ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第42話「誤射?(※)」

 ──リーンさん?

 

 

 小さくとも、はっきりと響き渡ったメリッサ先生の声に場が一瞬にして硬直する。

 

 そして、その単語を理解するのに、誰しも数秒以上を要した。

 そして、

 そして、数秒してから気づいた、理解した。

 

 

 ……自分たちが何をしたのかを。

 

 

「ま、まさか……」

「そんな──」

 

 思わず後ずさるクレイン主任。

 それに押されてカーデル先生も尻もちをつく。

 

 だが、それとは逆にふらりと進み出る影が一つ。

 

 そのは、もちろんメリッサ先──

「い、いやぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

 誰かと気づく間もなく、彼女はクレイン主任とカーデル先生を跳ね飛ばすと、それ(・・)に駆け寄った。

 

 そして、服が汚れるのも厭わず抱きしめると拾い上げた。

 

「あああああ、そんな、そんな!」

 

 ああああああああああああああああ!

 

 彼女の悲痛な叫びが部屋中に響き渡る。

 それと同時に、そいつ(・・・)も声を上げた。

 

 声にならない声を「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」と──。

 

「こ、これは一体どういうことだ……」

 

 ボロボロの体。

 肌は溶け、目は濁って何も映していない。

 

 

 ……だのに、だのに生きて、動いているだと?

 

 

 な、なんだ。

(なんなんだこれは──)

 

「わ、私たちがやったのか?! 私たちが魔法で──……!」

 

 カーデル先生は自分の手を見下ろしてわなわなと叫ぶ。

 

 そして、教え子の悲惨な姿に悲鳴を上げ続けるメリッサ先生は最初から半狂乱状態だ。

 もちろん、クレイン主任だって茫然とその光景を見るしかできない……。

 

 そのまま誰も彼も何もできないままぼんやりしていると、今度こそ猛然と駆け出したメリッサ先生がそれ(・・)を押し付ける。

 

 他でもない、回復の専門であるカーデル先生にッ!

 

「ああああ、カーデル先生! カーデル先生、い、いいい、いそいで! 今ならまだ間に合う、絶対間に合うからぁっぁああ!」

 

 彼女の叫びが何を言わんとするかはわかる。

 そして、カーデル先生もよく理解していただろう。

 

 だが、

 だが──だ。

 

「メ、メリッサ先生。お、落ち着いてください!」

 

 そうだ。

 落ちつけ!

 

 おかしい。

 ……おかしいだろう!

 

「はぁぁぁあ! お、落ち着けですって?! 落ち着いてる場合じゃありません!」

 

 いや、落ち着けよ、バカ!

 

 全力だぞ?!

 教員3名含む、13人全員が全力で魔法をぶちこんだんだぞ?! い、生きているわけが──。

 

「カーデル先生なにをしているんですか! 早く、(はや)ぁぁぁく!」

「いいから、メリッサ先生。今すぐそれ(・・)を────ぐわっ!」

 

 刹那、鮮血が吹き上がる!

 

 何事かと見れば、他でもないカーデル先生の首筋から肉と血が飛び散っていた。

 

「カーデル先生?!」

「ぐぅぅ、やはりか……!」

 

 果たして悲鳴を上げたのはカーデル先生であった。

 彼は、反射的にメリッサ先生ごとそれを押し倒すと、血の噴き出る患部を抑えてうめいた。

 

「ぐぅ……!」

 

 しかし、それでもそいつ(・・・)はカーデル先生の肉を掴んで放さず地面に転がり、咀嚼しながら醜悪な声を上げ続ける。

 

「だ、大丈夫ですか、カーデル先生?!」

「えぇ、こっちは問題ありません。それより──」

 

 自ら回復魔法を行使して、傷を癒すカーデル先生が顎で示す先。

 そこには、

 

「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!」

 

  ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!

 

「な、なんだこれは?!」

 

 これがリーン・テレジア?!

 これが、あの活発で優秀で、愛らしかった第二学年最優秀の少女なのか?!

 

 その様子では、まるで、まるで──。

 

「も、もう違います──……そ、それは、そいつは、そいつは──」

 

 ゾンビです!

 

「な!?」

 

 ソ、ゾンビだと?!

 

「馬鹿な──!」

 

 その声に思わず鑑定魔法を発動するクレイン主任。

 すると、

 

 

    《ゾンビLv1》

 

 

「ッ?!」

 

 ば、ばかな。

 ……あ、ありえない!

 

「ありえない! だが、本当にゾンビだと?! か、彼女は少し前まで一緒にいたはずでは?」

 

 少なくとも、今日のダンジョン実習を始める前は、間違いなくリーン・テレジア本人だったはず。

 

 それが、

 それがこんな短時間で、なんでアンデッドなんかに?!

 

「ク、クレイン主任! 今はそれよりも彼女(・・)を──! こ、このままでは!」

「ッ!」

 

 そうだった!

 

 カーデル主任に言われてはっと気づく。

 なんと愚かにも、まだメリッサ先生はゾンビになり果てたリーンを抱き上げようとしているではないか。

 

「い、いけませんメリッサ先生! 今すぐそれ(・・)を──」

 

 まずい。このままではメリッサ先生までゾンビの餌食になる!

 その一心で、彼女からゾンビを引きはがそうとするが、恐慌状態に陥ったメリッサ先生は全く聞く耳を持とうとしなかった。

 

 それどころか、カーデル先生に再び詰め寄る始末。

 

「メリッサ先生、離れてくださいッ!」

 

 ──ブゥン!

 

(くそっ。やむを得ん──!)

 

 魔法杖に魔力の大剣を生み出すと、短く構える。

 クレイン主任は、のちに全ての責任を取る覚悟でそれ(・・)に切りかかる覚悟を決めた。

 

「し、主任?! な、何のつもりですか! リーンさんになにを」

「──どいてください。これは状況判断を間違えた私の責任です!」

 

 何がミミックだ。

 何が、

 何がぁぁぁ!

 

「すべての責任は私が負います──!」

 

 だから許せッ!

 

 今、切り掛かるリーン・テレジアだったものにも謝罪。

 そして、目の前で教え子を失うメリッサ先生にも謝罪。

 

 ……そして、そうして、全てに出来事に謝罪をする!

 

 

「うぉぉぉおおおおおおお!」

 

 

 そこからの気合一閃ッ。

 そのまま一息にあのゾンビの首を切ろうと一気に肉薄すると、まさに一息に振り下ろす、ごふぉ……ッ!

 

 

  ──ガクンッ!!

 

 

「は? え?」

 

 な?

 なんだ?

 

「む、胸が、熱っ……?」

 

 そう感じた瞬間、身体全体から力が抜けて、すとん膝をつく。

 ……まったく体に力が入らない。

 

 ど、どういうこと、だ?

 

「……クレイン主任、そ、それ(・・)は?」

「し、主任?!」

 

 それ(・・)

 

 二人の不思議そうな目線を追っていくと、自分の胸に行きつくクレイン主任。

 そこには、見たこともない、赤い物が生えている。

 

「な、なんだ、これ……?」

 

 

 

 ──ナイ、フ……?

 

 

 

「はい、せいか~い! さすセンセー。博識だねー」

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