朝
がやがやとした喧騒が体育館に広がる。今日は週に一度の全校朝礼の日だ。長い長い校長先生のありがたーいお話が続く。早く終わらないかな。ありがたすぎて私には肌に合わないみたい。あ、だれか貧血で倒れた。場所からして3年生だろう。ますます早く終わらないかな。なんとなく私もしんどくなってきた気がする。多分気のせいだろうけど。
やっとのことで、校長先生話が終わり、続いて生徒指導の八島先生にマイクが渡る。
「みなさんおはよう。本日夜から明日の朝にかけて、学校のセキュリティ点検のため本日22時から明日の明朝にかけて学校のセキュリティが使えない。貴重品は必ず本日中に持ち帰ること」
ふーん、と思いながら適当に聞き流す。別に取られて困るものは学校にはおいていないし私には関係のないことだ。
放課後
適当に今日の授業を聞き流し、待ちに待った放課後。私は新聞部の部室に向かう。部室の前に立つと、中から声が聞こえてくる。ドアを開けて中に入ると、案の定、部室には部長がいた。
「なんてことだ、このままでは部の存続が…!」
「こんにちは、鹿野(かの)先輩」
「む、おお。本庄か。こんにちは。すまないな。気が付かなかった」
この人は鹿野先輩。新聞部の部長だ。そして、私はその新聞部の唯一残った部員でもある。新聞部は絶賛廃部危機、何なら活動停止も言い渡されているくらいの部活なのだ。
「本庄が来たことだし、新聞部立て直しのプランを考えよう」
「立て直しって言っても…部活動停止命令が出されている状況でそんなのできるんですか?というか、部活動停止も先輩の記事のせいですからね?」
「う…確かに原因は私かもしれないが私は真実を捻じ曲げたこの学校の管理体制を憂いてだな…」
「あー、分かりました分かりました。それで?立て直しの具体策とかあるんですか?」
「ああ、今日の朝礼で今日学校のセキュリティが落ちるということを言っていたのを覚えているか?」
「あー、確かに言ってましたね。」
「それで、本庄はこれを知っているか。最近ささやかれているこの学校の七不思議とやらを」
「はあ、まあ小耳にはさんだことぐらいならありますよ?2年1組の枯れない花とか、理科室には濃硫酸をかけてくる女がいるとか…それですよね?」
「ああ、それだ。」
「まさか、幽霊を信じて七不思議を調べてこいとかいうんじゃないでしょうね?」
「まさにその通りだ、今日はセキュリティが落ちて夜の学校に入ることができる。まさに絶好の機会だ。」
「そんなオカルトな…」
「いや、これにはもう一つ。大きな理由がある。見てくれ。」
そういって先輩は紙にペンですらすらと文字を書いていく。書き上げたのは今この学校で噂になっている七不思議だ。
・理科室の濃硫酸女
・ペタペタさん
・2-1の枯れぬ花
・音楽室の夜泣くピアノ
・開かずの扉
・踊り場の殺人鬼
・多目的室の死の黒板
今見返したら、どれも眉唾な話ばかりだ。
「ここ数か月で自殺者、失踪者が何人も出た。それは知っているな?」
「ええ、もちろん。大騒ぎでしたからね。先生2人に生徒が2人でしたっけ?失踪とか自殺で亡くなったのって」
「ああ、その結果この学校のセキュリティがとんでもなく強化されて、今や学校に入るのでさえもこれがいる」
鹿野先輩が生徒証を取り出す。そうだ、この学校はすべての教室に入るには生徒証が必要なのだ。生徒証がない人間は学校にすら入ることができない。
「この事件が起きたのが2か月ほど前。そして、このうわさが広まったのもここ最近だ。何か関係があると思わないか?」
「うーん…そういう事件が連続して起きたから一部の生徒が面白おかしく話したことが広まっちゃったんじゃ?」
