ミミック転生~人食い箱の食味記録~   作:LA軍

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第90話「使者と死者(※)」

 

 きーーーーーーーーん……!

 

 

 凄まじい破裂音。

 そして、耳奥が抉られるような圧迫感!

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

 くっ!

 なんなんだ、これは?!

 

「くそ、耳が……! い、いったい、何が起こっている?!」

 

 あー、

  あー!

 

「あー…!! くそっ、よく聞こえない!」

 

 シギンスは、耳鳴りの先になんとか自分の音を聞き取ろうとするも、まるで薄壁を挟んだように我が声すら遠くに聞こえる。

 

 まったくの異常事態だ。

 

 しかして、徐々に耳鳴りは収まったが状況は不明だ。

 はっきり言ってすでに自分の予想の範疇を越える事態が起こりつつあることに、少々焦りが募る。

 

「これはもしかすると……」

 

 Bランクにまで上り詰めた経験が囁く。

 おそらく冒険者ないし、何某かが突入しのだと。

 

 だが、それだけにしては、起こりうる事態が斜め上をいき過ぎている。

 少なく見積もっても、複数の異常事態。

 

  ダンジョン全体を滅却せんばかりの爆発に、

  犬の鳴き声、悲鳴。

  そして、ダンジョンが崩落せんばかりの爆音。

  肺を征き尽くすような焔の熱。

  極めつけがこれか──……!

 

「火炎魔法だけならともかく、なんなんだこれは? いったいこの先でなにが起こっている?!」

 

 いや、それを言うなら、そもそもこのダンジョン事態が異常なのだ。

 今更といったところか──。

 

「……しかし、突入してきた連中はなにものだ?」

 

 魔法使いの集団?

 それとも軍隊か?

 

 いや、そんなお綺麗な連中とは思えない。

 犬を使う魔法使いなんて聞いたこともないし、ましてや魔法を多用する騎士団もまたない。

 

 ……ならば冒険者か?

 いやいや、それこそあり得ない。

 

 冒険者は所詮は自由人。

 

 多少は人数を頼りにすることはあっても、多くてもせいぜいが4、5人程度。

 そんな連中が、犬を使用し、魔法をあやつり、爆撃を行う?

 

 ……不可能だ。

 

「つまり、なにか異形の集団がここにきているということか──」

 

 そして、激しく「奴」と交戦中。

 でなければ、こんな騒音は起こりえない。

 

「ならば、いっそ合流して共闘──……いや、無理か」

 

 まともな集団ではないだろう。

 そんなところにシギンスが顔を出して、快く迎え入れられるはずがない。

 

 最悪は、会敵──即死亡だ。

 

(ならば、この機会を利用するほうが賢明だな……)

 

 突入してきた連中には、悪いが高見の見物ならぬ、他所から抜け出させてもらおう。

 

「しかし、まともな集団じゃないってのは、どの口が言ってるって感じか……」

 

 くくく。

 

「……なにせ、まともでないというなら、こっちも引けは取っていないからな──」

 

 ダンジョンに潜伏し続ける険者崩れに、

 極めつけがコイツだ──。

 

 

  うぎぎぎぎぎぎ……。

 

 

「ははっ」

 

 見ろよ。

 

 骨の軋む音に目を向ければ。

 そこには、青白い炎を纏った、漆黒の瘴気に包まれた黒い骸骨がいる。

 

 ──その名も、ダークボーンナイト。

 

 アンデッドの中でもとくに高ランクの化け物として知られている。

 一説には、数多の蠱毒を経て、ダンジョン──とりわけ墓所の中で、果なき殺し合いの先に生まれいでると言うが……。

 それが事実かはさておき、まともに相手をするには正規の騎士が一個小隊いるとまで言われるほどの高ランクの化け物だ。

 

 ──そんなのがここにいる。

 シギンスの目の前にいる。

 

 そして、

 あの日、あの時、あの瞬間、シギンスを救い、今日もここにいる。

 

「くっくっく! そうさ。そう言う意味では、ここでは俺たちが一番の異形だよな──なぁ、相棒」

 

 もちろん、コイツが答えることなんてないし、

 相棒なんて間柄でもない。

 

 まぁ、あえて言うなら恩人──いや、骨だから恩骨か?

