「お、おぉー」
「きれーい」
隠し通路を抜け、二人の目の前い広がっていたのは、天井に儲けられた無数の魔力灯に照らし出された9×9程度の空間だった。
そこには3mほどの底が見えないほどに深く、澄んだ水を
そして、水路に囲われた中ほどにはなんということでしょう~♪……ピラミッド状の神殿のようなものが!
「ビンゴです」
「だな。……しっかし、すげーな」
「こんなダンジョンに、こんな場所があったんですねー」
最初は疑似セーフポイントに嫌悪を感じていたはずの弟子たちも、ここの荘厳かつ美しい光景に目を奪われていた。
なによりも、師匠であるアマリアがじつに上機嫌だったのだ。
それもそのはず。
「……そして、ほら、あれをご覧なさい。あれはきっと伝説の
アマリアはといえば、その目は部屋の中央。
神殿上の宝箱に釘付けだ。
「あ、また」
「はじまったよ……。『何か』ってなんだよ、何かってー」
あちゃ~と額を抑える二人。
しかして、そんな二人を尻目にアマリアはといえば無造作に水路に賭けられた橋を渡っていく。
水路の中や底に何が潜んでいるかわからないのに、平気な顔でギシギシッと。
「アマリア!」
「アマリア様!?」
あーあーあーあー!
弟子が驚愕しているのもどこ吹く風。
探知魔法も気配探知も警戒もなにもかもかなぐり捨てて、神殿の上の宝箱に一直線!!
そして、あっという間に渡り切ると、すっごいドヤ顔で振り返った。
「はぁ。もう、何を考えているんでしょうね、あの人──」
「いや、あれは何も考えてないだろ」
もはや諦めた二人も渋々ついていくことに。
「馬鹿アマリア! な~にやってんだよー」
「そうですよ! せめて探知を──……あ、ダメだ、聞いてないです、これ。たぶん目が魔道具一色になってるやつです」
またあれかーと頭を抱えるルドルフと、やれやれとため息をつくシェイラ。
まぁ、人は時々アホになるというが、
アマリアはといえば、魔道具の匂いを嗅ぎつけると途端にアホになる。
大賢者だなんだと言われてながら詐欺にコロっと引っかかるくらいには──……。
「さ~て、魔道具ちゃん。そのお顔を拝見~……え?」
──バグンッッッ!!
「「アマリア!」様!!」
それは本当に一瞬のことであった。
アマリアが無造作にその宝箱を開けたようとした、まさにその瞬間──……その上半身が一瞬にしてその箱の中に消えてしまった。
否、箱に食われた。
そう……食われたのだ!!
あの箱に!!
……そしてその箱こそ!!!
※ ※ ※
(……って、わかってたら、最初からそこにいたのに―!!)
一部始終を見ていた「私」は、思わず頭(?)を抱える。
だって、悔しがる「私」の目の前で、うまそーーーーーーーーな高濃度の魔力をもった女がバクゥ! と、
(だー! 貴重な魔法使いの肉がぁぁあ!)
ただでさえ滅多に見かけない魔法使い。
それも一口サイズに近い小柄な女だ。
それが何と言うことでしょう。
初手でトラップにひっかかり、見事に食らいつかれてしまったのだ!
(くそぉぉ! こんなことなら、保険を打って眷族を代わりに配置するんじゃなかったぜ──……って、あれ? 肉の味がしない?)
せめて眷族越しに美味そうな肉を堪能しようとしたのだが、なんか違和感……。
「んな?! ま、マジかよ……」
あ、ありえねぇ。
(こいつ、ほぼ即死攻撃の『食らいつき』に耐えやがったぞ?!)
それはなんとも、信じられない光景だが事実だ。
──部屋の中央に配置していた、
「(くらいよー、こわいよー)」
もがもがー。
(……って、喰われながら喋れるのかよ?!)
な、ないないない!
絶対に無理だっての!
即死じゃなかったとしても、食らいつきだぞ?!
鎧を着た騎士だってかみ砕くほどミミック系の食らいつきは超強力だ。
……だのに、この女ときたら──た、耐えている?!
(たしかに
つーか、なんなら喰われながらも現在進行形で喋っていやがるしー!
くっそー!
ど、どーなってんだコイツ?!
(あッ! 待てよ!!)
そ、そうか。
この感触……防御魔法か!
どうしたものかと、眷族ごしに噛み応えを堪能していると、記憶のなかにヒットするものが一件。
破戒僧、
そして、チビの魔法使い──……。
あぁ、そうだ。あれだ!!
あれに間違いない。
たしか、いつぞやチビ魔法使いがモンクとか破戒僧とかに掛けてたような支援魔法のそれだ!
なるほど、どーりで硬いわけだ。
あの時よりも手練れの魔法使いとくれば、こーりゃ生半な攻撃力じゃ噛み切れんわな。
それを証明するかのように、眷族の視界を共有すると、なるほどなるほど。
(くっそー! こんなことなら、最初から「私」を配置しとけばよかったー……)
だったら、最初の一発で勝負が決まってたのに!
