「ウギギギ!ウガァアアアアアア!!」
「!!!」
ローブの男の体がぶちぶちと音を立てて破けていく。体が変形して骨格が変わっていく。2メートルほどの大きさの体躯に鋭く尖った爪、皮膚は何かしらのような棘に覆われている。
「これは…まずいですね…」
「日向!大園!」
林君は2人を相手にするので手一杯だ。こちらにくることはできないだろう。
「まずい…!」
調子に乗りすぎた、時間を稼げばよかっただけなのにこちらが優位に立ってたこともあり、攻めすぎた。明らかに僕たちじゃ荷が重くなってしまった。
「ウガァアアアアアア!」
「!!!」「!!!」
ブンっという手の薙ぎ払いを僕達は後ろに尻餅をつくことで回避する。大きな音とともに、本や資料が空中を舞う。当たりどころが悪ければ粉々だろう。
明確な死の恐怖を感じる。小人の時も感じていたが、それとは比べ物にならない。
僕は勇気を振り絞り、化け物の手元に物干し竿を叩きつける。
「…!固い!」
物干し竿を叩きつけたところからガキンという金属音が聞こえた。およそ生き物から発せられた音とは思えない音に対して、僕の顔が引き攣る。
「先輩!危ない!」
一瞬の思考停止、僕に油断する時間なんてあるはずないのに、目の前で起きたことが信じられず手と思考を止めてしまった。
薙ぎ払われた手とは逆の手が僕の首を掴んだ。
「ぐがっ!!」
僕の体が持ち上げられる。
「先輩!」
大園さんが近寄って来ようとするがもう一つの手に阻まれてうまく寄ってこれない。同じく林君もだ、2人を相手しているのだから仕方ないのだが。
僕の手から物干し竿が落ちる。なんとか首を絞める手を緩めようとしてもがくが、ちっとも弱まらない。
「あがが…!」
僕の首を絞める手にますます力が込められる。このままだと、首の骨を折られそうだ。いや、締め殺される方が先かもしれない。最悪の二択だ。
「先輩!」「日向!」
2人の悲痛な叫びが聞こえる。ああ、まずい。今の声が誰の声かすらわからない。意識が遠のいていく…
「ダメ!!」
この声は、本庄さん…?徐々に薄れゆく意識の中、本庄さんが何かを化け物に向かって投げるのが見えた。
パシャっと、水のようなものが化け物の体に当たり、滴り落ちる。
煩わしそうに化け物は首を本庄さんに向ける。
「ひっ…!」
「に…げ…」
「本庄先輩!逃げて!」
首を絞められているので声がほとんど出ない。大園さんが僕の代わりに叫ぶ。
「日向君は…!私が守るの!」
本庄さんは手に持っていた白いものにマッチで火をつけた。よく見たらボールのようだ。白いボールは瞬く間に燃えあがると、本庄さんはそれを化け物に目掛けて投げつけた。
「グガガガガ!!!!」
炎を纏ったボールは体に当たると化け物の体に燃え移った。
化け物は体に燃え移った火を消そうと地面に転がった。そのついでに僕の体も地面に投げ出される。
「ゲホッゲホッ!ガハッ!はー…はー…!」
「先輩!大丈夫!?」
大園さんが駆け寄って僕を引っ張る。地面を転がる化け物は体の至る所が燃えている。先ほどまで着ていたローブが体に残っており、それが燃えているのだろう。僕がそれに巻き込まれないように大園さんは僕を引っ張り安全な場所まで動かしてくれた。
「はあ…はあ…大丈夫…それよりも、本庄さんありがとう。助かった…」
「ううん、助けられてよかったよ…」
「でも、なんでこんなに燃えてるの…?」
普通に火をつけただけではここまで燃えないだろう。
「それは、これのおかげ」
本庄さんは手元のポーチからアルコール消毒液を取り出した。
「エタノールは可燃性だから、燃え広がると思って。さっきここに入る前にレンさんが投げたボールに包帯を巻いて消毒液を染み込ませて、それに火をつけて投げたの」
「さっき化け物にかけたのは水じゃなくて消毒液だったんだね」
「うん、そうだよ。それにこの部屋、燃えそうなものがたくさんあるからね!」
確かにここは本の山だ。燃えそうなものはたくさんある。レンさんには悪いが命には変えられない。
「可燃性といえば…!」
大園さんがとっさに手に持っていたスプレーを化け物に向かって投げる。スプレー缶の後ろの注意書きには火気厳禁と書いてある。火に近づけたスプレーがどうなるのか。それは…
ボゴン!
「うわ!」「うひゃ!」「あわわ!」
勘が予想以上に大きい音を立てて爆発した。火柱を巻き上げあたり一面が明るくなる。
「でかしたぞお前ら!」
林君の声が聞こえる。そっちを見ると、ローブの男たちがうずくまっている。そう言えばレンさんが明るいのに弱いと言っていた。火の明るさに目が眩んで動けないのだろう。
林君はローブの2人を燃え盛る化け物の方に突き飛ばす。
いくつもの叫び声が聞こえてくる。きっとローブの男達の断末魔だろう。ひとしきり大きな火が上がると、化け物は動かなくなった。
「か、勝った…?」
「ああ、もう大丈夫だろう」
「よかったぁ…」
「し、死ぬかと思いましたね…」
みんなそれぞれ安堵の息をつく。
「先輩」
「ん?」「どうした」「はい?」
「ハイタッチ!」
大園さんが僕達に手を向ける。
僕達は全員手を合わせてハイタッチをした。