどこから用意されたものなのだろうか。

 戦わせる理由も何だろうか。

 サナさんはコロッセオといっていた。

 つまりこれは見世物なのだろうか。

 

 ギャンブルに使われている?

 

 だとしたら、カメラはみたらないが……。

 転送とかいうシステムがあるならカメラは今更か……。

 コロッセオにするならもう少し説明役が必要だろう。

 戦いの内容についてももう少し段階を踏むべきだ。

 その方が賭けやすいだろう。

 どんな武術の達人でも、いきなり何の説明もなしに怪物が襲ってきては生き残れるわけがない。

 戦いも街中ではなく、専用のコロッセオに転送した方が露見しにくいだろう。

 俺でもその考えに至る時点で、見世物に使われているという説は否定できてしまう。

 

 

 ――まさか、本当に()()なのか?

 

 

 一瞬、その考えが頭をよぎったがすぐに否定する。

 だとしたら尚更説明がない意味がわからない。

 もし、このミッションが言葉通りに()()()()であるならば、自分のような一般市民ではなく、軍人が参加してないとおかしいだろう。

 なぜなら、まさしく()を賭けた戦いになるのだから。

 そこで手を抜くことはありえないだろう。

 敗北が人類史の消滅になるのだから。

 

 もしかしたら、スカウトなのかもしれない。

 ここで適正をみて特殊部隊への入隊が可能かを判断しているとか。

 妄想が過ぎるか……。

 

 ミッションの目的はわからない

 ただ、続けていけばいずれわかるはずだ

 

 「……採点ってどういうことですか!?一体これは何なんですか……!?」

 

 今回はじめて参加し、生き残った新人が悲鳴をあげた。

 その女性は今回のミッションで足を切られていた。

 死んだと思ったら怪物と戦いまた死にかける。

 まさしく悪夢としかいいようがないだろう。

 

 「……私が説明するわ」

 

 サナさんはそういうと、自分のときと同じように新人への説明に入った。

 もう、何度も繰り返しているのだろう。

 手本のような説明であった。

 

 そういえば――

 

 「おっさん」

 「……なんだ、坊主」

 「サナさんっていつからこの部屋にいるんですか?」

 「急にどうした?」

 「このミッションはいつからはじまっているのか気になって……というか二人はどちらが先に来たんですか?」

 「サナさんの方が先だ……そうだな……」

 

 そういうとおっさんはひとつ息を吐き、サナさんには聞こえないように小さく話はじめた。

 

 「俺は二年前からこの部屋にいる。そして、俺が来た時は部屋にサナさんを除いて記録者(ホルダー)はいなかった」

 「サナさん一人だったということですか……」

 「そうだな。そして、俺がはじめて参加した時点でサナさんはロボットを持っていた。つまり二年前の時点で6回はクリアしていることになる」

 「ちょ、ちょっと待ってください。二年前で6回ってことは……ミッションの頻度を考えてもそれより一年半以上は前からいた事になりますよ?」

 

 ミッションの頻度は3週間から二ヶ月に一度だ。

 そして、1回のミッションにつき40点弱が限度。

 サナさんとおっさんが殆ど倒しても、その二人が40点を超えることは少なく、酷い時には一桁だってある。

 つまり、一度100点を取るには最速でも三ヶ月は必要になる。点を二人でほぼ独占して三ヶ月だ。

 

 そして何よりその頃のサナさんはまだ中学生くらいなのではないか。

 ミッションで子どもは生き残りづらい。

 そもそもが武器の大きさが大人向けで合ってない上に、筋力量で大人に劣るから当然だ。

 女性なら尚更だろう。

 なのにもかかわらず一人でそこまでのクリア回数を重ねることができるのだろうか。

 あれだけ数も多く、強力な星人をほぼ一人で掃討することなど不可能なのではないか。

 

 「お前の考えは最もだ。だが事実だ。俺が知っているだけでもサナさんは100点の星人を単独で2度倒している」

 

 あの『くろ!うるしぃC』のような星人を2体も。

 いくら強力な兵器があるとはいえ、軍人でもない少女が倒している。

 

 「……サナさんは何回クリアしてるんですか?」

 「さぁな、俺も数えるのが面倒で覚えていない。だが、サナさん曰く、生き残り過ぎたせいで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうだ」

 

 そういえるだけの時間をこの部屋で過ごしているの。

 それは一体どれほどなのだろうか。

 

 「もし、あの人が死ぬようなことがあれば、それは星人との戦いとは別の理由だろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い廊下を静かに歩いていた。

