ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第53話「キングハム」(※)

「へ?」

 

 王族?

 キング?

 

「──キングハム?」

 なんか豪華そう。

『グラハム! なによ、キングハムって! そうじゃなくて王子よ、おーじ! 王国の王位継承権が何位か忘れたけど、グラハム王子殿下よ! ここにもそう書いてる!』

 

 へー。

 どーりでいい装備もってたわけだ。

 

 あの剣も国宝ってやつかもね──。

 

『あーあーあーあーあー、やっぱりそうよ、間違いないわ。……アンタってば、ついに王国に喧嘩売ったのよ? わかってるの?!』

 身分証らしきものを確認したミユちゃんが頭を抱える。

「やー。王国がどうとか知らんし、ガキはガキだよー。柔らかそうで魔力たっぷりで、う~まそうー」

 

 ……干したらどうなるのか知らんけど。

 やっぱ魔力とか抜けるのかなー?

 

『はー。コイツにそんなの通じるわけないか──……っていうか、王子様が干し肉にされてるとか、絵面どうなってるのよ』

 

 それは知らん。

 アホなこいつらがノコノコやってきたのが悪い。そりゃ食べるでしょ?

 

 この子の妹っぽいのを一匹逃がしちゃったけどね……ぐぎぎぎぎ。

 

『うぇー。……しかも、よく見れば、この子もこの子も、この子も……! 皆、ほとんど貴族とか、大商人の子息とかよ?!……それにアタシでも知ってる家名の子がいるわ』

 

 さっきストレージから吐いた時、床に散らばった装備や学生証をしゃがみ(?)こんで検分しているミユちゃん。

 それによれば、そう(・・)らしい。

 

「へー」

 

 例えば、だれ?

 

『──リーデル・エーベルト、様……。あー、この国の大貴族じゃないの。公爵家よ公爵』

 

 しゃがみ込んで、遺留品の学生証を見てため息をつくミユちゃん。

 

「リーデル? あー……そういえばそんな子いたな」

 

 最初に食べた、あの黒髪眼鏡の子だ。

 覚えてる覚えてる。すっげー美味しかったもんなー。

 

「たしか一番の子だね」

 

『…………味?』

「味」

 

 他に何があるねん。

 

『へ、へー……。ま、また一番がでたんだ』

「うん。すっげーうまかった」

 

 黒髪眼鏡の美少女最高ー。

 魔法使いの貴族肉、超うめー。

 

 ぶっちゃけ、

 今回で上位のほとんどを学生肉が占めたけど、まだまだ先生のお肉があるんだよなー。あれは相当にうまいはず──楽しみだなー。

 

『……ちなみに、アタシは今何番?』

 

 あー。

 

「………………わすれたー」

 

 うん、10番あたりにいたのまでは覚えてる。

 あとは数えてないわ、ごめんよー。

 

 

 

 

『死ねッ!!』

「なんでやんねん」

 

 

 

 

 

 こうして、魔物はダンジョンで着実に力をつけていく──。

 無数の屍の上に……。

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

  ズル、ズル、ズル──。

 

 

 ダンジョンの出入り口に向かう血痕が一筋。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 それは、よほどの出血なのだろう。

 ダンジョン奥から点々と続く血の跡は、荒い息をつく男の脚と体から(したた)り、とどまることを知らない。

 

 ……だが、同時に男もまた止まらない。

 

 その歩みは呆れるほど遅いが、男は決してあきらめない。…………絶対に諦めない!

 

 だから、

 

「もうすぐ、もうすぐだ……」

 

 まるで自分に言い聞かせるようにして、その男は呟く。

 しかして、その手には、小さな女の子が抱きかかえられており、ピクリともしない。

 

 彼女の顔面はといえば蒼白を通り越して土気色。

 もはや生きているのかどうか。

 

 傷こそほとんどないものの、

 どうやら、かなりショックを受けている様子。

 

 だが、そんな彼女であっても男は見捨てない。

 自身が満身創痍であっても見捨てない。

 

 そうとも、絶対に見捨てない──。

 

「見捨てるものかよ……!」

 

 それはそう、まるで……まるで大事な宝を守るようにその腕に抱き、一心にダンジョンの出口を目指すのだ。

 

 ……この男、シギンスの手によって!

 

 そう、シギンスだ。

 あのミミックとの死闘を繰り広げたBランクパーティ『岩清水』のリーダーにして、最後のメンバーだ。

 

 その彼の体はすでに毒に犯され、肺はガスに焦がされている。

 さらに、全身傷だらけで満身創痍。背にはボウガンが突き立ち──片足は失われていた。

 

 しかし、それでもBランク。

 

 ベテランからエースの域に入らんとする冒険者だ。

 

 そんな彼の背後には、歩んできた道筋を示すようにゴブリンらのモンスターの死骸が点々と倒れ伏していた。

 

「くっ。あ、あと少しだ──お願いだから、頑張ってくれ」

 

 頼む!

