次の話で現代に接続されます。
――茶々が城と運命を共にした慶長20年を最後に、そこから300年近く大きな争いは起こらなかった。
平和、なのだろう。茶々と
もちろん、人が生きている以上全く争いがないわけでは無い。それでも、この時代は私が今まで見てきた中でかなり平和な部類と言っていい。
私は今までと同じ様に、懸命に生きる誰かにすぐ彩葉の面影を見てしまい、共に過ごし、見送っていく。その誰もが、『この一瞬を最高のパーティ』にしようともがいて生きていた。今日も、私の小さな白い身体には大切なメロディが流れている。
再び国を二分する大きな争い。それが終わって数年後、明治六年一月一日。私はこの日付を絶対に忘れない。
この日から、この国での年の呼び方が変わった。
1873年、一月一日。
それを聞いて、私は涙が止まらなかった。
世界は繋がっていた。私は、あとたったの150年でまた彩葉に出会えるのだ。
少し白黒がかっていた世界は、俄かに彩りに満ちて見えた。
もう~い~くつね~る~とっ、と毎日楽しく歌いながら日々を過ごす。この時代、急激に変わりゆく世の中が楽しくて、私と友人は日本中を見て回った。その中には、遠い昔に訪れた場所もいくつもあった。
まるでKASSENの中のような、ちょんまげ姿の人はやがていなくなり、木造長屋も少しずつ減り、都会には石造りの建造物がタケノコのように建った。
1882年。この日、この国に初めて電気の灯りが灯る。ろうそくや油の灯りとは桁違いの眩さに、私は顔をしかめる。聞くところによると、あの電球の材料には竹が使われているらしい。私には直接関係はないけど、なんとなく嬉しい。
1890年。なんと、電動式のエレベーターが生まれる。ここからたった100年くらいでこの街はいつか彩葉と過ごした街になるんだと思うと、毎日が楽しくてしょうがない。まるで、植えた種が芽吹き、育っていくのを見守る様な。そんな不思議な感覚で、私は毎日を過ごした。
人間ってすごい。シンプルにそんな事を感じた。
でも、やっぱり人間はすぐに争いを始める。今度の相手は海の外。国内は戦場にならないから、血も傷も見えないから、みんなはまるでKASSENの実況を見るように、新聞が伝える戦果に熱狂していた。
やっぱり戦争はいやだ。どうかまた平和な世界が訪れますように――。
気を取り直して1926年。ついに、テレビが生まれる。初めてブラウン管に映し出された文字、なんだと思う?それは、い・ろ・は・の『イ』!残り104年。たったの104年。彩葉に伝えたい事が山ほど増えた。伝えきれるかな?聞いてくれるかな?
8000年の間に見た人間たちの営みは楽しいことばかりではなかったけど、楽しいことだけたくさん伝えたいな。生きるのは、最高だって。
そして、また戦争が起こる。
私は、東京を離れて広島にいた。
この時の友人はまだ小さい花売りの少女。戦地に赴いた父の帰りを待ちながら、毎日摘んだ花と交換に親切な農家の人に食料を分けてもらうたくましい少女だった。
兄弟も多く、彼女は母を助け、家族を守っていた。この子達が大きくなる頃には、どうか平和が訪れますように。少女の肩に乗り、帰り道の神社で神様にお願いをする。
1944年。戦況は悪化。ついに標的は国内となる。警報。空襲。爆撃。夜は明かりが漏れないように窓を目張りしなければいけなくなった。食べ物も、燃料もとても貴重になり、少女がどれだけ花を摘んでも、もう食べ物とは交換してくれなくなった。誰だって自分が生きるのが最優先。それはしょうがない。
「大丈夫。この戦争はちゃんと終わるから。100年後はね、すっごい平和で、みんな笑ってて、高いビルもいっぱい建ってるんだから」
私は友人を元気づけるように、力強く、明るい未来を告げた。
「楽しいこといっぱいだよ。だから、頑張って生きよ!」
小さな白い身体で飛び跳ねながらそういうと、少女は楽しそうに笑った。
「へぇ、楽しみだなぁ。ねぇ、フシ。もっと聞かせてよ、フシのいた世界のこと」
彩葉のこと、ヤチヨのこと、ツクヨミのこと。何度話しても飽きることのない昔話を、彼女は楽しそうに聞いてくれた。
「私も行ってみたいなぁ。行けるかなぁ」
あと86年。頑張って長生きすれば……いけるか?
「大丈夫!たくさん笑って元気に長生きすれば!フシが保証しちゃうっ」
大丈夫。戦争は終わる。この世界は、あの未来とつながってるんだから。
無責任に私は彼女にそんな保証をした。あの世界のことを、何も知らない私が、無責任にも明るい未来を保証してしまった。
そして1945年、8月6日。午前8時15分。それは起こった。
詳しくは話せない。何が起こったのかもこの時はわからない。
焼け野原と言うには生ぬるい街を、少女の肩に乗り歩く。
「……彩葉。助けて」
祈るように、そんな言葉が口から漏れてしまった――。
街には黒い雨が降る。噂によると、これは身体によくないらしい。彼女の母も、兄弟も、もういなくなってしまった。
「ねぇ、一緒に東京に行こう?雨は身体に悪いみたいだし、東京なら私知ってる人もいるかもだからさ」
彼女には内緒だけど、お父さんは春に南方で戦死したらしい。殺し、殺される。それが戦争。何千年経っても、世界から無くなることはない。
身寄りのない子供が一人生きるのは難しい。私の提案に、彼女は笑った。
「フシ、ありがとう。でも、行けない。……私にはここなの」
やっぱり、その顔は見覚えのある顔だった。その顔を見てしまうと、私にはもう何も言えない。
彼女はそこで父の帰りを待ち、雨のせいかどうかはわからないけれど、干支が一周する前に短い一生を終えてしまう。
「フシのいた世界。一緒に行けなくてごめんね」
彼女は最期にそう言って笑った。