──生存者発見!
「な、なに!?」
その報告に、目をむくゲーツ隊長。
全員死んでいると確信した矢先にこれか!
「ど、どこだ!」
「こ、ここです! ここに、い、一名……! 少女が一名いまーす! よ、要捜索対象です!!」
「なン、だとぉぉお?!」
先行していた偵察員が前方をカンテラで照らしつつ、指を一本掲げているではないか。
見れば、たしかに机に突っ伏したように動かない黒髪眼鏡の美少女がそこに!
外からでは、あまりに小柄で気づかなかったが、たしかに生徒らしい──。
「か、確保! 確保だ!」
いそげ!
──衛生兵前へー!
ゲーツの指示に、あわてて駆け寄る衛生兵が2名。
ちなみに、ゲーツとペンウッド卿の分隊は、それぞれ5名の隊員からなるが、その内訳は、偵察員が1、衛生兵が1、そして戦闘兵が3名の編制だ。
そして、その衛兵兵に追従するようにして、ゲーツ以下は隊列を崩さないようにしてなるべく急いで生徒に駆け寄った。
もちろん、例の冒険者が逃げないように、しっかりと先頭に立たせて追いやるように──……。
「……って、なンだそれは?!」
思わず漏れた声に、自分で驚く。
だってそうだろう!!
(こ、これが生徒?)
この子が要捜索対象だって?!
……あぁ、たしかに生徒だろう。
黒髪眼鏡の美しく高貴な顔をした少女だろう。
青白い肌はシャツで隠れているが、
上着こそ着てはいないが、魔法学校第5学年を示すリボンのついた帽子は間違いなく生徒だろう。
杖だって持っているし、
ご丁寧に学生証まで机に添えてある。……あるんだけど──。
「ッ! ま、まて!」
その時、ゲーツ隊長は何か嫌な予感を感じて思わず叫んだ。
「隊長?」
「どうしました?」
生徒に掛けよった衛生兵が不思議そうに振り返る。
な、なんだ?
なにか、なにか見落としているような──……あ!
「……そ、そうか!」
黒髪眼鏡の美少女。
あれは知っている。
あの子は知っている────!!
あの突っ伏したままピクリとも動かない──それどころか生気を全く感じないあの子を知っている……!
近衛ならだれでも知っているはず…………。
あの、エーベルト公爵が目に入れても痛くないほど可愛がっていた愛娘にして、公爵令嬢!
そう。
王国唯一の公女……。
「──そ、それはリーデル・エーベルト嬢か?!」
「「はぁ?」」
衛兵兵を始め兵らが不思議そうな顔をしたのも無理はない。
──だってそうだろう?
数日前より行方知れずで、ダンジョン実習から先、誰も姿を見ていないはずの彼女がここにいるのもさることながら。
なによりも。
そう、それよりもなによりも……!
あの、
「ッ!」
し、しまった、やられた!
すくなく見積もっても、
あの制服の損傷なら、間違いなく下半身は欠損しているはず。
ということは、こ、
こ、これは……。
これは────!!!
「え、衛生、今すぐ離れろぉぉおお!」
その少女から!
……否、
「「へ?」」
違和感に気付き、思わず声を荒げたが時遅しッ!
駆け寄った衛生兵2名が、偵察員の照明のもと生徒を揺り起こそうとしていた、まさにその瞬間だ。
ドサリッ。
どちゃ……。
ほんの少し兵が触れただけで、しめった音を立ててずり落ちたリーデル・エーベルト嬢の……半身。
その目は、すでにどろりと濁っていてなにも見ていない。
いや、
それどころか、すでに生きてすらいない……。
いや、違う。
違う違う違う!!
そんなことはどうでもいい、死んでいるなど、百も承知だ!
そうではなくて、
とっくに死んでいるはずの彼女がここで寝かされていたのはなぜか!!
(……あぁ、決まっている! そんなの考えるまでもない!!)
「ちぃぃ……! やられた!!」
──それは戦場の常とう手段。
馬鹿な新兵がよく引っかかるやつで────……ピィーン♪
「ッッ!」
唐突に教室内に響き渡ったのは、なにかが弾かれる軽やかな音。
……あえて言うなら、ピンを抜いた音だろうか?
そして、思った通り、
彼女の軽くなった体に結び付けられていた
それだけですべて理解した。
その音を聞いて、すべて納得した。
あぁ、やっぱりワイヤートラップだ。
戦場で嫌というほどみた、あのいやらしい罠が。
死体を弄ぶ、忌み嫌われるあの悪質な罠が、何でこんなダンジョンにぃぃい────……!
「──そ、総員伏せぇぇええええ……!」
……これは、
これは、罠だぁぁあああ────……カチッ♪
──ブシュゥゥウウ!!
「う、うぎゃぁぁああああああ!!」
「がぁっぁあ!」「あづぁぁああ!」
ゲーツ隊長の退避の声が響き渡るや否や、ついに発動したトラップ!!
それは、リーデル嬢の死体の下に隠されていたのだろう。
だから、彼女の死体諸共発動した!
──刹那、響き渡る絶叫!
「ちぃぃいい!」
やられた!!
「……よりにもよって、煮え湯か!」
こちらまで飛んできた飛沫を辛うじて躱し、
次いで漂ってきた悪臭に、思わず鼻を覆うゲーツ。
直後、むせ返るほどの油のにおいと、肉の茹る香りが鼻腔周りに漂ってきた。
「くっ! や、やってくれたなぁ……」
……見れば、まともに食らった衛生兵がのたうち回っているし、
そのそばでは、濁った眼のリーデル嬢の半身がグズグズと茹っていくではないか。
「がぁぁぁああああ!」
「ぎゃぁぁああああああ!」
そして、
直撃をうけた衛生兵だけでなく、巻き添えを食らった冒険者までもがのたうち回っている。
あぁ、畜生!
