焦りながらも薄暗いダンジョンを駆ける教員と冒険者の4名。
しかし、焦りは募るものの、次第に絶叫の感覚が徐々に長くなり──そして小さく、弱々しくなる。
これは一刻を争う事態だと誰でもわかるだろう。
ただ、一刻を争うような事態なだけに
一体何事なのだ?!
ここは低レベル帯のダンジョンだろう?! 安心安全の初心者ダンジョンだったはず。
新米素人の冒険者ならともかく、優秀な魔法学校の生徒が数十名とそれぞれDランク以上の護衛付きだぞ?!
「……君! なにか知っているのかね?!」
クレイン主任の言葉に、口数少なく答える冒険者。
彼は言った。
「詳しくは知らねぇよ……。ただ、ここ最近ダンジョンに潜った奴が還ってこない事態が頻発してる。捜索に行った奴もだ。近い話だとBランクパーティが二個ほど捜索に行って、消えた」
な、なに?!
「そ、そんなこと聞いてないぞ?!……いや、それなのになんで──!」
なんで実習を強行した?!
アホか?!
「知るかよ! ギルマス殿に聞いてくれ。俺だってイヤだっつってんのに、無理やりだよ。そんで今、ここにいるの!」
なるほど……。
どうりで怯えていたわけだ。
どーりで入口から先に行くなと言ったわけだ……つーか、言えよ!!
「なんってことを!」
おかげで生徒が危機に陥っている。
それどころか、残る5組はどこだ?!
──なぜ、ここまで来て他の生徒とすれ違わない?!
「くそ!……これは大惨事になるかもしれんぞ!」
最悪の事態が起こっているのかもしれない。
何が起こったのかは知らないが、とにかく最悪の事態だ。
「なにか情報はないのか?!」
「ねーよ! だから、誰もビビって入らねーの!」
だろうな。
冒険者は身体と命が資本だ。そして、こんな低ランクダンジョンに命を懸ける奴などいない──……くそが、あのギルマスめ!
「あ。でも一個いい情報があるかも」
「な、なんだ?!」
こんな状況だ。
なんでもいい。
「いやー。噂程度なんだが、ギルマスがこの事態を鎮めるために、ダンジョン都市から高レべのパーティだかを呼んだって噂があるぜ。それがそろそろ来るってよ」
なんだと……。
いや、だからか!
「……そういうことか」
どーりでダンジョン実習に入るのを渋るわけだ。
ここ数日の
「あッの、アホがー!」
だから言えっつーの!!
「ま、いつ来るかわかんねーしよ。……それでじゃねーの?」
「ふざけるな!!」
人命が掛かってるんだぞ?!
それも、そんじょそこらの安い命じゃない!!
この国の未来の重鎮達の命が──!
「くそっ! 戻ったら絶対に、裁きを下してやる!」
「おー、くわばらくわばら」
ふん。
当たり前だ。あの生徒たちは、傷の一つでもつけたらその辺の一般人の首が簡単に飛ぶようんな身分の子息もいるんだからな。
「……まぁ、それも戻ってからか」
「そーしてくれ」
そうするともさ。
「主任!」
「む?!」
その時、背後を警戒していたメリッサ先生の声が飛ぶ。
彼女は支援魔法の使い手で探知などにも優れている。このメンバーで言うところのローグだろうか?
「どうした!」
「う、後ろから何かが──……あ、これは」
うん? 後からならゴブリンか?
それくらいなら、瞬殺────……んな?!
「き、君たち!」
「クレイン先生! 僕らも手を貸します!」
な、なんということだ……。
なんという。
「馬鹿な事を…………!」
あろうことか、入口で待機させていた生徒たちがこんなところまで来てしまった。
それも全員。
「なぜだ、なぜ来た!」
「だ、だって──悲鳴が聞こえなくなって……先生たちも戻ってこないし」
グラハム王子が目を伏せる。
そこにそっと肩に手を置くのは、彼の双子の妹──バハナ王女だ。
「くっ!」
おそらく不安に駆られたか、
残る生徒たちが、救出に行こうだなんだと、勝手に盛り上がったのだろう。
所詮は子供。
そして、ダンジョン実習に選抜されたことで自らの腕に増長した子供だ。
そこに口数の少ないグラハム王子だ。
彼ではそれを留めることができなかったのだろう。
そうだ、いつもならそれをするのは、委員長のリーデル公女の役目だったからな。
(──いやいや、勘弁してくれよ)
こんなダンジョンの奥で、10名もの要人を警護できるかよ!
「し、主任。どうします?」
メリッサ先生が戸惑った顔。
いや、こっちが聞きたいよ。……いっそ一度戻るか?
「先生よぉ。悩んでるとこ悪いけど……多分あそこだ」
なに?
「……あ、あそこって──お、おいおい」
冒険者が顎でしゃくる先。
背後には入口に残置してきたはずの10人の生徒たちが続き、
そして、目の前には……異様なまでの血痕が残った通路と、それに続く部屋があった────。