そして、その少し前の地上(?)のギルドにて──。
「わっはっは! 『鉄の拳』が来たからには、安心安全、万々歳だな」
──わっはっは!
上機嫌に笑うギルドマスターと定例の報告を済ませて呆れ顔の職員。
「安心安全か知りませんが、さっき詳しい依頼内容を伝えに行ったら、お坊さんっぽい人に、ものすごーく睨まれましたよ」
「あん?……あぁ、ボルツか。奴ぁ、疑い深いんだ。昔、坊主のくせに嫁さん貰いやがってな、そらぁ仲のいい夫婦だったんだが、ある時──」
いやいや、それ個人情報!
「い、いいですいいです! そう言う話はダメですって!」
聞きたくもない!
「なんだ? ここからが面白いというのに──」
面白いって、あーた……。
「そう言うことするから私が睨まれたんですけどねー。……まぁいずれにせよ、高ランクパーティほど、場慣れしてますからね。そろそろ隠せませんよ」
「ふんっ。ダンジョンに送り込んでしまえばこっちのもんよ。だいたい、所詮は低レベル冒険者用のダンジョンだぞ? 予想外のモンスターがいたとしてもBランクにかなうものかよ」
送れば勝ちだ、勝ち!
ギルドマスターはそう
だいたい、そういってCランクのジナさんたちを送り込んで、呆気なく行方不明になったんだよなー……。
なら、
Bランクだらかって安心できるとはとても思えない。
……というか、完全に何が起こっているかもわからない事態なのだから。秘密裏に『C』だの『B』だのと言っている場合じゃない気がする。
今だってそうなのだから、そのうち大惨事が起こりそうな気がしていた。
「──だが、そぅさなぁ……できることならあと、1、2パーティを送り込めば完璧か? それくらいいれば、たとえ壊滅するような事態になっても情報だけは持ち帰れるだろう?」
「いやいや、それなら一緒に送り込まないと意味ないですから」
別々に送り込んで、それぞれ各個撃されたり、壊滅したら意味ないですから。
そーいうのは戦力の逐次投入といって軍事では絶対やっちゃダメな奴ですからぁ!
「ふんっ。小難しいことを考えなくてもい~んだよ。Bランクだぞ、Bランク! ウチの、あー……なんだっけ? あの色っぽいねーちゃんのC」
「『砂塵の鎖』です」
「あーそれそれ。それが束になってかかってもかなわないのがBランクってもんよ。それがあと1個か2個同時に行ってみ。中にドラゴンがいても勝てるっての──がっはっは!」
いやいや、ドラゴンは無理。
あれはAランク必須の案件です。
「そもそも、そんな都合よくBランクが到着しませんよ。今からダンジョン都市から呼んだとしても、最速でももう少しかかります。……魔法学校の生徒たちが到着するのに間に合うかどうかって、ところですね」
「ふんっ。そうなったらその時考える──。とにかく今はドンドン送り込め! しかし、そんなこと言われると、なんだかんだで……あー『鉄の拳』だけじゃ心配になってきたなー」
「安心安全万々歳は、どーしたこらッ」
……おっと口調口調。
「あん?」
「なんでもありまてーん」
……逆らってもしゃーないしね。
でも、今回の件がなんとかなったら、さすがにギルド本部にチクっとこ、このマスターはひどすぎるわ。
冒険者を道具かそれ以下としか思ってない。
……彼らだって生身の人間だというのに。
「しっかし、この街にBランクがいないのが問題なんだよなー。あー、あのCランクが生きてたらなー」
「ちょ! そ、そいうことは、あんまり大きい声で言わないでくださいよ。……一応、ウチの筆頭パーティで慕う人も多かったんですから」
Cランクパーティ『砂塵の鎖』
3人編成でかなりバランスのよいパーティだった。
元は貴族だというリーダーのバイナルさんはあの甘いマスクで女性人気は高かったし、面倒見もいいので、慕う後輩も多かった。
ローグのドリーさんは酒癖が悪いところがあるが、軽んじられがちなローグ職の後継人のようなことをして後進をたくさん育てていた。
そして、色っぽい姉ちゃんことジナさんは、
ちょ~っとドライなところがあるけど、冒険者とこの村とギルドのことをよく考えており、皆が新月のダンジョンを卒業し、このギルドを去る中、残ってくれた優秀な人だ。
おそらく、さっさとこの街から別の高ランクダンジョンに行っていればきっとBランクにはすぐにでもなれたであろう実力者だ。
そんな人が何でここで──……ん?
「あれ?」
「あん? なんだよ?」
や。
あれれ?
なーんか段々と腹立ってきたので気を落ちつけようとお茶を飲もうとしたんだけど──……どこいった?
「ん、んんー? マ、マスター、私のお茶どうしました?」
「は? 知らんわ」
……ですよねー。
「って、マスター!」
「ん? んおぉぉお?!」
職員のお茶が消えたどころじゃない!
いつの間にか、ギルドマスターの隣、
部屋に備え付けのソファーに座って、お茶をズズズーと啜る人影が一つ増えているじゃーあ~りませんか!
