階段を転げるようにおりる。先頭は林君、とんでもなく速い。
そして最後尾は本庄さん、僕が言えたことではないがとんでもなく遅い。
「はっ…はっ…も…もう…無理…!」
ペタペタという足音も徐々に近づいてきている。まずい、このままじゃ追いつかれる!
「きゃっ…!」
足がもつれた本庄さんがそのまま廊下に転んでしまう。
「ほ、本庄さん!?」
ぺたぺたさんと呼ばれる何かが本庄さんのもとへと迫っている。もう距離はほとんどない。
「…くっ!」
思いっきりブレーキをかけ方向転換をする。膝が悲鳴をあげるが気にしていられない。幸いにして本庄さんと僕の距離はそう離れていない。本庄さんを起こそうと手を伸ばす。
「本庄さん!」
本庄さんも手を伸ばし、そのまま引っ張る。それがいけなかった。
「あっ…」
本庄さんの体を支えることができず、僕も廊下に倒れこんでしまう。
なんとか体を起こすが、ぺたぺたさんとの距離はもうほとんどない。ここから立ち上がって走ることは無理だろう。だったらせめて…!
僕は本庄さんをかばうように抱きしめる。本庄さんも目をつむり僕の体をぎゅっと抱きしめ返してくる。せめて食べるなら僕から食べろ!
「早く立て」
同じように方向転換していた林君が僕達とぺたぺたさんの間に立ちはだかる。
林君越しに見るぺたぺたさんは、着物のようなものを着ている少女だった。年齢的には、小学生くらいにしか見えない。夜の、それもこの時間の校舎にいることを除けばかわいらしい少女だ。
「ちょ…ちょっと待て…」
突然ぺたぺたさんが膝に手をつく。
「な、なんでおぬしらに、逃げるんじゃ…」
「しゃ、しゃべった…!」
「今日は…危ないから…は、早く…帰れと警告しにきてやったというのに」
「どういうことだ?」
問いかける林君だが、警戒は解いていないのか武道の構え?のようなものを崩していない。
「ふ…ふう…ふう…今日は、悪い気があふれておる。こういう日は何か起きる前に家に帰れと警告しに来てやったのじゃ」
息を整えたぺたぺたさんが、我々を咎めるように伝えてくる。
「あ…あの…あなたは…?噂のぺたぺたさんですか…?」
僕が恐る恐る問いかける。
「ぺたぺたさん…?わしはこの地の氏神じゃ。屋敷神ともいうな。まあ、好きに呼べ。」
「噂で…悪い子を殺すって」
「誰じゃ!そんな罰当たりなことをいうやつは!氏神はその地に住まう者たちを守る神じゃぞ!」
「じゃあ…本当に神様なんですか?」
「そういっておろうに」
「神様、初めて会った」
「多分、そうそう神様にあった人いないと思うよ」
「二人とも、本当に信じるの…?この子のウソかもしれないじゃない」
本庄さんが僕にしがみつきながら氏神様を見つめている。
「ふむ…まあ信仰も薄れたわしじゃが失せ物くらいは見つけることができるぞ。」
そういって氏神様はおでこに手を当てると目をつむり何かを唱えだす。
「ふむ、お前、消しゴムをなくしたようじゃな。どうやらおぬしの机の後ろに落ちておるぞ」
「え、なんでそのことを…?」
「それくらいわかる。これでも神じゃからな」
「それはさておき、さあ、今宵は満月。悪い気配が満ちておる。わしももう長くはない。今すぐここから帰れ」
「あ、あの…長くないっていうのは…?」
「なに、単純なことじゃよ。信仰を失った神は存在できん。おぬしたちもわしの存在を知らなかったように、信仰が失われた神は人々の存在から消えていくことが定めなのじゃ。本来われはないすばでーの神なのじゃぞ?」
はははと笑う氏神様の顔はどこかさみしげだった。
「俺は信じるぞ」
「そうか、優しい人の子よ。主の名前を教えてくれるか?」
「林墨」
「そうか、林というのか」
「正直な話、初めて神様に出会って興奮している。そして、せっかく会えた神様がきえるのはいやだ。何かできないか?」
顔色は全く変わっていないものの、心なしか早口になっている気がする。
「えっと、僕も…信じます」
さすがに夜の学校で小学生が一人でいましたというよりも、神様や幽霊に出会いましたといった方がまだ信じられるだろう。この子が人間だったら、逆にもっと怖い。なんでこんなところにいるんだとなるだろう。
「わ…私も」
消しゴムをなくしたことを言い当て、さらにそのありかを言われて信じることにしたのだろう。本庄さんがおびえながら僕たちと同じ意見を口にした。
「…そうか。主らはいい奴じゃな。林よ、もしわれを助けようと思うのならば一つ頼まれてくれぬか」
「なんだ?」
「この学校の裏手、われの祠がある。木が倒れ、今にもつぶれそうなのじゃ。それをどかしてくれぬか。」
「わかった。ちょっと行ってくる。二人はここで待っていてくれ」
そういって僕に懐中電灯を渡してくる。
「あ、ちょっと待って、僕も手伝うよ」
「お前は本庄についていてやれ。本庄、腰抜けている」
「え、大丈夫本庄さん?」
「う、うん。ちょっと転んだ時に…あとは安心したからか力抜けちゃって…」
そういうところに気が回らない自分が少し恥ずかしくなる。僕にしがみついていたのは力が入らなかったからか。
「じゃあ、行ってくる」
そういって氏神様と林君は勝手口の方へ歩いて行った。懐中電灯を置いて行ったのは外は月明かりがあるから大丈夫という判断だろう。
「…」「…」
とりあえず、本庄さんを壁にもたれさせる。その横に僕もちょこんと座る。
「…」「…」
二人の沈黙が続く。ど…どうしよう、何か話した方がいいのだろうか…
「あの…さっきは助けてくれてありがとう」
先に沈黙を破ったのは本庄さんだった。
「いや、そんな助けるだなんて…僕もすっころんで結局何もできなかったし。何ならぺたぺたさんとの間に立ちふさがってくれたのは林君だし。本当に何もできてないよ」
「真っ先に反転して手を伸ばしてくれたのは日向君だよ。私がつかんだ時に引っ張っちゃってバランスを崩しただけ。何より日向君も私のことを守ってくれてたじゃない」
あの、思い切り抱きしめたことだろうか。女子に抱き着いたという事実を思い出して顔が熱くなる。
「だから、ありがとう。それに、こういう時は素直に感謝を受け取っておくべきだと思う」
「う…うん。どういたしまして…?」
本庄さんに微笑まれてさらに顔が熱くなる。
「で…本当にここに何しに来たの?」
「え…?だから」
「七不思議を確かめに来たにしては、七不思議に関して何も知らなさすぎ。音楽室のことも、ぺたぺたさんのことも知らなかったよね?」
「…」
まるで探偵の推理のように本庄さんが告げる。
「…七不思議を確かめにきたっていうのは本当だよ。でも、確かめたい七不思議は一つだけなんだ。」
「それって、もしかして2年1組の枯れない花のこと?日向君のクラスだよね?」
「うん…」
どうやら白状するしかないようだ。僕は、本庄さんに向かって本当にここに来た理由を語りだした。