「終わった…」
終わりを自覚した瞬間、全身がズキズキ痛みだす。今までアドレナリンでなんとか耐えていた体が急に限界を迎えたらしい。
よろける体を本庄さんが支えてくれる。
「服が…汚れちゃうよ…?」
「もう!今はそんなことどうでもいいの!無茶して!バカ!」
涙目で怒る本庄さん、確かに無茶しすぎたかもしれない。
氏神様がやれやれという顔でこっちを見ている。
「日向、男を見せたな」
「ううん、林君達が抑えていてくれたからできたんだ」
「それでも、一番の功労者はお前だ」
「ありがとう、林君」
「なあ、おいあれ…」
先生が指差す先、そこには二つの白骨した遺体が転がっていた。制服と、女性用のスーツを着た2人はきっと木枯さんと金森先生だろう。
「先生…」
「ありがとうな、日向。お前のおかげで、みんなの無念も、そして恋人も見つけることができた…」
「…はい」
「くぁー…わしはもう戻るぞ」
あくびを一つした氏神様は、周りの風景に溶け込むように消えていった。
死者は蘇らないなんて当たり前だ。だから人の命を奪うことは許されない。どんな理由があろうと、絶対にだ。
だからこそ、生きている僕たちは精一杯生きなければならない。それが無念の死を遂げた者達へ僕たちができるせめてもの行いだろう。そして、花村が残してきたものを今度は僕が守っていく。それが僕ができる花村への手向けだ。
「なんて、感慨に耽ってるところ悪いがな、こっからが俺たち大変だぜ。今から警察呼んで事情聴取だろうからな」
「あ…」「うえー…」「げっ…」
先生の一言に急に現実に戻される。時刻はすでに5時、日が登り始める時間帯だ。
果たして僕たちが体験したことを警察は信じてくれるのだろうか…ただ、ありのままを伝えるしかない。だって、真実なのだから。
そのあとは先生の宣言通り怒涛の時間だった。
僕は病院で診察をされ(幸い骨には何も異常がなかった)、その後警察の事情聴取、最後には寮を抜け出し学校に忍び込んだことに対して学校の先生から大目玉を食らった。
事件に関しては、八島のこれまでの事件への関与が認められた。只今取り調べ中であり、これから余罪の追求が進むだろう。
林君と本庄さんに関しては、保護者からもお叱りがあったのかぐったりしていた。ご愁傷様だ…
僕達が解放されたのは、夜7時を過ぎた頃だった。
「…」「…」「…疲れたな」
この中でいちばん体力があろう林君ですらぐったりとしている。それならば僕と本庄さんはもう限界を軽く超えているだろう。
よろよろの足取りで僕達は帰路に着く。
「2人には本当に色々助けられたよ。ありがとう」
「私なんて何もしてないよ、足を引っ張ってただけだし」
「そんなことないよ、本庄さんにたくさん救われたよ」
僕が暗い感情に襲われた時や迷った時にいつも本庄さんは支えてくれていた。それだけで僕は救われたのだ。
「林君もありがとう、林君がいなければ、多分死んでた」
「俺も同じだ。2人がいなければ俺も死んでいた。ありがとう」
なんだが照れくさい気持ちになる。きっと、この中の誰がかけても生きていなかっただろう。それだけぎりぎりの戦いだった。
「私、ここだから。最後に連絡先交換しよ?」
「ああ」「うん、いいよ」
僕達はスマホを取り出し連絡先を交換する。
「それじゃ、ばいばい!」
本庄さんは手を振って去って行った。
「日向も寮か?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ同じだな。俺たちも帰ろう」
「そうだね、疲れたよ…」
「で、申し開きは?」
「」「」
寮に帰ると玄関には男子寮の寮監さんが仁王立ちしていた。どうやらかなり怒っているらしい。それもそうだ、こっそり抜け出したのならば寮監さんの責任問題も言われただろう。
それから、再びこってり絞られること2時間、やっと解放されたので僕達は這々の体で部屋に戻るのだった。ちなみに、罰として一ヶ月の寮清掃を言い渡された…
ボロボロの体でシャワーを浴びる。そういえば、今日1日何も食べていない。何か食べるものはあっただろうか。流石に今から何か作る元気はない。即席麺とかでなんとか済ませよう。
僕がシャワーを浴び、部屋に戻ると部屋の前にお皿が置いてある。おにぎりが二つと目玉焼き、そして焼き鮭、添え書きには「お皿は洗って返すこと」と書かれている。おそらく寮監さんだろう。寮監さんの優しさに感謝しつつ、僕はお皿を部屋に持ち運ぶ。
この時間に食べるおにぎり、それも極度の空腹で食べるご飯は群を抜いて美味しかった。空腹は最高のスパイスらしい。
僕はベッドに横たわり、ぼんやり考える。体はまだ動かすとズキズキ痛むが動く分には問題ない。
明日から普通に学校に行くことができるだろう。明日からまた何も変わらない日々が始まる。なんなら、このまま目を瞑って眠ったら今までのことは実は夢でしたなんてことにならないだろうな…
ブーブー
スマホが震える、誰だろう?
林:今日はお疲れ
本庄:今日はお疲れ様!
2人から、ねぎらいのメッセージだ。僕も2人にお疲れ様とだけ返信し、目を閉じる。普通の日々に戻るからこそ、その日々を謳歌しよう。当たり前の日常を楽しもう。そんなことを考えながら僕は眠りに落ちていった。