 職員室での挨拶は終わった。

 少し噛んでしまったが拍手で迎えられた。

 

 「2年B組は女子生徒が多く、大人しい子が多い。だが、決して主張がない訳でじゃない。あとは生徒との距離感には気をつけろよ」

 

 佐藤先生が教室に入っていく。

 俺はそれに付き従った。

 

 「お前ら席に座れ!松本!挨拶!」

 「きりーつ」

 

 教育実習がはじまった。

 大変な二週間だろうが前向きに取り組もう。

 そう考えていた。

 ただ、朝の挨拶を終えた直後、目の前の一人の女子生徒と目が合った。

 朝の柔らかな陽光を浴びて、少しだけ俯いていた彼女は、あまりにも普通の女子生徒だった。

 

 「前にも話した通り、今日から大学4年生の学生が二週間だけ勉強のために入る。多田、挨拶を――どうした?」

 「い、いえ……何でもありません」

 

 その女子生徒と面識があった。

 長い黒髪に真っ黒な目。

 ぴんと伸びた背筋が、話し声から、透明な壁一枚を隔てて隔絶されているように見えた。

 

 「今日から――」

 

 県立古道商業高校。

 2年B組。出席番号32番。

 

 藪原紗奈。

 

 その名前を頭の中で反芻した瞬間、ブラックボールのあの無機質な採点画面がフラッシュバックした。

 

 

 ――さなちゃん:22点

 

 

 画面の中のひらがなと、事前に受け取っていた名簿の漢字が重なる。

 

 「短い期間になりますがよろしくお願いします」

 

 声が、わずかに震えたかもしれない。

 黒板の前に立つ俺と、机に座る彼女。

 あまりに場違いな再会に、頭のどこかが冷えていく感覚があった。

 

 その生徒は間違いなくサナさんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「藪原と面識があったのか?」

 「はい、以前少しだけですが……。この学校に通っているとは思いませんでした……」

 「そうだったか」

 

 佐藤先生は、手元の湯呑みを置いた。

 その視線は、自分ではなく、窓の外で揺れる校庭の木々へと移る。

 俺の挙動不審振りを疑問に思ったのだろう。

 職員室に戻るなり、佐藤先生は俺に理由を聞いてきた。

 

 「あまり、接点があるようには思えんが……藪原とは何がきっかけで出会った?」

 「……説明が難しいですが以前一緒に事故に巻き込まれたんです」

 「事故ね……」

 

 嘘ではない。

 あの転送こそが、人生最大の事故なのだから。

 佐藤先生はそういうと俺の顔をみた。

 俺の誤魔化しに気づき、何か思うことがあるのだろう。

 言葉にしなくとも察することができた。

 

 「何か訳ありそうだから深堀はしない。ただ、面倒ごとになるようだったら後でもいいから話せ。それから、あまり先入観を持たせたくなかったから名簿しか渡さなかったが一応、学校での藪原のことを話しておくぞ」

 

 そこから佐藤先生は俺へ、情報を並べるように言葉を羅列していった。

 

 「藪原紗奈は優等生だ。文武両道で教員の受けもいい。ただ、消極的な性格で多少の理不尽があっても発言することはほぼない。正しいことをする子どもではあるが正しさを押し付けることはない」

 

 佐藤先生の言葉を聴きながら、俺はあの部屋でのサナさんの言葉を思い出していた。

 無理して残留を選ぶ必要はない。

 あの時、彼女は寂しそうでもなく、突き放す風でもなく、ただ事実を述べるようにそう言っていた。

 

 「誰とでも親しく話すが交友関係は狭く、友人にも明確に一線を作っている。そして――孤児だ」

 

 鉛を飲み込んだような重みが、胃の腑に落ちる。

 おっさんが言っていた二年前にはもうこの部屋にいたという言葉が、一気に現実味を帯びて迫ってきた。

 

 「小学生の頃に家族ともども事故にあっている。悲劇的な事故だったそうだ」

 

 

 ――そして、そんな事故の唯一の生き残りが藪原だった。

 

 

 唯一の生き残り。

 佐藤先生の話す事故は一般的な交通遺児の悲劇だろう。

 だが、俺の目の前には、あの漆黒の球体がある部屋が浮かんでいた。

 死んだはずの人間が転送される、あの地獄。

 彼女は、家族が消えていくのをあの部屋で見たのか。

 あるいは、自分だけが死から零れ落ち、たった一人で武器を手に取り、小学生という幼さで星人の首を跳ね続けてきたのか。

 

 「……そうですか」

 

 俺はそれだけを言うのが精一杯だった。

 

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