ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第113話「偽セーフポイントふたたび(※)」

「み、見たことないって──セーフポイントじゃねーの?」

「まさか!」

 

 鼻で笑うように、部屋を見るアマリア。

 どうみてもセーフポイントにしか見えないが、彼女は鼻で笑うのだ。

 

「でも、清浄な空間ですよ? それにほら──……前に別の深層ダンジョンで見たものとそっくりです」

 

 シェイラもルドルフもアマリアに付き合ってダンジョントライを何度も繰り返している。

 一般には深層やSランクと言われるダンジョンに、何度もだ。

 当然、そこで見たセーフポイントは一回や二回ではない。なんならそこで野営したこともある。

 

「だな。水場もあるし、魔法の明かりもついてる。……セーフポイントだぜ、ここ」

「そう思いますか?……では、使い魔を出してみてください」

 

「「使い魔?」」

 

 一瞬なにを言われのな分からなかった二人だが、すぐに緊急連絡用に仕込んでいる式神のことを思い出した。

 たしか、東方の召喚魔法の一種で、魔物の成分を含んだ特殊な塗料で紙を魔物化させる技術だった。

 

「アマリア様、それは無茶では? いくら、使い魔でも燃えちゃいますよ?」

 

 セーフポイントは清浄なる空間だ。

 

 使い魔と言えど、魔物一種。

 そして、不浄なる魔物は例外なく不可侵で、それでも無理に入ろうとすれば燃えて塵になるという。

 内で使えばいわんや……。

 

「まぁ、アマリアには何か考えがあるんだろ。──えっと、これでいいかな? 小鬼(こおに)

「なんでも──」

 

 言われるままに、封を破るルドルフ。

 いわゆるゴブリンタイプの紙製の魔物だが、れっきとしたモンスターで…………ありゃ?

 

「な、なんで燃えないんだ?」

 

 使い魔が燃え上がる瞬間を身構えていた二人は、訝し気に構えを解いた。

 なぜなら、ピョコンと立ち上がった使い魔が『なになに?』と首をかしげているのだ。

 

「たしかに……セーフポイントなら、出した瞬間に燃え上がるはず──式神だって例外では……」

 

 顎に手を当てたシェイラは、様子がわからずキョロキョロしている小鬼を拾い上げると、おでこをツンツンしながら、不思議そうにしつつも畳んで再度封を施した。

 

 それで一枚の札に戻るのだが、問題はそれではない。

 

「……そういえば、以前、同じようなミスをしたとき、札は燃え落ちましたよね」

「えぇ。あれで式神の応用が利いたのを思えていますよ」

 

 セーフポイントでは味方が使役する魔物(・・・・・・・・・)であっても例外なく入れないというもの。

 多分、テイマーやサモナーたちが持つそれも同じだと思う。

 

「ってことはなにか?……そういうセーフポイントってことか?」

「まぁ、浅いダンジョンですし、そういうことも──」

 

 しかして、アマリアは首をふる。

 

「そんなわけがないでしょう。そもそも、ここはセーフポイントなんかじゃありません」

 

「は?」

「で、ですけど──」

 

 二人は納得できない。

 しかし、

 

「そこをごらんなさい」

「え? ああ……って、な。なんだこりゃ?」

 

 ルドルフは言われるままに、部屋の中央。

 セーフポイントをセーフポイントたらしめる中央の宝玉に触れる。

 

 

   パチッ!

 

 

「あぢっ! うぇ?! こ、これって──」

「えぇ、よくできたイミテイクですね。本来なら、魔力を回復させるはずのそれが、ただの魔力灯です。素手で触れれば火傷しますよ」

 

 火傷って……。

 

「いや、ひどくね?!」

「ふふっ。シェイラはそっちを見てみなさい」

 

 お手てをフーフーーするルドルフをおいといて、次はシェイラ。

 

「そっちってこれ(・・)ですか? わっ……!」

 

 部屋から外に漏れる魔力を遮断する入口の垂れ幕に至ってはただの……布?!

