──死ね。間抜けども!
そう「私」が呟いたのと同時に、連中がポーション瓶を口にするのはほぼ同時だった。
刹那、
ぶーーーーーーーーーー!
数名が一瞬にして吐血する。
味と匂いに気付いて吐き出したのもいたが──少なくとも、半数が飲んだ。
そのあとはもう、阿鼻叫喚の地獄だ!
「がぁぁぁああああ! うぎゃぁっぁあああ!」
「喉が、喉が……やける!」
「いやぁぁあ! 顔が、顔が溶けるぅぅうう?!」
おーおーおー。
ひっでぇあり様。
「「「ぅげぇぇぇえええ?!」」」
ジタバタジタバタ!!
「な、なんだこりゃ! どうなってる?! ど、毒か?!」
「ペッペッ! おい、なんでポーションに毒が入ってんだよ!?」
「──げぇっぇええ! 少し飲んじまったよ、おぇぇえええええ!」
そして、少し口に含んだだけの奴だって無事ではいられない。
しびれを伴う毒に、腐食効果もついているのか、そいつらまでつられて肌までもが溶けていく!
(ひぇー……。少量でこれか。
いつぞや食べた美味なるジナちゃんの毒薬を取り出し、ラベルを隙間から洩れる光に透かす。
……髑髏マーク付きのその瓶はだいぶ少なくなってきたけど、やはり強力な毒であった。
「く、くそっ! 回復魔法もちはいないのか?!」
「いるわけねーだろ! 俺たちは闇の住人だぞ!!」
「つーか、馬鹿野郎! てめぇ、毒瓶なんて配りやがって──は、はやく解毒剤をよこせ!」
けけけけっ。
パニクってるパニクってる!
ちなみに配った奴には何の責任もない。
そもそも、コイツらはダンジョンに毒なんて持ち込んでないからねー。
「そして、もちろん、犯人は私!」
ビシーっと、舌で自分を指して、ウィンク♪
えっへっへー。
当然。こっそり入れ替えておいたのさー。
「うけけ。普段は棚ととかに仕込んでいるポーション偽瓶だけど、こういう風にも使えるわけよ!」
つーか、ちったぁ疑えよ。馬ッ鹿だねー。
オマケに示し合わせたように一斉に飲むからそうなる。
あとさぁ。
……な~んでポーションに毒が混じってたのに、解毒剤なら安心だと思うんだい?
「そして、それを見落とす私だと思うかーい?」
けーっけっけっけ!!
「くっ、まずいな。解毒剤の数が少ない……! と、とにかく、重傷者に飲ませてやれ!」
慌てて、ガチャガチャと補給箱を漁る担当者。
……しかし、
「知るか、よこせ!」
「何とか全員分はあるんだろ? いそげよ!!」
わーわーわー!
今にも死にそうなやつはともかくとして、
少しだけ口にしてしまった奴までもが補給担当につめより、解毒剤を取り上げる一気に呷った。
はい、間抜け―。
そして、飲んだー!!
「「「ぐ? ぐげぇぇぇええええ?!」」」
直後、比較的軽傷だった奴も、今度こそ中毒症状で吐血し始めた。それはつまり、部屋に入ってきたほとんどの奴が、毒入りの水薬を飲んで昏倒するということ!
上出来上出来。
(ぎゃはははは! 最初に毒を呷った数名と合わせて、3分の2が撃沈かー)
やっべー。
間抜けすぎて、笑いをこらえる方が大変だったぜー。
「さーて、あとは仕上げだね!!」
バーーーン!
「んなぁぁ?!」
「な、なんだぁ?!」
はい、おそーい!
突然、一番下の木箱を跳ね上げて出現した「私」に声を上げたのは数名。
それ以外はうつろの目をしているだけー。
「ひーふーみー……。んっ。全部で7に~ん!」
「ミ、ミミックだとぉぉ?!」
お、君は元気なんだね?!
優秀優秀。
「そして、気づいた時はすでに「私」の胃の中だ!!」
──バクゥ!!
「ぎ──
ぶしゅ!!
こうして、まずは補給担当を食い殺し、咀嚼!
残りの連中は、舌撃&ボウガンであっという間に狩り殺すのであった。
ぎゃーはっはっはっ!!
