……新月のダンジョン。
「──ぎゃぁぁぁあああああ!」
バキバキッ!
ボリリリュ……!
「げーっぷ!」
ふぅ。
サイコー。
ダンジョンの最奥で冒険者の悲鳴が、おくびに消えていく。
もちろん、消えていく先は「私」の胃の中に、だ。
けけけっ、せっかくの人間だ。
悲鳴も肉も何もかも美味しく頂かないとねー。
「なにより、や~っぱ生の冒険者はうめーな」
コリコリしてるわー。
「ま、欲を言えばガキが食いたいんだけどねー」
しーはーしーはー。
ドロップした冒険者の装備で歯間掃除をしつつ、思いを馳せるは甘美な肉──。
だがそんなのは滅多に食えないし、保存食で当面は我慢我慢。
なんだかんだ生徒の干し肉はまだまだいっぱいあるしねー。最悪、ウチには優秀な生きた保存食もあるしー。
「っと、んんーっ、ここ硬い……ぺっ」
……うん。
美味いっちゃうまいけど、男の冒険者は筋肉質でちょっとなー。
……味はこう……THE・赤身ー! って感じで、喰いごたえが抜群でわりと好きなんだけどね。
ただ、時々ちょっとイマイチな部位があるので、そういうのは──……ほれ。
──ベチョ。
「ミンチちゃん、それ食っていいよー」
「こくり」
小さく頷いた少女はおずおずと吐き出された
まさに犬食いだが、かみ切れなかったのか、そのうちに両手で掴むと夢中でガツガツと。
「骨は、ぺっ、ってしていいからねー」
「こくこく」
……つーか、ほとんど骨しかねーけどね。
あとは、焼いてやったほうがいいのだろうがめんどくさーい。
一応、部屋には松明のあるので自分でやるだろうさー。
『アンタが言わないとやんないわよ』
「あーん?……そこまで面倒は見切れないよ」
……なんだ。
ミユちゃんか。
いつもながら急に現れるよなー。びっくりするからやめてほしい。
「つーか、飯くれてやって排泄物を処分するだけで十分やろがい」
まぁ、飯は「私」の残飯だし。
ウ〇コもお〇っこも、掃除か回収コマンドで一瞬なんだけどね!
『飯って……それ、さっきの冒険……うぷっ、』
吐くな、吐くな。
ゴーストの吐しゃ物までは片付けしたくないぞー。
「しゃーないじゃん。ここの冒険者って、手ぶらが多いんだもん」
最近はまた冒険者の数も増えて来たけど、質は相変わらず。
ちょ~っとだけ強くなってる気もするけど、それ以外はほぼ同じ。
相変わらず行動食どころか、弁当すら持ってこないし……。
まぁ、日帰り前提で潜ってるならそんなもんかね。ウチのダンジョン浅いしー。
『な、なら、せめてもう少し身ぎれいに……』
「うるさいなー」
次は何?
なんで生き餌の着るもんまで気にせんとあかんねん。
ボロがあるだけマシじゃーい。
『はぁ……。言っても無駄ね』
「うん、無駄ー」
そういって面倒そうな「私」にミユちゃんは額を抑えるだけでこれ以上言うことはなかった。
ま、最近はだいたいこんな感じ。
前ほどギャーギャー言わなくなったので、助かるねー。
「それもこれもミンチちゃんのおかげかな?」
「……?」
口の周りを血でベトベトにしながらも不思議そうに首をかしげるミンチちゃん。
うんうん。
──なでなで。
舌で頭をなでると、ついつい食べそうになるけど、我慢我慢。
『涎』
「おっと──……つーか、君はさっきからなにしてんの?」
なんかミンチちゃんをじっと見守ってるけどさー。
傍から見てたら怖いよ?
『アンタが放置してるからでしょ。アタシだって話相手くらいにはなるわよ』
「話相手ねー」
これ、この子聞いてなくね?
ミンチちゃんは意志が薄弱なので、実際に聞いているのかどうか分かりづらいのだ。
特にミユちゃんの声って届いてんのかねー?
まぁ、そんなのお構いなしにミユちゃんてば、ミンチちゃんのことをなにくれとなく面倒みているっぽいけど。
「ま、無駄な努力だとは思うけど、興味の方向性がそっちに変わったのはいいことかな」
おかげでうるせーミユちゃんの相手しなくてもよくなっただけでも、ミンチちゃんを拾った甲斐があるというもの。
『アンタが雑なだけでしょ!』
「雑って言われてもなー……」
いやさ。ここダンジョンだもん。
……ガキとはいえ人間一匹育てるのは大変なんだよ?
「私」なんかは割と何でも食うし、しばらく食わなくても──いや、いっそ完全に絶食しても多分死なない。
だのに、このメスガキときたら……。
「そーいや、この前は2、3日飯を食わないときがあって、その時はマジで死にかけてたね」
『死にかけてたんじゃなくて、ほぼ確実に死んでたの!!』
あれ?
