ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第59話「精鋭部隊(※)」

「第1小隊整列!」

「第2小隊も整列!」

 

「「第3、4小隊も整列完了!!」」

 

 各25名、

 総勢100名ほどの見習いで構成された、近衛騎士団の訓練部隊が心月のダンジョンの入り口まで整列していた。

 

 そして、

「──ご苦労! では、諸君は隊長ら(・・・)の偵察が終わるまで野営の準備をすませておくこと! いいな!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 もっとも、訓練部隊とはいえ、彼らは近衛見習い。

 その中でも貴族師弟からなる優秀な子供たちであり、練度だけで言えばその辺の地方貴族の私兵よりは遥かにうえとされ、

 王国陸軍と比較しても一般兵レベル並みに高い技量をもっていると評されている。

 

 その彼等が。

 見習い小隊の各小隊長がキリリと敬礼を返し、

 副官であるレイラの命を受けて、一斉に野営準備に取り掛かった。

 

 なるほど、たしかにその動きは手慣れており、野戦行動だけならいっぱしの騎士団にも負けないほどだ。

 もっとも実戦は未経験、そして、ダンジョントライは初となる。

 

 ──そのための訓練、そのための実習……。

 

「ゲーツ隊長、こちらは問題ありません」

「うむ。では──教導隊を集合させろ」

 

 そう。

 そして、そのため、隊長のゲーツ以下、ベンウッド紋章官だ。

 だから、まずは見習いたちの教官をはじめとしたベテラン勢で先に現地を見に行くことにしたという──。

 

「こっちは準備オッケーですよ」

 

 ベンウッド卿がヘラヘラと笑いつつ、完璧に仕事をこなす。

 よき。じつによき。

 

 あとは、行くのみ。

 そして、この場は小隊長と副官に任せておけば問題はない。

 いや、まったく問題はないわけではないが──。

 

「……むぅ? それでベンウッドよ。案内役の冒険ン者はどうした?」

「あはは、それがですねー」

 

 威圧するようなゲーツ隊長のそれを受けて、まいった参ったと頭を掻くベンウッド卿。

 彼はいつもの飄々としたそれでなく、本気で困り果てている様子。

 

「ン? どうした? 当初の予定では、それぞれに冒険者をつけるのではなかったか?」

「いやはや。実は、あの村の冒険者ギルド──……いま、機能してないっす」

 

 ……は?

 な、なに?

 

「な、なンだと? 機能していないとはどういうことだ?」

 

 予想外の言葉に戸惑ったゲーツはおうむ返しのようにベンウッド卿に尋ねるも、答えはさらに予想外。

 

「いやー。僕もびっくりしちゃいましたよ。……あそこ、ギルドマスターが夜逃げしたみたいっす」

 

「は?」

 

 ──はあああああああああああ?!

 

「せ、責任者が夜逃げだぁぁ!? どういうことだ?!」

「それが、ほら──例の魔法学校の生徒たちの行方不明の一件以来、行方をくらましてるみたいですね。……多分、実習を強行したことの原因を追及されるのを忌避したんじゃないかと」

 

 な、な、

「なんだとぉぉおお?!」

 

 目を見開くゲーツ隊長は、

 そんなことは聞いていないとばかりに顔をゆがめるも、どうやら事実らしい。

 

 今回の件はやはりというか、予想通りというか。

 バカで保身しか考えていなかったギルドマスターの不手際が全ての元凶らしい。

 

 だのに、その原因を作ったギルドマスターはといえば、生徒が帰ってこないのを見るや否や、いち早く私財やギルドの金品を持ち出し姿をくらませたのだそうだ。

 

 さらには、あろうことか学生たちが置いていった私物まで略奪していったという……。

 

「な、なんという愚か者か……! しかし、やってくれたな──そのギルドマスターはすぐに指名手配せねばなるまい」

 レイラも憤慨している。

 もちろん、この場にいる者は全員同感だ。

「えぇ、その手続きはギルドに残った職員にさせときました。あとは、その代わりの案内役ですが。……おい」

 

 そう言いって、ベンウッド卿が引きずってきたのは一人の冒険者だった。

 

 Dランクだと(うそぶ)くそいつは、かつて、魔法学校の生徒の案内を仰せつかった一人だという。

 

「コイツが例の生き残りですねー」

「ほーう」

 

 どこからどう見ても、その辺の小汚い冒険者だが、

 話を聞くに、間違いなく生徒達を案内した一人だという。

 

