夜の校舎へ
ここは○○県稀園市。人口は5万人ほど、栄えてなくはないが都会とは言い難い、そんな場所だ。自然との融和都市を目指しているとは言うものの、栄えているのは駅周辺のみでそこから離れると一気に田舎の風景が広がる。僕が通う私立大園高校も駅から離れた郊外に位置している。そのため、僕は家から通わずに学校の近くの学生寮で生活しているのだが、それはどうでもいい話。大園高校は今から数年ほど前にできた新設校で地域の有力者が建てた学校だ。築数年ということもあって設備も整っている。セキュリティも万全で各教室に入るには学生証が必要なほどだ。まあ、ここまで厳重になってしまったのには理由があるのだが…
今、僕が夜の学校にいる理由。それはとある噂の真相を確かめるためだ。チャンスは今日しかなかったのだ。だから、寮を抜け出しこっそりとここまで来たというのに…
夜の学校、時刻はすでに22時を過ぎ人の気配はほとんどない。ほとんどないはずなのに、なぜか僕の目の前には一人のカメラを持った女子生徒と懐中電灯を携えた男子生徒が立っている。なぜこのようなことになっているのだろうか…
「えっと、なんで2人はここにいるの…?」
「もちろん、スクープのため!」
「もちろん、幽霊を見るため」
「スクープ…?幽霊の正体…?」
「そうそう、スクープ。君、1組の日向君でしょ?私は3組の本庄怜(ほんじょうれい)、よろしくね!そして君は…」
「2組の林墨(リン・モー)。」
「ああ、中国人留学生の。林君はなんでここにいるの?」
本庄さんが林君に尋ねる。
「オカルト研究会の活動の一環として、ぜひ幽霊を見てみたいと思った」
「なるほどね、肝試しみたいなものなの。それで、私たちは理由を説明したけど、日向君は?」
「僕は…僕も噂を確かめに来たんだ」
「ふーん…二人とも肝試しなんだね。怖いもの知らずって感じ。でもそうだよね、噂を確かめたいのならば今日しかないもんね。ということで、ハイチーズ!」
本庄さんが手に持っていたカメラで僕と林君を撮影する。強いフラッシュに思わず顔をしかめてしまう。
「なにすんのさ!」
いきなり取られたことによって思わず語気を強めてしまう。
「記念よ、せっかく目的は違えど夜の学校に集まった仲じゃない。私一人だけだったら心細かったし一緒に行こうよ!」
本庄さんの提案は別に悪い誘いではない。確かに勇み足でこの場に来たものの、夜の学校というのは思った以上に怖いものだ。一人で入るのには勇気がいるだろう。
「俺はいいよ。目的一緒」
「僕も…一緒に行こう」
「決まりだね、それじゃ早速…勝手口から中に忍び込みましょ」
学校の勝手口は鍵が壊れており、針金でぐるぐる巻きにされているだけなのだ。
「待て」
勝手口に手をかけ、どこから取り出したのか手にペンチを持っている本庄さんを林君が止める。
「うん?どうしたの?」
「われら三人、天に誓う!生まれた日は違えども死すときは同じ!…これでよし」
「い…いまのは…?」
「同じ目的を持つ友ができたらしなさいって習った」
「あ…そうなんだ。とりあえず、気が済んだのならもう中に入りましょ?時間も惜しいことだし」
バチンと針金を切り取り、勝手口の扉を開く。ぎーっと鈍い音を流しながら一階の廊下が目の前に広がる。普段見ている景色とは全く違う。見慣れているはずなのにまるで知らない場所のようだ。林君の懐中電灯以外、明かりはない。当然だ。今この学校は電気と呼ばれるものはすべて落ちてしまっているのだから。
懐中電灯を持っている林君を先頭に、続いて僕が校舎内に足を踏み入れる。その後ろを本庄さんがついてくる形だ。
「まずは、どこから行く?」
「僕は…」「静かに」
林君が僕と本庄さんの会話を遮る。
「ピアノの音」
耳を澄ますと、確かにかすかにピアノの音が聞こえてくる。
「うそ、でしょ…」
本庄さんの顔に驚きの色が浮かぶ。
「行こう」
「え、ちょっと待って!」
懐中電灯を唯一持っている林君が奥へとずんずん進んでいく。慌てて僕と本庄さんもあとを追いかける。
音楽室はこの学校の4階だ。
「ねえ、本当に幽霊っているのかな…?」
さっきとは打って変わって弱気になった本庄さんが僕たちに訪ねてくる。
「え、それを確かめに来たんじゃないの?」
思わず僕が素っ頓狂な声を上げて聞き返してしまう。
「いや、確かにスクープとは言ったけど…でも、そんな、いきなりというかなんというか。私も話半分で来たというか…もう!怖いから何か話して!」
突然そんなことをいわれても…と思わないこともなかったが確かに怖いものは怖い。何かを話していたほうが気がまぎれるだろう。
「そういえば、本庄さんはスクープのためって言ってたけど、具体的にどういうことなの?」
「うん、それはね…?」
僕の後ろに隠れながら本庄さんは恐る恐るついてくる。
「今日の朝のことなんだけどね…」
今日の朝、きっと僕がここに来ることを決めた朝の集会のことだろう。