現在
「すんなり開けることができたのは日向のおかげか」
「お前なあ…」
今ここで話したのは贖罪の意味も込めてだ。黙っておくのは、新山先生に悪いような気がしたのだ。
「本当にごめんなさい…」
「はー。とんだ問題児だよ全く…」
先生は廊下の窓にもたれかかる。
「…俺にも、その行動力がありゃな…」
「何か言いました?」
「なんでもねえ、てか、あいつら何話してんだ…?あいつらも仲良かったのか?」
「初対面だと思いますよ?」
教室では、花村と本庄さんが何かを話しており、こちらには何も聞こえない。
しばらくして、本庄さんがこちらに近寄ってくる。
「日向君、ちょっと来て」
「僕?」
なんで僕だけ?
「しっかり、お別れしてきてね。それじゃ、ごゆっくりー」
といって、本庄さんに無理やり教室に押し込まれてしまう。教室には僕と花村二人だけだ。
「…」「…」
二人の間に沈黙が流れる。
「あの…」「ねえ…」
「花村先に言いなよ」「日向こそ…」
「じゃあ、僕から…」
「花村と、その、一緒に花の世話ができて楽しかった」
「私も楽しかったよ」
「友達のいない僕の、初めての友達になってくれてありがとう」
「どういたしまして、こちらこそ、いつも手伝ってくれてありがとうね」
「それから、えっとえっと…!」
ああ!なんで言葉が出てこないんだよ!せっかく会えたのに、このためにここに来たのに!
花村は、フフッと笑ってこちらに近寄ってくる。
「私にとっても、日向との時間は特別な時間だったよ」
「…!」
「日向は、長生きしてね。そして、これからもお花を好きでいてくれたらうれしいな」
「…うん」
「あ、お花の面倒見てあげてほしいな。ここの花も私が面倒見てるんだよ。私のロッカーの中にお花の栄養剤を入れてるから、使ってね」
ここの花が枯れなかった理由、花村が面倒を見てくれていたのか。死んでからも、花村がずっと…
「…わかった」
「幽霊って、人に触れるんだね。もちろん物にも。だからこうやって…」
花村がそっと手を伸ばし僕の涙をぬぐう。いつの間にか泣いていたらしい。
「日向の涙をぬぐってあげられる。もう泣かないで?」
「花村…!」
いやだ、行かないでほしい。消えないでほしい。
「日向と過ごした日々は、本当にかけがえのない大切な時間だったよ。本当に、ありがとう、日向。その日記、受け取ってくれる?鍵も渡すからさ。中にはお花の育て方とか記録してるからそれを参考にね」
「うん、わかった。大切にする」
「本庄さんに、ありがとうって言っておいてくれないかな?あの子、いい子だね。もっと早く友達になっておけばよかった。あ、でもあの子怖がりだからしっかり守ってあげてね?いやー、日向はぐいぐい引っ張っていってくれる人がお似合いだと思うなー!」
「…そろそろ行くね、さよなら、日向。会いに来てくれてうれしかった。最期にあえて、本当にうれしかった。ありがとう、そして、さよなら、私の大切な友達…」
光が散っていくかのように花村の体が足元から消えていく。花村の最後の顔は、笑顔だった。
光はいつの間にか消え、教室には僕だけが取り残された。
「う…!うあ…!ううううう!!!」
ぽたぽたと涙があふれる。嗚咽が止まらない。いつの間にか、みんなが僕の周りにいる。
そっと林君と新山先生が僕の肩に触れる。
誰も何も話さない。でも今はその気遣いがありがたかった。