ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第86話「トラップバトル(※)」

 キーーーーーーーーーーーーン……!

 

 

 耳鳴りがしていた。

 ……そして、めまいも──。

 

「ぐぅぅぅ……!」

 

 な、何が起こった?

 

「ひぃぃ……!」

「火が、火があっぁああ!」

「うぎゃぁぁぁあああああ!」

 

 元ギルマスが、ぼんやりとする頭で周囲を見渡せば、

 まさに、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

 くらくらとする頭で見える光景はぐにゃりと曲がっているし、そこかしこに火が付き、さらには壁が崩れ落ち、悲惨なありさまを呈していた。

 

 あ、悪夢でも見ているのだろうか?

 いや、まさかな。ここはダンジョンだぞ。

 

「ぐ! ひ、被害は──」

 

 思わず現実逃避しそうになる意識を無理やりつなぎ止めると、

 元ギルマスは近くに控えているであろう手下の出っ歯のシーフに声をかける。

 

 すると、

 

「ごほっ。ごほっ。だ、旦那は無事で?」

「無事に見えるか、これが!!」

 

 いッてぇ……。

 全身ボッコボコだし、なんか頭の一部もぶよぶよする。

 

 しかも、血と火傷で装備もボロボロだ!!

 

「くそ! な、なにがおこった?」

「……わ、わかりやせん。一瞬、なにか赤い火を見た気がしたんでゲスが、目の前が────……っ」

 

 あ、赤い光だぁ?

 ってことは──……。

 

「くそッ! そういうことか。や、やられたな……!」

「だ、旦那? どういうことで」

 

 ふんっ。

 決まってんだろ。

 

「こりゃ、誤爆か誘爆だな……」

 

 ペッ。

 血反吐を吐きながら起き上がると、改めて被害状況を確認する。 

 

 燃える地面に、崩れた壁、

 そしてうめく負傷者に──……絶命した数名。

 

 まさに被害は甚大。

 ……詳細を見るまでもなく、周囲はかなりのあり様だった。

 

「はぁぁ?! 誘爆ってそんな──」

 

 何を言っているんだと言わんばかりの出っ歯のシーフ。

 だが、そうでなければ説明がつかない。

 

「お前も違和感を感じてただろーが!」

「そ、そりゃそうでゲスが……」

 

 くそっ。

 どーりで、だよ。

 

「やられたぜ……。中の犬の死体は囮だ。おそらく、あの死体の下に爆弾が仕掛けられてたのさ」

 

 そして、そよりにもよって、こっちからわざわざその上に大量の爆弾を重ねちまったのだろう。

 だからこその誘爆、そして、この通路にまで及ぶ爆発というわけだ。

 

 そも、出っ歯のシーフが感じていた違和感がそれだ!

 

「そ、そういうことですかい!……たしかに、人を欠片も残さずに食らうミミックタイプが死体を残しているのに違和感がありやしたが」

 

 くそが!

 そういうことはもっと早くに言え!!

 

「そうだよ! 迎撃するか何かで食った死体をわざと放置してやがったんだよ!」

 

 その時点で確かに違和感しかねーわ!!

 そも、あのミミックなら、バレないように全部食うわなー。

 

 それがわざわざ……。クソがッ!

 

「し、しかしそうだとしやして……誰が爆弾を??」

 

 馬鹿が!!

 

「寝ぼけてんのか?……あの野郎の仕業だよ! 見ての通り、こっちがトラップを爆破するのを見越してやがったのさ!」

「は、はぁっぁあ?! トラップ返しでゲスか?! み、ミミックでげすよね?!」

 

 そうだよ、ミミックだよ!

 忌々しいユニークモンスターのなぁぁあ!

 

「つーか、そこのガキの報告にあっただろう! 罠を自在に使いこなすほど頭がいい魔物だってなー!」

 

 フラフラとしているハバナ王女の顔を掴み上げると、いら立ち紛れに唾を吐きかけて、適当に転がしてやる。

 

 生意気にほとんど無傷ときた。

 ホント悪運だけは強いガキだ。

 

「そ、そんなバカなっ! いくら頭がいいからってまさか──」

 

 まさかもトサカもあるか!

 だから今まで、誰も彼もが食われてきたんだろうが!!

