お嬢様部 〜パクパクですわ!〜【大阪版】   作:R884

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秋ですわ!

「はぁ、夏が終わりますわ」

 

エリカが窓際の席でアンニュイな表情で外を見ながら小さく呟いた。今日の紅茶はアッサムの気分だった、コクリと一口。

 

「まぁ、西園寺様が夏の終わりを憂いておられますわ」

「きっと、素敵な一夏の思い出がお有りになるのよ」

「「なんにせよ今日もお綺麗ですわぁ〜」」

 

お嬢様部の下級生がエリカを見て勝手に盛り上がりを見せる。

エリカの後ろに控えている戸田は、「また、エリカお嬢様食べ物の事考えてるな」と考えながらお代わりのアッサムティーを静かに注いだ。

 

「はぁ、西瓜に白桃も来年までお預けですわ、やはり旬の物が美味しいですもの。…これからの時期ですとやはり丹波の大栗ですわね」

 

ポツリ

 

「あら、栗だけでなくお芋もとっても美味しくなりますわよ」

 

エリカが独り言を呟いていると副部長の伊集院がいつの間にか隣に立って微笑んでいた。本当に何をする部活なのだろうか?

 

「伊集院様。そういえば伊集院様のご実家は九州でしたわね、だから薩摩芋?」

 

「ええ、毎年祖母がお芋を一杯こちらの家に送ってくださるの、シェフが自家製スイートポテトを作ってくれるのだけど凄く美味しいですわ」

 

「まぁ!それは羨ましいですわ。本場のさつま芋ですもの色々なお料理に使えますわね」

 

エリカの返事に自分で料理はした事がない伊集院は戸惑ってしまう、誰もがエリカのように食い意地がはってるわけでは無いのだ。

 

「えっ、他の料理ですか?」

 

「ええ、焼き芋なんかもいいですわ!」

 

「焼き芋?それはどんなお料理ですの?」

 

伊集院がコテリと首を可愛く傾げる。

なんと、焼き芋をご存知ない、こりゃまた失礼いたしましたぁ…ではありませんわ!!

 

「は?えっ、お芋を焚き火で焼くだけですわ」

 

すかさず戸田がエリカに耳打ちする。

 

「お嬢様、最近ではご家庭で焚き火は出来ないので、そういう経験がある方は少ないかと」

 

現在の日本では野外焼却や基準を満たさない焼却炉の使用は禁止されている所が多い、作者が子供の頃は家の裏で一斗缶を使って落ち葉や紙ゴミは燃やしていたものだが、今はなんやかんやで禁止されている。

 

「そうなんですの?あの経験が無いなんて今の子供は可哀想ですわ」

 

エウレカ!エリカがポンと手を打った。

 

「伊集院様、そのお芋って全校生徒分ご用意できますか?」

 

「は、はい。電話すれば喜んで送ってくれると思いますわ」

 

「ありがとうございます。では、(わたくし)、話をつけて来ますので3日後にご用意お願い出来ます」

 

「は、はぁ、西園寺様がおっしゃるならご用意いたしますわ」

 

 

 

 

 

コツコツコツ、ザッ

 

「…ここが、あの女のハウスね」

 

表札を見上げて小さく呟く。

 

「何をおっしゃってるんですか?エリカお嬢様」

 

「あら、こう言う時はこのセリフを言う決まりがあるんですわ、行きますわよ」

 

 

 

コンコン

 

「どうぞ、入りたまえ」

 

ガチャ

 

「え?西園寺君」

 

校長室のドアが開かられると、一目で誰だか判別できる特徴的な縦ロールのヘアスタイルが校長の目に飛び込んでくる、いきなりの西園寺の御令嬢の訪問に驚く。

 

「校長先生、実は折り入ってお願いがございますの」

 

 

 

校長がコトリと戸田が淹れたコーヒーを机に置く、その向かいの席ではエリカが本日3杯目の紅茶を飲んでいた、夜おしっこに行きたくなるぞ。

 

「…ふむ、焼き芋大会か、懐かしいね、でも…」

 

「風俗習慣のとんど焼きや学校教育の一環としてなら焚き火も許可されていますわ、それに落ち葉だけなら有害物質も問題ありませんわ」

 

 

 

 

 

 

3日後

 

 

