「はー?」
──お兄ぃだぁ?
いつも以上に間抜け面を晒しつつ──そして、「私」の背後を茫然と見つめていた。
「……いや、誰だよそれ」
お兄ぃってなんだっけ?
口を背後から串刺しにされながらも、その言葉を
おにい、
お兄ぃ。
──あ、鬼?!
「って、あいだぁぁぁああああ!」
敵の正体を看破しようとしていた「私」であったが、次の瞬間、激しい剣劇を背後から猛烈に受ける!……受まくる!!
い、いだっ、いだっ、
「いッだぁぁああああああ!」
し、しかもコイツ!
弱点の蝶番あたりを、何度も何度もしつこく、ぐりぐり、どががががっ! と集中攻撃しやがるー!
(くっそがー! この野郎、さっきの戦闘を見てやがったのか?!)
いや。
それとも、最初から知ってたのか……?
「──ま、いずれにしても、それだけじゃ「私」は倒せないぞぉ!」
いってーけどな!
しかして、最初の一撃は満を
だから、食らった。
見事にクリティカルだ。
それは素直に凄いし、認めよう!
──だが、それから先はいただけないねぇ!!
「けっ! 素人剣術をレベルで補ってるアホ冒険者特有の動きそのものだな!」
強いは強いね!!
だけど、それだけだ!!
筋力も体重もない羽のように軽い一撃は、剣がなければ痛痒すら感じなーい!!
「だからさぁ!」
パキーン!!
「ついでに
蝶番は確かに弱点だ。
だが、箱唯一の可動域である
そして、そこばっかり連撃をくらったのは大ダメージだが、そのおかげというかなんというか、攻撃の勢い余って出っ歯シーフにやられたナイフの固定が、ついに外れてくれたぜー!
ひゃはぁー!!
さーんきゅ〜♪
「そこをすかさず、蓋を閉じてからの──思いっきりの
パッカーーーーーン!!
『こかかかかっ?!』
いえーい。
そのまま壁まで吹っ飛ばし、叩きつけてやったわー!
「ハッハー! どうだっぁあ!」
ボカぁつぇーだろう!!
そして、
てめぇは、その体重の軽さが仇となったな──!!
「──って、な、なんだこいつ?!」
うぎぎぎぎ……!
「お、おいおい、うぎぎぎ……って、お前ぇ──」
骨を軋ませながら起き上がったのは、なんと、なんとー!!
──まさに、骨!!
小柄な体躯に剣と盾。
近衛騎士団の物と思われるそれを
「はぁぁあー?! お、おまっ! が、骸骨ってことは、スケルトンかよ!」
え、ええー?
なんでスケルトンが襲ってくるの?
し、知らんぞこんな奴?!
え?
「私」のアンデッドにこんなんいたっけ?!
「…………いや、いない!!」
だって「私」のアンデッドは基本、
そして、半溶けのゾンビはともかく、完全消化したスケルトンは例外なく綺麗な白かクリーム色をしているはず。
少なくとも、こんな禍々しい漆黒カラーで染まってなどいなーい!
「……ってことは、ただの魔物か??」
そーいや、ここダンジョンだったわ。
ゴブリンとかがいる天外魔境だったわー。
そら、スケルトンの一匹や二匹いてもおかしくないわーー。
「ふーん。しっかし、初遭遇した魔物が黒いスケルトンねぇ」
ふふんっ。
これは面白い。
もし人間が見ていたら、仲間同士で何を争っているんだーというかもしれないが──と〜んでもない。
先のダイアーウルフ戦もそうだし、
このダンジョンにいるゴブリンとて同じ。
人間に襲い掛かるという面だけ見れば同じかもしれないが、基本はどれもこれも違う生き物(?)だ!
そうなれば、
食料(人間)は競合するし、住環境が重なることもある。
なんなら時にはお互い食いあうことすらね!
「──だったら、ミミックに襲い掛かるスケルトンがいたっておかしくないわなー」
『こかかかかかかかっ!』
けけけっ。
ホーント面白いねぇ。
だけど、残念だね。
「わりぃけど、ボカぁスケルトンには興味ねーんだ」
だって、
ゾンビならいざ知らず。
スケルトン、喰うとこないやーん?
まだゴブリンの方がワンチャンあるわぁ。
「──なので、悪いけどどっかに行かないんなら、サクっと仕留めさせてもらうよ!」
満身創痍で、攻撃手段の大半は失われていたけど、こんな骨一匹に負ける「私」ではなーい!
まぁ懸念があるとすれば、
その攻撃手段の少なさの他に、コイツが今、このタイミングで仕掛けて来たということの一点だ。
……ん?
(ってことは、まさかとは思うけどねぇ……)
「お前ー……もしかして、ずっとこの瞬間を狙っていたりす──
『こかかかかかかかかか!!』
ッ!!
「あっっぶねー……」
か、語るに及ばず……ってかぁぁ?!