 

「な、なんですかこれ! イミテイクどころじゃないですよ──ざ、雑! なんだか知らないけど、雑です!」

「でしょうね。……これも、これも、これも──よくよく見ると細部が無茶苦茶です」

 

 床や壁材に至っては魔法防御すら施されていない、ただの壁だ。

 見てくれは立派でそれっぽいが、セーフポイントが聞いてあきれる。

 デザインも深層ダンジョンのそれを真似ているけど、似ても似つかない。

 

 まるで誰かから聞き取りをして、それらしく作っただけに見える。

 

「……いえ、まさにそうなのでしょうね」

 

 本来あるべき本物がなく、なにもかもがペラペラのなにか。

 さらには細部もおかしく、本物は一つとしてない。

 

「えっと……? つまり、ここってなんだよ?」

「セーフポイントのなりそこないでしょか?」

 

 ルドルフもシェイラも首をかしげるしかない。

 だって……ねぇ。

 

「ふっ。二人ともまだまだですねぇ。……まさに、面白い魔物だと思いませんか?」

「「はい?」」

 

「おや、まだわかりませんか? これは疑似餌──つまりはミミックの仕掛けたトラップの一種ですよ」

 

「「ッ!」」

 

 一気に緊張する二人。

 大丈夫だと言われて入ったのに──なんと、これがミミックの罠?

 

「ちょっと、アマリア! まずいんじゃねーのか?!」

「け、警戒警戒!」

 

 ババッ!

 

 こんな時でも、息ぴったりの二人はすばやく背中合わせに。

 ルドルフは唯一の出入り口の方を見張り、シェイラは魔法を練り上げて全周警戒。……アマリア?

 

 彼女はまぁ、いつも通りのマイペースだ。

 

「くっ。そ、そういえば軍隊が食われた場所って、」

「えぇ……あそこもダンジョンにそぐわない、宿屋の一室のようなそれでしたね」

 

 ふたりは顔を見合わせる。

 

「すると、まさかここのミミックって──」

 ごくり

「……ダンジョンを作れる? まさか!」

 

 しかし、導き出される結論はそれだった。

 通常の冒険者なら一顧(いっこ)だにしないだろうが、二人は違う。

 大賢者アマリアの弟子にして、優秀な頭と戦闘センスを持っているSランクパーティの一員なのだから!

 

「あり得ないと思いますよね。私もそう思っていましたが、これを見た以上そう考えざるをえません。──ま、どこまでできるのかは知りませんが、我々人類が到達しえない境地にいるのは間違いないようです。それ、すなわちダンジョンへの干渉」

 

 ッッ!

 

「って、ことは、ダンジョンメイカー?!」

「うそ……。か、神々の悪戯で生み出されたダンジョンを作り出すんですか?! ただの魔物が?!」

 

 驚くのは無理もない。

 

 ダンジョンはそれだけ不可侵の領域なのだ。人はそこに立ち入れど支配はできず──ただただそのダンジョンをあるがままに、だ。

 

「神ですか。……私は見たことがないので、神とやらがここを作ったのかは知りませんが。かのモンスターは間違いなく、ダンジョンを新たに作り出せるようですね。それが既存のものへの改変か新設かでだいぶ話は変わりますけどね」

 

 なんということだろう。

 アマリアは──最初からわかっていたのだ。

 

 それもこれもシギンス文書を解いたからだろう。

 あの狂人(・・・・)の残した文書には、それを思わせる描写が随所に残されていたのだという。

 

「──部屋の創造にトラップの創出。さらには、地形の変換までできるようですよ」

 

「そ、そんな魔物が……」

「ただのミミックじゃぁ?」

 

 

 まさかまさか。

 

 

「ただのミミックならとっくに駆逐されていますよ。まさにそれこそが神か、魔か。……まぁ、私はどっちも見たことはないんですけどね」

 

 そういってクスクスと笑うアマリア。

 しかし、まさか初見でこの疑似セーフポイントに気付くとはさすがと言えよう。

 

「だ、だけどよぉ。ここがトラップベース……つまり、疑似餌ってんならその肝心のミミックはどこにいるんだよ?」

「たしかに……。セーフポイントに誘い込んだだけにしては、その目的が分かりませんね」

 