しかし、起こってしまったものはしょうがない。
もともと奇襲のカードしか切れないのだ。こういうこともある。
なので今からできることはフォローだ。
失敗は、この際しゃーない。
手練れっぽいコイツらなら隠し部屋のど真ん中にある宝箱なんていう怪しいものに絶対引っかからないだろうという「私」の読みが外れたということなだけ。
ならば、今は頭を素早く切り替えるのみー!
──あ、ちなみに、皆さん(?)お気づきだと思うが、
実は、今あそこで女に
え?
そんなん知ってたし、奇襲だなんだというなら、『最初からお前がやってろ』って?
──それな!!
今更だけど、そうしてたら良かったわ!!
そして、策士策に溺れると笑ってくれて結構ッ!
「私」もそう思う!
(つーか、こんな一発で引っかかってくれるなら最初から「私」があそこに、いたっつーーーーの!)
しかしまぁ、美味そうな女が眷族ごときに食われなかったことを喜ぶべきか、
それとも、即死させられなかったことを残念がるべきか──……いずれにしても奴ぁ、生きている!
(ならば結構! いつまでも引きずらずに、次の一手を!!)
……な~んてことを、呑気に考えていたそのまさにその直後。
「ん……なんか、周囲の空気が────」
キュゥィィィイイイン……!
「え? え? え?」
な、なにこれ?
なにこれ?!
「もがもがー!」
相変わらず、間抜けな女魔法使いは人食い箱にガブガブやられているのに、
その周辺に急速に魔力が集中し始める。
それは、この「私」にも可視化されるほど、高濃度のそれ──……ッ!
(ま、まず──)
カッ!!
そう思ったが最後!
なんと、あの女を中心に突如として魔法がさく裂!!
それも特大の威力で、ピラミッドの真上が噴火したかのような爆発であった。
どーーーーーーん!!
「とわわぁぁぁぁあああっ!」
突然の炸裂音と同時に、爆風が押し寄せてきたもんだから、思わず悲鳴が漏れる。
さらには、その一瞬にして眷族と共有していた視界が途切れてしまう。
(あっちちちッ! あ、あの野郎、自爆しやがったのか?!)
そうとしか思えないほどの距離での爆裂魔法。
そして、眷族の気配が微塵も感じ取れないことからも相当な至近距離で放たれたのが分かる。
ゲーホゲホゲホッ!
「あー畜生」
の、喉がいてぇ。
しかし、なに事だ?
いきなり自爆するようなタマには見えなかったけど──。
濛々と立ち込める爆炎のなか、「私」は絶賛潜伏中。
周囲の音と、限られた視界だけで確認する。
すると、なんということでしょうー!!
「ふー……驚きました。そういえばミミックがいるんでしたね」
げっ?!
マ、マジかコイツ。
「アマリア!」
「アマリアさま!」
弟子の心配をよそに、顔を出したアマリア何某をみて「私」は驚愕。
な、なんてこった。
(無傷って、うそだろ……?!)
パンパンっと服の埃を払っているのは、間違いなくさっき眷族に食らいつかれていた魔法使いの女だ。
近くで見るとよくわかるが、凄まじい魔力を持っていそうな気配。
そして、なんてこった。
(こ、コイツもしかしてエルフって奴か?!)
笹葉のように長い耳、
煌めく銀色の髪に、透き通るほど白い肌。
十代と見まごうばかりの容姿に、鋭い目つき──。
そして、周囲を圧倒するほど内包された高濃度の魔力……!
ま、間違いない。
ファンタジーお馴染みのエルフじゃん!!
(そーいや、なんか仰々しい杖も持ってるし、なにより使う魔法がけた違いだもんな!)
あぁ、
間違いないエルフだ!
──ジュルリ。
こりゃ美味そう……。
(おっと……!)
いかんいかん。
思わず食欲が刺激されるが、それを抑えて「私」は脳をフル稼働させる。
今は食欲に飲まれている場合じゃない。まずは勝つことを考えろ。
なんたって、コイツはやべー相手だ。
(眷族の攻撃にも耐える防御力に、自爆するほどの至近距離で魔法をぶっ放す胆力!)
なにより、コイツ……この事態にまったく動じていない!
普通はミミックに襲われた冒険者ってのは例外なく動揺するものだ。
生きていようが、いまいがどっちにせよ、だ!
だのに、それがコイツにはまったくない。
それどころか、余裕の表情すら浮かべていやがる。
(ちっ。不味いな……。受け攻め、色々考えてたけど、下手な手を売ったら百倍くらいにして帰ってきそうだ)
周囲に仕掛けたトラップも、
ストレージの中の武器も、どれもこれも奇襲で一撃必殺を狙うものばかり。
それらがコイツに効く未来が一つもみえない。
ハッキリ言って、今までに遭遇した連中とは一線を画す強さだ。
「ア、アマリアのばかたれー! 自分でミミックの仕業って言ってたじゃねーかよ! それで引っかかってたら世話ねーっつの!」
「そうですよ! 軍人さんが亡くなった時に本命がいるってご自分で言っておいて、な~んで引っかかってるんですか~!」
それな!!