 

「いいから、常識を捨てろ!」

「わ、わかりやした──……しかし、どうするんで? 奴だって無事でいられるはずが……」

 

 チッ。

 だから、馬鹿だと言っている。

 

「その常識を捨てろってんだ!──自分で自爆するほど、奴だってバカじゃぁない! みろっ」

「……ぁう!?」

 

 むんずと、

 転がったまま、ボロを纏ったハバナ王女を掴み上げると盾のように構えて、そのままズカズカと室内に踏み込んでいく。

 

 まず天井。

 反応なし──。

 

 次に右を見て、左を見て、隠し通路の奥を確認──。

 

「……ふんっ」

 

 ほーれ見たことか。

 奴はとっくにいねぇよ。

 

「旦那ぁ……。さ、さすがにそれは危ないでゲスよ──」

「アホが! お前らが動かねーからだろうが! だが、見ての通り無事だ。だいたい、爆弾を仕掛け直した奴がここに残ってるわきゃねーんだよ!」

 

 いたらとっくに奴も消し炭だ!

 

「な、なるほどでゲスー」

「……つーか、そういうのはローグ役のてめぇらの役目だろうが、……ったく」

 

 高い金をとっておきながら使えない連中だ。

 

「おらぁ、邪魔だ」

「……ぅっ」

 

 自分で盾替わりに抱えておきながら、

 邪魔になるや否や、ぽいっとハバナ王女を投げ捨てると不機嫌に鼻を鳴らす元ギルマス。

 

「しかし、まいったな。これで振り出しだ」

 

 部屋の中は爆圧で何もかもが吹っ飛んで空っぽ。

 ……だのに、肝心のミミックの死体(?)がないとは──。

 

「ここにいないとなると、どこだ?」

 

 そも……奴はどうやって移動した?

 

「……まさか足でも生えてるなんて言わねーよなー」

 

 ジロリとハバナ王女を見下ろすが、反応なし。

 ま、それはないか。

 

「ってことは、なんだ? 最初から前提が間違っているのか? 元よりこの部屋にいなかったとかか?」

 

 常識を捨てろと言った手前柔軟に思考を巡らせる。

 

「どうでゲしょうね……? 犬の死骸はトラップで死んだだけにしては、抵抗のあとが多いでゲスよ?」

 

 残ったダイアーウルフの死骸を検分している出っ歯のシーフが首をかしげる。

 つまり、ここで犬どもと何かの戦闘があったのは間違いないということか──。

 

「……いずれにしても、奴はいねぇ。それに俺たちがこのありさまじゃな」

 

 振り返ると、部屋の入口付近ではうめく負傷者多数。

 惨憺たる有様だ。

 

「一度体勢を立て直すか」

「それが賢明でゲスね……」

 

 ちっ。

 他人事みたいに。

 

「まぁいい。……で、被害の程度は?」

「死んだのが2、3人。大やけどが数名……あとは、傷やらなんやらで、とにかく壁ごと吹っ飛ばされたんで大損害でゲスよ。無傷なのもいるにはいますがね」

 

 チラリとハバナ王女を見つつ、振り返る手下。

 その視線の先には、闇系統のギルドから雇った連中でも、耐えきれないほどの苦痛に後続を含めて(うめ)いている。

 

 つまり、まともに動けるのが残り数人。

 元ギルマスと出っ歯のシーフとハバナ王女の他2名──計5人か。

 

 それ以外は、負傷やらなんやらで戦力外……。

 

 元気なのは、装備が優秀な自分と手下くらいで、

 探知や爆弾の投擲に携わっていたローグ系は軒並みダメそうだ。

 

「くそっ。……ポーションはどうした?」

「全部使ってこのありさまでゲスよ。……そもそも、ほとんど破損しやした。荷物を待たせてたガキはこの通り無事ですがねー」

 

 あーん?!

 

「ったく、やむを得んな。……一度、仕切り直しだ!」

 

 くそがっ!

