ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第31話「クレイン・グレイン主任教諭の場合(※)」

「そっちだ! まわれまわれー!」

「よーし、道を塞いだぞー!」

 

  わーわーわー♪

 

 薄暗い新月のダンジョンの中を生徒たちが走り回って、モンスターを追いかけまわしている。

 実に平和な光景。

 聞いていた通り、たいしたことのないダンジョンだ。

 

 だというのに、あのギルドマスターときたら──……。

 

「主任。特に問題はなさそうですね」

 

 じっと生徒たちを見守っていると、そばにいた眼鏡をした気の弱そうな女教諭──メリッサ先生がホッとした様子で話しかけてきた。

 

「うむ。何もなくてなによりです」

 

 まぁ彼女の気持ちはよくわかる。

 なにせ、明らかにあのギルドマスターは何かを隠していたからな。

 

 しかも、どうにかして我々をここに入れたくないというかのように妨害をしていた──だから、もしかすると中に入ったらとんでもないことが起こるのではないかと少し気にしてはいたのだ。

 

「──そもそも何もありようがありませんよ。そのための『新月のダンジョン』ではないですか。……だいたい、ここには低ランクのモンスターが低い密度でしか現れませんし、我々3名がいれば何が起こっても大丈夫ですよ」

 

 そう自信満々に言うのは、一人神経質そうに片眼鏡(モノクル)を磨いているカーデル先生。

 

 彼も若いなりにかなり優秀で、本実習の引率に選ばれたわけだが、それなりにギルドの様子を気にしてはいたのだろう。

 実際、口調にわりに眼鏡を磨く動作はこれで3回目だ。……おそらく本人も気づいていない、緊張している時の癖なのだ。

 

 まぁ、カーデル先生のいうとおり、ここは低ランクの魔物しかでない。そのためかダンジョンとしての人気はイマイチだという。

 中に入っても稼げないのだから当然だろう。……とはいえ、それも使いようだ。

 

 稼ぐのが目的でないなら、ここほど生徒たちの実習に適したところはないだろう。

 

 なにせ、ここ以外で言えば、ダンジョン都市やら王都付近のダンジョンやらとあるにはあるが、あのあたりは高レベルが混在しているし、そもそも粗暴な冒険者が多くてトラブルが絶えない。

 

 そんなところに将来有望な生徒を連れて行くわけにはいかないし、行きたくもない。

 

 それがこの『新月のダンジョン』ときたらどうだ?

 

 村はちょっと寂れているが、それはそれで朴訥(ぼくとつ)でよい。

 大きな町だとその分、治安が心配だが、街道沿いの村ならその辺が安心だ。スラムもないときた。

 ネックになるのは距離くらいなもので、それも王都からのアクセスがよく、街道沿いなので馬車を使って数日程度。

 その数日の野営にしても、野外実習と思えば悪くもなかった。

 

「あぁ、その通り。だからわざわざこんな田舎のダンジョンを選んだわけですからね。……しかし、それを、まったくあのギルドマスターときたら」

 

 ったく、事情があるなら言えばいいのだ。

 こっちだって生徒の身を預かる身──問題があるなら当然聞く。

 

「とはいえ主任。ここまで来たな何らかの成果を出さねばなりませんよね? ここ数日のおくれもありますし……」

「あぁ、だけどこの分なら問題はなさそうだね。生徒は一定の魔物を倒す経験をし、ダンジョンというものを肌で感じる──ダンジョン実習などそれだけ(・・・・)でよいのです」

 

 メリッサ先生の不安に、クレイン主任は髭を撫でつけながら優雅に答える。

 なに、遅れなどなんとでもなる──最悪、実習自体は一日でもいいのだ。

 

 ここにいる生徒たちの大半は、将来は要職につくか主家を継ぐ者たちなのだ。

 これを最後にダンジョンなどに入ることはないから、なにも魔物を大量に刈る必要もないので、これで十分なのだ。

 

(そう。ダンジョンに(・・・・・・)行ったことがある(・・・・・・・・)

 

 それが(かて)になるのだ。

 

「なるほど。実績がメインなのですね」

「その通り。……いや、しかし、あのギルドマスターの態度から何事があるのかと警戒していましたが、じつに平和なダンジョンですな」

 

「ええ、まったくですねー」

 

 クレイン主任の軽口メリッサ先生も、のんびり答える。

 

「さて……それでは、実習も佳境となりましたし、不測の事態に備えて我々は入口で待機しましょう。冒険者の皆さん、よろしく頼みますよ」

 

 生徒達がダンジョンに散ったいま、あとは現地で雇った冒険者に任せよう。

 こういったものは現地のプロに任せるのが一番いい。

 

 そう思って振り返ると、なぜか異様に引きつった顔をした彼らがぎこちない笑みを返してきた。

 

「あ、あぁ。ま、任せときな」

「お、おう! 俺たちがついてる──うん、ついてるから……」

 

 んん?

 なんだ、こいつら?

 

(妙だな?……ちょっと緊張しすぎでは?)

 

 この人達、Dランクだよな? と、

 冒険者たちの態度に首をかしげるクレイン主任。

 

「……君たち、どうかしましたか?」

「い、いや。なんでもない──」

「おう、なんでもない……」

 

「……本当に大丈夫ですかな? ギルドマスターの態度もあれ(・・)でしたが、アナタたちもちょっと──」

 

 おかしい。

 これくらいのダンジョンなら朝飯前のはずですが──……さっきから、えらく緊張していないだろうか?

 

 プロとしての心構え的なものとか、そういうものかもしれないけど、ちょっと過度に緊張しすぎな気もする。

 そりゃ、大勢の子供たちの安全を見るのは神経を使うのは分かるのだが……。

 

「な、なんでもねぇ! なんでもねぇよ。ただ、ちゃんと言うことさえ聞いてくれればな」

「そ、そうそう。俺たちの言うことさえ聞いてれば何の問題も────あ、おい! それ以上奥に行くんじゃねぇ!」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 突然、激しい声男出したDランク冒険者の一人が飛び出すと、ゴブリンを追ってダンジョンの奥に向かう生徒を無理やり呼び止める。

 ──いや、それどころか、押し倒したではないか!

 

「な、なんてことを! アンタ、この人が誰か知らないんですか!?」

 

 全員、ただの子供に見えるが、ほとんどが貴族の子息だ。

 あの子も──あの子も、あそこの子も──……!

 

「知るか! それどころじゃねーんだよ! いいから、この入口前の広場から出るんじゃねぇ! 間違っても奥には行くな!」

「はぁ?! 何を言ってるんです?……まさか、ここでずっと狩りをしていろと?」

 

 馬鹿な、ありえない。

 

「そう言ってんだ! 黙っていうことを聞け!!」

「何を言ってるんです。こんな狭い場所では、35人も活動できるはずがないでしょう!」

 

 入口の広場は、

 広場とは言っても、せいぜい教室程度の広さだ。

 

 全員が入ったらそれだけで、ぎゅうぎゅう──そもそも、35人が一気に入るような場所じゃない。

 

「だいたい、今更何を。──実際、入ってすぐの先頭組はとっくに先に進んでいますよ」

 

 なにせ、そういうスケジュールでこの実習を組んでいるのだから。

 

「は?! な、なん、だと……? もう先に行ったってのか?!」

「そう言っているでしょう。我々は後発です──ほら、ここには2グループの10人しか……」

 

 

 

 

 

 そう言って広場に残る10人を示したまさにその瞬間──────通路の奥でものすごい悲鳴が響き渡った

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