理科室前に来ると、みんなの表情が険しくなる。僕は、マスターキーを使って鍵を開ける。
「…あれ?」
鍵を開けたつもりだが、開いていない。僕は何度か鍵をひねる。
ビタン!
「うひゃあ!」
鍵を開けていた僕は、真正面で金森先生が窓に張り付くのを目撃してしまう。目の前で張り付かれたら人間だろうが幽霊だろうが怖いのだ。
「日向、大丈夫か?」
林君が声をかけてくれる。
「う、うん。大丈夫」
僕はようやく鍵をひねり、扉を開ける。
「日向君、危ないよ!」
「大丈夫だよ。それよりも先生、こっちに」
僕は先生の腕を引っ張る。
「…」
先生は緊張の面持ちだ。無理もない。
「床を這いずっていたのか」
「ひい…!」
「先生、その箱の中身を渡してあげてください」
「…」
先生は床を這いずる金森先生の前にしゃがみ込み、ケースを開ける。初めて、金森先生の動きが止まった。金森先生は、ゆっくりと左手を新山先生に差し出す。
新山先生は、指輪を金森先生の左手薬指にはめた。
「…!」
ぱあっと光が新山先生の体を包み込む。するとどうだろう、焼けただれていた先生の顔が、元に戻っていく。
「明子!」
先生は、金森先生を抱きしめる。
「いきなり、抱き着かないでよ。恥かしいじゃない」
金森先生はうっすらと透けている手を新山先生の背中に回す。
「明子、ごめんな、ごめんなあ…!」
「もう、みっともないんだから泣かないの。生徒の前よ?」
「驚いた、元に戻ったのか」
「一体なのがどうなっているの?」
「あなたが、助けてくれたのかしら?ありがとうね」
「いえ、そんな…」
「日向、説明してくれ。どうしてこうなると思った?」
林君が僕に疑問を投げかけてくる。
「うん、確証はなかったんだけどね。花村も木枯さんも、死ぬ前の行動を繰り返していたのを覚えてる?花村は日記を探したり花の世話をしたり、木枯さんはピアノをずっと弾いていたりしてたよね。じゃあ、金森先生は何をしていたんだろうって思ったんだ」
「金森先生は、突然扉のガラスに現れたよね?でもあれは、突然現れたんじゃないんだ。床を這いずっていて、突然立ち上がったからいきなり現れたように見えたんだ」
「確かに、先生は床を這いずっていたね」
「そう、じゃあ、なんで床を這いずっていたんだと思う?二人はどんな時に床を這いずる?」
「人に謝罪するとき」「掃除ずるとき」
「う…うん、確かに」
本庄さんの掃除はまだわかるが、林君の謝罪に関してはそれはどうなんだろう…
「…床に落としたものを探すとき」
「そうです、新山先生」
「そうよ、理科の実験中に指輪を落としてしまったの…それを探してるときに誰かに後ろから…」
金森先生は涙を流す新山先生の背中をさすりながら答える。
「金森先生は、なくした指輪を探していて後ろから何者かに襲われた。襲われた後逃げようとして扉の方に向かったところを…」
止めを刺されたんだ…
「…さて、そろそろ木枯さんのところに行かないと。あなたたちも来てくれるかしら?」
「はい」「ああ」「はい」「…」
金森先生は新山先生の手を引いて立ち上がる。そのまま金森先生たちは出ていった。