ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第57話「軍隊(※)」

 ザッザッザッザッザ!

  ザッザッザッザッザ!

 

 

 王都から寒村へと続く街道を、荷を積んだ無数の馬車と完全武装の騎馬が勇ましく行進していた。

 その堂々たる様に、街道をいく商人に冒険者は思わず道を譲り、彼らの行く先をポカンと眺める。

 

 いっそ戦争でも始まるかという様相だが、

 その行軍姿をみて、それはないかと誰もが頭を振った。

 

 なぜなら、勇ましく行軍し、煌びやかな鎧を纏い、立派な軍馬にまたがって入るものの、彼らの大半はまだあどけなさを残す少年少女のものであったからだ。

 

 もちろん、若手ばかりではなく、

 よく手入れはされているが長年の使用を思わせる鎧や、同じく長年戦場にいたことを思わせる落ちつた軍馬とそれを駆る老兵もいる。

 

 そして、彼らが掲げるのは王国最精鋭を誇る近衛騎士団(ロイヤルガーズ)の旗。

 

 まさか、国王を守る最精鋭がこんな街道に?!

 一度は頭を振り、戦争なんておあり得ないと思っていた商人や冒険者も再び騎士団を振り仰ぐ。

 

 しかし、その頃には長い隊列もさすがに過ぎ去っており、

 その事実は最後までうかがい知れなかった。

 

 ただ、分かっているのは、彼らが百人以上の規模であり、

 向かう先は小さな寒村──リンデン村とそれの傍にあるショボいダンジョンだけ。

 

 一体そんな場所に騎士団が何用で向かうのであろうか?

 

 それを見送るしかできない人々は、小さく、そしてそれでもはっきりとその存在を噂話として次の街、次の街へと伝えていくのであった。

 

 そして、その噂の騎士団であるが、見送る人々の目に映った通り、大半は少年少女である。

 

 一部には「教官」として、退役間近の騎士や、負傷で現場勤務を離れた古参兵もいるにはいるのだが、ほとんどが実戦未了のあどけない子供たちである。

 

 そんな彼らが隊列を敷いて、リンデン村に向かっているのは訳がある。

 

「まったく……。元々の演習を3週間も繰り上げての実施とは──こちらの準備期間をなんだと思っているンだ?」

 

 鼻にかかったような声をあげるのは、隊列から離れた位置を騎馬で進む偉丈夫だった。

 顔には大きな刀傷があり見るからに歴戦の戦士といった風貌だ。

 そして、それを証明するかのように、騎馬から下げる手には、巨大なランスが軽々と担がれていた。肩の肩章からしてこの部隊の指揮官だろう。

 

「ゲーツ隊長ぉ、子供たちが聞いてるんですから、あんまし上層部に睨まれることを言わないでくださいよー」

 

 そして、ゲーツと呼んだ隊長格に向かってやや軽薄そうに話すのは、口調と同じく、ヘラヘラとした細目で細身の騎士であった。

 もっとも、口調のわりに隙はなく、身なりもきちっとしたっと整えている。

 軽騎士の出で立ちと肩の徽章からしてどうやら紋章官らしいとだけわかる。

 

「だまれベンウッド。お前がギリギリまで準備に着手しないから、我々はろくに休めていないんだぞ──隊長、もっと言ってやってください!」

 

 そしてその紋章官ことベンウッド卿の軽口にいら立つ口調で答えるのは、ハーフプレートアーマーに身を包んだ双剣を腰に差した副官の肩章をつけた騎士──背が高く、きつい目つきをしているが金色の髪と青い瞳が美しい妙齢の女騎士だった。

 

 どうやらこの三羽烏が、この部隊の指揮官クラスのようだ。

 

「ふン。俺も言いたいことはいくらでもあるさレイラ。……だがまぁ、上層部直々の命令だ。しかも、大至急ときた」

 

 レイラの愚痴には付き合わず、ゲーツ隊長は隊列を横に見ながら、懐から命令書を取り出し、眺めて一度ためいき。

 

 そしてまた戻す──。

 

「行方不明者の王族などの捜索……か。まったく騎士団見習いにさせることか、これが」

「まーまー。隊長! 近くで動けるまともな部隊が我々しかいなかったんだからしょうがないっすよー」

 

 たしかにベンウッド卿の言うことは正しい。

 正しいのだが……。

 