 

「いや、違うか……」

 相棒でも恩人でもない。

 

 傷を癒し、

 訓練し、

 餌をくれる。

 

「つまり、俺はペットか──」

 

 ははっ。

 ざまぁ、ない。

 

 だがまさにその通りだ。

 

 クソギルマスに嵌められ、ダンジョンから逃れることもできずに、異形のガイコツに飼われるとはな……。

 

「まぁ、それも今日までだ」

 

 

 

  うぎぎぎぎぎ……。

 

 

 シギンスの独白に静かに振り向く骸骨。

 

「は!……悪いな。止めてくれるなよ。おれはお前を殺したくはないんだ──いや、もう死んでるんだったか?」

 

 なにせ、骨だもんな。

 

「ま、いずれにしても、だ。せっかく今まで付き合ってくれたのに悪く思わないでくれよ」

 

 ……そして、頼むから敵対してくれ。

 これでも感謝しているんだ。

 

 本心からな。

 

「わかるか? 今突入してきてる連中。あれに合わせて俺にはやらなければならないことがある」

 

 そう、そして倒すべき敵がいる。

 救わねばならない人いる。

 

「だから、今が……今こそがチャンスなんだ。奴は交戦中だし、そして今も継続中だ。つまり、それだけの腕を持った連中が突入してるってことだろ?」

 

 そして、そんな機会はもはやありえない。

 

「だからさ。……俺はそろそろ行くよ」

 

 外の監視はおざなりになっているこの機会を、逃すわけにはいかない。

 

「なので、止めてくれるなよ」

 

 そう言い切ると、シギンスは壁に立てかけて置いた義足を装着し──立ち上がる。

 もう振り返ることもなく、ダンジョンの出口に向かっ

 

 

   カランカラーン!!

 

 

「ッ!?」

 

 な、なんだよ?!

 

「……お、驚かすなよ!」

 

 びっくりしたぜ。

 なにかと思ったじゃねーか!

 

「って、これは剣か……?」

 

 骸骨が床にばらまいたのは、鈍い光を放つ剣に盾と無骨な装備の数々だった。

 ほかにも、鎧だの兜だとその他装備の数々──。

 

「おいおい。一体、何の真似だ?」

 

 まさか、拾えってのか?

 このシギンスに使えと??

 

「…………お前、どういうつもりで」

 

 相変わらず何を考えているのかはわからない。

 だが、まるで持って行けとでも言わんばかりだ。

 

 ってことはなにか??

 

「まさか、餞別のつもりか……?」

 

 冗談だろ?

 骸骨だろ、お前。

 

 だが、もし本当にそういうならありがたく貰うんだが──……ッて!

 

「な、なに!! こ、これは──!」

 

 手にしてみると、少々小ぶりの得物だった。

 しかして、高級な作りのわりにあまり使い込まれていないのがわかる。

 

 悪い剣ではない。むしろ上質なほうだろう。

 だが、問題はそうした質のことではない。

 

「まさか、この紋章は……」

 

 驚いた。

 剣に刻まれているのは栄光の騎士団のそれだ。

 否、それ以上のそれ(・・)だ。

 

「つまり、近衛騎士団の装備……だと!?」

 

 しかも、どうみても大人のそれではない。

 見習いなんかが、つなぎに手にする装備の類だ。

 

「馬鹿な! こんなもの、どこで……?」

 

 コイツ、まさか元近衛?!

 

 いや、そんなわけがないか──少なくても、近衛の兵が装備をこんなふうに雑に扱うとも思えない。

 

「……なら、俺が知らない間に近衛騎士団が捜索に来ていたのか?」

 

 そして、奴にやられて、

 装備だけが残った……。

 

「は! まさかな! そんなのって……」

 

 ……いや、ありうる(・・・・)のか。

 最強と名高い近衛ですら、奴にのまれるのか?!

 

「くそっ、あの野郎……どこまでも!」

 

 散々子供達を食い散らかしておいてまだ食うのか?!

 

 ……だが、十分にあり得る事態だ。

 

 派遣理由も。

 そして、負けた理由も。

 

「そうさ、すべては、あの時俺が油断したせいだ……」

 

 派遣理由なんて考えるまでもない。

 王族を含む貴族多数が奴に食われたんだ。そりゃ近衛くらい動くさ。

 

 そして負けた理由……。決まっている!