 腹立たし気に壁を蹴るが、仕方がない。

 

「合点承知! おい、軽傷者は重傷者に手を貸せ。中継地点まで撤収! 先行して──ポーションで回復してこい!」

「「了解!」」

 

 きびきびと号令を送る出っ歯のシーフにさせるがままにして、元ギルマスはただただ歯噛みする。

 

 まったく、ことごとく出し抜かれた思いだ。

 

 全体爆破から、獣を使った攻撃。

 そして、インドア戦闘までことごとく躱されている。

 

「くそ……! いったいなんなんだこの化け物は!」

 

 本当にただのユニークモンスターか?!

 まだ一度も姿を見ていない魔物の正体を思い、顔を歪ませる元ギルマス。

 

「……まぁいい。こっちが追い詰めていることには変わりはないからな。──よーし、俺たちがケツについてやるから、テメェらはとっとと回復してこい。それが済んだら、すぐにでも捜索再開だぞ!」

「わかってますとも──おい、急げよ!」

 

「「へい!」」

 

 ハバナ王女を除き、軽傷だった元ギルマスと手下が最後尾につき周辺を警戒する。

 雇い主が尻を守るという間抜けな構図だが、仕方ない。

 

「どうせ奴はミミックタイプ。自由には動けないはず──つまり、何度だってこっちが先手を取る機会はある」

 

 そうとも、

 慌てさえしなければな──。

 

 

 相手は所詮はモンスター。

 主導権はつねにミミックの存在を確信している元ギルマス側にあるのだから──。

 

 

 

 

「よーし、次のラウンドの開始だぜ!」

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「──とか、考えてるんだろうなー」

 

 だけど、バーカ。

 こっちはお前らのことなんてお見通しだっつーの。

 

 連中の補給物資の中に潜んでほくそ笑む「私」。

 

 そして目論見通り、来るわ来るわ。

 間抜けが来るわ!

 

「おっほー! 思ったより被害がデカかったみたいだなー」

 

 箱の隙間から覗き見れば、

 なんともぁ、7、8名ばかりの間抜けなアホどもがヨロヨロとこっちに向かって来るではないか。

 

 しかも、肩を貸したり貸されたり。

 武器もろくに構えていないところを見ると、全く警戒していない様子。

 

「ま、連中はここが安全な場所だと思い込んでるからねー」

 

 うけけけっ。

 

 人間の警戒心なんてそんなもんです。

 ──自分の家に帰って、一から十まで隙間を捜すような異常者はそういるまいて。つーか、いたらそーいうのはパラノイアっていうのよ。

 

 

 「ぐぅぅ……いてぇ、いてぇよ」

  「あぢー! 畜生ぉぉお!」

   「早くポーションを出して、は、肌に跡が残っちゃう!」

 

 

 そして、そのまま、部屋に入るなり座り込む奴が数名に、

 比較的元気な奴が木箱の梱包を解いて、中身を漁る。

 

「ありゃ?! 誰だ、中身を弄った奴!」

「……いいからさっさと配れよ! いて()ぇんだよ!」

 

「「そーだそーだ!」」

 

 補給品担当だった奴がいたのか、

 一瞬、箱の中身に触れたので、ドキリとしたが、周囲の連中はそれどころではない様子。

 

(おー、びっくりしたー。細けぇこと気にしてんじゃねーよ)

 

 だけど、これならうまくいくな。

 まさか爆破の後で、ほぼ全員が来るとは思っていなかったけど。

 

(ひーふーみー……全部で7人か)

 

 カモだな。

 ちょっと離れた位置にもう少し(4、5人)いるようだけど、そいつらは警戒中なのか部屋には入ってこない。

 

「……やはりカモだな」

 

 じっと確認している間にも、補給品をリレー方式で分配していくのが見えた。

 ポーションに包帯。そして、薬草かな?

 

 

  「おら! 重傷者に優先して配れよ!」

  「ケチケチすんな! 二、三本まとめて渡しゃいーんだよ!」

  「いいからさっさと寄越せ!」

 

 

  わーわー!

  ぎゃーぎゃー!

 

「おーおー、醜い醜い」

 

 ポーション瓶なんて山ほどあっただろうに、

 喧嘩してる間に、秩序だって配れば早いのに、なんともまぁ。

 

(ま、それが人間だよねー)

 

 そうとも、それが人間。

 そうとも、それが美味。

 そうとも、それが隙だ。

 

 だから、狩れる。

 だから、殺す。

 だから──。

 

 

 

 

「……死ねっ」

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