「んー? なんか来たな?」
『へ? 来たって?』
うん。
来た来た。
『いや、だからなにが──』
あん?
そりゃ冒険者か軍隊でしょうに。
「しかし、それにしては気配が変だな?──……あ、これってもしかして」
「私」の脳裏(?)に
あの時は。ほとんど気配を感じることなく、奇襲専門の「私」が奇襲されるという憂き目をみたが、これはそれに近い気配だ。
「……うん、やっぱりそうだ!」
『な、なによ?!』
ふんっ。
足音が複数ある割に探知にかかりにくい!
おまけに、気配すら微弱……こりゃ、ローグかそれ系統の気配と見て間違いなし!
「ちっ、面倒だな。……ローグで固めたってことは、こりゃ、本格的に攻略に来やがったのかも」
『え? どゆこと?』
またまたー。
しらばくれちゃって。
「──攻略部隊のお出ましだよ!」
でなきゃ、わざわざローグだけで部隊なんか編成するもんかい!
「想定より早いけど、これは間違いなく複数の手練れの手配だね」
前の忍者のときみたいに、たまたまという可能性もなくはないが──……いや、ないな。
女忍者どもはどう考えても偶然。
だけど、2回目は必然。
つまり、こっちの手の内を知った上で攻めて来たと見て良し!
(ひーふーみー……すくなくとも、10人以上のローグ系か)
気配が微弱で判然としないが、かなりの数なのは間違いない。
そんなのがたまたま来るわけないわな。
明らかに、こっちがローグを天敵とした動きなのは間違いない。
ただ、気になるのは、
レイラちゃん情報では、近衛騎士団の増援ないしその交代は早くても一月以上はかかるだろうとのことだったけど……。
『こ、攻略たって……。え? でも、レイラさんはアンタのこと外にバレてないっていってなかった?』
「そんなの、あてにできるわけじないでしょー」
そも、王国の軍隊かどうかも不明だ。
いくら部隊が全滅したのを知ったからと言って、急遽派遣できるものでもないはず。
王国のトップだってバカではないから、最悪でもレイラちゃんたちよりは腕利きを寄越すだろう。なにより、その編成に時間がかかる。
なにせ王国にはダンジョン攻略部隊なんてのはないらしいからね。
『で、でも──アタシも知らないわよ?』
「それが一番信用できねーよ」
おめぇは何様だよ。
実際、こうして来ているのだから、事実ベースで動くべきだっつーの。
「レイラちゃんの読みが外れたか、それよりも別の手段で「私」のことを知ったかのどちらかだろうねー」
『……皆殺しにしといて、よく言うわよ』
それはそう。
「ま、あとは、あり得る想定としては、これまでの被害に対して、冒険者ギルドないしが本格的な捜索隊を送りこむことだけど──それもちょっと怪しいよね」
なにせ、二人から聞いた話からして、どうもここのギルドは機能していなとかなんとか……?
報酬を出すギルドが動いていないんじゃ、ギルドが率先して動く線はまず消える。
つまり──。
『じゃ、じゃあ、なにか別の勢力?』
「そう考えるのが妥当かな?」
それがどこかは知らんけど──。
『い、いやいや、うそでしょ……! どこの誰だか知らないけど、ちょっと無謀過ぎるわよ!』
「お、そう言ってくれるんんだー」
ミユちゃんなりに「私」を評価してくれてるんだね。
えへへ、嬉しいなー。
『顔あかくすんな』
「……してねーよ」
そも、どこが顔だっつーの。
「ま、誰が相手だろうが勝てる勝てる」
そのための準備
そのためのポイント制だ。
おまけにレイラちゃんのおかげでブレスも使えて、前までの「私」とは大きく違う!
なにより、攻め手側がこっちの探知範囲に入っていることにも気づいていないことから、まだまだ侮っているのが丸わかりだ。
(おそらく、情報が古い……)
だから、入口でバレていることにも気づいていないのだ。
ふふっ。
どこの誰だか知らないけど、ちょうどいいや。
「えへへー。これで成長したブレスを試せるぞ~い!」
まぁ、ブレスはあくまで予備手段だけどね。
それよりも、トラップ部屋で迎え撃とうかい!
あるいは、隠し通路に誘いこもうかい!
どのみち捕まえて熟成させようかい!
「いやー。いっそ、新しく作ったセーフポイント(実物大)のお披露目といこうかーい!」
うふふふ。
どうやったって負ける気がしないねー。
生徒の捜索だの、
ただの下見だので来ているような連中に、
始めっから、ぜんぶ食べるのが目的の私が負けるはずがないのだー。
「よーし、決めた! コイツらは、数カ月はビッシバシとシバキ倒して、味が染みるのか試してやろう~っと」
えへへへ、熟成風味を試しまくるぞー。
そのためにも後で『味染み部屋(拷問部屋)』を増設しないとね!!
「ぃよっし、や~~~~~~るぞ────って、あん?」
なんだこの匂い?