「まーた貴様は、適当なことを……。たしかに、元よりそのダンジョンでの演習は想定されていたから派遣されるのはやぶさかではないさ。だがな? 近くにいたからとはいえ、我々はまだ訓練未了のひよっこ部隊だぞ?」

 

 チラリと隊列を流しみるレイラ。

 

 全員、それなりに良い体格をして所作もそれなり。

 行軍隊形も乱れていないし、武具に疲れた様子もない。……見た目だけでいえばその辺の貴族の私兵よりもはるかに優れているだろう。

 

 だがそれでも見習いは見習い。

 

「見ろっ。まだ一度も実戦をしていない、ママゴトの段階だ。そんな部隊に演習ではなく、捜索任務だと?? バカな! 想定外の事態に弱くて使い物にならんとは思わんか」

 

「あははー、それを実戦で鍛えるんじゃないですかぁ」

 

 ヘラヘラと笑うベンウッド卿は、女騎士レイラの言葉にああいえばこうかえす。

 どうも、ゲーツ隊長を始め指揮官クラス3人はあまりこの任務に乗り気ではないようだ。

 

「ふン。……まぁいい。いずれ経験はせねばならンことだ──それに、お前たちの言う通り、元々、例のダンジョンでの演習は予定されていたしな」

 

 それも、魔法学園の実習が終わった後、その野営地を引き継ぐ形で、同じ場所で実施予定だった。

 それが早まっただけとも言える。

 

「そうそう。隊長の言う通りですよー。おかげで楽じゃないですか。特別任務のわりに、目指す先の新月のダンジョンについてはある程度の下情報は手元にあるわけですし」

 

 だからこそ、

 なおのこと一番動きやすい部隊として派遣されたのだろうが──それはまぁいい。

 

「だがな。『楽』と『成功』は別物だ。……もとはダンジョン内での連携を確かめる訓練だ。そこに、余計な任務を負うと行動に支障が出る。そも、王族たちの行方不明捜索ってンのがな」

 

 ガシガシと、頭を掻くゲーツはそこが腑に落ちないのか浮かない顔だ。 

 ただの素人ダンジョンで行方不明なんてありうるか? と──。

 

「その辺の情報は? レイラ、何か聞いておらんか?」

「自分は……おい、ベンウッド! 情報収集はお前の領分だろう」

 

 ゲーツ隊長に振られた副官のレイラは、

 同僚であるベンウッド卿に振り返る。

 

「はいはい。わかってますって、少々お待ちを……え~っと、これ、かな」

 

 ベンウッド卿は、紋章官らしく、記帳鞄を取り出すと、その中でも分厚い資料を抜き出しそれを高速でまくりながら抜粋していった。

 

「あったあった。はい、ゲーツ隊長。あ、レイラちゃんも」

「だれがレイラちゃんだ! 誰が──……む?」

 

 二人分の資料をいつの間にかしたためていたらしく、そこには今任務の中でも逐次更新されていく情報がまとめられていた。

 そこにあったのは、まさに最新情報だ。

 

「ほう……。Aランクの冒険ン者も派遣されていたのか?」

 

 ゲーツが派遣されたAランクの名前を見て目を細める。

 

「Aランクをですか?……しかし、あそこは低ランク帯のダンジョンでは? そんなところになぜ? そもそも学生とはいえ魔法学校の最優秀生徒が30名近くも行方不明のなるなんてありえるのでしょうか?」

 

 首をかしげるレイラ。

 彼女のいうことには一理ある。

 

「それを確かめてこい、というのが今回の任務だ。どういったわけか、一人を除いて(・・・・・・)誰一人戻ってきてない(・・・・・・・・・)らしいのでな」

「まさか、そんな!」

 

 レイラは訝しがり、もう一度資料を読み返す。

 だが、情報はそれだけだ。原因については一切記載がない。

 

「──つまり、これでは……何もわからんということでじゃないか。おい、ベンウッド! いい加減な調査をしおって貴様ぁ……」

「いやいや、睨まれても困りますよー。これだって、苦労したんですよ」

 

 それはそう。

 なにせ、Aランクが動く情報なんて、冒険者ギルドの上層部にしか通常は知らされることはない。

 

「しかしだなー……」

 

 不満顔のレイラは資料を睨みつつ、上目でベンウッドを冷ややかに見つめる。

 Aランクも含めて、生徒35名が教員含んで行方不明だぁ?……それも低ランクダンジョンで──??