……いや、ホントいつのまに?!
「──……お姉さまの話が聞こえましたが、なにか?」
え?
は? お、お姉さま?
「いや! 何の話だ?!! それより、お前、い、いつの間に──」
いや、ほんとそれ!
このマスターと意見があることは滅多にないけど、ほんといつの間に?!
「はぁ……。先ほどからずっといましたよ?」
「な、ばかな?!」
いやほんと。
全然気づかなかった……!
しかし、それくらいに気配が希薄で、自然体だったということだろうか?
その割には、超目立つ格好してるけどな──……ソファー座ってお茶を啜っていたのは妙齢の女性で、その恰好がなんとうか、エロい。
露出高めで、黒い網々タイツの…………ん?
エロい、網々タイツ。
気配遮断がうまいと言えば……。
「あ、あああ!」
こ、この人は──!
「うお、びっくりした! な、なんだ、急に大声だしやがって? し、知りあいかぁ?」
「バッカ!! ま、マスター! この人もBですよB! ほぼローグ職だけで構成された隠密パーティの『月下の花』のリーダー、カミナさんです!」
「げ、月下の花ぁぁ……あ、あぁ! あの女忍者どもか!!」
ッ!
「しー、しー! それ言うとだめですって!」
「ん? そ、そうだったか?……つーか、お前さっき馬鹿つったか?」
……い、言ったけど、それは後でいいじゃん!
それよりも、
ローグ職に対して、忍者というのは禁句だ。
なぜなら、忍者は東方地域でのみ見られる特別なジョブのことで、このあたりでは滅多にみられない超希少ジョブだ。
だが、そのカッコよさから真似をするものが後を絶たず、なんちゃって忍者のローグ職が多数名乗りを上げた結果──いつしか、逆にちょっと恥ずかしい人扱いされるようになってしまったという、しょ~~~~もない歴史がある。
それもあってか、
ローグ職に対して「忍者」というのは、割と禁句になってしまったのだ。
……とはいえ、やっぱりかっこいいから真似をするものが後を絶たず、「自分──シーフです!」なんて公言しつつも恰好はなんちゃって忍者風なんてのが結構いるのだ。
そして、月下の花のメンバーも多分に漏れず、このなんちゃって忍者系のBランクだったりする……。
(※ ちなみに本職の『忍者』はそもそも忍者などと名乗らないと言うけどね!)
「こほんっ。忍者ではありませんが、アサシンやシーフ。そして、
「あ、あぁ、すまん」
珍しくマスターが頭を下げる。
そりゃまぁ、いきなり部屋にいて、お茶をズズズ……だしねー。実力の程がどれほどとも知れない。ちょっと、怖い。
「──して、先ほどお姉さまの話が聞こえましたが?」
「えっと?……お姉さまっとは誰のことでしょうか?」
「俺も知らんぞ?」
アンタには聞いてねーよ。
しかし、お姉さまねぇ……。
お姉さま……。
お姉さま──先ほど話で「お姉さま」って、
「……あ、まさかジナさん?」
「はい、ジナお姉さまですわー」
そういうなりパァッ! 花の咲くような笑みを浮かべる女忍者──もとい、カミナさん。
どうやら、背後に咲いた花の情景を見るに、なんか
……そういえばジナさんに浮いた話とか一個も聞いたことないもんな。なるほど……。あぁ、なるほどー。
「っていうか、おまっ! さ、先ほどって、いつからいたんだ! いくらBランクでも勝手にギルドマスターの部屋に入っていいと思ってんのか!」
「そうは言われましても、きちんと職員の方に案内されましたし──ノックもしましたよ? そして、いつからというのは、「『鉄の拳』が来たからには、安心安全、万々歳だな──わっはっは!」の、とこからですわ。……ッズズズー」
……って、飲んどる場合かー!
そ、それ最初からやん!
結構ヤバい所からやん!
「な、なんだとー?! し、しかし、ノックなど聞こえんかったぞ!」
「笑い声が大きいからでは?……ぶっちゃけ中に入らずとも聞こえてましたよ」
……おっふ。
それは思った。
このギルドマスター無駄に声デカいんだもん。
……ってことは、Bランクを適当な理由をつけて送り込もうとしてるのバレバレやーん!
「──ですが、ことの経緯は結構です。腹が立つのは事実ですが、それよりも、お姉さま……いかがなさったので? この街にまだいると聞いていますが」
あぁ、そうか。
さすがに行方不明の話は、まだまだよその街までに出回っていないか──……このオッサンが止めてるしな。
「え、ええっと、実は──」
「おうおう、待て待て待て!……いやー、せっかくの所にいいところ! ナイスタイミングで来てくれたな!」
……あ、コイツ。
思わず顔をしかめたギルド職員。
次のセリフは大隊想像がついた。
「実はそのことで、ちょ~~っと困っていてな!」
……そうしてこうして、ほぼ同時刻、二つ目のBランクパーティが送り込まれるのであった。