「は、放せよ! お、おれぁ、なんもしてなーよ!」

「わかってますってー。いいから大人しく来なさいってば。……隊長。とりあえず、事情を知ってるのはコイツだけみたいです。ほか冒険者はなんも知らない腰抜けばっかですね」

 

 そう言ってフン縛ってきたそいつの頭を小突く。

 

「……そいつだけか」

「あとは、全員行方不明らしいですねー」

 

 あー。

 そういう話だったな。

 

「……ふむ。まぁよい。一人でもいれば十分ンだ。どのみち、ダンジョンで大部隊の行動はできン」

「あ、やっぱそうですよねー」

 

 当たり前だと鼻で笑うゲーツ隊長。

 ダンジョンがごとき閉鎖空間で大軍が何の役に立つというのか。

 

 分隊でも多いくらいだ。

 入ってまともに探索できるのは3~4人にサポート1、2名といったところだろう。

 

 もっとも、そんなことを知らない上層部はとにかく王子の捜索のためにと、大軍を派遣したつもりなのだろうが、無駄な出費もいいところだ。

 

 そして、ゲーツが指揮する近衛騎士団の訓練部隊の演習においても、

 当初の研修計画では一個小隊ずつのダンジョンに送り込み、さらに、内部でそれぞれの分隊ごとに行動させる予定であった。

 

 それが今回は、本事態を受けて先にこの問題を解決するため──先んじて隊長をはじめ教導隊を送り込むだけの話だ。

 

「まったく……。そもそも、何もわからないダンジョンに、ひよっこどもを送り込むなど、無謀以外のなにほどもないわ」

「ですよねー」

 

 だからこそ、最初に最大の戦力を投入するのだ。

 本当なら斥候を送りたいところだが、幸いにもその手の兵が手元にいない。

 

「ならば、経験者なりベテランだけで固めたほうがいい。我ら教官陣なら、何が来ても負ける要素はないわ!」

 

 クククと含み笑いし、

 ギラリと凶悪なランスを頭上に掲げるゲーツ。

 

 本来なら長物はダンジョンでは不利とされるが、それは素人考えだ。

 ゲーツのように長物を長年扱ってきた戦士にとってそれははもはや手足と同じ。狭かろうが何だろうが関係はないのだ。

 

「え? ってことは、隊長自ら行くんすか?」

「他に誰がいる?」

「いやー。レイラさんがいるじゃないですかー」

「馬鹿め。レイラをおいて、誰が留守を守る」

 

 そもそも、そのための副官だ。

 

「えー。留守番なら、僕がいるじゃないっすかー」

「馬鹿め。お前は戦果記録係だろうが──紋章官を戦場に同行せンでどうする」

 

 そのための紋章官。

 そのための騎士だ。

 

「やだなー。怖いじゃないですかー」

「ふンっ。まぁ、お前の言う通り、指揮官自ら行くというのはお世辞にも褒められたことではないンだがな──やむを得ない場合もある」

 

 なにせ、騎士団と銘打っているものの、こちらは所詮は訓練部隊だ。

 練度は高いし、たしかに装備も優秀。

 

 そして、ゲーツ自身も手練れとはいうものの、

 その実として、すでに負傷が原因で第一線を引いている身だ。

 

 それは他の教官連中もおなじ。

 皆、年をとったか、負傷で教導部隊に転出しているモノばかりだ。

 

 もっとも、それでも手練れは手練れ。

 そして総じて実戦経験が豊富だ。こと、練度だけで言えば王国最強クラスといえよう。

 

 ただし、それは兵としてみた場合だ。

 それ以外は、まともに前線指揮官を経験しているものがいないのだ。だから、こうして指揮官自ら陣頭に立っているわけだ。

 

 とくに、こうして王からの勅命をうけ、かつ遭難者の捜索などという逼迫した事態ならなおのこと。

 まぁ、この場にいる指揮官クラスは、王子を始め誰一人生きているとは思ってはいないのだが……。

 

「それともなにか? いっそ、貴様が捜索隊の貴様が指揮するか?」

「じょーだん! 僕は記録係ですよ」

 

 よく言う。

 留守番なら買って出るくせに。

 

「ふンっ。まぁいい、留守をレイラに任せたらすぐにでもダンジョンに突入する」

「あいあいさー」

 

 口調のわりにてきぱきと準備を整えていくベンウッド卿を見ながら、ゲーツ隊長は連れてこられた冒険者を見下ろした。

 

「で、貴様だ。案ン内はできるな──……いや、断ったらわかっているな?」

「ひへ?! で、でもよぉー」

「でももクソもあるか。これは命令ぞ」

 

