「気を取り直して、これからだが…残った七不思議は2つ。ここからどうする?」
「後何と何が残ってるの?」
「えっとね、多目的室の死の黒板と開かずの扉だよ」
「それってどんな内容なの?」
「多目的室には黒板があって、その黒板に名前を書かれたものは死んでしまうって噂。開かずの扉は、この学校には隠された扉があって天国につながってるんだって」
「…?」
なんとなくだが、違和感を覚えてしまう。今までの噂というのは、どことなく場所が指定されていたり、学校に関する噂だった。多目的室の死の黒板というのはまだわかるとして、開かずの扉があって天国につながっているというのは、非常にあいまいで学校に関係していない気がする。氏神様の噂もあいまいといえばあいまいだが、まだ夜の校舎を歩くと、ぺたぺたさんに殺されるといったまだ、学校に関わりのある内容だった。
「ああ、それなんだが、多目的室だけはマスターキーで開かないんだ」
「え?何でですか?」
「それがな、単純に鍵が合わないんだよ。誰かが変えたのか壊れているのか。開けることができないんだ」
「…もしかして、開かずの扉は多目的室でしたってオチ…?」
「うーん…入れないというのならどうしようもないね…」
「いや、まだわからない。開いているかもしれない」
「どういうこと?」
「日向、さっき理科室のカギを開けようとしたな?」
「うん、そうだけど」
「鍵、開いてたんじゃないのか?」
その時のことを思い出してみる。そういえば…カギを回したはずなのに鍵が閉まっていた。あれは、鍵を開けたのではなく、鍵を閉めたのだ。つまり、元々鍵が開いていたものを僕が閉めてしまったのだ。
「確かに、開いてたかも」
「さっきから、教室、理科室、音楽室回ったがどこもカギが開いていた」
「単に開けたままにしてるんじゃ?普段はセキュリティがかかってるんだからカギ閉め忘れたとか」
「そう思ってほかの教室を見てきたが鍵がかかっていた。職員室もかかっていただろう」
「いつのまに…」
「顔を洗いに行って戻るとき」
さらっと林君が答える。今思い返せばそうだ。確かに職員室は閉まっていたのに1組の教室は開いていた。
「もしかして…七不思議に関係する場所のカギは開いている…?」
「俺もそう考える」
「それなら確かに、開いてるかも」
「じゃあ、行ってみる価値はありそうだね、多目的室に行こう」
「話はまとまったか?それじゃ、行くか。俺も最後まで付き合う」
こうして僕たちは多目的室を目指すのだった。
林君と新山先生が先に進むのを後ろから追いかけようとする。すると本庄さんに服の袖をつかまれた。
「どうしたの?」
「…」
すっと本庄さんがうつむきながら手を差し出してくる。僕は恋愛漫画のような鈍感な主人公ではない。これが意味するところくらい察することができる。ようするに手をつなげということなのだろう。
僕も本庄さんの手をつかもうとして、ぴたりと止まる。
これは一種の罠なのではないだろうか?本庄さんが手を差し出してきたからといって手を握れという意味ではないかもしれない。実際さっきまで本庄さんは僕の腕をつかんでいたのだ。だからこれも腕を差し出せという意味なのかもしれない。
いや、あえて最初のようなシャツをつかませろという合図のなのかもしれない、事実、先ほど僕たちは手をつないでいるところを見られて非常に恥ずかしかった。だが、シャツならどうだろう、まだましなのではないだろうか。怖いからシャツをつかんでいます、ほかに他意はありませんという意味なのかもしれない。相手の気持ちを読み取って裏を読めとかつて僕の姉が言っていた。
では、この本庄さんの行動は一体何を意味しているのだろう、裏を読むならば…
「もう!」
僕があれこれ悩んでいる間にしびれを切らした本庄さんが僕の手を握ってくる。一瞬思考がショートする。
「…行こ?」
「…」
つないだ手がじんわりと熱を帯びる。
先ほども言ったが、僕は恋愛漫画の鈍感な主人公ではない。女子と手をつなぐなんてしたことがないのだ。シャツを掴まれることや、腕をつかまれるということとは違う。手をつなぐというのは、こちらも意志をもって行う行為なのだ。今までは本庄さんにシャツや腕を貸していたにすぎず、僕の意思はなかった。しかし、手をつなぐというのは違う。僕も明確な意思をもって本庄さんの手を握るのだ。
いろいろごちゃごちゃ言ったが、要するに女の子の手を握るのはめちゃくちゃ緊張するということだ。
本庄さんの手は思ったよりも小さく、温かい。そして何よりも、やわらかい。女の子の手はこんなにも柔らかいのか…初めて知った。
僕は本庄さんと手をつなぎながら林君達の後ろをついていく。
「(勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな勘違いするな…)」
あくまでも本庄さんは怖いから手を握ってきているのだ。勘違いしてはいけない、僕に好意があるかも…?とか考えてはいけない。一緒に過ごしてきて、本庄さんはナチュラルにこういう行動をとれる人なのだ。勘違い男製造マシーンなのだ。だから、勘違いするな…!
「…鈍感」
「うん?何か言った?」
「べつに?なーんにも」
僕は雑念を払うために念仏でも唱えようかと考えていたところで本庄さんが何かをつぶやいたように気がしたので思わず聞き返した。
「そういえば…」
僕は雑念を振り払うために本庄さんに話題を振る。
「僕たちって、前に合ったことあるって言ってたよね?それっとどこで…?」
「日向君、覚えてないんだもんねー?私は覚えているのに」
「ごめんなさい…」
じとーっとした目でにらまれ、謝罪の言葉しか出てこない。
「ふふ…冗談だよ。じゃあ、ヒントあげるね。入試の日、消しゴム。これでどう?」
「消しゴムと入試の日…?もしかして…!」
思い当たる節が一つある。入試の日、僕は女の子に消しゴムを貸してあげたのだ。
「思い出してくれた?」
「うん、あの子は本庄さんだったんだね」
「正解、だから私は知ってたの」
今思い返せば、今日初めて非常口であった時も本庄さんは僕のことを知っていた。そういうことだったのか。
「思い出してくれてよかった。今消しゴム持ってきてないから今度返すね?」
「別にいいのに、多分あの時ももう上げるって言った気がするし」
「そういうわけにはいかないよ」
律儀な人だなあと思いながら多目的室に向かう。一階の廊下に着くと本庄さんはそっと手を放した。
「名残惜しいけど、ここまでで」
「う、うん…」
名残惜しいというのはどういう意味だろう。いろいろ含みのある言い方だが深く考えても仕方ない。ほんのり火照っている体を僕は深呼吸して落ち着かせる。
さあ、もうな不思議は残りわずかだ。気合を入れていかなければ。