ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第76話「それぞれの思惑(※)」

「……見たか?」

「へい!」

 

 遠くから新月のダンジョンへ、最後の近衛兵の見習い部隊が突入していくのをこっそり確認していた影が二つ。

 それは、言わずと知れたあの冒険者ギルドのマスターであった。

 

 傍らには、出っ歯のシーフがひとり。

 

「けっ。バカめ……。数で解決してるならとっくにやってるっつの!」

「まったくでげすー」げへへ。

 

 ……ふん。

 

「まぁいい。どうせ奴等は戻らんよ。……で、こっちの首尾は?」

「情報はたっぷりと──お嬢ちゃん、よく鳴いてくれましたよ。へへ」

 

 そうだろうさ。

 なにせ、唯一の生存者(・・・・・・)だからな。

 

「今はどうしてる?」

「へい、放心して、床で小便してまさー」

 

 くくくっ。

 そりゃいい。

 

 高貴な女(・・・・)もああなったら終わりだな。

 

 まぁ、薬に散々漬け込んで自白をさせたらそうもなるか。

 

「なら、もう用無しだな。その辺に捨てるか、奴隷市場にでも売るか──」

「いやー。それはさすがにまずいんじゃないんで? あんなになっても、顔でさすがにバレますって」

 

 む。

 それはそうか。腐っても、やんごとなき血筋だったな。

 

 ならどうするか──顔を切り刻むか、いっそ埋めるか?

 

「そ、それよりも旦那。……俺たちに(おろ)してくださいよー。あんなガキでも、まぁ使えなくはない(・・・・・・・)ですし。ひひっ」

「あーん? ったく、好き者どもが。……まぁいい勝手にしろ。……あぁ、そうだ! どうせならダンジョンに潜るときに一緒に持っていくか。荷物持ちか囮には使えるだろう」

 

「そりゃもう、言ったことはなんでもするでしょうさ。そう、なんでもね──げへへへへ!」

 

 ふっ。

 まー、あれだけ薬で自我を溶かされればな。

 

「よーし、そうと決まればアジトに戻るぞ。決行は一週間後だ。腕利きを集めろ、得物もな」

「合点です! 報酬は頼みますよ」

 

 あぁ。

 

「山ほどくれてやるさ」

 

 なんせ、金なら唸るほどあるからな。

 ギルドから持ち出した金に、アホな魔法学校の生徒たちが置いていった豪華な残置物が山ほどなー!

 

「ガーハハハハ! そして、次は近衛騎士団見習いどもが全滅だ。ざまーみろってんだ」

 

 

  ぎゃーははははははははは!

 

 

 元々、あのダンジョンがクソみたいな仕様にならなければ、魔法学校の生徒も、そしてあの見習い騎士ども安全安心に過ごして学び──そして、その金がまわりまわってってギルマスの元にくるはずだったのだ。

 

 それが、こうなったのだから、いっそ全部消えてしまえばいい。

 

「──かわりに、そのお零れ(おこぼれ)は全部俺がもらうぜ」

 

 どうせ元々ギルマスの物になるはずだった金だしな。

 そして、地位を失い、お尋ね者になった以上、金はいくらあってもいい。

 

 なんなら、手に入らない金やら栄光なんぞいっそ全部壊れてしまったほうがせいせいするというものだ。

 

「ただし──……クソダンジョンのクソミミック(・・・・)め。テメェとのクソ(・・)ケリだけはこの俺がクソ(・・)付けてやる!!」

 

 そうさ。

 

 これは、プライドとか意地とか執着とかそんなんじゃねぇ。

 こいつは(おり)だ。

 

 便器にこびりついたクソと(おんな)じだ。

 

 そんなの気が付いたらよぉぉ、こそげ落とさねーと気持ち悪いだろー?

 

「……ふんっ、首を洗って待ってろ、クソダンジョン──……そして、クソミミックめがぁぁぁあ!」

 

 

  ビッ!!

 

 

 親指で首を掻く仕草をダンジョンに向けると、最後に村の中腹にある冒険者ギルドを少し懐かしむような眼を向けたギルマスは──否、元ギルマスは、一瞥(いちべつ)だけくれると、あとは背を向けて何処かに去っていった。

 

 

 ただし、彼の言葉が真実なら、一週間後、また戻る。

 

 

 そう。

 なにやら不穏な空気とともに戻ってくる────……。

 

 

 

※ ※ ※ ※

 

 

 

 その頃、王国では────

 

「まだか! まだ連絡はないのか?!」

 

 ガッシャーーーーーン!

