日向君の一つ下の1年生。学校の理事長の孫。その結果クラスでは厄介者扱い、教師からは腫物扱いをされているため学校はさぼりがち。その結果ますます周りの目が厳しくなってしまうという悪循環に陥っている。また、権力によってきた大人、金目当ての男、難癖をつけてくる女など、自分の周りの人間関係には嫌気がさしている。
一人は大丈夫と言っているが、実は非常にさみしがりや。甘えられる相手にはとことん甘えてしまう。日向先輩をどう思っているかは秘密。
放送室に戻ろうとして僕は大園さんと手を繋いでいることに気がついた。前も本庄さんと同じようなことをしてしまったが、どうやら僕は考え事をしているとつい周りが見えなくなるらしい。僕は慌てて手を離した。
手を離したのだが…今度は大園さんが離してくれない。手をパーにして離しているのに向こうが掴んでいるのだ。
「…?どうしました?先輩?」
「いや、その…手を」
「…?」
大園さんは可愛らしく首を傾げている。
その仕草に不覚にもキュンとしてしまう。
…じゃなくて
「いや、このままだと恥ずかしいし…」
「さっき、絡みにいくって言っていいよって言ったのは先輩ですよ?」
「え、絡みにいくって物理的だったの!?」
「えー、早速嘘つくんですかー?」
「う、そうじゃなくて…」
「ふふ、ジョーダンですよージョーダン!でも…もう少しだけこのままで」
また僕を揶揄っているのだろうか?そう思った僕だったが、ふと大園さんの手が震えていることに気がついた。
そうか、大園さんも怖いんだ。僕は一度こういう経験をしている。しかし、大園さんは初めてだ。そりゃ不安だろう。
「大丈夫だよ、大園さん」
僕は空いている片手で大園さんの背中をポンポンとする。こうすると落ち着くのだ。昔おばあちゃんがよくしてくれた。
「先輩、いきなり女の子の背中を触るのはNGですよ」
「あ、ごめん…」
何がセクハラになるかわからない。こういう行動はおばあちゃんやイケメンでしか許されないのだ。僕は手を止めた。
「別に私は嫌って言ってません」
…女心と秋の空、女の子って難しいな…
僕はそう思いながら背中をポンポンと叩くのだった。今思うと不自然な体勢だ。片手を繋ぎながら背中をトントンと叩いている。大園さんは背中を叩きやすいように僕の胸にほぼ密着している。大園さんの頭がちょうど僕の胸くらいにある。別に僕の身長は高い方ではない。多分平均的な男子高校生くらいだろう。それでも胸元までしかないというのは、大園さんはだいぶ小柄な方だと思われる。
「…わしは何を見せられておるんじゃ?」
呆れた顔でこちらをみる氏神様の視線が少し痛かった。
もう大丈夫ですと大園さんは手を離す。なんとなく、本当になんとなくだが寂しさを感じた。別に女の子ともっと触れていたかったという下心はない。断じてだ。
「放送室に行きましょう。まずは皆さんの意思を確認しないと!」
「そうだね、いこう」
「わしは待っておる。まだ人の出歩く時間じゃ。あまり学校内をうろうろできん。意見が纏まったらまた来い」
僕達は氏神様にお礼を言い、放送室に向かった。
「と、いうわけなんだ」
「…なるほど」「俺はいく」
「いいんですか?危ないですよ?」
「先輩を助けたい」
「…ありがとうございます、お願いします」
林君はそう言うと思っていた。
「あの、本庄さん。今回は…」
「私もいくよ」
「…」
「心配してくれてありがとうね。でも、噂を広めたのも私だから、私にも責任があるよ。大園さんだけが悪いわけじゃない。私にも、責任取らせてよ」
ニコッと微笑む本庄さんに僕も思わず笑みが溢れる。本庄さんは責任感が強い。いや、違うな。ここにいる全員が責任感が強いのだ。人間は自分が悪くても他人に責任を押し付け、責任逃れをしがちだ。しかし、ここにいる誰1人責任逃れをしようとしていない。それが僕にとって心地いい。
今まで人の妬みや嫉妬、失望ばかり見てきた僕だからこそそう思うのかもしれない。
