明らかに猛者揃いの集団の中で、リーダーとして認められているモブ顔の人   作:べにべにベニヤ板

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そして、重力銃による絶対的な破壊の一撃は――

 

 ミッションにはいくつかのルールが存在する。

 制限時間内にすべての敵を討伐しなければならない。

 タイムアップはゲームオーバーとなる。

 既定のエリア外にでてはならない。

 逃亡は抹殺対象となる。

 敵の存在は事前に告知される。

 ただし、告知される敵は一部に過ぎない。

 このルールは非常に厄介で、予想外の強敵や難敵が現れることの方が多い。

 『とくさつ星人』がいい例だろう。

 人型の星人のみならず巨大な怪獣もいる。

 だからこそ、『ねぎ星人』以外の別タイプの星人がいても不思議ではない。

 ただ、誤算があったとすればそれは敵の強さだった。

 

 「さっきの威勢はどうした!逃げているだけか!」

 「クソッ!」

 

 重力銃による範囲攻撃を、男は紙一重のバックステップで、重圧の及ばぬ外へと抜け出していた。

 何度目かの光景を、男の赤い髪が切り裂く。

 

 「次、俺の番な」

 

 ゾッとするほど低い声とともに、刀身が斜め下から跳ね上がる。

 スーツが最大出力で鳴り、のけぞるように回避した。

 鼻先を冷たい刃が通り抜け、風圧だけで皮膚が焼けるような錯覚に陥る。

 即座に刀を引き抜き、怒りに任せて横一閃に薙いだ。

 だが、手応えはない。

 男は重力を無視したような跳躍で俺の頭上を越え、着地していた。

 

 「いい反応だ。ハンターにしとくには惜しいぜ」

 

 男は月の逆光の中で不敵に笑い、再びその身を漆黒の弾丸と化して突っ込んできた。

 

 

 ――掌から拳銃や刀を生成する能力。

 ――攻撃速度もさることながら、異常な反応速度……!

 

 

 重力銃を叩きつけた衝撃で、見慣れたグラウンドの土が激しく跳ね上がる。

 夜の校舎に重苦しい残響が響き渡った。

 かつて自分が授業で駆け回り、今は生徒たちの成長を見守るはずのこの場所が、抉られる。

 

 「……ッ、ハァ、ッ、ハァ……!」

 

 肺が焼ける。

 スーツを強引に駆動させ続ける負荷が、関節を通して神経を削っていく。

 対して、月光を背に受ける赤髪の男に乱れは一切ない。

 空いた掌から、手品のように新たな刀を生成する。

 その動作は優雅ですらあり、この地獄を楽しんでいることさえ伺えた。

 

 必死だった。

 現状、近づかせないように短銃と重力銃を交互に撃ち、立ち回っている。

 だが、短銃の弾道を読まれ、頼みの重力銃すらその発動までの微かな隙を突かれて回避される。

 接近されれば不利になるだろう。

 それだけは理解できた。

 

 勝てない。

 

 本能がそう告げている。

 他の5人の黒服たちが、縛り付けられた『ねぎ星人』の傍らで品定めするようにこちらを眺めている。

 その顔はニヤニヤとこちらを侮る表情を浮かべている。

 味方の優勢を理解してのことだろう。

 同時に彼らの顔には、獲物が死ぬのを待つような、残酷なまでの退屈が張り付いていた。

 さっき首を撥ねられた女性の血が、グラウンドに引かれた白い石灰のラインを汚し、どす黒く広がっている。

 

 目の前の男には余裕があった。

 まさか、2種の武器生成能力だけではないだろう。

 何か隠し玉をもっている可能性はある。

 ひとりでは確実に詰んでいた。

 

 「合流を――」

 

 縋るような思いで吐き出した独り言を、赤髪の男の鋭い聴覚が見逃さなかった。

 男の目が、ふっと細められる。

 それは興味が完全に消失した、終わりの合図だった。

 

 「待っていても無駄だぞ、他の奴らのところにも襲撃はかけてる。それに――」

 