するどい一撃を蓋を閉じることで辛うじて躱すが、思いっきり
やるなぁ、コイツ。
人間と違って余計な口を利かない分……強い!
「……はっ! だけど真正面からとは、いい度胸だね! うらっぁああ!」
すかさず反撃。
舌が無くて、無抵抗だと思ったか?
ざーんねん。
舌撃がなくても、「私」には嘔吐があるんだよッ!
「くらえ、ストレージアターーーック!!」
『こかかかか……!』
叫ぶ私を完全に無視して、低い姿勢で切り込んできた漆黒のガイコツ!!
そいつの斬撃が、今度こそ私の表面を切り裂くが──……それがどうしたぁ!!
「軽いんだよ、テメェの一撃はよー!!」
人間ならいざ知らず。「私」は箱だ。
血も流さなければ内臓もこぼれない!! つまり刺突と斬撃にはめっぽう強い!
(いッてーけどなぁぁあ!)
そして、反撃として体内のストレージを勢いよく射出!
すると、打ち出された数々のドロップ品が骸骨に次々に着弾!
剣に盾に、骨に皮!
その他。ポーション瓶とかガキの内臓とかが色々ー!
この攻撃は予想外だったのか──発射したうちの数発が直撃し、奴がついに転倒する!
「はっはー! 命中~」
いぇー。
かしゃーん! と骨が転倒する乾いた音がしたのを見て、「私」は笑う。
「──そして、そんな隙を見逃がしはしなーいッ!!」
せーい!
くらえ、追撃の生徒アターーーーック!
「いけぇぇええ!「私」の可愛いお肉たちよぉぉお!」
出ませい!
上空から、降り注げぇぇええ!!
「ストレージ・シャワーーーーーー!!」(※ただのストレージ開放です)
どさどさどさどさーっ!
『こ、こかかかかかかかかかかかー?!』
「はーっはっはっは! どーだぁ。オヤツ用にとっておいた生徒たちの死体だぜー!」
口を若干上にむけてストレージ放出すれば、しまい込んでおいた無数のガキ肉が降り注ぐ。
へへ~ん。
アイテムボックスにはこういう使い方もあるんだよ。
「そして、まだまだ行くよー。大事に食べてるからストックならたくさんあるのさ」
オマケに、小柄なガキの肉とはいえ、ストレージ内は食べ物が腐らないから、生存していたときとほぼ同じ。
そのままの重さで降り注ぎ単純な質量兵器となる。
「──そこにきて、ただの骨のお前にそれをどこまで捌ききれるかなぁぁぁあ!」
『こかかかッ……!』
ズバババッ!
ぶしゅぅぅううー!!
「お、おぉー!」
や〜るねぇ。
勝利を確信した「私」であったが、なんとここで骸骨も奮闘を見せる。
慌てた様子ではあったが、骸骨野郎が降り注ぐ死体を切りに伐りに斬りまくり、切り裂いていくが──……はっ! 無ー駄無駄ぁぁあ!
「確かにつぇーし、剣技もなかなかのものだけどねぇ! お前の骨の身体はさぁ──……決定的に「筋力」に欠けているんだよぉぉ!」
──骨なだけにな!
ぎゃーっはっは!
そうとも。
いくら高レベルのスケルトンといえども、所詮は骨だ。
物理法則というその
「……そして、トドメぇぇえ!」
骨野郎にぶった切られた生徒肉はちょっともったいないけど、あとで食べれば
そこに、さらに追加のお肉で圧殺してくれるわー!!
「ぉぉぉおおおー!! ストレージ・スプラーーーッシュ!」(※ただのストレージ開放でーす)
叫ぶ「私」の声とともに、体内のストレージから追加の肉がさらさらにと降り注ぐ!
「わーはははは! 肉が生徒の分だけだと思ったかー!」
ざーんねん!
最近、追加があってね!!
「お前の持ってる剣と同じ、ガキ肉をたっぷりだぜぇぇ!」
いけぇぇえ!
騎士団見習いども!!
今宵の指揮官は「私」!
「──貴様ら、お子様セットの追加じゃぁっぁああ!」
『こ、こかぁぁああ?!』
グチャチャチャ……!
ズズーンンンン……!
ついに、肉に埋もれる黒き骸骨。
必死に抵抗していたようだが物量には勝てずに、湿った音を最後にもはや身動きすらできずに圧殺されていく。
「わーっはっはっ!」
勝ちぃ!
我ながら鮮やかな勝利だぜー!
「ほーんと、敗北が知りたいわぁぁ!」
切られた舌でガッツポーズ!
「つーか、一人で来るとか間抜けにもほどがあるね」
ずっと機会をうかがっていたッポイけど、
それならそれで何を見ていたんだか──そもそも、「私」は一対一なら負けん、負けーん!
「ま、奇襲は肝が冷えたけどねー!」
肝があるか知らんけどぉ。
「……って、何? なんで睨んでんのミユちゃんー」
文句でもあんのー??
