かぐやがヤチヨになるまでの8000年   作:竜山 三郎丸

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続きものです。
かぐやの8000年の旅、戦国時代編の自己解釈。




会いたいものがいるのだろう 戦国時代・茶々

 ――それからまた数百年。

 

 色々な人と共に生き、様々な人を見送って、今日も私は生きている。時は天正10年。あと何年過ごせば、令和になるのだろう?2030年になるのだろう?

 

 世にも珍しい死なないウミウシ。必然的に私は時の権力者への贈り物とされる事が増えていた。

 

 この頃の私の一番の友人は、その権力者の姪っ子であり、名を茶々と言った。この時14歳。僅か5歳の時に戦国大名だった父を亡くして、母と二人の妹とともに、天下人にほど近い権力を持つ伯父のもとに庇護されていた。

 

 茶々には二人の妹の他に兄がいた。だけど、鎌倉の昔から今も同じ、滅びゆく家の世継ぎの運命は決まっている。

 

 彼女は年齢の割に達観しているようにも見え、意志の強い瞳が特徴的な少女だった。不死のウミウシの私を、彼女はフシと呼んだ。

 

 「フシはずっと生きてるんでしょ?それじゃあ、ちゃんと最後まで見ててね。私が運命に負けずに超幸せになるところ!」

 

 5歳で落城と父の死を経験した彼女は、大きな身振りでそう言って笑った。運命に抗うと言ったその瞳は、太陽のようにまぶしく輝いて見えた。もしもあの時、私も同じ事が言えていたなら……、考えてみて小さな頭を振って否定する。

 

 私は茶々と色んな話をした。まるで、あの頃の自分と話しているみたいな、無鉄砲で、無敵で、万能感のある少女。彩葉の話をするたびに、茶々はやきもちを焼いて頬を膨らませていた。

 

「でも、いつか会えるといいね。会えたらちゃんと私の事も話してよね。『一番』の友達だって」

 

 ――遡って考えると、彼女の言う通り8000年の旅で一番友達と言えたのは茶々だったのかもしれない。

 

 彩葉に似て、私にも似て、運命に抗い生きると言った少女。

 

 彼女を試すかの様に、運命は茶々に新たな試練を与える。天正11年、天下を目前にした彼女の伯父は部下の裏切りに会い命を落とす。そして、その仇を討った部下たちの話し合いで、茶々のお母さんの二度目の嫁ぎ先が決まった。そして、翌年起こった跡目争いの戦いにより、その城は落城。茶々のお母さんは城と運命を共にした。

 

 15歳で二度の落城を経験した茶々は、燃え盛る城を遠くで眺めながら、二人の妹の手を引き、肩に乗せた私に向けてつぶやいた。

「大丈夫。私は、絶対幸せになる。『はっぴぃえんど』?。見せてあげるから」

 

 涙も見せず、まっすぐに焼け落ちる城を見つめるその瞳は、不謹慎だけどとてもきれいだと思ってしまった。

 

 五年後、天正16年。茶々は結婚することになる。相手は跡目争いの勝者で、今一番天下に近い人だそうだ。茶々のお父さんより年上で、茶々のお父さんの城を落とした張本人。それも、二度ともだ。

 

 茶々は20歳。相手は親より年上の両親の仇。そして、時の権力者。もし断れば、自身に、すでに嫁いだ妹たちに、どんな事が起こるかは容易に想像が出来た。

 

 その話を聞いた茶々は、小さく一度息を吐いて、肩に乗せた私に笑いかけた。

「大丈夫。私は、絶対幸せになれる」

 

 そう言った茶々の顔は、彩葉と同じ顔をしていた。

 

 運命は、受け入れるしかないの?

 

 

 茶々が運命を受け入れても、彼女への苛烈な仕打ちは続いた。21歳で生まれた子が、三歳にもならずにこの世を去ってしまう。それでも、茶々は泣かなかった。

 

 それでも25歳の頃にはまた男児を産む。『(ひろい)』と名付けられたその男の子は、お兄ちゃんの分もとばかりに、よく食べ、すくすくと育っていった。

 

「ねぇ、フシ」

 拾の寝息を聞きながら、茶々は優しい笑みで呟く。

「幸せだねぇ」

「だねぇ」

 

 

 私は小さいウミウシの顔を弛ませて相槌を打つ。

 次の天下人が約束された男の子。もうほとんど争いのないこの世界。彼にはどんな運命が待っているんだろう?

 

 やがて、天下を二分する大きな戦いが始まった。百五十年以上続いたこの国の戦乱を終わらせる最後の戦い。茶々も、まだ幼い拾もこの争いには直接関わらないようだ。どっちが勝ったとしても、今は亡き天下人の子として、ある程度の地位は保証されるらしい。

 

 戦いが終わり、ようやくこの国にも平和が訪れる。

 

 私は、30歳を超えた茶々と一緒に、毎日拾の成長を眺めて日々を過ごす。

 今日はどんなことができた。こんな事を喋った。そんな事を二人して自分の事のように自慢げに語り合った。

 

 天下とかそんなのは私たちにとってはどうでもいいこと。ただ、争いがなく、平和で、好きな人や大事な人が、笑って幸せに暮らせる。それだけでもうハッピーエンドだって思えるよ。

 

 ――そんな日々は15年続いた。15年しか続かなかった。

 

 亡き天下人の遺児である拾を、新たな天下人は放っては置かなかった。半ば言いがかりにも似た因縁を付けられて、私や茶々の住む大阪の城を巡り、最後の戦いが始まってしまった。

 

 二度に渡る大きな戦のあとで、遂に大阪の城は燃え落ちる。

 

 この時茶々は47歳。拾は21歳。茶々は三度目の落城の時を迎えた。

 

「フシ。今までありがとう。40年、ずっと楽しかったよ。達者でね」

 火の手が近づく城で、茶々は少女の時みたいな顔で手のひらに乗せた私に笑いかけた。

 

 もしかしてこれは、運命に抗うと言った事への罰なのだろうか?なんで茶々にだけ、これほどにひどい仕打ちが繰り返されるのだろうか?それならば、彩葉のいる世界を目指している私だって――。

 

 そう思ってしまって、数千年間張りつめていた糸がプチンと切れてしまう。

 

 私は茶々の手のひらから跳ねて、いつもの定位置……肩の上に飛び乗る。

「ううん、……もういいや。私もここで、茶々たちと一緒に――」

 

 そんな言葉を言うや否や、小さいウミウシの身体に強い衝撃が走る。茶々が私を平手で打ったのだ。

 

 状況が呑み込めずに目を丸くする私をそっと両手で持ち、頬に寄せ、恭しく台の上に置くと、見惚れるような所作で正座で相対した。天守に周る火の手が、パチパチと音を立てるのも意に介さず、茶々はまっすぐに私を見て、言った。

 

「フシ。お前は生きなさい。……会いたい者が、いるのだろう?」

 

 まるで、役をこなすように、毅然とした口調でそう言って、茶々は表情を崩した。

「彩葉によろしくね。元気で」

 子供のころのような顔で笑う茶々の目からはポロポロと涙が流れていた。茶々が涙を流すのを、この時初めて見た。

 

 

 従者に連れられて私は城を出る。

 

 あと何回こんな思いをすれば、また彩葉に会えるのだろうか?

 

 いつか、争いのない世界で、また彩葉に会えるだろうか。

 

 

 

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