 誘い込むなら何かしらの目的があるはず。

 

「さてそこまでは──しかし、ここをみてください」

「ん?……なんかのくぼみ?」

「それと、あ……家具の中は空ですね」

 

 二人をして違和感に気付く。

 

「えぇ。おそらくは何かしらの仕掛けやトラップを設置するためのポイントでしょう。今はないようですけどね」

 

「ひぇ?!」

「ト、トラップって、ほんとですか?!」

 

 なんということだろう。

 それが本当なら、場合によってはこの部屋全体にトラップがはりめぐらされていたことになる。

 

 あわてて飛びのく二人。

 まさかトラップがこんな狭い部屋に無造作に?!

 

 今はないとはいえ、セーフポイントだと思ってノコノコと入っていたら一瞬で殺されていただろう。

 しかし、それがない(・・)……なんで?

 

「……な、なぁ。なんかこえーぜ、ここ」

「うん。アマリア様がいなかったら私達、ここを本物のセーフポイントだと思って油断してた。下手したら休憩したり野営してたかも」

 

 素直な二人は強がりも、偽証もしない。

 ただただ、素直に率直に自らの不出来を認める。

 

「ま、それが狙いでしょうね。……そうした勘働きができない者には、ここに仕掛ける予定のトラップで仕留める──だけど、私が気づいた。だから手を変えてきたのでしょう」

 

 マジかよ……と、思わず顔を見合わせる二人の弟子。

 

「そして、そうなると、向こうが打つであろう次なる策は──……あぁ、ありましたね」

 

 こつん! と、棚を杖で棚を叩くアマリア。

 

 すると、サラサラとそれが微粒子レベルにまで分解されていく。

 

 なんとまぁ、涼しい顔で凄まじい威力の魔法を使うものよ。

 そして、当然ながらこれもれっきとした魔法で、いわゆる極大魔法の一つだ。

 

 それを顔色一つ変えずに行使しているが、この魔法──この世に存在する大抵のもの(・・・・・)を分解できる恐ろしい魔法なんだそうだ。

 

 それこそオリハルコンの鎧であっても粉にしてしまうとかなんとか……。

 

「って、その魔法もスゲーけど、なんだよ、それ!」

「うそ。か、隠し通路?」

 

 ふふふっ。

 

「さて、この先ですね。……鬼がでるか蛇が出るか。はたまた何かお宝でもあるのでしょうか?」

 

 うふふふふ♪

 

「魔道具であったら、感激ですね」

「あ、また始まった」

「アマリア様の収集癖だー。これがなければ、もっとすごいのになー」

 

 失礼なと、頬を膨らませるアマリア。

 

「二人はまだ若いからわからないんです! 魔道具ほど素晴らしい物はないですよー。どれもこれも唯一無二の物ばかり。……あぁ、この世の魔道具が全部手に入ったらいいのに」

「はいはい。そんなこと言ってこの前もバッタモンつかまされてなかったか?」

「魔力も凄いし、探知も鑑定もできるのに……。魔道具のことになると途端にポンコツになりますからねー、この人」

 

 はぁ、と盛大なため息をつくお弟子様達~。

 

「も、もう! いつまで失敗の話をするんですか! あの時も、あの時も、あの時も、たまたまです!」

 

「どの時と、どの時と。どの時だよ。……たまたまどころか、成功例を見たことないから分っかんねーよ」

「そうですよー。いつも言ってますけど、アマリア様はちゃんと鑑定しましょうよ。……そんな、眼力を鍛える(・・・・・・)とか、わけが分かんないこと言ってないでー。どうせ、アマリア様の目は節穴なんですからね!」

 

「ふ、節穴?!」

 

 ガーン! とショックを受けた顔のアマリアは、よよよと、ルドルフにしなだれかかり、泣き真似。

 しかしていつものことなので、ルドルフはジト目で返すのみ。

 つーか、ルドルフ君てば、結構な美人……(?)だけど、鼻の下一つ伸ばさないとはねー。

 女性枠ではなく、家族扱いなのだろう。

 

