「でも、困りましたね。図書館で調べてましたけどなかなか有効そうな情報はつかめなかったんですよね…」
「猿夢の解決方法ってあるの?」
「うーん…掲示板では猿夢の解決方法までは書かれていなかったので…」
「また別の噂を流すとかは?夢に関係しない何か別の噂を」
「悪くない考えかもしれませんが、果たして猿夢を見ている斑鳩先輩がそこまで持つか…それに夢の噂を覆い隠すような噂を広めるのには時間がかかります…」
「そっか…」
「夢の中でこれは夢だと気がつく夢をなんと言うか知っていますか?」
「知らない」
「明晰夢っていうんです。猿夢も広く見れば明晰夢の一つですからね。その観点から探していたんですけど…」
大園さんは首を振った。どうやら望んだ情報は手に入らなかったらしい。
打つ手なし、どうしたらいい?何か方法があれば…というか、明晰夢を見ないようにする方法なんてあるのか?
「いっそのこと、神頼みでもしますか?」
「神頼み…?」
「冗談ですよ」
僕は怪異やオカルトの専門家ではない。でも、この学校には怪異の権化のような神様がいるではないか。
「もしかしたらなんとかなるかもしれないよ、大園さん。ちょっと来て!」
「は、はい。どこに行くんですか…?」
「この学校には神様がいるんだ、きっと力を貸してくれる!」
「はあ…なるほど?」
大園さんは半信半疑で僕の後をついてくる。
すっかり失念していた。この学校には神様がいることを。そして、その神様は夜の校舎に忍び込んだ僕達を心配して見に来てくれるくらいには情のある神様だということを。
僕達は校舎裏に向かった。
校舎裏
「そういえば、調書の中にもありましたね。これが氏神様の祠ですか?」
「うん、そうなんだけど…」
なんだか、ずいぶん綺麗になっている。具体的にいうと祠の屋根が修理されている。漆もしっかり塗られており新品同様だ。
「氏神様ー!助けてください!」
僕は大声で氏神様を呼んだ。
「…あんまりそう頻繁に姿を見せるものではないのじゃがな…此度はどうした?」
氏神様は祠の裏からひょこっと現れた。大園さんは目を見開いて驚いている。
「あの話は本当だったんですね…」
「うん、本当だよ。氏神様、頼みがあります」
「またか…我は失せ物と豊穣の神なのじゃが…まあいい、とりあえず落ち着いて話してみよ。草餅でも食べるか?少し痛んでるが」
「いえ…大丈夫です」
「饅頭の方が良かったか?少し腐ってるがあるぞ?」
「それもいいです…」
「そうか。それで?何があったんじゃ?」
僕は氏神様に事情を説明した。
「お前らはそういう星のもとに生まれておるのか…?何かに巻き込まれんと気が済まんようじゃな…」
「氏神様、なんとかできませんか?」
「…できるかできんかで言うと、何もできんな」
「そうですか…」
「ただ、その夢に囚われている奴は助けられるかもしれん」
「本当ですか!?」
「うむ、方法ならある。お前らが夢の中に入り暴れてこい」
「…はい?」
「日向の話を信じるのならば、同じ悪夢を見るのじゃろ?しかも他の悪夢を続けて見る人間も何人もおる、間違いないな?」
「はい、そうです」
「それならば、同じ夢の中に入り悪夢をめちゃくちゃにしてこい」
「…?」
全く理解できない…なぜそれが斑鳩先輩を救うことになるんだ?
「あ、なるほど。わかりましたよ!」
「え、本当?」
「はい、斑鳩先輩って夢の続きを見てたんですよね?」
「うん、電話で話を聞く限りはそうだけど」
「それなら、一回私たちが夢の中に入ってめちゃくちゃに暴れて壊し回ったらどうなります?」
鈍い僕もやっとここでピンときた。
「そうか、夢の続きを見るのならば、次寝る時僕達が暴れ回った後から夢が始まるはず!」
めちゃくちゃに暴れてしまえば斑鳩先輩が殺されるまで時間を稼げるかもしれない。その間にまた噂を広げれば…!
僕と大園さんは手を取り合ってはしゃぐ。
「で、肝心の夢に入る方法は?」
「あ…」
僕と大園さんは手を取り合ったまま硬直する。大園さんに言われるまですっかり忘れていた。どうやって夢に入ればいいんだろう。そんな方法あるのか?
「夢に縁を繋げてやる。そうすれば夢自体に入ることは可能じゃ」
「え、本当ですか!?」「やったー!」
僕と大園さんは改めて手を取り合ってはしゃぐ。
「じゃが、危険じゃぞ。なんせ殺人鬼が出る夢の中に入るということじゃからな。お主らもどうなるかわからん。夢の中で死ねば現実のお主らがどうなるかまではわからぬ」
「…」
「私は行きます。でも、先輩は…先輩達は行かなくてもいいと思います。元々私が噂を広めてとお願いした結果、こうなってるんです。責任は私にあります。だから…」
心配そうに大園さんがこちらを向く。取り合った手がほんの少し強く握られた気がした。大園さんは責任を感じている。自分が舵を切って進めてきたことに対してこのような結果になったことを悔やんでいるのだ。僕の背中にヒヤリと冷たいものを感じる。前にも感じたこの感覚、未知に飛び込む恐怖だ。きっと、大園さんもそれを感じているのだろう。
「…いこう、大園さん」
「先輩、本当に…いいんですか?」
「うん、乗りかかった船だよ。ここまできたら最後まで付き合うよ」
しかし、この問題は大園さん1人の責任ではないのだ。そして、1人では手に負えないくらいには広がっている。
「先輩、ありがとうございます」
「決まりじゃな。とりあえず悪夢を見ているやつを学校に呼べ。わしはこの土地からはでられぬのでな」
「わかりました、準備します。一旦放送室に戻ろう。みんなにも連絡しておくよ」
「そうですね、そうしましょう」
やることは決まった。あとは、こちらの準備と覚悟だけだ。