「俺は少し集中する」
「あ、それなら私は持っていく道具家からとってきますねー」
「僕もそうしようかな」「私も」
とりあえず武器になりそうなものは…やはり金属バットだろうか。
「日向」
「うん?どうしたの?」
「もし武器を持って行こうと思っているのならばバットはやめておけ」
まるで僕の考えを見透かしたかのように林君が言う。
「おそらく金属バットは重くて扱いづらい。木製ならば脆い。」
「な、なるほど…」
確かに言われてみれば別に野球もしていない人間がそんなものを扱えるとは思えない。
「おすすめは長い棒だ。距離も取れる、相手を突くこともできる」
「わかったよ。長い棒を探してくるね」
「あまり時間はないですね、急ぎましょう」
大園さんの言う通り、時刻は17時を少し過ぎている。18時まであまり時間の余裕はない。
「それじゃ、各自解散!」
大園さんの号令の元、僕たちは行動を開始した。
林君は放送室に残り精神統一を、大園さんは荷物を取りに家に戻った。
「僕たちはどうするかだよね…」
「うーん、そうだね。一旦ホームセンターとか行ってる余裕はなさそうだし…」
「学校の中で見つけるしかないね。応急セットなら保健室かな?」
「…貸してくれるかな?」
「うーん…」
「とりあえず保健室行ってみようか」
「そうだね、でも日向君の方はいいの?」
「僕の方は別に当てがあるわけでもないしね。先に本庄さんに付き合うよ」
「わかったよ、それじゃ行こっか」
と、意気込んで保健室に向かった僕達だが鍵がかかっていたので中に入れず途方に暮れていた。
「もう帰っちゃったのかな…?」
「あー、もう放課後だもんね…」
「お前ら何してんだ?」
「あ、新山先生」
ドアの前に佇む僕たちの後ろで声がした。振り返ると新山先生が立っていた。
「先生、いやちょっと保健室に忘れ物しちゃって…」
「ああ?めんどくせえな…もう先生帰っちまったぞ」
「あ、そうだ。新山先生マスターキーで開けてもらえません?」
「ったく、しょうがねえな…」
新山先生はポケットから鍵を取り出すと僕に投げてきた。
「ほら、それで開けられんだろ」
「ありがとうございます!」
僕は受け取った鍵で保健室を開ける。さて、開けたはいいが問題は先生の目を掻い潜ってどうやって救急セットを持っていくかだが…
『僕が先生の気を引くよ』
僕はこっそり本庄さんに耳打ちする。
本庄さんもこちらを見て頷いた。
「そういえば、先生も体調不良ですか?」
適当に話して気を逸らそう。そう思って僕は先生に話題を振った。
「あ?なんでそう思うんだよ」
「いや、この前休んでましたよね?」
「お前らが退学言い渡された日か?」
「そうそう、その日…って先生も知ってたんですか!?」
まあ、そりゃ担任だから僕の退学の話は聞いていてもおかしくはない。でもあまりにも何も言わないから知らないものかと思っていた。
「お前ら退学って言われる前日には聞いてたさ。ま、俺もその時はクビになるところで自宅謹慎中だったんだ。」
「え、まじですか?」
「マジもマジ、大マジだ。俺も好き勝手したからな。クビを言われて自宅謹慎くらってた。まあ、なぜがオレの首もお前らの退学も消えてたけどな。不思議な力が働いたみたいだな、どうでもいいが」
「そうだったんですね…」
「だからよ、お前らが何を企んでるか知らんが無茶はするなよ。お前らには助けられた身だ。お前たちがいなけりゃ俺はまだ苦しんでただろうからな。言うなりゃお前らは俺の命の恩人だ」
「先生…」
これだけ先生は僕たちのことを心配して、そして思ってくれている。今ここで僕達がしたこと、それからこれからしようとしていることについて話さなければそれは不義理なのではないだろうか。
「…先生、実は」「何も言うな日向」
「俺がお前らのしようとしていることを聞いたら止めなきゃいけなくなる」
「…」
「お前らが何をしようとしてるのかは知らん。でも内容を聞いたら俺は教師としてお前らを止める。だから、言うな」
「…はい」
「…大丈夫なのか、日向」
「…わかりません」
「…そうか」
「…でも、必ず解決します」
「…何を解決するのかはわからんが、わかった」
先生は扉の前から離れた。
「鍵は次会う時に返しに来い。約束だ」
「…はい!」
そういって、先生はどこかに行ってしまった。多分だが職員室にでも戻ったのだろう。僕は手に持った鍵をじっと見つめる。
「無事に、解決しないといけなくなったね」
本庄さんは応急処置の道具をポーチに詰め終わったのかこちらに寄ってきた。
「うん、そうだね」
無事に解決しよう、何事もなく終わらせよう。改めて僕は決意した。
「あ、日向君これ見て。武器になりそうなもの」
「これは…物干し竿?」
保健室には何かトラブルで制服が汚れてしまった生徒のために洗濯機が置かれている。この物干し竿は生徒の洗濯物を干すためのものだろう。
長さもちょうどいい。強度も問題なさそうだ。
「うん、これを借りていくよ」
必ず返しに来ます。本当にごめんなさい。僕は心の中で謝るのだった。