そうだっけ?
「あー……そっか、そっか。囮に待機させといて忘れてたんだったわ」
てへへ。
言わなきゃ、ず~っとじっとしてるから、ついつい……。
『それを助けた冒険者をアンタって奴はー』
「あーはいはい! あったあった」
あれなあれ!!
何か知らんが、親切な冒険者が瀕死のミンチちゃんを見つけてさー。こう……ポーションを与えて、ご飯もあげて──……そこを「私」が食った!
「いやー。あれは美味しかったね! 足からバリバリ食ってたら、ぎゃーぎゃー騒いでさー」
ぎゃははは!
思い出したら笑えて来たー。
「しまいには、ミンチちゃんまでそのあとで、生肉をガツガツ食ってたしねー」
うんうん。
恩人の肉をさもうまそうにね。
『よくもまぁ、そんな残酷なことを──』
「いや、残酷も何も、まず疑うべきでしょ? ここダンジョンだよ? 丸腰の子供だよ?……怪しいでしょ?」
それを何の疑いもなく、助けてくれてやって自分の大事な物資まで与えてやってたらねー。
「馬鹿じゃね?」
そんなん食うしかなくね?
御礼もかねてボリボリとさー。
そんで供養もかねて、その肉を子供が食う……完璧なサイクルじゃーん!
『どのへんに完璧さがあんのよ!! そーいうのは最悪の因果って言うの! あーもう、せめてご飯くらい普通のあげてよ』
「いやだから、食いモンそれしかねーって言ってんじゃん!」
ここ新月のダンジョンだよ?
なんなら「私」も
「水はなんとかなるけど、ここって日帰りできちゃうダンジョンだもん。そりゃ、たまーに、大集団が持ち込むときもあるけどさ。基本手ぶらよ手ぶら」
しかも、割と最近まで実は冒険者どころか、兵隊も来なかったくらいだ。
だいたい、一か月くらいかなー。
マーーーーージで誰も来なかった。
「あの時もやばかったじゃん? おかげで手持ちの食料が尽きたし、もちろんミンチちゃん全部食べちゃったし……」
そして、ついに飢えて死にかけていた。
しゃーないので、それ以来、こうして「私」の残飯を時々あげているってわけ。
「むしろ、その時に食わなかったことを感謝して欲しいね!」
えっへん!
「それどころか、貴重~~~~な、生徒の干し肉とか、騎士団見習いどもの「開き」をあげたんだよ」
『だーかーらー、その考え方が異常なのよ! 干し肉もなにも、あれってこの子の同級生とかだから!! そもそもご飯がないなら、解放したげなさいよ!』
「やだよ、それくらいなら食うっつの」
それでも、頑張って飼育してるんだから、むしろ賞賛してほしいねー。
『しかも、アンタってば生徒の肉だけでも最悪なのに……わざわざあんなことまで!!』
「あんなこと??……あ、そーいや、一回キングハム君こと「お兄さま」も、ちょっとだけあげたね!」
ご褒美ご褒美♪
うまく狩れたりしたときは、たま〜の御馳走としてチビチビ食ってたら、物欲しそうに見てるからさー。
こう、ね。ちょっとだけ千切ってあげたら、もう……ね。
「いやー。めっちゃ食いついてたね。……この子わりとグルメじゃね?」
『さいってー』
──ぎゃはははは!
その時に聞けばよかったわ。「お兄様はうまかったかーい?!」ってさ、ぎゃははあ!!
まぁ、あれだけ刻めばさすがに分かんないわな。
『ホーント、ゲス』
「うっせーな、まだ何も言ってねーよ」
『言わなくてもわかるわよ、ゲーーーース!』
ちっ。
うっぜーな。
時々ミユちゃんは人の思考に入りこんでくるから鬱陶しいんだよねー。
ミユちゃん曰く、「私」の顔は分かりやすいらしいが……顔あんのか、「私」って? 箱やぞ。
「まあ、ええわ。それより今日はそろそろ店じまいかなー?」
ギョロリと視線を上に向けつつ気配探知。
『もう、誰も来ないわよ』
「はいはい」
ミユちゃんの言うことは無視して──っと。
ん……。
足音も息遣いもないね。
気配探知で再度確認。
やはり、さっきのアホ冒険者で終わりっぽい。
「外は夜ってとこかな?」
『そうなんじゃないのー』
ま、ここは朝でも夜でも変わらんけどね。
『はぁ……。今日も今日とてコイツはいつも通り。しっかし、なんでこんなのに皆ひっかるかなー。しかも、また冒険者増えて来たし……』
「こんなのに引っかかった君が言っても説得力ないよー」
『うっさい!!』
はいはい。
……とはいえ、ミユちゃんの言うとおり、最近は冒険者が増えてきて嬉しい限りだ。
一時期はまったく冒険者が来ることもなく、軍隊ばっかり来てて、ウンザリしてきたところだったもん。
(それもこれも、
ミユちゃんにはわかるまい。
この「私」の高度なトラップテクがなー!
