「で、日向君はなんで?君、肝試しとかするタイプなの?」
「僕は…」
「うん、そうだよ。七不思議を確かめたいなって。それだけだよ。」
「ふーん?」
「あ、そろそろ4階だよ。本庄さん大丈夫?」
「うわ…いやなこと思い出しちゃった。せっかく気を紛らわせてたのに…」
4階の廊下の奥、突き当りに音楽室がある。4階までくるとピアノの音ははっきりと聞こえてくる。
「えっと…音楽室の幽霊ってどんなのなの…?」
僕が二人に尋ねる。
「音楽室の泣くピアノ」
「そうそう、それ。なんでも、音楽室から泣き声とピアノの月光って曲が聞こえてくるんだって。コンクール前にノイローゼになって自殺した生徒が泣きながら今でもピアノを弾いているって…」
音楽室の前に立つと、本庄さんの顔がますます青くなっている。
「ね、ねえ。本当に開けるの?や、やめない?ほら、シュレーディンガーの猫ってやつ!観測するまでは幽霊かどうかわからないって…」
林君が何の躊躇もなく扉を開ける。
「ひい!」「きゃあ!」
「鍵、空いてる」
「もっと躊躇とかさ!」
本庄さんは僕のシャツに顔をぴたりとくっつけている。汗ばむ僕のシャツに顔をくっつけられているのですごく恥ずかしい。この心臓のバクバクも幽霊が怖いからなのかはたまた女子に顔をくっつけられているからなのかもうどちらかわからなくなってきた。
「入るぞ」
律儀に靴を脱ぎ、林君が音楽室の中へと入ろうとする。懐中電灯を持っているのは林君だけだ。明かりがないこの場所に取り残されるのも怖い!
「ほ、本庄さん残る…?」
「ここに一人残されるのは死んでもいや!」
シャツに顔を押し付けているからか、こもった声が聞こえる。
「よし…!い、いくぞ…!」
僕と本庄さんは靴を脱がずに音楽室の中に入る。音楽室のピアノは入口から見えはするものの、誰かが座っているかまでは見えない。
バクバクする心臓を押さえつけ、林君の後を追う。
「ピアノの陰には…誰もいない…?」
鍵盤の前には誰も座っていない。じゃあこの音は一体…?
「これだ」
林君が、ピアノの横、黒板の横に置いてあるカセットデッキを指さす。
「これって…カセットデッキ?」
林君がカセットデッキのスイッチを切ると、ピアノの音はぴたりとやんだ。
「何かの拍子にカセットデッキがついて音楽が流れたんだろう。中のCDが再生されたんだ」
「な、なんだ…そんなことだったの…」
「ほ、ほら、やっぱ幽霊なんていないんじゃない!あは、あはははは!」
安堵からかテンションがおかしくなった本庄さんが僕の背中をバシバシと叩く。
「はー…怖がって損した…」
「林君は、分かってたの?」
「いや、別に。でもあの曲は月光じゃない」
「あ、そうなんだ…」
林君は物知りだ。というか、冷静すぎる。本当に同い年なのだろうか…
「出よう」
「そ、そうだね…」
夜の音楽室、確かにそれだけでも怖いのだ、ここに長居はしたくない。
「次はどこ行く?」
廊下に出ると、元気を取り戻した本庄さんが僕たちに話題を振ってくる。
「次は2の…」
ペタ…ペタ…
「…」「…」「…」
どこからともなく裸足で歩く音が聞こえてくる。
「これは、裸足で歩く音…?」
「ペたぺたさん。夜の校舎を歩いていると、どこからともなく裸足のペタペタと歩く音が聞こえてくることがあるらしい。ペタペタさんはこの学校にずっといる幽霊で、夜に出歩く悪い生徒を殺してしまうらしい」
「じゃ、じゃあこの音って…」
「さ、さっきと同じこれも何かトリックがあるんでしょ!」
再び本庄さんの顔が青くなる。しかし、先ほどとは違い僕に引っ付いてくるほどではないようだ。
「きっとこれも何かがぶつかって音が鳴ってるとかそういうのに決まって…」
「おい、あれ」
本庄さんの話を遮り林君が廊下の先に懐中電灯を向ける。
ペタ…ペタという足音とともに、廊下の奥から誰かがこちらに向かってくる。背丈からして小学生くらいの子どものようだ。
「…」「…」
「逃げるぞ」
「うわあああああああ!」「きゃああああああああ!!!」
林君の逃げるぞという一言と、僕たちの叫び声はほぼ同時だった。