 

 謁見の間に飾られていた豪華な調度を蹴り飛ばしながら怒号を上げる国王に誰もが恐れをなしている。

 そして、それを(いさ)めるべき大臣も、また(・・)

 

「えええーい! なにをやっておるかぁ! 近場にいた部隊を急行させたであろう! なぜ何も便りがない! 陛下もこの通り連絡を待っておるのだぞ!」

 

 近くにいた近衛兵団長に詰め寄り、顔に唾を飛ばす勢いで大臣ことエーベルト公爵が口汚く罵った。

 しかして、詰め寄られれな答えねばならないのが公務員の沙我。

 

「お、おちついてください、公爵閣下。……まだ派遣して数日です。調査中ということでしょう」

「馬ッ鹿もーーーん! そんなもん分かっとる! だが、毎日何らかの方法で連絡くらいは出せるであろうが!」

「そうだ! 大臣の言う通りだ! ええい、どいつもこいつもぉぉお!」

 

 ガシャーン、

  バターーーーン!!

 

 外国使節を迎えることもある謁見の間でこれだ。

 自室に行けばさらに詰問が激しくなるのは目に見えていた。しかし、どうと言われても便りがない以上待つしかないのだ。

 

「ぬぅ。……陛下。ここはひとつ陸軍をおくってみては?」

「陸軍か、そうだな……。よしっ! 国境警備にいた野戦師団を一個ほど引き抜くか」

 

 ──ぎょ!

 

 そんな音が聞こえそうなほど、謁見の間にいた重鎮たちが目をむいた。

 軍を……引き抜く?!

 

 しかも、国境から、田舎のダンジョンに?!

 

「しょ、正気ですかな──公爵閣下」

 

 あまりにも非現実的な発言に、軍務も司る近衛兵団長が王を見て──……さすがに諫言は無理かと、向き直って公爵に伝えるが、いつもは冷静な公爵がまったく意に介した様子もない。

 

「何が正気か? 正気も正気ぞ──考えてもみぃ。王家の者が行方知れずぞ?……そんなもん、国家の危機以外の何物でもあるまい」

「そ、それは──」

 

 ざわざわ

  ざわざわ

 

 確かに、間違ってはいない。

 何一つ間違ってはいないが──……すべて間違っている。

 

「で、ですが、何も国境の兵を抜かずとも……」

「では、誰が行く? 軍を編成し、進軍し、攻略するまでにどれほどの時間を要すというか?」

 

 そ、それは──……。

 

 近衛兵団長以外の重鎮も、一斉に頭を抱える。

 そうだ。

 常備軍というのは基本は国境の警備だ。あとは各都市の衛兵隊程度だが、それをかき集めて引き抜いて……送る??

 

 ──無茶だ。

 

 よしんばできたとして、それが使い物になるかはまた別の問題だ。時間だってどれほどかかる?

 

「ふんっ。どーだ? それ以外に方法がないから言っておるのじゃ────あぁ、そうだ。陛下の御許しさえあれば近衛を丸々送るという手もあるなー、ぬーん?」

「近衛か──ふんっ。今、派遣しておるのが、余の記憶違いでなければ近衛であったと思ったがのー」

 

「ぐっ」

 

 まさかまさかの味方撃ち。

 っていうか、なにをもって近衛兵団長が詰められる流れになるというのだろうか。

 

 そも、近衛兵団長は一貫して、待て! としか言っていないというのに──。

 

「し、しかし、あれはまだ見習いでして……」

 

「あああーーーん? 貴様のとこの見習いは連絡ひとつできんのか? そして、見習いにはオシメを替える子守り一人おらんおかぁ?」

「数の上でも100人と聞いておるな。そして、最優秀の教導隊をつけておるとも──……団長よ。そのことについて何か弁明はあるか」

 

 ジロリッ。

 

 なぜか、王国トップの2人にガン詰めされる近衛兵団長。

 理不尽。あまりにも理不尽だが──……。

 

「わ、私としてはただ待つことを進言するのみです。……それに、私の部下ならば必ずや有用な情報を届けてくれましょう!」

 

「ほーーーーーーう!」

「へぇぇぇええええ!」

 

 なんで責められてるんだろうなーと遠い目をしながらも、近衛兵団長は最も信頼する旧知の友の顔を思い出す。

 

 英雄ゲーツ。

 

 戦争において多大な功績を上げるも負傷により一線を引いた王国最強候補のひとりだ。

 それがいて、何一つ成果を上げることがないなんてありえない。

 

 だから、できるのは待つことのみ。

 

「……ふんっ、よかろう。今少し連絡を待つか」

「仕方ありませんな。──ただ、別の手も考えておきましょうぞ」

 

 何とか引き下がった陛下と公爵にほっとする重鎮達。

 心の中で近衛兵団長にグッジョブを喝采しているのだろうが誰もそれを態度には出さない。この辺はさすが貴族である。

 

 しかし、

 

「野戦師団は別にしても、追加の増援は編成しておきましょうぞ。準備ができ次第、順次、あの田舎に送るのです」

「うむ。そちに任せる故、よきにはからえ。いくらでも好きにやれ」

 

 ははー!!

 

 

 

 こうして、国境警備を引き抜くという愚行は回避されたものの、新月のダンジョンを攻略する部隊が次々に編制(逐次投入)されるに至る──……。

 

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