 

(もってくれよ、俺の体。そして、ハバナ王女よ!)

 

 ──ぐぉぉお!

 

 血反吐を吐くように唸り、そして祈るようにして、シギンスは壁に手をつき歩き続ける。

 そして、ようやく見覚えのある通路に──広場に差し掛かった。

 

 ……あぁ、間違いない!

 

 出口だ。

 ダンジョンにある入口前広場だ。

 

 うっすらと明るい陽射しに、ようやくこの地獄から脱出できることを悟り涙を流す。

 

「ここまで……。ここまで来れば──!」

 

 最後の力を振り絞り、シギンスは這うようにして階段を上り、ダンジョンを出た。

 

 

  サァッァア……。

 

 

 その瞬間、空気が変わり正常な酸素が肺を満たす。

 ……あぁ、地上だ。ついに、ついに地上に出た。

 

  どさっ!

 

「あは、ははは……あはははは」

 

 あまりに感動に大粒の涙を流すシギンス。

 

「あははははははははははははははははは!!」

 

 それはダンジョン都市の最難関ダンジョンから生還したときよりも、

 仲間と初めてダンジョンを攻略しきった時よりも、

 何よりも、いつよりも、感動と感涙に満ちていた。

 

 こんなに、

 こんなに嬉しいことはないと……。

 

「だが、まだだ……」

 

 そう。

 まだだ。

 

 そうして、ようやく膝をついたシギンスであったが、まだ倒れるわけにはいかない。

 

 ここまでくれば魔物の襲撃はないし、あの恐ろしいミミックも追っては来ない。

 だけど、死ぬわけにはいかない。

 

 まだ絶対に死ねない。

 せめて、彼女を、唯一救えたハバナ王女を親元に返すまでは──……。

 

 

「お、おい! 無事か!?」

「ッ!」

 

 

 突然かけられた声に、シギンスは慌てて上体を起こす。

 しかし、全身に走った激痛に顔をゆがめるだけで、身体は頭で思ったようには動かず、少し動いただけだった。

 

「あ、アンタは……」

「あぁ、俺だ! ギルドマスターだ!」

 

 お、おぉ……。

 なんという僥倖か。

 

 ダンジョンを出たシギンスを迎えたのは、ベルント村に在する冒険者ギルドのマスターであった。

 どうやら、送り込んだパーティの事が気になってずっとここで待っていたらしい。

 

 ダンジョンを監視している管理人の所まで行く体力もなかったシギンスにとって、これほどありがたいものはなかった。

 

「た、助かった……。すまないが、この子を頼む」

「ああ……それは構わんが、一体なにがあった? 他のメンバーは?! 生徒達は!」

 

 矢継ぎ早の質問。

 それに答えるのは酷く億劫(おっくう)だったが、ことは一刻を争う事態だ。

 

 少なくとも、あのミミックはまだ生きているし、

 生徒達の亡骸もまだあそこにある。……大事な仲間も置き去りだ。

 

「頼む。今から言うことをすぐにギルド本部に報告してくれ。……もちろん、王都にもだ!」

「わかった、俺に任せろ!」

 

 力強く手を掴んでくるギルドマスターを頼もしく思い、彼から受け取った水薬を一気に飲み干すと、代わりにハバナ王女を託す。

 

 そして、体中の力を振り絞り、ダンジョン内であったことをかいつまんで話す。

 

「じ、じつは……」

 

 

  生徒達の末路。

  Aランクであるサンダースの死闘と、

  自分たち『石清水』の激戦。

 

  ……そしてあのミミックのこと。

 

  最後に、唯一救えた生徒の一人、

  ハバナ王女のことも──。

 

 

「──大まかには、こんなところだ」

「な、なるほどな。とんでもないことじゃねーか。……そんで大手柄だ! こっちが王女様なんだな?」

「あ、あぁ。間違いない──」

 

 そっと、ハバナ王女の頬に手を触れる。

 彼女は未だ焦点の定まらない目をしていた。

 

 だが、もう大丈夫……彼女だけでも助けることができた。

 だから大丈夫──……。

 

 彼女だけは、だいじょう…………ぐぶっ!

 

「ぶ、ぐぶぶ……?!」

 

 お、おげぇ。

 ……げほっ!

 

「な、なんだ、これは──?」

 

 血?

 これは、自分の血か??

 

「お、ようやく効いてきたか……さすがはBランク、焦ったぜー」

「な、なに?」

 

 なんの、話、だ?

