お嬢様部 〜パクパクですわ!〜【大阪版】   作:R884

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どん兵衛の赤鬼ってまだ売っているのかしらですわ!

神戸、三宮の天ぷら屋 善春(ぜんしゅん)

 

1本檜のカウンターを前に三人の客が座る。

あまりメディアには出ないが財界で知らぬ者などモグリだと言われる西園寺財閥総帥 西園寺光一、その令嬢であり一人娘のエリカ、そしてプラチナブロンドの本物王子様ウィリアムズ、今日もキラキラと王子様オーラを撒き散らしている。なんともクセの強い客達だ。

尼崎であった系列会社の式典に父光一と一緒に参加したエリカ、帰りにご飯でも食べていくかとこの店に来た。

しかし、なぜかウィリアムズ王子も式典に招待されており、二人の後に喜んで付いてきてしまった。光一も甥(おい)にあたるウィリアムズをそう邪険に出来なかったらしい。

 

 

店主である料理長が三人を前に挨拶を述べる。

 

「西園寺様、当店へのご来店ありがとうございます。本日は貸切にしておりますのでごゆっくりお楽しみください」

 

貸切、その言葉に反応するのはエリカだ。

 

「あら、ではコースでなくてもよろしいんですの?」

「はい、お嬢様のお好きなものをお出し致しますよ、なんでもご注文ください」

「そうですわね、では…」

 

娘との水入らずの食事を邪魔された形になった光一としては、あまり気分的に良いものではなかった、ちゃっかり間に座っているウィリアムズを睨みながら声をかけた。

 

「で、ウィリアムズ君、なんで君がエリカと私の間にしれっと座っているのかな?」

「やだなぁ、叔父さん。将来はお義父さんと呼ぶかもしれない仲なのに水臭いですよ」

「君にお・と・う・さ・んなどと呼ばれる意味がわからないのだが」

「もう、叔父さんもそろそろ子離れする頃じゃないですか?」

ピクッ

「表に出たまえ!」

 

普段自分にそんな口を利く者などいない所為で煽り耐性がちょっと低い光一だった、そのダンディな見た目に反し実に大人気ない。

隣の二人の会話なんぞにカケラも興味のないエリカ、一品目のししとうを早くも平らげ、次の品を注文する。

 

「料理長、次はお茄子、それからやっぱり鱧は外せませんわね」

「海老がいいの入ってますよ、いかがです」

「海老は締めにとっておきますわ」

 

サクリと揚がった茄子や鱧の歯応えを楽しむと、次に頼むのはキス、口休めに蛤の吸い物と楽しそうに次々と注文していった。光一とウィリアムズもいつの間にか言い争いをやめて、エリカが美味しそうに食べるのを微笑みながら見守っている。

 

そんな時間をしばらく過ごしているとエリカは海老を頼んだ、店主は先ほどのエリカの言葉を思い出し締めとばかりに調理に取り掛かる。しかしそこでエリカがカウンターの端に目をやると料理長が想像していなかった言葉を口にする。

 

「料理長ごめんなさい、締めはそちらの紅しょうがにしますわ」

「紅生姜ですか? えーっと、掻き揚げに致しますか?」

「いえ、輪切りでおねがいしますわ」

 

このやりとりに興味をもったウィリアムズがエリカに訪ねる。

 

「エリカ、紅しょうがって天ぷらになるの?」

「ウィリアムズ王子、関西では結構ポピュラーなタネですわ」

 

エリカの言葉を捕捉するように料理長が海老を揚げながら言葉を挟む。

 

「そうですね、家に来るお客さんは頼まれませんが、大阪、奈良の方じゃ好きな方が多いですね」

「あら、そうなの?それなのによく置いてありましたわね」

「私が好きなのと、まかないで揚げる事もあるので」

 

大阪人はなぜか紅生姜が大好きなのだ、吉野家の牛丼に山盛りの紅生姜を乗せて食う民族なのだ。

ちなみに作者の長野ではこの紅生姜の天麩羅は一度も食した事はない、大阪以外で食べる文化ってあるんだろうか?

 

「へえ、じゃ僕も食べてみようかな」

「大将、俺にもそれ一つ」

「へい!うけたまわります」

 

コトリ

 

カウンターに置かれたた平皿には薄く衣を纏った真っ赤な天麩羅がパチパチと音を立てていた。料理長が普段は店では出さないメニューに笑みを浮かべ口を開く。

 

「善春特製、紅生姜天でございます。お好みでソースをつけてお召し上がりください」

 

「天ぷらなのにソースなんだ」

「塩もいけますけどソースの方がやはり美味しいですわ!」

 

シャク

 

「おっ、結構濃い味だね、ちょっと塩っぱいけど美味しいよ」

「う~〜ん、揚げ加減が絶妙。流石、料理長ですわ!」

 

エリカの言葉に料理長も楽しそうに頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

 

 

「これは……、大将、酒のお代わりもらえるか」

 

「呉春の特吟がございますが」

 

「いいね、もらおう」

 

 

光一も初めて食べる紅生姜天と旨い日本酒に頬を緩ませる、余計な邪魔者もいるがたまにはこんな時間も悪くないと思った。

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