 男はそう零すと姿が掻き消えた。

 今までのは遊んでいただけだったのだと、脳が理解するよりも早く、目の前まで肉薄していた。

 夜風よりも冷たい殺気がスーツを突き抜け、肌を刺す。

 

 「もう、お前はいいわ」

 

 目と鼻の先。

 眼前へと死が迫っていた。

 男が刀を振り降ろす。

 

 

 ――死にたくない。

 

 

 すべての動きがスローにもみえた。

 スーツを切り裂く刀の感触があまりにも鮮明に感じた。

 

 

 ――終わりなのか。

 ――いやだ、死にたくない。

 

 

 刃がスーツを切り裂く嫌な感触が、直接脳を揺らした。

 死の恐怖が、麻痺しかけた筋肉を強引に駆動させる。

 コンマ数秒、わずかに身をよじった肩口を、刀身が浅く削り取っていった。

 致命傷こそ免れたが、焼け付くような激痛が全身を走り、膝の力が抜けかける。

 

 「おっ!やるじゃん。けど――」

 

 だが、それだけだった。

 男の追撃。刺突の予備動作。

 それは確実に、心臓を貫く軌道を描いていた。

 振り下ろした刀から突きによる追撃が続く。

 裂傷による痛みが全身をはしる。

 体勢を崩された状態では避けられない。

 そう考えていた。

 

 「あ?」

 

 しかし、そうはならなかった。

 突如、夜の静寂を切り裂いて、空気を引き絞るような駆動音がグラウンドに響き渡った。

 男の困惑とともに、闇を突っ切って現れたのは二台の飛行ユニットだった。

 

 重力を無視した軌道で突進する漆黒の機体。

 男は反射的に一歩下がり、超人的な反応速度で一台目を躱すと、掌から刀を三メートル以上も伸ばす。

 そして、異形の刀を振り下ろし、二台目を真っ二つに両断した。

 火花が散る。

 その残光に紛れるようにして、三台目が()()にいた。

 

 透明化を解除した瞬間の衝撃。

 轟音と共に、赤髪の男の体がゴミのように弾け飛び、校舎二階の壁を粉砕してその奥へと消えていった。

 

 その光景をみて安堵する。

 土煙が舞う中、隣に音もなく降り立つ影があった。

 

 「大丈夫かしら?」

 

 黒髪を夜風にたなびかせた、サナさんがそこにいた。

 彼女が纏う空気は、さっきまで俺を追い詰めていた男たちよりも、遥かに冷たく、鋭い。

 サナさんの言葉に痛みで膝をつきながら、俺は頷くことしかできなかった。

 

 「おいおい、なんでお前がこっちにいる?」

 

 瓦礫を跳ね除け、赤髪の男が這い出てくる。

 

 「5人向かったはずだが……」

 

 服が薄く汚れているものの大きな傷はみえない。

 ただ、その余裕のあった顔から、初めて不敵な笑みが消えかかり、同時に男の声には純粋な疑問が浮かんでいた。

 

 「全員殺したわ」

 「は?」

 

 それでも、サナさんの声は、明日の天気でも話すかのように淡々としていた。

 

 「強いけど……まぁ、苦戦するほどじゃなかったわ」

 

 男の顔が、驚愕と怒りで引きつる。

 

 「冗談よせよ、姉ちゃん。お前の方に行った5人はそれなりの猛者なんだぜ。無傷でやれるほど弱くねぇよ」

 「なら、連絡してみたら。待ってあげるわよ。なんなら、貸してあげましょうか?」

 

 サナさんが取り出したのは、血痕ひとつ付着していない、新品同様の携帯電話だった。

 それを見た瞬間、黒服たちの空気が一変した。

 

 「……氷川、向こうに行ったヤツらに連絡しろ」

 

 赤髪の男の苦々しい指示が飛ぶ。

 サナさんが見せた圧倒的な余裕が、この場を支配していた彼らの優越感を、一瞬で恐怖へと塗り替えていった。

 

 「カオルさんは死んだのね」

 「はい……」

 「そう……」

 

 サナさんの問いは、変わらず淡々としていた。

 短すぎる沈黙。

 仲間が失われたことへの悼みよりも、現状の戦力分析を優先する彼女の姿勢に、言いようのない寒気を覚える。

 

