かぐやがヤチヨになるまでの8000年   作:竜山 三郎丸

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縄文時代編


かぐやがヤチヨになるまでの8000年

 ――不時着。

 

 失敗したぁ。月を出て、彩葉のところへ向かう途中。あと少しのところで隕石にぶち当たり、タケノコ型時間遷移機能付き宇宙船『もと光る竹』は海の中に不時着してしまう。場所はこの際しょうがない。時間は正しく着いただろうか?

「もと光る竹、応答して」

 返事がない。普段であれば全自動で生成してくれるはずの擬態も作られない。つまり、私には身体がない。

「もと光る竹、応答して……!」

 返事がない。やばっ。このまま、いつかもわからず、どこともわからない海の底で、身体もなく、朽ちない『もと光る竹』の中で永遠に過ごさなければいけないの!?

「もと光る竹。応答して……」

 

 願いが通じたのか、『もと光る竹』はようやく擬態の生成を始めた。だけど、それは犬DOGEの身体を作るだけに留まる。白い体のウミウシ。それは、ヤチヨの肩にいたDUSHIによく似た姿だった。それっきり、『もと光る竹』はうんともすんとも言わなくなってしまった。

 

「ねぇねぇ、どうしよっか犬DOGE。かぐやの事運べる?」

 白いウミウシの身体になった犬DOGEに問いかけるが、申し訳なさそうに身をよじるだけだった。

「やっぱ無理だよね~。どうしよ」

 

 私と犬DOGEはそのまま何日も海の中で佇んでいた。退屈。彩葉がいないとつまんないよぅ。

 

 ある日、思いついた。

「そーだ!犬DOGE、彩葉ごっこしよっ。かぐやがかぐやの役やるから、犬DOGEは彩葉の役な?ねぇねぇ、彩葉~」

 考えてみれば当然。犬DOGEは話せないので、また申し訳なさそうに身をよじる。

「はぁ、しょうがない。彩葉の役もかぐやがやるかぁ。ねぇねぇ、彩葉っ」

『わっ、かぐや。帰ってきたの!?本物!?』

 まるで子供がやるような一人芝居。けれど、たったそんな事で不思議と胸が温かくなった。

「んっふっふ、本物で~す。歌が聞こえたからさ、帰ってきちゃった。でも、大丈夫。今度はね、ちゃんと仕事終わらせてきたからね。ずっと一緒だよ」

『え、すごっ。やればできるじゃん。ご褒美に新曲作ってあげる』

「やったぁ」

 

 毎日、毎日私は私の中の『彩葉』と話して退屈を埋める。いつか、誰かが見つけてくれるまで。

 

「ねぇ、いーろはっ。今日はなに食べたい?」

『ん~、ビーフシチューとか?』

「大得意っ。任せて!」

 鼻歌を歌いながら想像の中の私は料理を始める。歌うのはもちろん彩葉が作ってくれた大切な曲。

 

 毎日、そうやって誰かが見つけてくれるのを待つ。海の底から空を見上げると、水面でにじんだ月が見えた。

 

 どれくらいの間、私は『彩葉』と話していただろう?当たり前だけど、私は私と話しているだけだ。彩葉とじゃない。退屈。寂しい。

 

「ねぇ、彩葉」

 何日経ったのか、何年経ったのかももうわからない。私は今日も海の底。最初は太陽と月が上るのを数えていたけれど、百を超えたあたりから数えるのをやめてしまった。彩葉だったらなんて言うかな?『そうやってすぐ飽きるんだから~』と小言を言ってくれるかな?

 

「ねぇ、彩葉」

 いつしか私の中の『彩葉』は何も言ってくれなくなってしまった。

「……大好き」

 忘れないように。自分に言い聞かせるように。

 

 彩葉に会いたい。その為に月から戻ってきたのに。

 

 退屈。寂しい。悲しい――。

 

 月が昇っても、海底が揺れても、地響きがしても、私は何も変わらない。

「もと光る竹、応答して」

 思い出したようにつぶやくが、当然応答は無い。本当にずっと私はこのままなのかもしれない。きっとなんとかなる、心のどこかでそう思っていたのだが、急に泣きたくなってしまう。それでも、身体を持たない私にはそれすらもできはしない。

 

「犬DOGE、何とかしてよ。君なら動けるでしょ!?誰か探してきて!」

 犬DOGEはウミウシの身体で海底をゆっくりと進み、やがて姿が見えなくなった。

 

 何回日が昇り、沈んだかわからない。犬DOGEは帰ってこなかった。私は一人になってしまった。

「彩葉ぁ……。暗いよぉ、寂しいよぉ、助けてよ……」

 

 そこからどれくらい時間が経ったか、犬DOGEは申し訳なさそうに私の元へと戻ってきた。

 「犬DOGE!帰ってきてくれたの!?どうだった!?」

 

 ウミウシの身体では動ける範囲は決まっている。彼は何も、誰も見つけられなかった。何度かそんな遠征を繰り返すと、私は次第に犬DOGEにきつく当たるようになってしまう。

「もっと……ちゃんと探してよ!ずっとこのままなんておかしくなっちゃうよ!」

 それでもDOGEは文句も言わずにまた誰かを探しに行ってくれる。

 

 それを何度も、何度も繰り返す。私は、バカみたいに毎回DOGEを怒鳴り散らす。

 

 もしかしたら、DOGEも本当に嫌になって戻ってこなくなってしまうのではないかと思った。

 

「DOGE、ごめん。どこにも行かないで。一緒いて」

 

 メソメソと涙声でそう告げると、DOGEはウミウシの身体で私に寄り添ってくれた。

 

 そのままずっと私たちはそこにいた。

 

 何年、何十年、何百年。

 

 死にたい――。変わらない海底で時を過ごす内に、初めてそんな事を思った。

 

 だけど、そのうちそんなことすら考えるのを止めた。

 

 本当に長い時間が過ぎて、海底はすこしずつ隆起していき岩壁になった。私はその上で、ずっと膝を抱えていた。身体なんて無い。もしかすると、心ももうないかもしれない。

 

 そこから見渡す世界は、あの日彩葉と過ごした世界とは全然違う、ビルも道路もない世界だった。もしかすると、遥か遥か昔。

 

 そこで私は思い出した。歌って踊れて8000歳の電子の海の歌姫を。

 

「……ヤチヨ。どっかにいるんでしょ?出てきてよ。……助けてよ」

 抱えた膝に顔を埋めて涙を流す。そんな事をしても何も変わらないのに。

 

 海底と違い、外の世界は移り変わりがあって少しは退屈しのぎになった。色々試すうちに意識を『もと光る竹』から遠くに離せる事が分かった。まるで空を飛ぶように、周囲を見渡すのは本当にいい気分転換になった。

 

 幾年かが経ったある日、――ついに私たちは人を見つけた。

 

「犬DOGE!行こうっ」

 

 ウミウシの身体に私も入り、時間をかけて、ゆっくりとだけど私たちは岩壁を離れ、砂浜に向かう。私たちの時間は、ようやく動き出したのだ。

 

 「彩葉、待っててね。私すぐ追いつくから」

 

 

 

 

 




続きます!
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