ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第47話「増援!(※)」

※ 生徒たちが全滅寸前になる少し前のこと──。※

 

 

 冒険者ギルドでは、大柄なギルドマスターが建物内をウロウロと行ったり来たりとしていた。

 そのうえ、爪をガジガジと噛んで、今にも叫びだしそうな顔をしているので、誰も彼もが迷惑そうに見ながらも決して近づこうとしなかった。

 

「くそっ! くそっ! まだか……まだなのか?!」

 

 そう呟き、何度も空模様を確認するギルドマスター。

 しかし、何度見ても太陽はちっとも動いていない──。

 

 魔法学校のダンジョン実習が始まってそう時間は経っていないのだ。

 なので、彼らが戻ってくる予定時刻までかなりの間があるのだが──それを待つだけの時間が苦痛でしょうがない。

 

「──あ、おい! 誰か暇ならダンジョンにいかんか?! 報酬は出す──……おい、どこへ行く!」

 

 ギルドの建物なものだから、当然、それなりの冒険者はいるのだが、誰もがギルドマスターの声を聞いた瞬間そそくさと出て行くか視線を逸らす。

 

 そりゃそうだ。

 

 ここにいる誰もが『新月のダンジョン』の噂を知っているし、

 なんなら知り合いがそこに行ったまま帰ってこないという経験をしているのだ。

 

 ……そんなところに誰が行くものかよ。

 

 いくら金を積まれても、死んでしまっては元もこうもない──。

 

「ちっ! 腰抜けどもがー!」

 

 だが、そこはギルドマスター。

 なら自分が行けよ、という視線を全員から浴びせられているというのに、まったく意に介さない。

 当然、自分で行くなんて言う選択肢は微塵もない。

 

 だけど、いっそ入口くらいまでは様子を見に行くべきかとギルドの出口を振り仰いだまさにその瞬間であった。

 

 

  バターン!!

 

 

「うお! びっくりしたー……って、お前は!」

 

 大音声を立ててギルドの戸を潜ったのは何てことはない。

 魔法学校の実習につけていたDランク冒険者の一人であった。たしか、名前は……。

 

「マ、マスター、大変だ!」

「は? どうした?……なにかあったのか?──というか、お前だけ戻るの早すぎないか?」

 

 自身では喉から出るほど情報をほしがっていたのに、この仕草だ。

 まぁ、だからこんな田舎でギルドマスターをしているわけだが──。

 

「馬鹿野郎! それどころじゃねぇ! ガキどもが勝手に奥に入っちまった!」

「な、なんだと?!」

 

 耳を疑った。

 いや、あり得ないことではないと思っていたが、まさかこんなにすぐ?!

 

「い、今行ったばかりだろうが?!」

「俺が知るかよ!! っていうか、あんな狭い入口に30人以上も入れるわけねーだろ!」

 

 新月のダンジョンの入口付近の広場は、お世辞にも広いとはいいがたい。

 だが、そこまでなら今のところ安全が確保されているのだから、そこで実習をさせていたはずが──……これだ!

 

「それを見張るのがお前の仕事だろうが!」

「はー?! ふざけんなよ! 俺はちゃんと自分の持ち分はやってる──それよりも先行したパーティが勝手に入っちまったんだよ! ほら、あれだ。……あの、黒髪眼鏡の女の子のグループとか」

「は?」

 

 な、なんだって?

 黒髪眼鏡の女の子って……。

 

「ま、まさか、リーデル公女のグループか?!」

「あー多分それだ。名前までは知らねーけど、そんな感じの可愛い子ちゃんのグループの他、全部で25人が中に行っちまったぞ!」

 

「な、なにぃぃいいい?!」

 

 に、にじゅうごにん?

 25人?!

 

「お、おま──」

 

 それを黙って見てたのか?!

 

「連れ戻しもせずに、それをわざわざ報告に?!」

「なわけねーだろ! そのあとすぐに、奥からすげー悲鳴があがったんだよ!」

 

「ひ、悲鳴だと……」

 

 くらぁ……。

 

 それを聞いた瞬間、ギルドマスターの足元が揺らぐ。

 そのまま目の前がぼやけて意識が遠のきかける──……よりにもよって恐れていた事態だ。

 

 しかも、大貴族のリーデル公女のグループを含む、25人が中に入っただとぉぉ……。

 

 

   はっ!

 

 

「グ、グラハム王子は?! あの、双子の子供だよ!」

「へ? あ、あー……それなら、まだ入口にいるはずだ。俺の持ち分だったからよ」

 

 ほっ。

 よかった────って、良くない!

 

「おまっ、そ、それをほっぽって来たのか?! お前はアホか?!」

「ああーん! なら、どうしろってんだよ?!」

 

 そ、それは──。

 

「一応、もうひとり残って見張らせてる。先生方もいるし、入口組は大丈夫だっての」

「そんな保障はあるか! なんで一緒に連れてこなかったんだ?!」

 

 そうすれば最低限守れたはずなのに──……いや、まだだ。

 まだ入口に留まってるなら問題はない、はず。

 

「よ、よし! 状況はわかった──お前は今すぐ、迎えに行け!」

「はぁぁ?! おれぁヤだぜ! 絶対あそこはヤバい。それにあの悲鳴だ。中に入った連中は無事じゃねーだろうよ!」

 

 ばっ!

 

「馬鹿が! め、滅多なことを言うな!」

 

 大貴族だぞ?

 傷一つ付けただけで、何人も首が飛ぶ大貴族の子供たちだぞ?!

 

 それが無事じゃないなんて、あってたまるかっ!

