ブーブーブーブーブー!
ひとしきり勝利の余韻に浸っている僕達の耳に、けたたましい警報が聞こえてきた。
慌てて周りを見渡すと、いつの間にかレンさんが巨大な機械の前に立って操作している。
「勝利に浸っているところ申し訳ない!問題が発生している!具体的に二つ!一つは僕の研究室が燃えていること!」
それは僕達のせいなので言い訳できない。
「それは些細な問題だ!頭の中に全てのデータは入っているからね!」
些細な問題なんだ。てか、頭に入っているんだ。
「本題はこっちだ!こいつら勝手に機械を弄って僕の操作を受け付けない!このままじゃマシンが止められない!」
「ど、どうしたらいいですか!?」
「今夢のエネルギーはどこか別のところに流されている!正直どこに流れているのかはわからないが僕が触った瞬間警報が鳴った!もしかしたら仲間が押し寄せてくるかもしれない!」
仲間が来るかもしれないというのは、満身創痍の僕達にとって避けなければいけない。というか、もうこれ以上は戦えないだろう。全員が限界なのだ。
「でもこのまま逃げれば奴らに火を消されてまたマシンを悪用されるだろう!」
「なんとかマシンの制御を戻すことはできませんか!」
「無理だ!時間がいる!」
ここに残れば敵の増援を相手にすることになる。一方で逃げればマシンを悪用されてしまう。どうしたらいい、どうすれば!
「だから、最終手段を使う!今すぐここから逃げられて、マシンも止められる!いいかい!」
「お願いします!」
「仕方ない!改札になんとかエネルギーは回すよ!みんな覚悟はいいね!」
覚悟はいいかという言葉が少々気になったが、僕達は頷くしかできない。それしか手段がないのならば、それを選ぶべきだ。
レンさんは手に持ってた鍵を突き差し、回す。あれは僕が拾った鍵?
起爆プログラム起動起爆プログラム起動
「起爆…」「プログラム…?」
僕と大園さんが呟く。脳が理解を拒んでいる。起爆…?
「みんな!逃げるよ!」
レンさんが走りながら僕達に向かって叫ぶ。
機械がプシューと煙を上げる。見たこともないくらい煙を巻き上げ、熱を放つ。
一体何が…という言葉は機械の爆発音と熱風に阻まれた。
僕達は脇目も振らず出口に向かって走る。後ろから恐ろしい熱が迫ってくる。
「ちょっとちょっとちょっと!何が起きてるんですか!?」
「強制停止キーを使った!要するに自爆スイッチみたいなものさ!」
「なんでそんなものが!?」
「研究を他人に取られないためだよ!情報が残っていたら他人に悪用される可能性がある!だから万が一に備えて作っておくのは基本さ!」
映画の中で悪役が施設の自爆スイッチを押すシーンがあったが、そんな理由があったとは。確かに理にかなっているかもしれない。物理的になくなれば悪用はされないだろう。問題があるとすれば、自爆に今まさに僕達も巻き込まれているというところだけだ。
僕は本庄さんと大園さんの手を引いて走る。大園さんはともかく、本庄さんは運動が苦手だ。少しでも早く逃げるように引っ張る必要がある。
僕達はレンさんのどこにでもつながるドアに飛び込む。ドアを通り抜けると、斑鳩先輩が心配そうにこちらを見て立っていた。助かった、元の場所に戻れたみたいだ。僕はほっと胸を撫で下ろす。
「いや!まだ油断するんじゃない!この夢の世界自体が崩れるよ!」
レンさんが叫ぶ。確かにレンさんが言った通りあたりが崩れ出している。
「ここは君たちでいう夢の世界だ!夢を見せている機械がなくなったらこの世界も維持できない!早く改札に向かうんだ!」
「斑鳩先輩!逃げるぞ!」
「え、何が!?」
林君は斑鳩先輩の体を抱えて走り出す。ファイアマンズキャリーというのだろうか、斑鳩先輩を肩に抱えて走り出す。
「先輩は俺が守る!」
普段のクールな林君とは違い、感情が表に出ている気がする。とかそんなこと考えている場合じゃない!急いで逃げないと!
僕は再び大園さんと本庄さんの手を引いて走り出した。
改札までは30メートルほど。そこまで距離はない。しかし激しい揺れが僕達の行手を阻害する。
夢の崩壊に巻き込まれた人間はどうなるのかわからないが、巻き込まれないに越したことはない。
「先輩!危ない!」
大園さんが僕の手を引っ張り後ろに下げる。
ズシーン!
天井が僕の目の前に落ちてくる。あのまま走っていたら僕も巻き込まれていただろう。背筋を冷や汗が伝う。
「ね、前を見てる人増やして正解だったでしょ?」
「…?」
何を言ってるのだろう…と思ってたら駅のホームに降りた時のことか。確かに前を見張る目を増やしていてよかったのかもしれない。
「日向君!危ないよ!」
今度は本庄さんに手を引かれる。
床が抜けて漆黒の穴が現れた。ここに落ちたらどうなっていたかわかったものではない。
「見張りの目、増やしてよかったね!」
今の所2人に助けられている。なんだか情けないな…
そんなことをしていると斑鳩先輩と林君がが改札前で待っている。改札は明かりがついており、どうやら電気が通ったようだ。
「皆さん!大丈夫ですか!?」
「早く行くぞ」
斑鳩先輩が改札に切符を通すと改札が開く。先ほどまで閉まっていたシャッターは上がっており、暗闇に染まっている。
「ほ、本当にこれに飛び込むの!?」
本庄さん僕に言う。確かに暗闇に飛び込んだからといって無事な保証はない。しかし、すでに駅構内は崩壊しておりもう持ちそうにない。ここに残っていても崩壊に巻き込まれるだけだ。それならば進む方がまだ可能性がある。
「行こう!」
僕は大園さんと本庄さんを引っ張って改札を通り抜ける。それに倣い、斑鳩先輩と林君も続く。
「さらばだみんな!僕は僕でなんとかできるからここでお別れだ!また機会があれば会おう!」
暗闇に飛び込む間際、レンさんの声が聞こえた。
暗闇に飛び込んだ僕達は体験したことのない浮遊感に襲われた。やったことないが、スカイダイビングってこんな感じなのだろうか。今自分が上を向いているのか下を向いているのかわからない。
「あわわわわ!先輩!」
大園さんの手が離れそうになるのを無理やり引き寄せる。本庄さんは目を瞑って僕の手にしがみついている。
「大園さん!僕に掴まって!」
「はい!」
ぐるぐる回り(?)ながら僕達はしばらく浮遊感に苛まれるのだった。