ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第29話「大参事の前……(※)」

「ですから! とにかく、今日は日が悪いんですよー!」

「なんですか、日って! 昨日も一昨日もそう言ってましたよね!」

「えぇ、えぇ! そして今日も悪いんですって!」

 

 新月のダンジョンへ続く道。

 魔法学校の生徒たちが野営している場所から少し離れた所で、集団が言いあいをしている。

 

 集団の先頭に立つのは冒険者ギルドのマスター。

 もう一方は、魔法学校の生徒を引率する、おひげがダンディな中年教師だ。

 

 そして、ギルドマスター率いる先の集団と言えば、

 筋骨隆々、あるいはシャープな装備に身を包んだ冒険者とそのギルドの職員で占められている──言わずしれた冒険者ギルドとそこに属するDランクの冒険者たちだ。

 

 そして、もうおひげがダンディな教員が引率する集団は、

 美麗な装備に身を包んだお揃いの野外用の制服に身を包んだ少年少女と少しの大人。もちろん、魔法学校の生徒たち35人と引率教員3名だ。

 

「なんなんですか? 先日からずっと──……こっちは遊びに来てるんじゃないですよ?! 残り日数も限られてるのに、毎回毎回くどくどくどくど、と!」

「ク、クレインさん。そ、それには事情がありまして……。し、新月のダンジョンにも、モンスターの活性期というのがあるんですよ!」

 

 クレインと呼ばれたのは、ギルドマスターの煮え切らない口撃にイライラを隠せないおひげが素敵なダンディ教員だ。

 彼は本ダンジョン実習の代表者で、魔法学校の主任教員でもある。その名をクレイン・グレインといった。

 

「はぁぁぁ?! そんなの聞いたことないですねー! こっちはいくつものダンジョンを下調べしてきてるんですよ? それら候補から、ここが最適と判断したんです! それが、なんです? 活性期~?? 聞ーーーーたこともない!」

 

「いや、でも──あるんですよ!!」

 

 ないけどね。

 

「話になりませんねぇ。そもそもそんなのがあるなら選んでませんよ?……もしかして、なにか隠している事情でも?」

 

 ギクッ! という音がするほどギルドマスターが動揺する。

 もちろん、それを認める真似こそしないが──明らかに形勢が変わった瞬間だった。

 

「おや~? もしかして、重大な隠し事でもあるので?……我々が事前に知らされていないよう、なにか重大なことがぁ?」

「そ、そんなものはありません! ただ、そのぉ…………、いえ、あのー」

 

 しどろもどろのギルドマスター。

 もはやモンスターの活性期うんぬんで誤魔化せる段階を超えている。

 

 そもそも、これは最後の攻防なのだ。

 

 実は数日は、適当なことをいってダンジョン実習を先延ばしにしていた──やれ、村の見学やら、やれ、ダンジョン実習の前の研修やら、やれ、冒険者ギルドや護衛と案内役の冒険者の紹介やらとかで、なんとか日数を伸ばし伸ばしにしてきた。

 

 しかし、当然それにも限界がある。

 

 そもそも、ギルドは実習の受け入れ側なので、スケジュール管理に口を出す権利などないのだ。

 それを押して、なんとかこうして誤魔化してきたが──さすがにもう限界だった。

 

 でも、最後の最後であと一日くらいは粘れないかーと、こうしてダンジョンの前で交渉してみたのが無理だったというわけだ。

 実際、案内役の冒険者は連れて来たし、あとは中に入るだけといところまでは整えているのだから、もうどうにもならない。

 

「──そのぉーが、なんです? あのーが、なんです? 事情があるので、ないので?」

 

 そして、

 どっちです?! とばかりにガン詰めするクレイン主任。

 

 というか、教員だって、なるべく現地ギルドと揉めたくないので、今日までスケジュールを変更に変更を重ねてきたのだ。

 

 だが、それも限界だった。

 

 実習とはいえ、彼らの本分は魔法学校での学びだ。

 これはあくまで学習の一環なのでいつまでも時間をとるわけにいかなのだ──なので、今日こそ遅れに遅れたスケジュールを繰り上げなければならなかった。

 

 というわけで──。

 

「どうなんです? なにか事情がおありで?」

 こうして、腕を組んで見上げるほどデカイギルドマスターを見下ろしている(・・・・・・・)わけだ

「…………ない、です」

 

 そして、ついに折れたギルドマスター

 しょぼんとしたようすで、がっくりと膝をつく。

 

 その様子からして、なにやら事情があるのは丸わかりなのだが、それを明かされない以上──実習は行われる。

 

 なにせ、莫大な金がかかっているし、魔法学校の威信もある。

 そしてすでに現地に来て時間も何もかも消費しているのだ、今更何もせずに帰れるわけがなかった。

 

「……はぁ。そちらも色々おありなのでしょうが、頼みますよ。我々も無理を通したいわけではないのです──ですが、お話しいただけない以上どうしろというのです? 念のため、最後に聞きますが…………本当になにもないので?」

 

 まさにここが分水嶺。

 大参事の分水嶺──……しかし。

 

 

「…………問題は、ありません」

 

 

 ついに、それを超えてしまった。

 

 いや、まだだ。

 まだ策はあるのかもしれない。

 

「では、実習に移らせていただきますね──冒険者のみなさん、よろしくお願いします」

 

 そういってクレイン主任が頭を下げると、ギルドマスターと職員たちは道をあけ、あとをDランクの案内兼護衛の冒険者に任せることにした。

 

 しかし、すれ違う時、ギルドマスターは全ての冒険者に目くばせをしつつ、大きく頷いた。

 

 

 …………そして彼らも頷いた。

 

 

 そう。とっくに、合意はできているのだ。

 最後の……本当の最後の策にして、安全手(マージン)がここにあった。

 

 なぜなら、ここにいる冒険者は全員事情を知っている。

 そして、最近の行方不明事案が起こってからも、一度は無理を押して内部に入って帰ってきた豪(?)の者たちだ。

 

 だから、彼らが最後の安全弁の役目を果たせば参事は起きないはず──そう、何事もなく、実習を終えて入口付近をちょろっと見て……帰ってこれるはず。

 

 

 こうして、

 エリート中のエリートにして将来を嘱望された10代の生徒35名と

 それを導く有能な教員3名。

 そして、案内兼護衛の冒険者7名──の45名。

 

 彼らは、新月のダンジョンに入る。

 何が待ち受けているかも知りもせず────……。

 

 

 

 

 

 

 

 のちに、史上最悪と言われるダンジョン実習に参加するために────…………。

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