先頭車両
案の定、そこには小人が1人いた。どうやら1人生き延びて電車を操作していたらしい。
ケヒヒという笑い声をあげ、小人は自らの首にナイフを突き刺した。
「これで…あなた達もあの世行きー…」
絶命し、溶けて行く小人を見て僕は歯噛みする。小人しか電車の止め方がわからない。だから自らこいつは命をたったのだ。最期まで不愉快にさせるやつだなこいつ!
揺れは強くなっている。僕達は立つのもやっとだ。
「きゃっ!」
「斑鳩先輩!大丈夫か!」
「林君は斑鳩先輩を見ていて!」
立ち上がることも難しそうな斑鳩を林君に任せて僕と大園さん、本庄さんは運転席に入る。
「電車とか操作したことあります?」
「あるわけないよ!」
とりあえず、目の前に広がっている機械でわかることを考える。
メーターは振り切れそうということは、速度は超過してそうだ。そして、一番奥まで上げられたレバー、細かい操作はわからないがこれが速度を上げている原因だと推測する。正直他のボタンでしたとか言われてももうわからない。一か八かでこのレバーを操作する方がまだ可能性がある。
僕はレバーに手を伸ばして手前に引いた。
「かったい…!」
レバーが硬すぎて全然動かない。しまった、肩を怪我して力があまり入らないのだった。
「日向君!」「先輩!」
その様子を見て、大園さんと本庄さんが僕に手を貸してくれる。3人の手がレバーにかけられる。
「いくよ!せーの!」
僕達は息を合わせ、レバーに力を込めて手を引いた。3人の力を合わせ、レバーは動き出した。
キキーッという甲高い音と共に電車の速度は落ちて行く。目論見通り速度調節のレバーだったようだ。これで電車は止まるだろう。ただ、一つ問題点があるとすれば一気にレバーを引きすぎたことだろうか。どんな乗り物でも急ブレーキは危険だ、今までかかってた速度分の慣性やらが僕達にかかることになるのだから。
「きゃっ!」「あわっ!」
今までとは比べ物にならないほどの揺れと衝撃。脱線しないでくれと祈りながらせめてもと思い、僕は近くにいた大園さんと本庄さんの手を引き、こちらに引き寄せる。
どれくらいの時間が経ったのかはわからない。実際は多分5秒くらいだとは思うがとても長く感じた。揺れは徐々におさまっていき、電車もゆっくりと、最終的には止まった。僕の願いが届いたのか、脱線はしなかったみたいだ。
「よかったあ…」「…」「…」
ほっと安堵したのも束の間、今の状況を改めて確認する。僕は大園さんと本庄さんを抱きしめるような形で床に座っている。2人の顔までもう数センチくらいの距離だ。抱きしめているので本庄さんと大園さんの胸が僕に押し付けられている。また、大園さんの方に関しては位置が悪かったのか僕の手が大園さんのお尻を掴んでいた。
「…」「…」
体に押し付けられる二つの地雷。そして片手で掴んでいる爆弾。これは助からないだろう。こんな柔らかさを堪能できたのならば、一生分の幸運を使った可能性があるのだから死んでも仕方ないだろう。
「先輩」「日向君」
「はい、覚悟はできています」
僕は大園さん達を抱え込んでいる手を離す。抵抗はしない。しても無駄だ。
「ありがとうございました」「ありがとうね」
「え…?」
どんな罵詈雑言が飛んでくるのかと思っていたらかけられたのは感謝の言葉だった。
「何驚いてるんですか?私達が怪我しないように庇ってくれたんでしょ?」
「うん、日向君怪我してない?大丈夫?」
「うん…大丈夫。あの…体触っちゃってごめんなさい」
「緊急事態なんだから仕方ないですよ。まさかそれ気にしてました?」
「うん…気安く女の子の体は触るもんじゃないって昔言われて…」
「庇ってもらっておいて体触られたことに文句を言うのは…」
最近のご時世というのは色々と難しい時代だ。男性が女性に対して救急処置をするのかしないのか、それでひと議論ができてしまう。だからこそ、男は人一倍気を使わないといけないのかもしれない。それに対して女性も多少のおおらかさが必要なのかもしれない。この2人で助かったと心底思う。
「ありがとう、2人は怪我ない?」
「大丈夫です!」「うん」
2人に怪我がなくて一安心。僕は2人から離れて立ち上がる。一応2人に手を差し伸べる。すると2人は手を伸ばして僕の手を掴み立ち上がる。こうしてみると、案外2人は異性と触れるのに抵抗がないのかも。
「大丈夫か日向、大園、本庄」
「うん、大丈夫!そっちは?」
「俺達も大丈夫だ」
よかった、全員とりあえず生きているみたい。本庄さんは斑鳩先輩の方に向かっていった。先輩に怪我がないか確認しに行ったのかもしれない。
「先輩」
「うん?どうしたの」
僕も向かおうとしていたら大園さんに呼び止められた。
「先輩って」
「うん」
「お尻好きですか?」
「…なんて?」
「先輩ってお尻好きですか?」
「いや、何を言っているのかは聞こえたよ。理解を拒んだだけで」
「いや、お尻触られちゃったからお尻好きなのかなーって」
「わ、悪いことはしたと思うよ!?でもわざとじゃないんだって!」
「わかってますよ?そんなこと。でも、先輩が好きかどうか気になるじゃないですか。もしお尻に興味がなかったら、私って触られ損じゃありません?」
触られ損という聞き慣れない言葉が聞こえてきたが、要するに僕の性癖を聞かせろということだろう。
僕だって男とはいえ場所と状況は考える。今は緊急事態なのだ。斑鳩先輩の命がかかっている。ここはキッパリと断っておくべきだろう。僕は意を決して
「ひ、人並みに好きです…」
「ふーん、好きなんですね」
大園さんに本音を伝えた。人並みという言葉に少しでもよく見せたいという弱さが出ている気がする。多分だが、大きいのが好き小さいのが好きの好みはあれど男としてお尻や胸が嫌いな人はいないと思うのだ。
「…はい」
正直に答えた僕に対して、大園さんはニヤッと笑うと満足そうに頷いた。
「胸じゃ勝てないけどお尻ならまだ戦えるか」
「何か言った?」
「いえ!なんでも!さあ、行きましょ先輩!」
なぜか機嫌が良くなった大園さんに手を引かれて僕は斑鳩先輩の元へ向かうのだった。
日向君はお尻派?胸派?
「ノーコメントで…」