ホントそれな!!
手練れっぽい雰囲気だしておいて、
なんで初手でひっかかるんだろうねー!
「ふ、ふふーん。こんなのどうということはありませんよ。私がこれしきのことでやられると思っているんですか?……何年生きていると?」
「いや、なら、そもそもひっかかるなよ」
ほんそれ。
マジそれ!
弟子から受け取ったタオルで顔を拭き拭き、
折れた眷族の歯を、埃のようにパンパンッと払いつつ口をとがらせる。
「ひ、引っかかったわけでは──」
いや、引っかかってたよね?
ガッツリ食らいつかれてたよね?!
「っていうか、アマリア様。もしかしてこれで一件落着では?……これ、ミミックですよね? こんなところにいるってことは、おそらく目当ての……」
ん?
目当て?
アマリア何某によって上顎を吹っ飛ばされたのは、哀れな眷族。囮の人食い箱ちゃんだ。
そのの死体を指さす少女の言葉に首(?)をかしげるのが「私」──。
(…………あ! もしかしてコイツ等、今ので「私」を倒したと勘違いしてる?)
その可能性は高い。
なにせ、ミミックと人食い箱はほぼ似たような見た目だ。
まんま宝箱の見た目の私と違って、人食い箱ちゃんは、まさに箱。その程度の違いでしかないけど、勘違いしてもおかしくはない。
そして、
『目当て──云々』と言っていることからも、どうやら、最初から「私」を倒す気で来たらしい。
なるほどね。
どーりで強い……。
(参ったなー。準備済みの連中はマジでやべーんだよな)
なにせ、そういう連中はいつぞやのアウトローなハゲどものようにこっちの手の内を知っているというのがねぇ……。
──しかし、まだまだ甘いね。
(くけけけっ。だけど、そういった事態も踏まえて眷族を配置した甲斐があったってなもんよ)
けーけけけ!
あ~れが
残念!
ハズレです!
そこに~。
「私」は~いません!!
(なぜなら、私がいるのは
眷族を配置していた、
なんのことはない。
小細工というほどもなく、ただ、囮の真下に隠れただけのシンプルなスタイルだ。
それでも意外と気づかないもの。
まさか、魔物の下に、また魔物がいるとは思うまーい!
これぞ二重トラップ!
そして、
(そのことに気付かない、今こそチャーーーーンス!!)
隙をついて、
レッツ、奇襲──……。
「──ふふふっ、これがミミックですって? 違いますよ、シェイラ」
ん?
あれ?
(な、なんかコイツ……こっちのほう見てない?)
ドクンッ、
思わず心臓(?)が鳴る。
いや、でも──……眷族の死体の下にいるなんて、普通は思わないし。
ニィ
「ッ!」
こ、コイツ!!
思わず視線が交差し、全てを理解した「私」。
(……ま、まさか初めから知っていた?!)
そ、そういや、なんでコイツ初めから防御魔法を使ってたんだ?!
あんなの常時使うもんじゃないよね?
魔力は漏れるし、なにより消費魔力だってそれなりに激しいはず──あれは戦闘が始まるときにはじめて使うものだ。
──だのに、この女は最初から使って、わざと食らいつかれて……。
それに気づいた瞬間、ぞわりっ! と背筋に悪寒が走る!
いや、背筋はないけどもッ!!
「ま、まさか……」
それどころか、よくよく見ればアマリア何某の弟子どもだって、どう見ても臨戦態勢!!
「っっ?!」
し、しまったー!!!
これはマズイ──……!!
なんか知らんけど、マズイ……!!
「ちぃぃい!」
やられた!
嵌められたのだ!!
まさか、待ち伏せ専門の「私」が、裏をかかれるなんて──!!
コイツ等、最初からわかってて懐に飛び込んできやがったのだーーーー!
──だったら!!
「奇襲が失敗したなら──強襲じゃぁぁぁああ!!」
ばーん!
「私」はもはや隠れていることがなんのミリタリーアドバンテージにならないと知るや否や、
思い切りよく、素早く眷族の死体を跳ね上げる!!
破壊された『人食い箱』の死体を跳ね飛ばし、その下の潜伏場所から一気に強襲攻撃を開始する!
ケーケケケッ!
こうなったらもう関係ねぇ!!
「バーカめ! こっちに気付いていたならさっさと遠距離攻撃でもかけてこいっつーの!」
魔法使いがミミック相手に勝てる手なんてそれしかねーだろうが!!
そして、ここはもうこっちの間合いじゃぁぁああああ!!