『くっ! くぅぅ、アンタぁぁ……』
死体に埋もれたスケルトンを必死で掘り出そうとしているミユちゃんが、恨み節たっぷりに振り返る。
……まぁ、そもそも君じゃ、掘り出ないんだけどねー。
ぎゃはっ!
なんたって、YOUはゴーストだからぁ! YO!!
「あはは、なに怒ってんのか知らんけど、今さら何しても無駄無駄。そんなん、死んでる死んでるぅ……あ、元から死んでるか」
ぎゃはははー!
だって骨だしー。
仮に生きてても(?)虫の息でそこからは出られないよー。
『うるさい、うるさい!! お兄ぃ、お兄ぃぃぃいいい!』
「ぎゃはははぁあ! そして、今のミユちゃんをみて思い出したぞー。お兄ぃって……あー、あれかー」
そうそう。
たしか、
それも、「私」の胃でゆ~~っくりと消化されたミユちゃんのお兄ちゃんのことね。
「なーるほどねぇ。どーりでこのタイミングで突っ込んできたわけだ。私が満身創痍になるまで、ずっとこのダンジョンに──……って、ええええ? な、なにそれ?」
言ってから驚いたけど。
え?
そ、そんなことある?!
つーか、「私」の食べかすって、反撃してくんのー?!
「え、こっわー……!」
しかも、
今の今まで、ずっっっっっっとダンジョンを徘徊してたのー?!
「こ、こっわー!」
ゾワッときたー。
いや、まぁ……でも、そっか。
反撃もなにも、すでに自由意志(?)を持ったミユちゃんがいるわけで──。
「あ、ミユちゃんもこっわー!」
『なんでよ! なんで!』
いや、なんでって言われてもマジ怖いでこの兄妹ー。
「えー……。二人して、なんで成仏してくれないのぉ?」
あ、もしかして、兄妹とか関係してるのだろうか?
一緒に食うと、意志を持つとか?
知らんけどー。
「……いっそ、試してみるってのもありか」
じろり。
ちょうどここに、妹ちゃんがいるわけで────…ん?
「なに、まだやんのー?」
キングハム実験でもしようかと思案していると、なんとなんと。
ぐぐぐ……と死体の山が盛り上がるではないかー。
(おほっ! 頑張るねぇ)
どうやら、腐ってもアンデッド。
あのお兄ちゃんスケルトンは、たかが圧死程度ではお気に召さなかった様子。
『お、お兄ぃー?!』
「はいはい、凄い凄い」
しっかし、しぶといねー。
さすがはアンデッド。完全に潰すか、
「まぁ、いいよー。かかってきなよ。そっからどう反撃できるか見ものだね!」
こっちはまだまだ攻撃手段がいくつもあるし。
舌もゆっくりとだけど回復してきた。
なんなら、動けない雑魚相手ならトラップを仕掛け直してやってもいい。
つまり、いくらでも料理できるわ!
「さぁさぁ、やるってんなら相手になってやるよ。そして、もう一回食い直してやるよ!」
骨だっていい出汁が出るだろう。
そのうえで、泣き叫ぶミユちゃんの前で、喉奥の圧搾機がごときパゥワーで骨を粉になるまでバラバラにしてやるのだー!!
そして、雑に吐き出して、ゲロに塗れたところをガキの内臓とミックスしてミユちゃんに見せつけてやるのだー!
ぎゃーははははははは!
「さぁ、かかってき──……」
あん?
『こかかかか……』
へ?
こかかかか、って……。
死体の山を注視していた「私」であったが、
なんと、そこから出て来たのは、
そして、
「んなっぁぁあ?!……ま、真下だとぉぉ!?」
し、しまったー!
(い、いつの間に?!)
慌てて視線を向ければ、
なんとなんと、いつの間にか頭だけが、ゴロゴロと転がって「私」の真正面にいやがった!
おまけに、ケタケタと笑ったかと思えば、パカーと口を開けやがる!
その口の中よ!!
「じ、じーざす!」
その頭部だけになったあの黒いスケルトンよ!!
そいつがニヤァーと笑う、あの表情! そして、なぁんで笑っているのかって?!
そんなの決ってんじゃん!!
「──お、お前らって、マジで自爆が好きだよねぇぇええええ?!」
パカーと開けたスケルトンの口。
なんとそこには、デッカイ爆弾がー!
「ファーーーーーーーーック!!」
じじじじじ……!
点火はどうするのかと思いきや、ガチンッ! と見事に歯を噛み合わせて、火花で着火!
騎士団謹製の大型爆弾が私の至近距離で爆発せんとする──!!
くっそがー!!
っていうか、そりゃそうか
黒い骸骨が持っていたのは、いつぞやの騎士団の剣に盾だった。つまり、どこかで騎士団が放置した補給品を入手したのだろう。
だったら、
「だったら──……その中に爆弾があったっておかしくはなーいってかー!!」
クソが……!