 しかし、脅しても威圧しても、なかなか首を縦に振らない冒険者。

 どうやら中がよほど怖いらしい。

 

 ──ならば、外でも怖くしてやろうかとなおも威圧するゲーツ隊長。

 

「わかっておらンようだな?……なかで遭難したのは、やンごとなき人だぞ?……なのに、その案内を仰せつかっていた貴様は、一度任務を放棄して逃亡しているな? その意味はわかるか?」

「え? や、そ、それは──」

 

 なにがそれは、だ。

 それしかないだろうが。

 

「ふん。馬鹿め……。つまり、今ここで断れば、貴様は逆賊と同じよ。即刻首を切られても、誰も問題にはせンのだ、それがわからンのか?」

「な、なんでおれが……!」

 

 冒険者がなおも言いつのろうとするが、無駄なことだ。

 これは脅しでも何でもなく、本当のこと。

 

 ギルドマスターは当然ながら、

 案内役を受けて、逃げ出したコイツがなぜ無事でいられると思っているのだろうか?

 

 この事件の関係者で許される(・・・・)のは、おそらく中で遭難し、今も帰還していないものくらいだろう。

 

 もっとも、それらが今も無事とは思えないがな!

 

 それ以外に関わった人間は、おそらく、今後何かしらのお咎めがあるはずだ。

 ギルド職員しかり──……魔法学校の職員しかり、

 そして、当然、コイツもその対象だ。

 

「一から説明してやってンもいいが、その分、我々の心証は悪くなる一方だぞ? それくらいなら、此度(こたび)の件に口添えできる我々に協力したほうがいいと、阿呆でも理解できると思うンがな────ン、どうする」

 

「ぐぅぅ……。ち、ちくしょうー! わかったよ!」

 

 そこまで言えばさすがの冒険者もようやく理解したのか苦渋の表情で頷いた。

 もっとも、その顔面は蒼白を声て土気色だ。

 そりゃこのダンジョンに常日頃接してきたら、今の自分がどれほどの確立で生き残れるかむしろ、知っているだけに分かりすぎていたからだろう。もっとも、ここで案内を断ったとて生きられる保証はなし。

 

 ──むしろ首が飛ぶのはそっちの方が早いのは明白なので、この哀れな冒険者は頷くしか選択肢は残されていなかったのだ。

 

 こうして、震えながらも装備を整えていく冒険者を見張りながらも、自部隊の編制も進めていくゲーツ隊長。

 

「よーし、各員は2個分隊編成を取れ!」

「「はっ!」」

 

 その編成は古参兵からなる教官を5名づつの二部隊にわけたもの。

 それを、それぞれゲーツとベンウッドの二人が指揮し、案内役の冒険者を先頭に立たせる──計13名からなる部隊だ。

 

 もちろん、先頭の分隊はゲーツ自ら指揮をとる。

 

「…………隊長ー。口添えするなんて嘘でしょ」

 フッ。

「なにを言うか。俺は嘘などつかンよ。ただ、それが助命の嘆願になるかどうかまでは知らン」

 

 報告は指揮官の勤め。

 そこにあの冒険者のことは、そりゃ含まれるとも。もっとも、助命の内容が含まれるかどうかは……約束などしていない。

 

「わーるいんだー」

「ふンっ。子供たちをダンジョンに見捨てて逃げるような奴に生きる価値などない」

 

 そうだ。

 子供の命がかかっているんだぞ────。

 

「まったく気が重い……。胸糞の悪い任務だ」

「同感ですねー」

 

 どうせ、行方不明になって数日だ……。

 生存者は見つからないだろう。

 

 ギルドでだって、3日間の行方不明が続けば遭難認定をするくらいだ。そして、遭難後の処置は基本的に、遺品か遺体の回収となる。

 

 というか、ダンジョン内に放置されて数日だ。

 遺体があればいい方だ。

 

 ……あったとしても、状態はおそらく最悪だろう。

 

「遺骨や体の一部が見つかれば上々よ」

「やー。まだ死んだと決まったわけでは……」

 

 ふん、おためごかしをと、

 ペンウッド卿の呟きを鼻で笑うゲーツ隊長。

 

 本音でいえばベンウッド卿も生きているなど思っていないのは、その態度でバレバレだがな。

 

 ま、よくて、遺品の回収だろう。まったく気の上がらない任務だ。

 

 それでも任務は任務。

 命令は命令だ。

 

「……最悪でも魔剣『キャルトール』は回収せねばな──」

「ですねー」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、気の重い任務を胸に、王国の最精鋭が新月のダンジョンに挑むのであった……。

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