 

 軍隊とミミックという相性の悪さもさることながら、王族の捜索に来た近衛が無理押しをできるはずもないのだ。

 

 おそらくは、なにか卑怯な手を使われた。

 王子かあるいは高位貴族の遺体を盾につかったか……奴ならばそれくらいはする。

 

 そして、その原因を作ったのは間違いなくシギンスにある。

 

「……くそっ!」

 

 だから、この剣はここにある。

 そして未だ奴は好きに人間を貪り食っているのだ。

 

「やはり、脱出するしかない……!」

 

 そして、一刻も早く外にこの情報を伝えるのだ。

 奴の正体。

 そして、王族の末路について──……あぁ、そうだ、末路だ。

 

 グラハム王子、

 そしてハバナ王女の末路を……!

 

 ──ギリリッ。

 

 あの時の情景が蘇り、血が出るほど唇をかむ。

 同時にフラッシュバックするあの光景。

 

 仲間の最後。

 生徒達の絶叫──。

 

 そしめ、救えるはずだった儚い命……。

 

「ぐぅぅッ!」

 

 わ、忘れろッ。

 今だけは忘れるんだ!

 

 怒りにのまれてどうする!

 今、怒り狂って難になる!

 

 それよりも今、自分にできる最大限のことをしろ──!

 

「そして、ここを出ろ!」

 

 ここを脱出するんだ!!

 なんとしてもぉぉ──…………!

 

「……はぁはぁはぁ! あ、ありがたく頂戴するぜ、相棒」

 

 汗をびっしょりとかいたシギンスはなんとか呼吸を取り戻し不敵に笑う。

 そうさ、こんなところで潰れるわけにはいかない。

 何のために死肉をくらってまで生き延びたのかわからなくなる。

 

 だから、なんとかその怒りを鎮めると、剣を帯び──そして、抜いた。

 

 シュランっ!

 

「ははっ──悪くない」

 

 意外にも剣はしっくりと手に馴染んだ。

 かつてフルアーマーを着こんで戦っていた時以上だ。

 

 おそらく、片足での立ち振る舞いには、この小振りの剣のほうがむいているのだろう。

 また、ここにきてのリハビリも利いているらしい。

 

「くくくっ、全てが無駄ではなかったか」

 

 暗闇に落ち、

 得体のしれない肉を食らいながらも生き延びた甲斐があったというものだ。

 

 そして、感謝するぞ相棒。

 

「……いや、戦友か」

『こかかかかかかかか』

 

 静かに笑う骸骨は、確かに戦友だった。

 

 そして、剣を帯びた瞬間、理解した。

 なぜシギンスを救い、なせこの低ランクダンジョンで、この骸骨がここまで研鑽を続けたのか。

 

 それはこの日、この時、この瞬間を待ちわびていたのだ!

 

 シギンスと同じように、

 誰かが奴が激しく交戦する、この千載一遇のチャンスを!

 

 ──そのための剣か!!

 

「ならば、行くか!」

 

 今ならわかる。

 この骸骨が何を言わんとするのか、シギンスに何を求めているのか!

 

 ──そうとも。

 

 シギンスは外へ!

 骸骨は内へ!

 

 分かれて怨敵を討つために!

「そして、ともに仇敵を滅ぼすために!」

 

 行くぞ戦友!

 

 こうして、二人は駆けていく。

 

 一人は死地へ

 一人も死地へ

 

 だがその先は、闇の中か光の中かで大きく違う。

 

 そして、シギンスが目指す光の中は大きくも広い。

 そして、その先の先の先に必ずこのダンジョンがある。

 

 だから……!!

 

 

「なぁ、最後に名前を聞いていいか?」

 

 

 二人して、出口まで到達し、背を向けた骸骨にシギンスは語りかける。

 

 親しげに、

 そして、初めて心を開いて──。

 

 すると、ようやく振り返った骸骨は静かに笑う。

 一瞬、光指す出口のそれに、若い冒険者の姿を幻視した気がしたが、おそらく気の所為だろう。

 

 代わりに骸骨は、こかかかか……と歯をこすり合わせて、何かを囁き。

 そして、静かに剣を抜くと壁を切った。

 

 

 ジャキーンッ!!

 

 

 その一閃は鋭い。

 並の剣豪すら敵わぬほど鋭い。

 

 そして、その先に刻まれたのはなにかの文字列。

 

 そうか、

 それが君の名か。

 

 

 

 

『こかかかかかかかか』

 

 

 

 

 

 そう言ったきり、

 いっそ上機嫌に見えるようにして、骨を鳴らしながら暗闇に去っていく漆黒のアンデッド。

 

 その名も──……。

 

 

 

「……いや。読めねぇよ」

 

 

 

 壁に刻まれた文字は、ちょっと読みづらかった。

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