放送室
放課後、僕は大園さんと放送室にいる。女子と2人でこんな部屋に入ったことがないので、少し意識してしまいそうだ。
「今先輩たちは放課後の時間を利用して噂を広めてくれているところでしょう。その間、私達も活動しましょう!」
「活動って何を…?」
「ふふん、これを見てください!」
大園さんが差し出したのは、一枚の紙だ。内容を見てみると、どうやら部活動の申請用紙のようだ。
「私達で新しい部活をつくります!」
「オカルト部的な?」
「オカルト部はすでにあるでしょ?オカルト研究会ですから部活とは言えるかどうか微妙なラインですけど…私たちはすべての不思議を調査し実証する、その名も!」
「その名も?」
「不思議調査部です!」
「…」
まあ、名前のことはこの際どうでもいい。問題なのは…
「活動の範囲が広くない?なにを持って不思議として、どんな活動をするのかわからないよ」
「細かいことはいいんですよ、私が不思議と思ったことが不思議です」
なかなかの俺様気質だ。なんならその紙、よく見たらすでに僕や本庄さん、林君の名前が書かれている。
「そんな記念すべき第一回の活動が私たち2人というのは微妙な話ですが…」
「まあ、仕方ないよ。2人は今別のところで頑張ってくれているんだから」
「それもそうですね、さて、私たちの第一回の活動は…迷いの四つ辻です!」
「迷いの四つ辻?」
「はい、この学校の近くに四つ辻がありますよね?」
おそらく学校近くの十字路のことだろう。あまりなじみのない言い方だが、四つの道があるということで四つ辻ともいうらしい。
「なんでも、その四つ辻に行くと同じ場所をぐるぐる回ってしまうんですって、それでいつの間にか学校に戻されるんですって!」
「そうなの?」
「うん、それで今日調査に行きましょう!」
大園さんはやる気満々だ。正直乗り気ではない。つい最近あんなことがあったのだ。自らそんな場所に突っ込んでいきたくはない。
「一緒に行ってくれますよね?」
「…分かったよ」
…女子の上目遣いというのはせこいと思う。あの目で見つめられてしまったら断るに断れない。
「やった!先輩ちょろい!」
「うん?」
「じゃなくて…先輩優しい!」
不穏な言葉が聞こえた気がするが、聞こえなかった事にしよう。僕はいやいや大園さんの後に続いて四つ辻へと向かった。
住宅街の中にある四つ辻は、人の気配がない。夕暮れ時ということもあり薄暗く、少々不気味だ。
「なんでも、事故で亡くなった子供の霊が迷わせているって聞きました」
「なんでそんな怖いこと今言うの…」
「情報共有は必要だと思って!」
「いらないよ、そんな情報…」
「ほら、うだうだ言ってないでれっつごー!」
僕達は四つ辻へと足を踏み入れた。
見た感じは何の変哲もない道路だ。さて、どちらに進むか…
「とりあえず、困ったら前!」
そういって大園さんはまっすぐ進んでいってしまう。僕もあわてて後をつける。高い塀に囲まれた住宅地なので、確かに見通しが悪い。事故が起こるのも不思議ではないかもしれない。
四つ辻を歩くこと1分、再び僕たちは四つ辻に出た。
「あれ?また四つ辻に出た」
「もしかしたら、細い道路でつながった四つ辻が連続しているだけかもしれないね」
「そうですね。もう一回まっすぐ進んでみましょ?」
「わかった」
僕たちは再びまっすぐに進みだした。まっすぐに進むとまた、四つ辻に出た。
「また?」
「…」
「日向先輩、怖くなってきました?手でもつないであげましょっか?」
「いらないよ!」
「強がっちゃってー!」
恐怖心が募ってきたのを見透かしたかのように大園さんに指摘され、僕は強めの反応をしてしまう。
「またまっすぐ行きましょう」
「うん」
それから直進をすること数度、何度も同じ四つ辻が出てきてしまう。何度も何度も…
「…」「…」
さすがの大園さんも怖くなってきたのだろう。あたりも完全に暗くなり、心もとない街灯だけが頼りだ。
「日向先輩…」
不安そうな大園さんの声が聞こえる。どうしたらいいのだろう…
「ごめんなさい…私が無理を言って連れてきたから…」
その一言に、はっとした。僕がしっかりしなければいけない。男だ女だいうのは古臭いかもしれないが、僕は男だ。そして、年上なのだ。僕がしっかりしないでどうする!
「大丈夫だよ、大園さん」
そういって僕は手を差し出す。
「怖いなら、手を握っててあげるよ?」
意趣返しではないが、僕は先ほど大園さんに言われたことをお返しに言う。
「日向先輩のくせに生意気」
「あはは」
大園さんは僕の手をそっと握る。
「え!」
「ど、どうしたんですか?」
「いや…なんでも」
まさか本当に握られるとは思わなかった。てっきり流されるものかと思っていたが…それだけ大園さんにも余裕がないのだろう。早く何とかしなければ…
僕は大園さんの手を引きながら再び直進する。するとどうだろう。右手側に学校が見えるではないか。
「あ、先輩学校ですよ!」
「よかった、抜け出せたみたい…」
僕と大園さんは手を取り合ってはしゃぐ。安堵の気持ちでいっぱいだ。そして…学校が右側に見えたことでこの謎も解けた。
「大園さん、分かったよ。迷いの四つ辻の謎が」
「え、嘘!」
「それを確かめるために、もう一度行こう」
「…もう一度」
しまった、配慮が足りなかった。そりゃ行きたくないだろう。今度は出てこれないかもしれない。
「分かった。それなら僕だけ行くから大園さんはここで…」
「行きます、一緒に行きましょ?」
「うん、わかったよ」