「ははは──………………え?」
もちろん、今のアマリアに「私」の姿は見えないんだろうけど、
彼女は、余裕のある「私」の声のトーンには気づいたらしい。
ゲラゲラとけたたましい声で笑っていたはずのアマリアが一瞬、口をわななかせた。
最後の命を燃やすような極大魔法を、自らの限界を悟って自爆魔法に変えたその大賢者をしてわななくのだ。
だって、「私」が本気で何も心配していないから。
そして、声色と気配からそれを感じ取ってしまったから。
なにより、食らうと宣言したはずの弟子二人が逃げていくというのに、それを追うそぶりすら見せないから。
さらにいうなれば────…………あ。
「お、お前……。まさか──」
「イエ~~~~~ス。そのまさかさぁ。残念だけど、自爆なんてよぉー……にひひっ」
「私」は、
ち~~~~~~っとも怖くないんだよね!!
「なぜなら、「私」はミミック!!」
人を食らいし宝箱の化身!
──人食い箱だからねぇぇぇえ!
「つま~~~~~~り、」
ぐぱぁぁぁぁあ……!
にちゃぁっぁあああ……!
「食っちまえば、自爆だろうがなんだろうが関係ねーーーっつーの!!」
こちとら、物の収容には定評のあるストレージ持ちだっつーの!!!
ぎゃはぁ♪
「あー……」
もわぁぁ……と湯気立つ口の中。
見えないはずのアマリアが、「私」の言葉。
そして、大口を開けたのを目の当たりにしたかのように間抜けにも声を上げる。
それは、まるで諦めたかのよう。
そして、覚悟が霧散した瞬間でもあった。
まさに無駄死に。
自身の最後の一撃が届かないことを悟ったとき、アマリアは大賢者の顔を捨てる。
だから、それならばいっそと──見えない目で
「ゴメンね。ゆ──
バクンッ!!
誰かに謝り。
そして、束の間でもその誰かとの幸せな記憶に浸ろうとし、
一瞬だけ、
食らいつく寸前のアマリアの瞳にはその、幸せだったはずの、その時間を共有したはずの男たちの姿が映った──……気がした。
その時の彼女の表情よ──。
それは弟子たちでもなく、
かつての教え子たちでもなく────。
世界最高の、
ぶしゅぅぅぅううううううううううう!!
「げーっぷ♪」
だが知らぬ!!
世界最高のなんだっつーーーの。
そんなことより見てよこれ。
この間抜けに血飛沫を上げるのは、アマリアの下半身~!
「ふぃ〜……よーやく食えたぜぇ」
あん?
……残り?
そんなもん、絶賛口のなかで咀嚼中よぉぉ。
ほーれほれほれ。
みる? この肉々しいおッ肉~♪
──ぐばぁぁぁぁ!!
誰にともなく見せる口に中は確かにアマリアだった何か。
それが無数の肉片になって転がっている。
唾液まみれだけど、
圧搾機がごとき喉の中には、いまだ口をパクパクしているアマリアの頭が全部と……。
「……え?! つーか、頭だけでまだ生きてるとか、さすがはエルフだぜー!」
「私」をして、びっくり!!
こびり付いているかすかな面影は口の中で咀嚼中にあってなお美しい。
だから、いっそ他の肉片と混ぜるべく、綺麗な髪と、美しい瞳を丸ごと、喉奥で──ブヂュ!
「ッ────?!」
ぎゃはぁぁ!
一瞬断末魔が聞こえた気がしたが気のせい気のせい。
「あーうまい!! やっぱ肉は生が一番だぜ〜!」
つーか、なんだっけ?
「な~~~んか、最後に言わんとしていたみたいな気がしたけど……ま、いっか」
「私」の知ったことではない。
……なにが世界最高の「ゆ──」だ。
そんなことよりも、みてよ、これ!
この圧搾機がごとき喉奥に放り込まれたことで、もはや声なき断末魔の声を上げるだけマスィ~~~ンと化してしまった大賢者アマリアの現在の姿をぉぉ。
「おっほーーーーーーーー♡」
うんんんんまっっ!
口ん中で、肉片と生首を転がすとうんめぇ!!
しかも、まだ生きてるのか、上半身だけになっても暴れる暴れる!!
「いいぞー! 苦労した分、もっと暴れろぉぉおお!」
「(ッッーーーーーーーーーー!!)」
ひゃはぁぁぁ!
叫んでる、叫んでる!
さすがはエルフ!
生命力が半端じゃないね!
