ケイちゃん!パンツ見せて!   作:魔術師手術中

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大好きだよ!ケイちゃん!

 ミレニアムサイエンススクールの朝。

 巨大な浮遊建造物を黄金色に縁取る朝日が、清潔な並木道を照らしている。登校する生徒たちの喧騒はいつもと変わらないはずだったが、今日のあなたにとっては、世界全体のコントラストが一段階上がったような、異様な高揚感に包まれていた。

 

 理由は明確だ。

 隣を歩く少女――ケイ。

 銀色の髪を春の風に遊ばせ、赤紫色の瞳を前方の空間に固定したまま、彼女は規則正しい歩調で進んでいる。だが、その距離はいつもよりわずか五センチメートルほど近い。

 

 

「……本日一八時までの予定を確認。一時間目に工学基礎、二時間目にセミナーへの進捗報告、放課後は特異現象捜査部での定例メンテナンス。……あなたの脳内リソースが、昨日のデートの残滓で99%占有されていると推測されるため、私が全スケジュールを管理・最適化します。感謝しなさい、変態」

 

 

 第一声は、相変わらずの辛辣さだった。

 だが、その声は以前のような突き放す冷たさではなく、どこか身内を甘やかすような、あるいは自身の所有物を点検するような、不思議な柔らかさを帯びている。

 

 

「ありがとうケイちゃん!でも、そんなに近くで管理してもらえるなら、授業中も隣にいてほしいな!」

「……却下です。教室における座席の変更は、学籍管理システムの書き換えを要します。それに、……至近距離での並走は、私の熱管理に深刻なデバフを与えます。……現に、今も……」

 

 

 ケイはふいと顔を背けた。

 白い頬が、朝の光を反射して眩しい。

 彼女の論理回路は、先日交わした「恋人」という契約をどう日常に落とし込むか、一晩中フル稼働でシミュレートしていり。その結果が、この「いつもより五センチ近い距離」という、彼女なりの表現だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 校門をくぐり、中央広場に差し掛かった時。

 ミレニアムの生徒たちが、二人を認めてさざなみのようにざわめき始めた。

 元々、才色兼備で知られるケイと、最近何かと騒がしいあなたの組み合わせは目立っていたが、今日の二人が放つ空気感は、明らかに昨日までの部員と協力者のそれではない。

 

 

「……視覚情報の集中を検知。周囲の生徒たちの注目度が、通常時の250%に達しています。……原因の特定を開始。………あ」

 

 

 ケイが、自身の右手に視線を落とした。

 そこには、あなたが無意識に(確信犯)絡めた、自身の左手があった。

 

 

「あ、ごめん、ケイちゃん。嫌だった?」

 

 

 あなたが手を離そうとすると、ケイの指が、驚くほど強い力であなたの手を掴み直した。

 

 

「……このままでいいです。……一旦開始された同期を、外部の視線というノイズを理由に中断することは、私のプライドが許しません。……それに。……これが恋人という属性に付随する標準的な挙動であると、昨夜のデータベース検索で確認済みです。……堂々としていれば、恥ずかしくなんてありません」

 

 

 ケイは前を見据えたまま、一歩も引かない。

 赤紫色の瞳が、周囲の好奇の視線を牽制するかのように鋭く光る。

 繋がれた彼女の手のひらは、制御不可能なほど熱く、微かに震えてい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。食堂の喧騒の中でも、ケイの徹底した「管理」は続いた。

 二人が並んで座ったテーブルは、周囲から見れば完全なパーソナルスペースと化していた。

 

 

「……あなたの栄養摂取状況を解析。ビタミンB群が不足しています。……私のサラダから、この非効率的な装飾品(パセリ)とトマトを一部譲渡します。……それと。……口角にソースが付着しています。……あー、もう。……じっとしていなさい」

 

 

 ケイはハンカチを取り出すと、あなたの口元を丁寧に拭った。

 その動作は、まるでお気に入りの精密機器をメンテナンスするエンジニアのように真剣で、それでいて、母親のような慈しみすら感じさせた。

 

 

「ケイちゃん、なんだか今日は一段とお世話を焼いてくれるね」

「……当然です。……先日の誓約を以て、あなたのコンディション管理は、私の最優先タスクとして登録されました。……あなたの故障は、私のシステムの致命的な欠落を意味します。……ですから。……私以外の人間に、その無防備な顔を見せることは厳禁です。……わかりましたか、私の、変態」

 

 

 「私の」という言葉に、彼女自身が照れたのか、ケイは乱暴にフォークを動かした。

 その一挙手一投足が、恋人としての自覚を強固にしていく。

 彼女にとっての「恋」とは、相手のすべてを自身のシステムに組み込み、生涯をかけて最適化し続けるという、あまりにも重く、あまりにも純粋な献身の形だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。部室に戻ると、そこにはいつもの静寂があった。

 だが、二人きりになった瞬間、張り詰めていた「登校日モード」のケイが、ふっと肩の力を抜いた。

 彼女は自分のデスクに座ると、椅子を回転させ、あなたの膝の間に自分の体を滑り込ませた。

 それは、かつてあなたが懇願した膝枕や猫吸い密着を、彼女なりの方法で……今度は彼女から実行しようとする意志の表れだった。

 

 

「……本日一六時までの、恋人としての対外プロトコル、完了。……。……全演算リソースを、個体:『あなた』とのプライベートな同期に割り当てます。……一五分間。……充電、させてください」

 

 

 ケイはあなたの胸に、その銀色の頭を預けた。

 その髪から漂う、太陽のような、石鹸が混じった、彼女にしかない香り。

 あなたは彼女の細い肩を抱き寄せ、その柔らかい背中に触れる。

 

 

「……以前の、断絶。……あの時の、空っぽのフォルダのような孤独感を、私は二度と読み込みたくありません。…………だから。……明日の登校日も。……その次の日も。……私の隣にいることを、義務付けます」

 

 

 赤紫色の瞳を閉じ、彼女はあなたの心音に耳を澄ませる。

 ミレニアムの放課後。

 二人の物語は、もはや誰も予測できない、けれど最高に幸せな「愛」という名の無限ループを刻み続けていた。

 あなたは胸の奥から湧き上がる気持ちを我慢せず言葉にした。

 

 

「……大好きだよ、ケイちゃん」

 

 

「うるさい!耳元で騒がないでください!」

「…それに……そんなこともうとっくに知っています。……あなたのデータは、一秒一秒すべて私のメモリに永久保存されていますから」

「それでも、何回でもいうからね!だってーー」

「もういいです!恥ずかしすぎて死んでしまいます!」

 

 

 夕暮れの部室。

 恋人になった二人の一日は。

 最高の演算結果と共に、穏やかに暮れていった。

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