「確かにそうかも知れない。しかし、この学校はできて数年とはいえこれまでそういう七不思議は聞いたことがない。この事件が起きてから広まったんだ。私はこの事件と噂には何か関係があるんじゃないかと思うんだ。」
「なるほど?それで調査してみようと…ま、確かに夜の学校に入って調べられるのもこの機会だけでしょうしね」
「ところで、先輩は調査手伝ってくれないんですか?」
「うむ、私は10時以降は起きていられん。眠くなってしまうからな」
最近の小学生でもそんな子いないだろ…とは思わないでもない。
「調べるのはいいですけど、どうやって学校に入り込むんですか?窓を一か所開けておくとか?」
「うーん…ああそうだ。一階廊下奥の勝手口を知っているか?あそこのカギが壊れていて今針金で巻かれているだけになっているんだ。」
「あ、そういえば聞いたことがあります。」
「そこの針金を外したら忍び込めるんじゃないか?」
「まあ、確かに…」
まじめな顔をしてとんでもないことをいう先輩だ。でも、七不思議を題材にして記事を書くというのは悪くない。こういう内容は結構ウケがいいのだ。
「了解です、じゃ、学校に忍び込んで調査します!」
びしりと敬礼をする。もし、先生にばれたら…先輩に脅されたことにしよう。さすがに責任を取ってもらおーっと。
現在
「と、とんでもない事させる先輩だね…」
「ま、まあ、こういう記事のほうがウケがいいから…」
カツンカツンと、3人の歩く音だけが響き渡る。
「そういえば、新聞部活動停止って聞いたけど。なにしたの?」
「えっとね、こんな記事書いたの」
ごそごそと本庄さんはカバンの中からクリアファイルを取り出し1枚の紙を見せてくれる。学校の掲示板に貼られていた記事のようだ。
僕と、足を止めた林君が覗き込む。
大園高校の闇
ここ数ヶ月の間に、複数もの自殺者、行方不明者が出ているのはご存知だろうか。
最初は、2人の行方不明者から始まった。3年生女子のK女子と、K教諭だ。同時行方不明事件はさまざまな憶測が飛び交った。この2人は実は恋仲であり、性別、そして教員と生徒という禁断の関係に悩み駆け落ちをしたのではないか、はたまた2人は一緒になれないのであればいっそ…など、様々である。まだ発見されていないため真相は闇の中である。
そして、2人の自殺者が出た。H女子と、M教諭である。H女生徒は、自らのクラスで命を絶った。明るく、性格も良く心優しい彼女がなぜ…これも真相はわからない。そして、同日M教諭が階段から落ちて亡くなられた。果たして、二つの事件は本当に偶然だったのだろうか。何か関係があったのではないだろうか。もしかしたら先生達は何かを隠しているのかもしれない。我々新聞部はこの問題を隠蔽する学園に対して異議を唱えたい。学園側が何も語らないからこそ、様々な憶測が飛び交い、噂に尾鰭がついてしまっている。
「…」「…」「…」
何とも言えない沈黙が3人の間に流れる。
「さすがにやりすぎ、学校を悪く書きすぎ」
ため息をつきながら林君が言う。
「い、いや!ほら新聞記事ってある程度の誇張表現も大切っていうか!」
「憶測で書きすぎ」
「と、ともかく!私はここでこの事件と七不思議のつながりを調べたいの!ぶっちゃけ幽霊なんてとは思っていたけど…と、ともかく!私の話終わり!2人も詳しく話してよ!」
「どっちから話す?」
「…」
「日向?」
「え、あ!ごめんごめん。何かな」
「…話聞いてたか?俺らがここに来た理由をもっと詳しく話せとのことだ」
「あ…えっと」
「お前が話さないなら先話す」
「あ、うん…お願い」
僕は、手に持った新聞部の記事に再び視線を落とす。H女子…それはきっと彼女のことだろう。落ち着かない心を無理やり落ち着けて、記事を本庄さんに返す。
「俺は、知りたかったんだ。この学校の七不思議」
そういって林君は歩き出す。
「俺も時間は朝まで戻る」