『また変なこと考えてるでしょ』
「まーねー」
変なこととは心外だけど、
冒険者が増えてきたのは、多分、「私」の策がヒットしたからだろう。
ま、策というほどでもないけどね。
仕掛けたのは非常に単純なこと。
軍隊が来て、探し物があるというのなら────くくくっ、見せてやればいいのよ。
なんのことはない、ウンザリするくらい軍人が来ていた頃、
一度、トラップにはまって負傷した間抜けな軍人を数名──そのまま生かして帰したことがある。
もちろん、情報を制限するためにくっっっそ間抜けな奴をなー!
そいつらには、適当に回収したドロップ品やら高価な品と一緒に──通路越しにミンチちゃんの姿をチラ見せたのだ。
するとどうなると思う~?
けーけけけっ。
狙い通り、あっという間に外に噂が広まったってわけよ。……あ、もちろん、その後で別の捕虜を尋問して聞いたから間違いないよ。
なんでも、
新月のダンジョンで少女の霊が出るらしいと──。
いやいや、そうじゃなくて行方不明になったやんごとなき御息女が未だに彷徨っている──などなどだ。
うけけけっ、どっちでもいいけど、
その噂が広まるのは相当に早かったらしい。どうも、王家がダンジョンの捜索を独占していたらしいが、噂が広まってからはその統制もうまくいかなくなったのか、
アッという間に、情報が拡散し、ついには冒険者が姿を見せ始めたというわけ──。
ま、生徒を捜索しているのは王族だの大貴族だけじゃないしねー。
他の生徒の親やら兄弟やら。
そして、それに雇われた冒険者とかねー。
可愛そうに、親御さんたちは二度と帰ってこない生徒達を今も探し続けているってわけだ。
あ、干し肉が帰ってくる可能性はワンチャンあるね!
けけけけっ。
ほとんど食っちまったけどぉー♪
そっからはもう、楽勝。
冒険者どもは貴族が緘口令を敷いてもお構いなしに情報を拡散──ミンチちゃんの噂だけでなく、高価なドロップ品のことまで広まればあっという間。
そうしてこうして、今日食ったみたいな手合いがわんさかと訪れるようになったわけだ。
おかげで 今日もこうしておいしく冒険者が食べられまー――――す!
「いやーサイコーの生活が復活だぜー」
『最低よ……』
いやいや、何言ってんのー。
一時期は軍隊ばっかでうんざりしてたのよ?! それが、冒険者が来てくれるおかげで色んな肉が試せてボカぁ、とても幸せさー。
軍隊は基本成人以上の男ばっかだしねー。
それが、冒険者ときたら、たま~~~~~にチビッ子もいるし、
稀に女魔法使いなんてのもいる! こ~れが、またウメーんだわ!
捕まえたら漏れなくボッコボコにして、三日かけて溶かしてやったぜ。
喉の奥でマジで3日間は泣き叫んでいるんだから、また
「おかげで見てみて! ぼくちん、レベルあーっぷ!」
ムキィ!
舌で力こぶぅ!
ブーン!
『凝視』 熟練度6(UP!)
『舌撃』 熟練度9(UP!)
『食いつき』 熟練度10(MAX!)
『嘔吐』 熟練度6(UP!)
『ブレス』熟練度5(UP!)
『眷属召喚』1(NEW!)
「へっへっへー」
みてみて、ミユちゃん!
どうどう?
「す~ごいっしょー」
『だから見えないって』
あ、そうだっけ?
「まぁ、簡単に言うと、喰いまくり~の殺しまくり~ので、新たな能力が増えましたー!!」
じゃじゃーん!
これがこちら!!
「『眷属召喚』でーす!!」
えへへ。
これ凄いんだよー。
『今でも、もう十分凄いわよ!』
いやいや、
そんな褒めないでよー。
『褒めてねーよ』
「もー。ミユちゃんは素直じゃないねー。ミンチちゃん、拍手ー」
「ぱちぱちぱち」
わーありがと。
全然感情籠ってないし、口の周り血でベッタベタでホラー映画みたいになっとるけど──……っと、それがどーでもいいや。
そも、ホラー映画ってなんだよ以下略。
「ね? みるみる?」
『はいはい、どーせ見せたいんでしょー』
まー、ねぇえ!
というわけで──!!
でませい!!
「はぁぁっぁああ……!
ふんっ!
「あ、眷属をぉお、あ、しょう~~~かーーーん」
いよぉぉぉぉお!
ぽぽ~ん♪
お読みいただきありがとうございます!
次回、
眷属とはいったい……!
あと、並行投稿中の新作です
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