 

「しょうがないじゃないですか。マジで何もわからないんですよ。一応生き残りがいるみたいなんで、そいつと面会する手はずは整えていますけどね。それだってどこまで信用できるかどうか」

 

 これにはゲーツ隊長もレイラも頷く。

 所詮は冒険者だ。誇りもない連中の証言などあてになるかどうか。

 

「まぁ、それ以前から、どうも相当数の行方不明者が出ていますね。意図的に冒険者ギルドで情報を止めていたようですが、今回の一件でさすがに隠し切れなかったみたいです。それによると、これまでに確認できただけでBランクパーティが複数。それ以下の冒険者も多数……。どれもこれも、この短期間のうちに相当数です」

 

 多角的に情報を収集し分析していたベンウッドはそう言って締めくくる。

 

 どうやら、これら情報は、本来おいそれと出回る類のものではないのだろう。

 だのにベンウッド卿のもとにあるということは、おそらく、彼が冒険者ギルドの内部にスパイを飼っているか、独自のコネを持っているに違いない。

 まぁ、それ自体はどうでもいいこと──。

 

「ギルドが情報を止めていただと? 初耳だな」

「ええ、愚かなことですよ。ぶっちゃけ、魔法学校の実習が先行していなければ、最初に行方不明になっていたのは我々だったかもしれませんねー」

 

 そう言って笑うベンウッド卿。

 

 だが、冗談ではない。

 実際、同じ場所、同じ規模感で実習をしようとしていたのだから笑い事ではない。

 

「予算の関係で、野営地を引き継ぐと聞いていたが──行方不明になった彼らと同じところを使うのはぞっとしないな」

「あれー? レイラちゃんもそーいうの気にするんです?」

 

 身体を抱きしめるレイラを揶揄うベンウッド。

 それを無言で叩きつつ、レイラはゲーツ隊長に確認した。

 

「隊長はどうお考えで?」

「ふむ?……うむ、命令である以上、行くには行くが情報が少なすぎて、今、どうこうは言えンな──ただ、」

 

 「「ただ??」」

 

 思わずハモるレイラとベンウッド卿。

 

「今回の任務は一筋縄ではいかんと覚悟した方がいいかもしれん──二人には明かしておくが、上層部。つまり陛下筋から厳命があった」

 

 なんと!

 

「そ、それはどのような?」

「僕も初耳ですね」

 

 それはそうだろう。

 まさに極秘情報なのだから。

 

「うむ。実は、グラハム、ハバナ両殿下の捜索と平行して、グラハム殿下が持っていたであろう国宝についても捜索が下命されている」

 

「国宝、ですか?」

「あ、もしかしてそれって、『キャルトール』です?」

 

 首をかしげるレイラに反して、

 なにかを察したらしいベンウッド卿が『キャルトール』の名を上げる。

 

「知っているのか、ベンウッド。さすがと言いたいが、口外無用ぞ?……その国宝キャルトールはグラハム殿下の手にあったはずなのだ」

「もちろんですよ。折れず曲がらず──魔法すら切り裂く魔剣とのことですよね」

「うむ……まぁ、逆に言えばそれだけなンだが、あンな低ランク帯のダンジョンに放置しておいていいものじゃない。それだけでも絶対に回収するぞ」

「なるほどー。行方不明者の捜索と同時に、国宝の回収ですか。……それは、急遽派遣されるわけですね」

 

 だから訓練未了であっても、

 一番近くにいた近衛師団の見習い部隊が派遣されたのだと、合点のいったレイラとベンウッド卿。

 

 それ以前に、この近衛騎士団の見習い部隊は、魔法学校の実習の後に同地で研修予定だったので、なおのこと都合が良かったのだと思われる。

 

「逆に言えば、それだけに……。陛下はもしかすると最悪の事態も想定しておられるのかもしれん」

「つまり──殿下はすでに……」

 

 ……それ以上は語れない。

 彼らは騎士であり、近衛だ。

 

 陛下に怒りに触れるようなことは口に出すことさえ、許されない。

 

「まぁ、そういうことだ。……低ランクダンジョンとはいえ、油断するな? 何かが起こっているぞ」

「了解です!」「了解~」

 

 そう。

 何かが起こっているのは間違いない。

 

 そして、ダンジョンで起こったのも間違いない。

 

 少なくとも、外部の勢力が拉致したという情報はないし、それらが侵入して貴人を一掃したという話も聞いていない。

 まずもって間違いなくダンジョンに入ったのは確実だ。

 

 

  だが、出てこない……。

 

 

 誰一人として、

 生徒たちもその捜索救助に向かった者たちも──。

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