「それより、さー。あれって審美眼を鍛えてたのか? アマリアが?…………無理じゃね?」

「な! 無理かどうかは極めてみたいことにはわかりませんよ!」

 

 いわゆる鑑定(審美眼)と『鑑定』は別物だ。

 

 経験と知識でモノ価値を探るのはまさに名人の仕草。

 それこそが鑑定であり審美眼だ。

 しかし、この世界はスキルや魔法でも『鑑定』ができる。いや、むしろ、ただの目利きより、優れているとさえ言っても過言ではない。

 

 なにせ、魔法にスキルは嘘をつかないから。

 信頼性という点では、経験やら個人のそれとは雲泥なのだ。

 

 だけど、アマリアはそれをよしとしなかった。

 もちろん、鑑定も探知もできる。……できるんだけど、こう──なんていうのかな?

 

「なんかこう……『これはマルベリー王朝前期の壺ですね』とか言ってみたいですしー」

「無理無理無理。あーいうのは、一種の才能だよ」

「くっ、それでも、です!……ほら、名人みたいに、手にしただけでそのものの良さが分かったらかっこいいじゃないですか」

 

「だから諦めろって。アマリア、ぜんぜんそういうのわかんないじゃん。そも、何年も生きてそれ(・・)なんだから諦めなって」

「そーですよぉ、『鑑定』魔法でも十分ですって! っていうか、あんまし無駄なお金つかうのはやめましょうよ。アマリア様って、仕事をより好み(・・・・)するから、お金があんまし……」

 

 しょもしょもと目をしぱたかせるシェイラに、むすーっとした顔のアマリア。

 本人的にはいつか目利きができると思っているのだ。まぁ、そのいつかがエルフの寿命ももってしていつまでたっても来ないんだけど──。

 

「い~んです。お金よりも大事なものがあるんですよ」

 

「ないない」

「ないです」

 

 ふんっ。

 

「これだから若い子は」

「それ禁句」

「アマリア様からしたらみんな若い子でーす」

 

「それこそ、禁句です。私はおばちゃんじゃありませんよ~」

 

 はいはいと、飽きれた顔の弟子も、もうこりゃー病気だわとさすがに諦めている。

 しかして、今はダンジョントライ中だ。そして目の前には隠し通路だ。今はここに注視しよう。

 

 

 ……なにせ、悪意と欺瞞に満ちたセーフポイントに隠された通路だ。

 

 

 その先で何が待っているというのやら。

 

「ま、気を取り直して先に進みましょうか」

「いや、これ罠だろ?……どーみても」

「私も罠だと思います」

 

 無造作に進もうとうする師匠に、何といったものかと頭を抱える弟子二人。

 

「大丈夫ですよ……そもそも、考えてもみてください。わざわざこんな見つけにくいところに隠しているんですから、待ち伏せには不向きです。そして、私が発見しなければ、誰も気づかなかったんですよ?」

 

「……っていうトラップだったらどうすんだよ」

「そーですよ、ダンジョンを操れるような狡猾な奴なら、これくらいのトラップは作りますよ?……まぁ、私もルドルフも全然気づきませんでしたけど」

 

 最後はゴニョゴニョ。

 

 まぁなんにしてもアマリアなら問題ないかと締めくくり、大人しくその背後に従う。先頭はもちろんルドルフ。そしてアマリアの順だ。

 

「っと、そこでストップです」

「ん? なんかあったか?」

 

 通路は狭い。

 

 1mほどの幅で明かりは魔力灯がつくのみ。

 幸い、ルドルフの気配探知にもなにもひっかからないし、罠もない。

 

 つまり──。

 

「ふふっ、見てくださいあれを」

「え? あー。……隠し通路の先は隠し部屋(・・・・)かー」

 

 そう。探知魔法である程度の輪郭を掴んでいたアマリアは先に中を知っていたのだ。

 もっとも見るのは初めてだろうけど。

 

 そうして通路をぬけた三人の眼前に広がったのは──……荘厳で厳かな地下神殿のような部屋であった。

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