やっぱり、あの位置……。
おそらくリーデル嬢の真下──床にトラップが備え付けられていたのか!
やってくれる!!
「隊長、無事ですか?」
「あぁ、俺はな」
ベンウッド卿がさりげなく盾でガードしつつ、次弾に備えているが、おそらく二撃目はない。
「みろ」
「えぇ、典型的なブービートラップですね」
あぁ、そうだ。
そして、それに引っかかった。
くそっ。
「圧力開放タイプですねぇ」
「うるさい! わかっている!!」
そんなの素人でもわかるわ!
「……事前にトラップを発破させておいて、上に
「そして、間抜けにもリーデル嬢に触れたが最後、彼女の重しが退いた途端に、すでに発動していたトラップが、ボンッ! っていう仕様ですねぇ。いやー、いやらしい罠ですね」
「ふンっ」
どこのだれか知らんが、やってくれる……。
だが、これしき!
「被害ほうこーーーく!」
ゲーツ隊長のいら立った声に弾かれたように動く衛生が1名!
「ひ、被害は偵察員と自分、それぞれ1名が軽傷! 衛生の一名と冒険者は重傷です!」
腕を火傷したのか、底を抑えながら衛生が自らも軽傷だと報告する。
つまり、3名の重軽傷者か! 冒険者はどうでもいい。
「ちっ。よりにもよって衛生か!」
しかも煮え湯だ。
クロスボウ程度なら装甲で何ともなるが、煮え湯はなぁあ……!
「わかった! 無事なものは、
悲鳴が響き渡るところを見るに、重傷の衛生兵は全身大やけどだ。
さらには顔を覆っている様子から、すでに声も光も届いていないかもしれない。
「あと、そこの冒険者もさっさと黙らせろッ! うろつかれて、他のトラップが誘発させられてはかなわん──………………って、んなぁッ!」
「ぐぁぁあああ、ああああああ、ああああああああ!」
──し、しまった……!
どうやらその警告は少し遅かったらしい。
のたうち回る冒険者が、他のトラップを次々に誘発させやがる!
「くそー! よ、よせ! 無暗に動くな!」
だが、目も耳も聞こえていないのか、冒険者が暴れに暴れ回る!
これはもう、自分の不手際を呪うしかない。
…………いや、そうか!
そもそも最初から、
「
だからその周辺にトラップがやたらと多かったのか!
なんて、いやらしい罠をぉぉお──!
「総員退避、入口まで退避ぃぃ!!」
「隊長、ガスです!」
ええい、
見えているわぁああ!
冒険者が踏んだトラップが複数発動し、四方八方から飛んでくるクロスボウ。
それらは、なんとか躱したり、ランスで
「いいから引けぇ! 引けぇぇえ!」
ブシュゥゥウウ!
刹那、吹き出す猛毒のガス!
ちぃぃ……、これはさすがにランスではどうにもならない!
天井に床にと、噴出される霧状のそれがゲーツ隊長らを襲う──……だが、甘いわァ!
「ふん!」
ブワッッ!
部隊を襲わんとしたガスにむけ、盾を大きく構えるとそのまま一閃!
その風圧でガスを拡散させると、素早く腰のポーチから解毒剤を取り出した。
「いまだ! 総員、対毒戦闘よーい!」
ガスが晴れた一瞬をついて全員が弾かれたように動く。
見れば、騎士たちは慣れた手つきで解毒剤を含み、毒物に警戒しているが、
「く、か……」
「ぐげぇぇ!」
のたうち回る重傷の衛生が一人と……あの冒険者が一人、毒をまともに吸い込んでしまったらしい。
「くそ!」
次から次へと……!
「おい、邪魔だ! お前らはそいつらを連れて、さっさと下がれ!」
「は、はい!」「了解!」
軽傷の衛生と偵察兵は互いに支援しつつ後退。これで兵士2名が減少。
さらには、重傷の衛生と冒険者後送するのに、健常な兵が4人………………あっ!!
「ま、まて! 後送まて!」
まずい、
なんでこのタイミングで罠が発動した?
そもそも、連動型のトラップというのは基本的に単体ではありえないはず。
つまり、なにかしらの意図が──………………あああああ!?
「し、しまっ……」
「はい、遅ーい」
ドシュッ!
「……ぐふっ?」
ん、んなぁっぁあ?!
「ば、ばかな……」
トラップの意図に気付いて、慌てて兵に指示を出そうとしたゲーツ隊長であったが、ついに二の句が告げられずに、代わりに血反吐を吐く。
「な、なんっだ、これは?」
鎧が貫通、だと?
「がふっ……?」
ズシンッ。
背中から腹まで貫く激痛に、思わず膝をつくゲーツ隊長。
「あははは!──ばっかだねー。敵地で悠長にセオリー通りの、
「な、が……」
だ、
誰の声だ?
「が、がふっ」
しかし、口にしたものは何ひとつ言葉にならない。
ただただ、パタタッと、溢れる真っ黒な血をみて、肝臓がやられたと気づくのみ……。
「くっ、が……」
そしてなによりも、
「キ、キャルトール、だと──?」
なんと、
探していたはずの国宝『キャルトール』が、なぜか重装甲を貫いて、目の前に突き出していた。