電気は止まっていても、水道は出るらしい。そりゃそうか、電気ガス水道は別々に分かれてるんだから。
僕は、手と顔を洗う。冷たい水に触れ、気持ちが落ち着いていくのを感じる。
「ふう…あ、ハンカチないや」
「あ!よかったら…」
「日向、これ」
林君がハンカチを差し出してくれる。
「ありがとう、林君」
「あっ…」
「本庄も使うか?」
「い、いや、なんでもない。大丈夫、自分のがあるから…」
本庄さんはなぜだかちょっとしょんぼりいている。
「そうか。それよりも、落ち着いたか?日向」
「え、ああ、うん…」
本庄さんにも指摘されたことだが、どうやら林君も僕が険しい顔をしていたことに気がついていたらしい。
「そうか、ならいい」
林君は口数が少ない、それでも思いやりのある人だ。本庄さんだってそうだ、僕のことを気遣ってくれる。なんだか申し訳ないな…
「あの、ごめんね。迷惑かけちゃって」
「迷惑?そんなものかかってないよ?」
「そうだ、それに友達のことを心配するのは当然だ」
「と、友達…?」
「今のは少し傷ついた」
「ああ!ごめん林君!別に友達のことに疑問を持っていたわけじゃないんだけど…その、僕友達少なくて、友達って徐々になっていくものというかなんというか」
「じゃあ、日向は一年の時から何人友達が増えたんだ?」
「…花村だけ」
「人間関係って、付き合った長さも大事だけど、密度っていうの?濃密な付き合いも大切だと思うよ?そう考えたら、私達も今日この時間で濃厚な付き合いをしたんだし、友達って言ってもいいんじゃない?」
ジーンと胸の奥に何かこみ上げるものがある。僕は友達作りが苦手だ。でも、もっとシンプルに考えてもいいのかもしれない。何か同じ目的をもって行動したら友達と思ってもいいのかも…
「ま、同じ目的を持っていても薄い付き合いはあるが」
「ね、私もそう思う。話合わせるだけの人間関係もあるよね」
「…」
やはり、友達作りは難しい…
「俺は先に戻る。先生を一人にしている。大丈夫だと思うが、一人にしすぎるのもよくない」
「そうだね、僕も水を飲んだら戻るよ」
林君はすたすたと歩いて音楽室に戻っていった。
僕は、ウォータークーラーのボタンを押す。押したのだが、水が出ない。
「あ、しまった…」
水は出るとはいえ、電機は止まっているのだ。当然ウォータークーラーは動かない。
仕方ない、蛇口の方で飲むか…苦手なんだよなー…蛇口から飲むの。
「日向君、よかったらこれ」
本庄さんがカバンからペットボトルの水を取り出して僕に渡してくる。
「え、悪いよ」
「いいのいいの、遠慮しなくていいから!」
「あ、そう…?ありがとう」
本庄さんの圧に押され、僕はペットボトルを受け取る。
「…」
なぜかふたを開けるところを凝視されている。人にじっと見られながら飲み物を飲むのは、正直言って飲みにくい。
僕はできるだけボトルから口を離して水を飲んだ。これなら口も着かないし問題ないだろう。
「ごちそうさま、ありがとう」
僕はキャップを閉め、本庄さんに返す。
「…そうだよね、日向君って、そういうの気を使うタイプだよね…」
「…?」
先ほどとは違い本庄さんのテンションが下がっている、声のトーンに元気がない。何か気に障ることをしただろうか?
「ねえ、日向君。私たち、どこかで会ったこと、ない?」
「え?うーんと…」
「ほら、だいぶ前に!」
「…」
だめだ、まったく思い出せない…
「ごめん…まったく思い出せなくて」
「そっか…ごめんね、変なこと聞いて」
「そろそろ戻らないとね、行こ!」
「あ、うん…」
どこで出会ったのかを聞きたかったのだが、仕方ない。
「そういえば、本庄さん」
「なに?」
「僕は気にしないから、シャツ握ってくれていいからね」
「え…?」
「ほら、さっきみたいに急に転んだりいきなり現れたりしたとき危ないからさ」
「えっと…ありがとう。あの…もし日向君がいいのならシャツじゃなくて…」