肌──もとい、箱の表面にまとわりつくようなべた付いた香りはどこかで……。
「あ、これ。可燃性ガス────
ボンッッ!!
その瞬間、
ダンジョンはガスの炎に包まれた……。
※ ※ ※
「おっしゃぁぁぁあああ! 点火成功!!」
諸手を上げて喝采する元ギルマス。
そして、黙々と入口から吹き上がる黒煙を見て口角を釣り上げると、皮肉気に笑う。
「げーほげほげほっ! へ、へへ、こんな乱暴なダンジョンの攻略法は、はじめてだぜ」
「豪快っすね。旦那ぁぁ!」
「あったりめぇよぉー」
──ぎゃはははは!
楽し気に笑う元ギルマス達。
顔をマスクで多い、少女に絶えず荷物を運ばせながら自分たちは、風を送る道具で次々に気化させたガスを内部に送り込むだけ。
あとは頃合いを見計らって点火だ。
楽な仕事よぉ。
「よーし、いいぞ、いいぞぉ! あとニ、三回やったら次の段階にうつる!」
「へへ、合点でさぁ!……ただ、前にやった実験では、なんか知りませんが、二回目以降の着火率が悪かったんでゲスがね?」
あーん?
「いいから、やれよ。おい、
そう言うなり、大量の荷物を運ぶ少女の顎を掴み上げ顔面に唾を吐きかける。
「ッ……」
ビクリと震える小さな肩。
そこには無数の大荷物──。
「ひゃははは! サボってないっすよ、旦那ぁ!」
「そーそー。その嬢ちゃん、言われたことしかできねーし、言われた通りにちゃんと動く、いい子ちゃんだぜー」
なぁ!
「「ぎゃははははは!」」
数名が、少女を撫で、下卑た声で笑う。
もっとも、彼女はそれにろくに反応せず、額に汗して重い油の樽をもくもくと運んでいる。ただ、目は相変わらずうつろで口の端からは涎が垂れている──……まるで動くだけの人形だ。
「けっ。つまらねぇなー。……ただ、動きはいいから定期的に投薬して、休まず働かせな!」
「へいへい! あ、休憩のときは借りますぜー」
「好きにしな」
ギャハハハ!!
好色じみた男たちの視線をうけても少女は何も言わない、何もしない。
ただただ、言われた通りに動くのみ──そのうちに、ガスが再び満ちて、元ギルマスが頃合いをみて、点火を命じた。
「第二波、
「あいよー!」
ボンッ!
……なるほど。
下卑た男どもが言うように二回目の爆発は小さい。
おまけに──。
「旦那ぁ。仕上げはこんなもんですが──どうします? ちなみに、この後、すぐに中に入ると昏倒しますぜ?」
「あーん? どういうこった?」
もくもくと黒煙を噴き上げるダンジョンを眺めながら、
昏倒だぁ? と首をかしげる元ギルマス。
「いやー、アッシらも知りませんでしたが、燃えたあとってのは、なんか息が詰まるんでさぁ」
「なんだと?……なら、どうやって中に入んだよ?」
せっかく中を蒸し焼きにしても、入れないのでは意味がない。
「時間を置けば大丈夫でさぁ」
「時間ったって、どのくらいよ? いつまでも待ってらんねーぞ?」
タイムリミットは明け方まで。
まぁそれを過ぎたからと言って、このダンジョンに近づく奴はいないだろうし、問題はないが──元ギルマスにせよ、その配下にせよ、お天道様の元で動くには少々黒すぎる。
「──さーて、一刻か二刻か……場所によるとしか言えませんぜ。げへ」
「ちっ! それじゃ困るんだよ。つーか、どうやってそれを確かめんだよ!」
息が詰まるなら、息が詰まるのを入って確認しろって?
──冗談じゃねぇ。
「そりゃ、旦那ぁ。鉱山といっしょでさぁ──カナリアとかネズミを先にやって確かめるんでさ」
「あーん? カナリアなんざ、いるかってーの!……あ、いや、まて……いるな」
はぁはぁはぁ……。
荒い息をついて、足をふらつかせた少女──その華奢な肩をがっしりと掴むと元ギルマスは笑う。
「い~い声で鳴くカナリアちゃんがいるじゃねーかよ、ここにぃ。……おい、適当なタイミングでつっこめ」
「ゲヘヘ! つっこむってのはどっちの──……じょ、冗談でゲスよ」
さすがに口が過ぎたかと前言を撤回する手下。
もっとも、休憩時間に使うのは譲らないらしいが──それでも、カナリア役は決まったらしい。
「よーし、三回目の散布は取りやめ、蒸し焼きは十分だから、次の段階に移るぞ! 得物を出せ!」
「「「おおおーう!!」」」
こうして、
元ギルマスの指揮するダンジョン攻略(?)部隊は、明確な目的のもとに次のステップへと進む。
未だ熱のこもるダンジョンに向けて、少女を蹴り落としてその息の程度でカナリア役をさせながら──……バケモノが潜むダンジョンに挑むのだ。
──そうとも!
万全の体勢をもってなッッ!!