大園さんと爪のお手入れ
「先輩ー、遊びましょうよー」
僕は宿題をする手を止めて大園さんを見た。例によって今は僕と大園さんしかいない。どうやら暇をしているみたいだ。
「前も同じようなこと言われたけど、2人でできる遊びって限られてるし…」
「うーん…愛してるゲームはもうやりましたし…あ、そうだ。先輩の爪のお手入れでもしてあげましょうか?」
「爪の手入れ?」
「そうです、男の人って爪の手入れとかしないでしょ?結構女子は爪を見てるんですよー?」
「うーん、あまり考えたことなかったな」
「ほら、手を見せてください」
僕は言われるがままに大園さんに手を見せた。
「はー、傷んでますね。ビタミンも足りてないのか白線も入ってるしだめですよー?ちゃんとお手入れしないと」
そう言って、大園さんは僕の手に何かを塗っていく。
「あ、肌荒れとかするタイプですか?」
「ううん、特には」
大園さんの顔が近い。向き合っているからそう感じるのだろうか。
ほんのすぐの距離に大園さんの頭があり、甘いシャンプーの香りが漂ってくる。どのメーカーのものなのかは全くわからないが、きっと高いものなのだろう。甘い香りに誘われてくらりとしてしまう。
「はい、やすりで削りますねー」
「う、うん」
やすりでごりごりと爪の角を削られていく。その度にふわりふわりと香りが広がる。
「はい、左手出してください」
いつの間にか処置が終わっていたみたいだ。僕は言われるがままに左手を差し出す。同じように処置してもらっている間、僕はぼーっと大園さんを見つめる。整った顔立ち、長いまつ毛、透き通るような肌…
「…」
「はい、できましたよ!」
「…」
「…?先輩?」
「…綺麗だ」
「へ!?」
「あ、爪ね!爪!」
「あ、ああ、びっくりしたー」
思わず口に出てしまった。危ない危ない…
「はい、じゃあ次は先輩の番です」
はいと、僕の目の前に大園さんの手が差し出される。
「え!僕がやるの?」
「じっと見てたでしょ?やりたいんじゃないですか?」
「う、うん…わかった」
大園さんに見惚れていたとは口が裂けても言えないのでとりあえず差し出された手に手を伸ばす。
えっとまずは…やすりで爪を整えて…
「あ、ちょっと待って。やすりは一定の方向に動かしてください。往復でゴシゴシしちゃうと痛みます。斜め45度を意識して一定方向にお願いします」
「う、うん…わかったよ」
大園さんの手をまじまじとみる。色白の手が蛍光灯に照らされて眩しい。細い手首は力をこめたら折れてしまいそうだ。
僕は握る手に力をこめすぎず、優しく何度も擦る。
「そうそう、じょーずじょーず」
やすりの後は…なんだっけ。
「オイルだけ塗ってください。はいこれ」
大園さんはポーチの中から小さな小瓶を出す。僕はそれを恐る恐る受け取りあける。
「ムラができないように優しく上から下に塗ってください」
「うん」
僕は優しく、つけすぎないようにゆっくりと爪にオイルを塗る。
全ての爪に塗り終わると僕は大きな息を吐いた。
「うん、60点くらいはあげちゃいます!」
「あんまり高くないね」
「初めてにしては上出来ですよ。先輩もこれからは爪のお手入れに気をつけてくださいね。そんでもっと上手くなったら私専属のネイリストになってくださいね!」
「考えとくよ…」
「さて、もう誰もこなさそうなので帰りましょ!」
「了解、帰ろっか」
僕達は鞄に荷物を片付けて放送室の鍵をかける。
「いこっか、大園さん。大園さん?」
「…」
大園さんは右手を空にかざしている。ネイルの出来でも見ているのだろうか。
「…えへへ」
「大園さん?」
「あ、はい。どうしました?」
「いや、そっちこそどうしたの?」
「なんでもありませーん!さ、行きましょ!」
「ちょ、抱き付かないでよ」
「照れないの、いいでしょー別にこれくらい!」
僕は大園さんに腕を組まれて引っ張られる。なぜかご機嫌な大園さんはそのまましばらく離してくれなかった。
おまけ
「林君は爪の手入れをしてるの?」
「ああ、武道を嗜むものとして爪で不用意に相手や自分を傷つけないためにも気を遣っている」
「すごいね…本庄さんは?」
「私?普通かな?こんな感じ」
「うわ、すごい綺麗…これが一般的な女子レベル…」
「そうかな?普通だよ」
「あれ、もしかして僕って本当に身だしなみ気を使えてない…?」