僕は、階段を駆け上がり目的の場所である理科室にたどり着いた。
「よし…!も、もう三回目だ。大丈夫、大丈夫…!」
自分に言い聞かせるように独り言をつぶやく。よし、覚悟は決まったぞ。
僕は理科室の扉の窓を覗き込む。理科室の床には、何かが這いずっているように見える。きっとあれが金森先生だろう。そのまま、金森先生はドアの方まで這いずってくる。そしておもむろに立ち上がって扉の窓に張り付いた。
「…!」
心臓がドクンと脈打つ。さっきまでは人と一緒だったが、今は一人だ。スマホのちっぽけなライトしか頼りになるものはない。
扉に張り付いた先生は、すぐに消えた。そして、また理科室中央の床付近にうずくまり、床を這いずっている。
「やっぱり、花村と一緒だ」
花村も、教室を出ようとしたら机のところに戻されていた。金森先生も同じなのだ。先生も出ようとして同じ場所に戻されているのだ。急に現れたように見えたのは床にはいつくばっていたからだろう。覗き込まない限りは死角になってしまい、見ることができないのだ。
この学校の幽霊は、何度も同じ行動を繰り返している。今思えば木枯さんはピアノをずっと弾き続けていた。花村はクラスの花の世話をしながら日記を探してた。あくまでも推測だが、死ぬ前の行動を繰り返しているのではないだろうか。
じゃあ、金森先生の行動は何を繰り返しているのか。床にはいつくばって何かをするなんて限られてくるだろう。
「よし、次だ!」
確証はないが、もしかしたらこうではないかという推測が浮かんでくる。今度は職員室に向かって走り出した。
マスターキーを使って職員室のカギを開け、そのまま新山先生の机を漁る。ボールペンや付箋…雑貨がごちゃごちゃになった机の中に、きらりと光るきれいな箱。やはりこれは、指輪ケースだ。ケースの中には指輪が一つ収められている。
僕はそれをつかんで職員室を後にした。
「はあ…はあ…ごめん、お待たせしました…」
「どこ行ってたの?」
「うん、ちょっと職員室に…」
「何をしにいってたんだ?」
「それは…」
僕は先生の前に行き、しゃがみ込む。
「金森先生を助けるために必要なものを取りに行っていたんだよ。新山先生、これは、多分先生にしかできないことです」
そういって、僕は先生に婚約指輪が入ったケースを手渡す。
「俺が、明子を助ける…?」
「はい、先生にしかできません。そのためにも、もう一度行きましょう、理科室へ」
「…本当に、俺が明子を助けられるのか?」
「はい」
多分…という言葉はぐっと飲みこんだ。どっちみち新山先生が無理ならば誰でも無理だろう。ここは、先生にかけるしかないのだ。
よろよろと先生が立ち上がる。
「二人も行こう」
「ああ」「う、うん…」
僕たちは理科室に向かって歩き出した。