ろくに反応もできないから、クッソ雑魚でしたー♪
※ ※ ※ ※ ※
「おい、まだ戻ってこんのか?!」
負傷者を補給物資に向かわせて数分。
背後を警戒していた元ギルマスはさすがに遅すぎると振り返った。
「お、おかしいでゲスねぇ……」
行って帰るだけならさほど時間を要さないはずが、なぜか一向に戻ってこない。
「ちっ。高ぇ金を払ってるのに、なにを油を売ってやがる!!」
「ま、まぁまぁ、結構な負傷でゲしたし、時間もかかりますって」
ざけんな!
掛かり過ぎだ! ポーションも何もかも俺の持ち出しだぞ!
……そう言って怒鳴りつけたいのをグッと堪える元ギルマス。
「もういい! 俺が行って様子を見てくる!」
なんて、役に立たない連中だと唾棄したくなるが、こんな連中でもいないと困るのだ。
「い、いえいえ。旦那自ら行かなくとも、ここはアッシが──」
「いいから、行くぞ」
一人で行っても全員で行っても同じことだ。
残る数名の手下に顎で合図をすると、一塊になって後方の様子を見に戻る元ギルマス一行。
「……くっそがぁ。このガキが適当こきやがるから、想像以上の被害だぜ」
ゴンッ!
いら立ち紛れに、ガキに一発くれてやるが、小さくうめくだけで悲鳴もあげやしねぇ。
「旦那ぁ、ガキに罪はねぇっすよ。想定以上の化け物だっただけで──」
「そんなことは分かっている!!」
……って、おい?
「い、今、なんか聞こえなかったか?」
「へぇ? 何かって何です?」
馬鹿が!
わかんねぇから聞いてんだろうが!
「悲鳴のような、叫び声のような──…………あ、まさか!」
そこまで言ってようやく気付いた元ギルマス。
そ、そうだった。
奴は移動手段を持っているかもしれないのだ──だったらぁ!!
「ちぃ……! これは、やられたかもしれん!」
「はぁ? やられたって、何がですかい?」
は!
鈍い奴だな。
「ミミックの野郎だよ!」
「は、はいいいいい? ま、まじですかい?! あっちはとっくに安全化済ですぜ」
だから中継地点に選んだのだ。
安全だし、袋小路だからと!
だが、
「そんなの当てになるかっつーの!」
相手はユニークモンスターだぞ!
しかも、Aランクまで屠った、な!!
「いいから急ぐぞ!」
「へ、へい!」
中継地点までほんの目と鼻の先。
てっきり、負傷者のうめき声だと思ったが、こ、これはもしかして──……!
「くそっ。こりゃ、奴が回り込んだのかもしれん。最悪の可能性として、この先の補給部屋を取られたと思ったほうがいいぞ」
「そ、そんなバカな! 魔物が背面攻撃ですって?! しかも、物資を狙うなんて──……」
アホっ!
「人間並みの知能を持っていると、ガキの証言にあったばかりだろうが!」
「じゃあ、どうやって戦うんでゲス?!」
知るかッ!
こっちが聞きたいくらいだ!!
「……とにかく、今ある物であるしかねぇだろ!──おい、」
「はい」
比較的軽傷だった、きわどい恰好の女暗殺者が、いくつかの装備を全員に回す。
コイツの他もう一人。
ハバナ王女に持たせた荷物の中から、
油の詰まった革袋に、鍛冶で使うふいごの類──そのほかに油を霧状に噴霧する器材を元ギルマスを含めて4人分だ。
「へへっ。……ついに、コイツの出番だな」
カシュカシュ! と空撃ちして、具合を確かめる。
……よーし、使えそうだ。
「ま、待ってくださいよ、旦那ぁ! 向こう部屋の中じゃ、先行した負傷者がいるはずじゃ?」
──バカが。
「生きてるわけねーだろうが!」
「しかし、物資だってあそこに!」
だから、馬鹿が!
「それが奴の狙いだろうが! 物資に人命にと惜しんでこっちが二の足を踏むって読んでやがるんだよ!」
それだけの知恵を持っている。
それだけのいやらしさを持っている。
──それだけの敵だ!!
「上等だぜぇ……! いいか、テメェらも覚悟を決めろ! 次の一撃で勝負を決めるぞ!」
逆に考えるんだ。
捜索する手間が省けたってな──!!
「行くぞ! 一気に畳みかける!」
持てる技と持てる力を──全部尽くせぇぇええ!
「「おぉう!!」」
こうして、残る人員。
そして、新装備を手に、元ギルマスたちは物資部屋へと強行する!