腹の中で絶望に溺れるがいいわぁぁぁ──ぎゃーっはっはっは!!
「そして。いや~、びっくりしたわこの味!」
ちょこっと~と、血と肉と内臓が舌先に触れただけで、得も言われるこの芳醇な香りと味よ!!
「うーーーーーーーまーーーーーーいーーーーーーぞーーーーーーーーーーー!」
叫ぶ、
思わず叫ぶ!!
もはや、リーデルちゃんがどうのこうの言ってる味ではない!
──っていうか、ジャンルが違う!!
分かりやすくお肉でいうなら、リーデルちゃんは「豚肉」なのだ。
たしかに豚肉ランクのなかではかなり美味しいし、最高級なのだろう!
しかして、このアマリア!
当然ながら「牛肉」です!!
しかも、臭みとかが全くない、生でも食べてるA5ランクのそれ!!
その中でも多分トップクラスで美味いに違いなーーーい!!
「んんんんんんんんんんんんんんん」
ジューーーーーーーーーーーーーーーーースィィィイイ♪
& デリ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~シャスッッ♡
……だけど、ダメ!!
「そう、ダメダメダメ!!」
めちゃくちゃ、クチャクチャ咀嚼して時間をかけて味わいたいけど、今はダメなのだ!!
なぜなら、時間!
そう、時間が圧倒的に足りない!!
普段ならじっくりと磨り潰すようにして、喉奥で何時間も生き永らえさせるように丹念に食いつくすところだが、今は時間!
惜しまれるのは時間なので、
「
バリバキバキキィ……!
「(…………ぷぎぃ?!)」
だから、「私」その悲鳴すらも飲みこむようにして大急ぎで咀嚼する!
骨を雑に砕いて、
首を狙って上半身を喉奥ですり落とし、さらには「心の臓」を圧搾するようにして潰す、潰す、潰す!
とにかく時短!!
フードファイターがごとく、ほぼ咀嚼なしで一気に潰して食らう!!
「んんんんんんん!!」
ぼーりぼりぼり!!
がりりり、ぼきっ、コリッ♪
「うん、うん!」
うん……。
「──やっぱ、どう食ってもうんまぁぁあぁぁぁああ!」
ブパァァァア! と血と内臓と骨片をまき散らしながら思わず叫ぶ「私」ぃ!
い~や。
なかなかどうして、エルフって奴ぁぁあ、うんまあぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああい♪
「いーや、マジで美味いわぁぁl! こりゃー、お代わりが欲しくなる味だね!」
「私」エルフだけでご飯が何杯も行けちゃう!!
「……だけど、今は白米を盛り付けてる場合じゃなくてですね、とにかく今回は急ぎで
しかし、さすがはエルフだ。
速攻で
喉奥で、顔だけになったアマリアちゃんがなにやらパクパクと口だけ動かしてる気配がするくらい……あぁ、やっべーな!
このままじゃ自爆されちまう!
咀嚼しているのは、時間にしてほんの数秒だけど、この数秒が命取りだ。
「………くっそーが! あ~ちちちっち、やばいやばい!」
口の中が、
喉の奥が、
腹の底が、あッッつーい!
「やべぇぇぇえ! と、溶けるかもーーーー?!」
いやさ。
あまりのジュースィ差とかじゃなくて、マジで物理的に溶けるかも!
だって、「私」の喉も胃も、鎧騎士を丸ごとかみ砕くくらいに胃の中は頑丈だし、喉奥は鉄壁なんだろうけど、それすらを溶かし破らんとするアマリアの
どうやら、喉奥で今もあの魔法が生きているらしいーーー!
「くっそー! しぶてぇえ!!」
いい加減しねや!!
今までは散々喉奥で転がして楽しんでいたけど、
こういう時は逆にやべーわ!
「……え? なにしてるのかって?!」
…………。
……。
いや、決まってんだろー?!
食っちまえば勝利!!
つまり、アマリアちゃんが全身魔法の爆弾になったってんならよー!
「そいつを食って、死体にして────
そしたら自爆だろうが何だろうが関係ねぇ!
なにせ、ストレージの中は死体も収容可能だし、
なにより内部は時間が止まっているのか、
つま~~~~り!!
爆発寸前だろうが何だろうが──サクッと仕留めて、殺して、
「残念なのは、そうなると好き勝手に味を楽しめないことだけどねー!」
ま、それはそれ!
これはこれ!