 「サナさん――あの赤髪の男は掌から武器を生成します。その上、動きもめちゃくちゃ早いです。それに何か奥の手も持っているかもしれない」

 「でしょうね。今までのヤツもそうだったから」

 「……知っているんですか?」

 

 サナさんはわずかに目を細めた。

 

 「『くろふく星人』。私達のような部屋の住人を他の星人を囮に使い、待ち伏せて襲う星人。ミッションの標的外の敵は倒しても得点にならないから相手するだけ無駄よ」

 

 得点にならない相手。

 

 「得点にならない相手()倒さないといけないのですか……」

 「いいえ、標的になっている『ねぎ星人』だけを倒せば転送は開始されるわ。以前。ミッションで標的になったことも、別の星人のミッション終了後に襲撃があったこともあるわ」

 

 サナさんの言葉を反芻しながら、多くの考えが目の前の光景と激しく衝突していた。

 

 このミッションというものは不明瞭な部分が多い。

 目的は何なのか。

 超技術はどうやって用意しているのか。

 星人とはいったい何なのか。

 かつて、サナさんはコロッセオだといった。

 そして、その仮説の信憑性は高いように思える。

 

 秘密結社の資金源。

 

 だが、おかしな点が二つある。

 第一に場所の不合理性。

 もしこれが富豪の賭け事なら、わざわざ市街地で行うのはリスクが高すぎる。

 もみ消しに要するコスト、情報漏洩のリスク。

 現代の監視社会で、これほど派手な戦闘をなかったことにする労力は、娯楽としての利益を遥かに上回るはずだ。

 効率を重んじる組織なら、私有地の島や閉鎖空間で行うのがいい。

 ここまでできる秘密結社にそれができない理由はない。

 

 第二に星人というリソース。

 星人事態はバイオテクノロジーによる産物だと考えられる。

 乱入クエスト自体はおかしい話ではない。

 お邪魔虫がいてもいいだろう。

 確かに面白い。 

 

 ただ、サナさんが話したとおりならば

 弱い星人が標的でお邪魔虫がでるミッション。

 このミッションの生き残りは誰だ。

 

 そんなギャンブルならば、ミッション()()()()()()しては意味がない。

 

 別の可能性。死神的存在。

 強すぎる戦士を殺すというのも必要だ。

 賭け遊戯で勝ち続ける存在は邪魔になる。

 でも、爆弾がある。サナさんはかつて話していた。頭の中には爆弾が埋め込まれていると。

 コロッセオの運営からしてみれば邪魔なやつはいつでも殺せるのだろう。

 ましてや、こんな遠回りする必要はない。

 それに、そこまで強い戦士であれば追加の星人で必ず殺せる道理はない。

 

 だからこそ、運営にとっては意味がないのだ。

 それでも、サナさんの口ぶりでは、彼らは以前からゲームの隙間を縫うように存在し、戦士を狩り続けている。

 運営が彼らを取り除かない理由は何か。

 

 ここから導き出される仮説は――

 

 これはマッチメイクされた()()ではない――害虫駆除。

 

 市街地で戦うのではない。

 弱い星人が標的でお邪魔虫がでるゲームではない。

 市街地に既に奴らが潜んでいるから、そこで戦わざるを得ないのだ。

 自分たちのテリトリーに侵入してきた外敵を、純粋に排除しようとしているに過ぎないのだ。

 

 このゲーム性は戦争を続ける資金集めのためで。

 超技術は宇宙人を殺すために開発された技術で。

 この星の占有権を奪い合うための、宇宙戦争なのだ。

 

 背筋に凍りつくような感覚が走った。

 サナさんがこの仮説にたどり着いていないわけがない。

 理解していてこの部屋に残り続けているのだ。 

 

 「ボス!連絡が繋がらないです!『赫炎(かくえん)』『剣帝(けんてい)』『老歌(ろうか)』『霞女蟲(かすみじょちゅう)』『皇鬼(すめらぎ)』全員が!」

 

 控えていた金髪の男――氷川の焦燥に満ちた絶叫。

 赤髪の男の表情から、余裕という仮面が剥がれ落ちる。

 男はこちらに向き直り、サナさんに対して大きく目を見開いたまま見据えた。

 スーツの内ポケットから携帯を取り出し、片手で操作をはじめる。

 いくつかボタンを操作すると最後に強くひとつのボタンを押した。

 

 prrrrrrrrrrrrrrr!

