本庄さんと手料理
「どう…かな?」
「うん、美味しいよ!特にこの卵焼き!」
「そう、よかった…!」
屋上に続く階段で僕と本庄さんはお昼ご飯を食べている。屋上は開放されていないのでここはあまり人が来ないのだ。
僕は今本庄さんの手料理を食べている。色とりどりのおかずにご飯、可愛く切られたリンゴなど非常に華やかだ。
なぜ僕が本庄さんのご飯を食べているのか、その理由はこの前の七不思議の一件が絡んでいる。
『日向君、この前は本当に色々ありがとう。何かお礼をしたいんだけど、何がいい?』
『そんな気にしなくていいよ。僕本当に何もしてないし』
『いいからいいから!何かしないと気が済まなくて』
『うーん…』
『あ、そうだ。お昼ご飯作ってあげようか?』
『え、いいの?』
『うん!任せて!明日はご飯持ってこなくていいからね』
というやりとりが昨日あったのだ。
「本庄さん、料理うまいんだね」
「そんなことないよ、人並み」
「そうかな?だって華やかなお弁当作れないよ」
「あはは…人に食べさせるというので少し気合はいっちゃったかも」
気合を入れて作ってくれたのか、嬉しいな。人が自分のために頑張って何かをしてくれるのは純粋に嬉しいのだ。
「あっ…」
次は何を食べようか、そう思って箸を伸ばした矢先、箸の一本が僕の手からこぼれ落ちた。
「あちゃー…」
「ごめん、ちょっと洗ってくるよ」
「近くの手洗い場まで遠いよ?」
「うーん、でも流石に一度床に落ちた箸で食べるのはちょっと…」
僕は階段から立ち上がり近くの水道に向かおうとする。
「日向君、あと少しだよね?」
「うん?ああ、ご飯の量?もう少しだよ」
僕のお弁当はもうご飯が二口ほどと唐揚げしか残っていない。
「そ…それなら」
本庄さんが意を決した顔でこちらを向く。
「あ、あーん…」
「え!」
「だって、お箸洗いに行っちゃったらお昼の時間なくなっちゃうし…あと少しならこれが一番いいんじゃないかな…?」
上目遣いで本庄さんが見つめてくる。こう見ると、本当に本庄さんは可愛い顔をしている。そして、そんな本庄さんが僕に対してあーんをしている状況だ、これは夢ではないだろうか?
「えっと…嫌だったかな…ごめんね…」
「嫌じゃないです!嬉しいです!」
「そう?ならよかった」
少し悲しそうな顔をした本庄さんを見て咄嗟に口をついて出てしまった。そりゃ当然嬉しい。女子からあーんなんて、そうそうしてもらえることはない。僕も覚悟を決めなければ…女の子に恥をかかせるなと昔姉から言われたのをふと思い出す。こういうのを、据え膳食わぬは男の恥というのかもしれない。
僕は口を開けた。
本庄さんが取ってくれた唐揚げを咀嚼する。
「どう?」
「さっきより、美味しいです…」
僕は恥ずかしさに顔を赤くする。食べさせてもらっているのもあるが、先ほどまで本庄さんが使っていた箸で食べさせてもらっている。ようするに、本庄さんと間接キスをしているのだ。めちゃくちゃ恥ずかしい…
その後も、僕は本庄さんにあーんをしてもらい、お弁当を食べ切った。
「ごちそうさまでした…ありがとうございました」
「お粗末さまでした、いえいえ、お礼だからね」
本庄さんはそういって笑った。
「さてと、私も残りを食べよっと」
「あ…」
しまった、本庄さんはまだ食べ切ってなかったんだ。それなのに僕がお箸を汚してしまった…
「…」
本庄さんは一瞬お箸を見つめると、そのお箸でご飯の続きを食べ始めた。
僕が気にしすぎなのだろうか…間接キスなど当たり前なのかもしれない。
「(日向君と間接キス間接キス間接キス…!間接キスしちゃってる!)」
「ごめんね、本庄さん。そのお箸使わせて…」
「いえ!そんな!こちらこそありがとうございます!」
「…?」
「あ、じゃなくて…気にしないで!」
本庄さんは優しいな、僕に気を遣ってこう言ってくれているんだろう。
本庄さんの優しさに甘えつつ、ちょっとテンションがおかしくなった本庄さんと残りのお昼休みを過ごすのであった。