今は生存第一ィィィイ……。
ゴックン♡
「ぷはぁぁ…………」
お、ふぅ……。
よう~~~やっと喉を通って行ったね。
──そして、うん。今度こそ死んだ死んだ。
「いや~~、長かったー。こんなに苦労して飲み込むの初めてかも」
だけど、げ~っぷ……。
今の「私」は、とっても満足です!
腹のなかがすっきりしたような感覚とともに、ストレージにアマリアの死体が収納されていったのがわかる。
それと同時に、シュゥゥ……と暴風のような魔力の渦が突然終息していった。
どうやら、せっかくの自爆も不発に終わったらしい。
つまり、私の完全勝利だ!!
「ひゃは~♪ ごっちそうさ~~~~~ん!!」
お腹をポンポン♪
エルフを食った満足に、小さくおくびまで出ちゃうぜー。
「ゲ~~~ップ♪」
──いえーい!
やっぱ、「私」つぇーわ!
燃えるように熱かったお腹も、今は落ち着いてきたしね。
そして、あれほど自爆の気配に荒れていた胃の中は、今やスッカリ綺麗に空っぽ~。
どうやら、ついに胃の中のストレージ空間に、アマリアの死体が「物」として収納されたらしい。
「いやーよかったよかった。一件落着だね♪」
あー。
シーハー、した~~い。
「……だけど、今回はさすがに危なかったなー」
マジで死ぬかと思った場面がいくつもあったしね。
それを思い出しつつ、口に周りについた血をペロリとグルーミング…………って、
「うんまっ!!」
さっきも少しだけ賞味したけど、
これマジでうんまぁっぁああああああああああ!
「──本気でリーデルちゃん超えたきんですけどーーーーーーーーー!!」
おいCぃぃぃい!!
舌でCマーク作っちゃうぜ~。
「しっかし、こんなに美味いのに、自由に食えないなんてなー……」
超残念。
なにせ、アマリアちゃんは全身魔法爆弾状態。とくに心臓とか頭とかはまだ爆発寸前の状態だ。
ストレージから出すなり、たちどころに爆発するかもしれない
ま、これはしょうがない。
アマリアが死の直前に自爆しようとしただけあって、殺したからと言って止まるような代物ではないのだー。
なので──。
「──少しづつ少しづつ騙し騙しストレージから出して、これからじっくり食うしかないかー」
とくに、魔力が一番巡る中心の、頭とか心臓とかが一番危険っぽい。
あと、咀嚼している時に分かったんだけど、人間って意外と生きているときと死んでいるときの境が実に
何度も何度もストレージに放り込もうとしているのに、生きてる判定されて焦った焦った。
とくに、首なんかとっくに身体からブチ切れてるのに、ストレージはすぐに収納を受け付けてくれないのよ。
いや、ホントびっくり!!
生命の神秘ってやつ?
心の臓にしてもそう!
だって明らかに肉を切り裂き、ズタズタになってるのに──ま~だ生きている判定だったもんなー。
「まぁ、あれかー。人間って首を切ってもすぐに死なないって言うしね」
なんだっけ?
中世のギロチンで処刑された人って何回か瞬きするっていうしね。
鶏だって、首を切り落としても身体が走って行くとかなんとか……。
ま、よーするに。
脳に酸素が残り、
僅かな血流がある状態だと、絶命までに数秒ないし数十秒かかるとか、かかるとかかからないとか、そういうことらしい──。
「そのせいか、心臓、そして、頭部はどっちも爆発寸前のままとか……。いや、ホンマきっついわー」
だって、これから下手に取り出したが最後。
賞味する前に、ドッカーーーーーン! と爆発するなんてオチもありそうで、まったく笑えないぜ。
「……は~あ。せっかくの初の生エルフがぉ。こう──もっと好きに食べたかったなー」
まぁ、手足とかは食えるし、いっか~。
それらを、煮たり焼いたり、蒸したりと♪
あとは干して晒して保存食~♪
だのに──。
「あー残念、残念」
ま、ゆっくり食べれると思えばいっかー。
「……ん? どったの
隠し部屋から疑似セーフポイントをつなぐ通路の先。
そこで振り返った姿のまま茫然としているルドルフ君とシェイラちゃんを見て、「私」はニッコリ笑う。
大丈夫……。
「私」は誰も残さないよ。
「──なにせ、お残し厳禁なものでぇぇぇええ!」
ぐぱぁぁぁああ……。
にちゃぁっぁあああ……。
仕上げまで、
ひ~っひっひっ!