 

「いやー。お前が一人で出てきた時点でもしやと思ったが、まさかそんな化け物が潜んでいたとはなー」

「ど、どういうことだ? ギ、ギルマス? お、おまえ……」

 

 ま、まさか……!

 

「ああん? ま~だわからねーの? にぶいなぁ、お前。毒だよ、毒。……いや、あえて言うなら追い毒ってやつか? まぁ、ほっといてもくたばりそうだけどよ。万が一生き残ったらマズイじゃねーか」

「追い、毒?」

 

 毒を受けた身体に…………、追加の、毒?!

 しかも別種の?!

 

「……な、なぜ?」

「はー? なぜもなにも、察しの悪い奴だなー。んなの決まってんじゃねーか。……俺ぁ、このガキを含めて生徒たちの実習を強行した責任に問われるだろ? なら、もーこうするしかねーだろうが」

 

 

 …………は?

 

 

「いや、だーからさー。下手に本当のことを報告なんてしてみろよ? なんでそんなところに生徒を送り込んだー! ってなるだろ?」

「それ、は」

 

 あたりまえ……。

 

「だからだよ。ここはいっちょ正体不明の原因不明ってことにして、何が起こったかもわからない状態にしとくのが一番だろ?……起こっちまったものはどうしようもねーしよー」

 

 んな?!

 ば、ばかな!!

 

「──ふ、ふざけ、るな!」

 

 げほっ!

 な、何人死んだと思ってる?!

 

「こ、子供、だぞ」

 

 子供が30人以上も──!!

 

「知るかよ」

 くっ!

「──そ、そんなことを、しても、いずれ国は動、くぞ!」

 

  げほっ!

 

 王族を含む、この国の未来に重鎮達が一斉に消息を絶ったのだ。

 それもダンジョン実習でだ。その辺の冒険者とはわけが違う……放っておくわけがない。

 

 必ず、国はこのダンジョンを捜索するだろう。

 

 そうなったら、このギルマスだってただではすまないはず──……。

 

「んなこたぁわかってるよ。……まー、時間稼ぎだな。ほら、死体のない事件ってのは、なかなか捜査が進まねーっていうだろ? あんな感じでひとつ、ってな」

「──な、なんだと?!」

 

 まさか、そんなことのために?!

 

 たしかに『原因不明』と、『原因判明』では初動が全然違うだろう。

 

 …………違うだろうけどさぁぉぉ!

 

「き、貴様ぁあ……!」

 

 その保身のせいで、この先何人のぉぉお────おぐぅ!

 

「ご、ごほっごほっ!」

「おいおい、無理すんなって。……せっかく頑張ってくれたんだ。せめてもの情けに、行方不明扱いにはしといてやるから……、さッ!」

 

 ──どがっ!

 

「ぐがぁ!」

 

 何をされたのか。

 一瞬わからず、ただただ浮遊感を感じた。

 

 ……いや、そうか。

 この感じは蹴り飛ばされたのか。

 

 それを理解したときには、すでに毒で視界すら濁っていたシギンスにはそれを防ぐ術もなく、

 あれほど渇望していたダンジョンの外からあっという間に、再びダンジョンの中へと逆戻りとなってしまった。

 

「がっ! ご、があ……!!」

 

 明るい地上が遠ざかり、暗闇が広がっていく。

 そんな中、ダンダンッ! と体がダンジョンの階段を跳ねる音を聞きながら──それでも、最後の最後まで、ハバナ王女を抱くギルドマスターの姿を、霞む視界でぼんやりと睨みつける。

 

「ぐ、ぐがが……!」

 

 貴様、

 貴様──……!

 

「貴様ぁぁぁああアアアアアアアアア!」

 

 血を吐き、毒で内臓を溶かされながらもシギンスは叫ぶ!!

 魂の底から叫び、怨嗟をまき散らす!!

 

 

「ぐぁおぉああああああああああああああああ!」

 

 

 だが、もはやその声は誰にも(・・・)届かない。

 そして、薄暗い天井が見えるだけで、もはや何も見えない。

 

 そうだ。

 

 ここは新月のダンジョン──……月のない夜のように暗い、暗いダンジョン。

 

 あの化け物が潜む、暗いダン、ジョン──……。

 

 

   ざわざわざわ……

    ざわわわわわ……

 

 

 周囲に魔物が集まりつつ気配がある。

 小さな気配に、なにかが這う気配──それはおそらくこのダンジョンに巣食う魔物(・・)どもだ。

 

 ……あぁ、畜生。

 

 せっかく。

 せっかく。

 

 せっかくここまで生き残ったのに──。

 

 

 

「畜生ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 

 新月のダンジョンにBランク冒険者の血の悲鳴が響き渡る。

 だが、その悲鳴を聞く生者は(・・・)一人としてなし。

 

 

 

 

『……コ、カカカ』

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