 

「いいからいけ! 報酬はさらに倍だす!」

「いらねーよ!! 俺はもう降りる!」

「この野郎、言うことを聞け!」

「ふざけんなぁぁぁ!!]

 

 バチバチとギルド内で口論を続けるDランク冒険者とギルドマスター。

 一種異様な光景だが、そこに、

 

「あ、あのー」

「「んだこらぁぁああ!」

 

 おずおずと話しかけたギルドの職員が二人に雷を落とされた。

 まさに巻き添えだ。

 

「ひぇ! そ、そんなに怒鳴らなくても──マ、マスターにお客です」

「ああん? 俺にぃ……見てわからんのか! クソ忙しいんだよ!!」

 

 アホダンジョンの心配とか、

 アホDランク冒険者の相手とか、

 アホ魔法学校の実習の学生の心配とか、

 あとは、

「いつまでも来ない、アホな増援を待つのとかにぃぃい!!」

「い、いえ、それが──そ、その増援の方かと思いますが……」

 

 なに?!

 

「すまんな。そのアホな増援だ」

「んな?!……な、なんでそれをさっさと言わん!!」

 

 今言ったでしょうがという職員の非難する視線をよそに、声にしたほうを振り返るギルドマスター。

 

 すると、いるわいるわ!

 待望の冒険者が1、2、3、4人か──!

 

「おぉ! 待ってましたぞ!」

 

 そして(あえ)て言うならば、なんでもっと早くこねーんだよ!

 せめてあと一日……いや半日早く来てくれればよかったものを──!

 

「うむ。遅参すまんな。緊急依頼と聞いてはせ参じたのだが…………しかし、聞いていた話と違うな」

 

 その鋭い指摘と視線に、

 手前勝手な怒りを覚えていたギルドマスターがびくりと震える。

 

 そして、そのままチラリと目の前の冒険者のギルド認識票を見れば、なんと『A』だった!

 

「ま、まさか。あんたAランクか?!」

「いかにも──」

 

 その冒険者の出で立ちは、硬い。

 

 まるで岩のような鍛え上げられた筋肉に、業物と見える一振りの刀。そして頭には陣笠をかぶる風体は、まるで野武士のようであった。

 

「マスター。こちら、Aランク、『荒野の迅雷』ことサンダースどのです!」

「サン……?!」

 

 うえ?!

 あの?!

 

「あ、アナタが例の『荒野の迅雷』でしたか!」

 

 彼はギルドマスターですら知るほどの有名人だ。

 ダンジョン都市で単身ダンジョンに挑む変わり者で、そして単身でAランクに上り詰めたと言われる強者だ。

 

 もっとも、彼をAランクにならしめたのは、その仇名が知る通り荒野での活躍である。

 その振るう刀は迅雷のごとく一瞬で数々の魔物を切り裂くことから、その名がついている。

 

 ちなみに、パーティ名はなし。ソロなので。

 

「それよりも、ギルドマスター。どういうことかな?……拙者を含め、この者たちも、ダンジョンの未発見地域の調査と聞いてまいったのだが……」

 

 サンダースが顎でしゃくると、彼の背後には、同じく冒険者。

 

 彼らはBランク。

 だが、Bランクのパーティにしては珍しい、近接専門パーティだった。

 

「そうですねー。しかし、状況と様子を見るに……これはもしや、未発見地区の調査にかこつけたダンジョンの異変調査ではありませんか」

「う……」

 

 やはりというか

 当然というか、AランクやBランクを騙しきるのは難しいらしい。

 

 オマケに先ほどの醜態を見られていたとなればなおのことだ。

 

「しかし、それはそれ。これはこれ。……ギルドマスターどのの無作法はあとで追及させてもらうとして、今は一刻を争う事態なのでは?……見ての通り、我々もここに遊びに来たわけではありませんので、ここは、どうか腹を割ってお話いただけませんかね?」

 

 そういって柔和に笑う重武装の青年は、背後の同じ装備の仲間ともども、にこやかに笑う。

 だがその目は一切笑っておらず、ただただ圧を感じさせるだけであった。

 

 ん?

 重装備といえばまさか……。

 

「ああ! もしかして、アンタらはダンジョン都市で最近名を挙げている重装備が主体の『石清水』というBランクパーティでは?!」

「おや、ご存じで?」

 

 知ってるも知ってる!

 この派手な見た目は、ある意味で有名だ。

 

 なにせ、この見た目通りの重装備(フルプレート)なので並みの攻撃をものともしないが、

 その分、他の荷物を運べず、ダンジョンの浅層部分しか探検できないというなんとも本末転倒なパーティだったはず。

 

 だが、それだけにダンジョン探索でBランクになっているだけの実力者たちでもある。

 たしか、リーダーのこいつはシギンズといったか?

 

「それは重畳。ならば話が早くて助かりますね」

「う、うむ……。わかった。では、場所を変えましょう」

 

 そこに至り、

 もうこれ以上誤魔化しきれないと悟ったギルドマスターはついに渋々事情を話すことになる。

 

 もちろん場所をギルドマスターの部屋に変えつつ、ギルド職員にお茶を用意させてから。

 

 こうして、事情を包み隠さず話したことで、Aランクの『荒野の迅雷』ことサンダースと、Bランクパーティ『石清水』のシギンズを始め3名を正式に雇うことになるのだが……。

 

 

「「お前は何をやっているんだぁっぁあああああ!」」

「ひぇぇえ?!」

 

 

 契約を結ぶ直前、

 事情を知った4人の凄腕たちは、怒号を上げて、大急ぎで新月のダンジョンに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

   それが、大参事の起こるほんの少し前のこと──────。

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