「なにニヤニヤしてるんですか先輩…」
斜め下から聞こえる大園さんの声で僕は我に返る。なぜか大園さんがむすーっとしている。
「ご、ごめんごめん。早速氏神様に言ってくるね。みんなは待っていて」
僕は放送室から出た。
「先輩達って、どういう関係なんですか?」
「うーん…一緒に夜の校舎に忍び込んだ仲…かな?」
「友達だ」
「そうなんですね。別に本庄先輩と日向先輩は付き合ってるとかではないんですか?」
「つ、付き合ってないよ!!」
「ふーん、そうなんですねー」
「俺は日向のこと好きだ」
「え!?まじ!?」
「ああ、あいつはいい奴だ。一緒にいて心地がいい」
「確かに、一緒にいると落ち着くっていうかなんというか…」
「わかります、なんとなく落ち着きますよね。あと、変わってると思います」
「変わってる?そうかな?」
「…ここで言わないのはフェアじゃないか。先輩達は私がどう言われているか知ってますか?」
「…うん。ある程度は」
「噂程度には」
「日向先輩は全く知らなかったんですよね。それでも、私に普通に接してきて…私が弱みを握ってるっていうのに…」
「うーん、私も退学回避できたしなあ…弱みを握られてるとは思ってないけど」
「俺もだ。助かった」
「…日向先輩の言った通りですね。皆さんのことよく見てます、日向先輩」
「俺は自分の感覚を優先する。周りがどう言っていようが大園本人の行動を俺の目で見て判断する」
「私は…私はまだ大園さんのことがわからない。でも…日向君が信じているのなら大丈夫かなって思う」
「先輩…」
「改めて、これからよろしくね大園さん」
「俺もよろしく、大園」
「はい!よろしくお願いします!」
「戻ったよ…」
「あ、おかえりなさい先輩。なんか疲れてません?」
「いや…少し色々あって…」
「…?まあいいです。早速準備に取り掛かりましょう。具体的には何をすればいいですか?」
「まずはその悪夢にうなされているやつをここに呼べ。我はこの敷地内からは出ることができん。そしてお前らも夢に入る準備をしろ」
「夢に入る準備…?」
「そうじゃ、お前らにはこの後寝てもらう。当然夢に入るんじゃからな。じゃから眠れないと始まらん」
「あ、そうか…今みんな眠気は?」
「まあ、ほどほど…?」
「俺は問題ない」
「いつでも寝る準備万全です!」
どうやら本庄さんと僕以外は大丈夫そうだ…
「開始までに眠れそうにないやつは体でも動かして眠気を誘っておけ」
「は、はい」
眠気を誘えって言われると急に難しいな…言われた通り運動でもするか?
「夢の中に物って持っていけるんですかね?」
「わからん、わからんが手に持てるくらいのものなら持っていけるのではないか?」
「それなら武器とか道具を持っていきたいですね」
「確かに、どんなことが起きるかわかんないしね」
手頃で手に入る武器といえば…金属バットとか木刀だろうか。野球部とか剣道部から借りてくればいいかな?
「私はそういうの慣れてないし…応急セットにするよ」
「どんなゲームでもヒーラーは大事ですからね!私はスタンガンでも持ってこようかなー。もしくは暴漢撃退スプレー」
「俺はいらない。体が重くなる」
流石は武闘派な林君だ。そしてなんだか若干一名物騒なことが聞こえたがもうこの際なんでもいい。
「とりあえず、先輩を呼ぶぞ」
「そうだね、林君お願い」
林君はスマホを取り出し斑鳩先輩に連絡をする。数コールの内に先輩は出た
『もしもし、どうかしましたか?』
「先輩、先輩の悪夢を解決する方法がわかった」
『…本当ですか?』
「ああ、だから学校に一度来てほしい」
『…わかりました。少し準備をしていくので時間をいただけますか?』
「ああ、わかった」
『18時ごろまでには伺います。どちらに行けばよろしいですか?』
「放送室にたのむ」
『放送室…?わ、わかりました』
「それじゃ、また後で」
林君は通話を切り、スマホをポケットに入れた。