 

 静まり返った夜のグラウンドに、あまりに場違いな着信音が鳴り響く。

 その着信音はサナさんがもつ携帯から流れた。

 静かなグランドに、その音は誰の耳にも聞こえた。

 

 「……灰原からそれを渡されたのはお前なのか」

 「そうよ」

 

 男の声は、先ほどまでの傲慢さが嘘のように低く、かすれていた。

 男の背後で、氷川と呼ばれた金髪の男が息を呑むのが分かった。

 

 「……4年前、『黒鬼(くろおに)』を殺したのはお前か?」

 「『黒鬼(くろおに)』が藍染宗也のことを指すのならそうよ」

 「知多の蒼龍会へ襲撃をかけて皆殺しにしたのもか?」

 「先に襲撃してきたのはそちらだったと思うけど……まぁ、そうよ」

 

 淡々と、昨日の夕飯のメニューでも答えるかのように、サナさんは肯定を重ねていく。

 

 俺には分からない。

 藍染宗也とは誰なのか。知多で何が起きたのか。

 ニュースでも、新聞でも、そんな凄惨な事件が報じられた記憶はない。

 だが、赤髪の男の顔を見れば、それらがどれほどの重みを持つのかは理解できた。

 彼らにとってそれは、おとぎ話でも冗談でもない。

 自分たちの指折りの同胞たちが、屠られた、悪夢そのものなのだろう。

 目の前の少女が口にしているのは、当たり前の日常の歴史ではなかった。

 

 「……お前が――」

 

 男の問いには、隠しようのない恐れが混じっていた。

 同時に問いを肯定されることを受け入れていないようだった。

 

 「藪原紗奈か?」

 「そうよ」

 

 名が肯定された瞬間、張り詰めていた夜の空気が、さらに一段階、温度を下げた。

 男から余裕は消えていた。

 目線は間違いないくサナさんを見据えている。

 

 「さっさとやりましょう。あなた達も『ねぎ星人』の見張りは面倒だったでしょう」

 

 そう言い捨てると、静かに、そして重く刀を構えた。

 男も同じく刀を構えゆっくりと歩みはじめる。

 サナさんはその姿を捉えながら小声で指示をだす。

 

 「あなたは後方から奴らが逃げないように見張っていて頂戴。危なくなったら『ねぎ星人』を上へ転送してもらって構わないわ」

 「……捕獲銃は破壊されました」

 「そうだったの。なら、いつでも倒せるように重力銃だけ構えておいて」

 

 サナさんはそう言い残すと、ゆっくりと男へ向かって歩みはじめた。

 数歩もすると互いは爆発的に速度を増し――月光の下で、ふたつの刀が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――二人の戦いについて語ることはあまりなかった。

 

 「ありえねぇ!こんなの……ありえねぇだろうがぁぁぁ!」

 

 赤髪の男の絶叫。

 自分と戦っていた時の彼は、おそらく全力を出す必要すら感じていなかったのだろう。

 狂気じみた眼光、空気を引き裂く刃の鋭さ。

 その速度は、以前のミッションで必死に立ち回った『くろ!うるしぃC』の比ではなく、一挙手一投足に達人の領域を感じさせる完成度だった。

 

 「俺が今まで何百人!ハンターを殺してきたと思ってる……ッ!」

 

 だが、その極みすら、サナさんには届かない。

 剣閃が夜を切り裂き、数度の火花が散ったかと思うと、男の左腕が宙を舞い、短銃による目に見えない衝撃波が、男の右脚を内部から爆砕した。

 

 「俺は『鬼神(おにがみ)』だぞ!こんな女に……!」

 

