放送室にはすでに大園さんと林君、そして氏神様がいた。
「…?先輩達何かありました?」
「え、いやいや!何もないよ!」
「ふーん?」
何もなかったというのは嘘だが人に話すことでもないだろう。しかし、なぜ分かったのだろうか?…女の勘だろうか?そうだとしたら恐ろしい。
コンコン
僕が女の勘に恐ろしさを感じていると放送室の扉をノックする音が聞こえた。
「あの、失礼します…」
「斑鳩先輩、大丈夫か?」
「ご心配おかけしてしまい申し訳ありません。大丈夫…とは言い切れませんね…」
オカ研の部長こと斑鳩先輩は目の下にクマを作り、体調も悪そうだ。とりあえず僕達は斑鳩先輩を椅子に座らせる。
「今から俺たちは斑鳩先輩の夢の中に入る」
「入るって、どうやって?」
「氏神様がなんとかしてくれる」
「氏神様?そちらに座られている方でしょうか」
「そうじゃ、ワシが氏神様じゃ」
「まあ…!お会いできて光栄です!まさか本物の神様にお会いできるとは!」
斑鳩先輩は目を輝かせている。オカルト研究会の部長なだけあって超常現象に関連したものは興味があるのだろう。
「中々の信仰心、非常に良いぞ。さて、それでは夢の中に入る準備をするぞ」
「具体的にはどうするんだ?」
「何も難しいことはない。全員が同じ空間で眠り、ワシが斑鳩の夢に縁を繋ぐ。そうすれば他の奴らも同じ夢を見れるはずじゃ。その中で暴れ回ってこい」
「そして、こういうものには理屈はないがルールはある。そのルールを探せ」
「どういうことですか?」
「お前らの想像を超えたことが起こるじゃろうが、あくまでもるーるに則っておる。お前らこの間、この学校の地下で石像を見たじゃろ。そして石像にあの八島とかいう男は力を借りていた。一見するとあり得ないことじゃ」
「まあ確かに…体に触れられなかった」
「じゃが、そんな能力があるのならば別にどこで我々を襲ってもよかったはずじゃ。わざわざ危険を犯して地下の、それも石像の前まで連れて行く必要はない」
そう言われるとそうだ。わざわざ弱点でもある石像の近くまで連れて行くのは危険だ。
「おそらくじゃが、あの力は限られた範囲内にしか影響を及ぼさないのじゃろう。生贄を捧げることでその範囲が伸びたのかもしれんがな」
氏神様はピシッと人差し指を上に向ける。
「つまりじゃ、こういうのには何かしらのるーるが設けられる。そのるーるを探せ。るーるの中で対応すれば奴らも手出しできん」
氏神様の言っていることは難しいが、とりあえずルールを探してその通りに行動しろということだろうか…まあ考えていても仕方ない。そろそろ寝なければ。僕はとりあえず氏神様の言葉に頷き、各々眠りの体制に入る。
「…」「…」「…」
入るのだが…
「緊張して眠れませんねー…」
「うん…」
ドキドキして中々眠ることができないのである。
「でも、こんなこともあろうかと!」
大園さんがゴソゴソと鞄を漁る。すると中からアロマポッドを取り出した。
「アロマディフューザーです!これでバッチリですよー!」
「おお、流石」
大園さんがアロマを準備してくれている。
「ところで、斑鳩先輩はなんで猿夢?を見ることになったんだろうね?不思議な夢を見たいって思ってたんだよね?」
本庄さんが疑問に思っていることを口にする。
「うーん…確証は持てないんだけどね…斑鳩先輩と林君って猿夢のことを知ってたんだよね?」
「はい」「ああ」
「多分なんだけど、斑鳩先輩知ってたからこそ無意識に、それこそ連想ゲーム的に繋がってしまったんじゃないかな?」
「どういうこと?」
「不思議な夢がみたい→夢に関する不思議な話ってなにかないかな→そういえば猿夢ってあったな。みたいにどこかで猿夢につながったんじゃないかな」
「猿夢が見たかったんじゃなくて、不思議な夢が見たいって願った時に猿夢のことを考えてしまって猿夢を見ちゃったってこと?」
「斑鳩先輩、猿夢に関してはご存知ですか?」
「はい、もちろん知っています。そして…あなたのご想像通り猿夢についてほんの少々考えていました」
「オカルトに詳しいからこその落とし穴ですね…よっと、どうですか?眠くなりました?」
大園さんがアロマを用意し辺りに甘い匂いが漂う。落ち着く匂いだ。
「そうですね…私はもう、眠く…」
斑鳩先輩はうつらうつらとしている。それもそうだろう。ろくに眠ることができなかったのだ、眠たくて仕方ないだろう。
「俺もだ、いつでも行ける」
「私はもう少しかな…」「同じくでーす…」
「僕はもう眠い」
すぐ眠れそうなのは僕と斑鳩先輩、そして林君だろう。僕は目を瞑る。
うん?何か手に触れた?今僕はちょうど椅子に座って机に突っ伏して眠っている状態だ。右手には短くした物干し竿を持っているのだが、その右手に誰か触れている?目を開けて確認しようとしたが…今目を開けるとこの眠気を逃してしまいそうだからだめだ。まあ、誰かの手に当たったのだろう。あまり気にせず…あれ?今度は左手に誰か触れている…?誰だろう…寝る場所がなかったのかな?しかしこれも確認している余裕はない。もう今にも意識が途切れそうだ…
両手に感じる温かな体温を最後に僕は意識を手放した。
「(バレないよね…?ごめん、日向君!また勇気、ちょっとちょうだい!)」
「(バレませんよね?こうした方が眠れそうなんで右手借りますよ!)」
「(なんでこいつら日向に寄ってきて眠り始めたんじゃ?)」
誰が僕の手を掴んでいたのか、それは起きるまで僕の知る由もないのであった。