暑さ寒さも彼岸まで、涼やかで良く晴れた日となった、学校の裏の林の前には落ち葉が積まれ小山があちらこちらに出来ていた。

集まった三つ星学園の生徒達も初めての経験にワクワクとした表情を浮かべている、エリカは消防団の法被(はっぴ)を着たお爺ちゃんと楽しげに話している。

 

「では権田さん、お願いいたしますわ」

 

「おう、まかせとけ!おい、お前ら火つけろ、始めるぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

団長の権田さんの号令をかけると一斉に枯れ葉の山に火が入れられる、燃えやすい松ぼっくりからは激しく炎が上がる。かつては秋の風物詩と思われた焚き火だが、昨今では田舎以外ではめったにやらなくなった、年配の消防団員の中にも懐かしさを覚える者もいた。

 

 

 

念の為に近所の消防団のお爺さんに声をかけたら、喜んで監督役を買って出てくれた。これならこの学園の生徒達でも楽しめるだろう。

 

「ふふ、流石は伊集院家のお婆さまですわ、色艶申し分ない一品ですわ」

 

「祖母に西園寺様が褒めてくださったと伝えておきますわ」

 

エリカが箱の中のさつま芋を一つ手に取る。

 

「紅はるか、これは蜜芋と呼ばれるほど焼くと甘くなるお芋ですわ、安納芋より甘くて焼き芋にはぴったりですわ、こちらの紅さつまはしっとり系で焼き芋にしても美味しいですが大学芋にしてもいいですね、ホクホクとした食感の紅あずまは天ぷらとかが合いますわ」

 

ニコニコと説明をするエリカにお嬢様部の面々も感心する。

 

「流石は西園寺様ですわ、何でも知ってらっしゃるのね」

 

何でもは知らないが食べ物に関してはかなり詳しいエリカお嬢様である。

 

「それにさつま芋はカロリーも少ないので、白米の代わりに食べればダイエットにもいいですわ」

 

「「「そうなんですの!」」」

 

最後に女子が遠慮なく食べれる魔法の言葉「ダイエット」を発動、これでエリカも思い切り食べる事が出来ると言うものである。

 

 

 

パチパチと燃える木の葉から白い煙が空に昇って行く、そんな光景になぜか哀愁を感じていたエリカに声がかかる。

 

「やあエリカ、僕に相談してくれれば王子部も一緒に協力したのに、残念だよ」

 

「あら、ウイリアムズ様は焚き火の経験がありますの?」

 

王子部のウイリアムズが笑顔で、その隣には児島が、二人がやって来た事で他のお嬢様部の面々は遠慮がちに距離を取った。

 

「イギリスでは趣味の狩猟で森に入る事があるからね。英治もやった事があるみたいだよ」

 

「あら、児島様も。それならば相談すればよかったですわ」

 

「でも、僕も焼き芋は初めてだなぁ、肉や栗は焼いた事あるけど」

 

「俺も芋は初めてだ」

 

「はぁ〜、焼栗もいいですわね、そうそう、知ってます、栗に切れ目を入れておかないと焼いた時にパァーンって破裂して危ないのですわよ」

 

「なんでエリカはそれを知ってるの?」

 

妙な事は何でも知ってるエリカである。

 

「ゴホン、今はこう言う経験をする方はあまりいないみたいですわ」

 

「そうだね、特にここの学園の生徒はそう言う傾向があるかもね」

 

このイベントだって西園寺エリカが主催と言う事で学園の生徒達を集める事が出来た、他の者では欠席者も多かっただろう、この学園の生徒は好き好んで自然と触れ合う事はしないのだから。

焚き火を囲んで芋を焼く、それだけの行為が学園での思い出の1ページに刻まれる、人生やったもの勝ちである。

 

 

「けど、焚き火なんて俺も久しぶりだから、なんか楽しいよな」

 

「ふふ、児島様にそう言っていただけるのならば、このイベントも大成功ですわ!」

 

エリカに笑顔で見つめられて、児島が動揺する、それをウイリアムズ王子が不機嫌そうに眺めていた。

 

 

 

 

秋空に白い煙が溶けて消えて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、西園寺邸。

 

「あ〜、焼き芋楽しかったですわ!」

 

昼間の残った焼き芋をシェフに頼んでスイートポテトに変身させ、本日のデザートに召喚。

スプーン片手にホクホクのエリカお嬢様が自室のソファーでくつろいでいた。

 

「ん〜〜〜っ!この紅はるか、しっとり甘くて最高!やっぱりスイートポテトですわ!」

 

結局美味しければ、形にはこだわらないエリカなのだった。

 

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