 男の奥の手だったのだろう。

 切断面から蠢く肉芽が溢れ出し、全身の傷が再生されると共に、刀と腕が異形の形に変形した。

 男が咆哮すると全身に風を纏い、振るう斬撃が真空の刃となって飛ぶようになった。

 放たれた斬撃は真空の刃を纏い、周囲の土を、石を、校舎の壁を等しく切り刻む。

 だが、それすらも避け切り、最短距離で肉薄し、四肢を切り刻み、吹き飛ばし、逃げ場を失った『鬼神』を、サナさんは圧殺した。

 

 「雑魚みてぇに殺されるなんて――」

 

 男の言葉がそれ以上に続くことはなかった。

 

 そして今、男が連れた他の『くろふく星人』を追い詰め、殺していた。

 

 「何なんだよ!人間じゃねぇ!化も――」

 「アウロ!くそッ!死ねこのあまぁ!」

 「倉藤!近づきすぎるな!」

 「離れて攻撃しろ!応援は呼んだんだ!とにかく時間を稼――」

 「氷川……ジェリーが!おい……倉藤まで!」

 

 漆黒の死神が踊るたび、獲物を追い詰めていたはずの男たちが、軽々と命を刈り取られていく。

 絶叫と断末魔。

 先ほどまでの彼らの優越感は、今や見る影もない。

 ものの数秒で、生き残っているのは金髪の男――氷川を含むたった二人だけとなっていた。

 

 「新庄!とにかく撃ちまくれ!近づけさせるな!」

 

 氷川とよばれた金髪の男は、焦燥を押し殺して隣の男へそういって指示をだした。

 同時に氷川は、放置されていた獲物――『ねぎ星人』に目を向けると、その足元へ向けて銃の引き金を引いた。

 二発の乾いた着弾音とともに、拘束していたアンカーが火花を散らして破壊される。

 

 「□□□、■■、□□□!」

 

 氷川は『ねぎ星人』へ向けて、喉を震わせ、大声に何かしら叫んでいた。

 その言葉は自らの耳には、言語の体をなさない砂嵐のような雑音のようにも聞こえた。  

 ただ、剥き出しの焦りに突き動かされていることだけは鮮明にわかった。

 ねぎ星人は拘束が解かれるとともに、じろりとこちらをみていた。

 

 そして、化物は一歩を踏み出した。

 『くろふく星人』の二人はその様子をみて、銃を乱射しながらも、脱兎のごとく大きく後退していく。

 

 相手をさせて撤退するつもりなのだろう。

 『ねぎ星人』へ向けて重力銃を構えたサナさんに代わり、男たちへその銃口を向けた。

 

 「マズ――」

 

 トリガーを引く。

 空間が歪み、不可視の圧力が放たれる。

 自らの放った一撃は、新庄と呼ばれた男の右手足を巻き込むものの、仕留め切れてはいなかった。

 氷川は歩行が困難になった仲間を無造作に背負うと、牽制の弾丸をばら撒きながらさらに大きく退がる。

 

 これ以上の追撃は不可能だろう。

 点数にもならない相手であれば、深追いしてリスクを冒す必要もない。

 ただ、先ほどの仮説通りならば、もしかしたら日常生活で襲撃されるリスクも残る。

 

 脳裏をよぎる懸念。

 その考えから、一瞬、サナさんの近くを離れるという判断を下した。

 サナさんはこちらをみていなかった。

 『くろふく星人』なんて、彼女にとってはいつでも片付けられる路傍の石に過ぎないからだろう。

 追撃だとか点数だとか、そんな些細なことは考えていなかったのかもしれない。

 

 「▲■▽ ◎◎ ――▼ ▢!!!!!!!!!!!!」

 

 『ねぎ星人』が、呪詛のような雄たけびをあげる。

 サナさんはただ爪を向け、奇声を発しながら走ってくる星人をみていた。

 

 それも、熱を帯びた闘志ではなく、冷めた目で。

 すべてを知っているかのような、ひどく諦観した目で。

 涎を垂らし、血走った目で、死そのものである爪を数センチの目前へと迫らせる哀れな星人をみていた。

 彼女は呼吸をするように当たり前に引き金を引いた。

 

 そして、重力銃による絶対的な破壊の一撃は――

 

 「えっ」

 

 『ねぎ星人』に()()()()()()

 

 

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